≪結合商標の類否について判示された、知財高裁の判例です≫
【ポイント】
被告登録商標「NINA L’ELIXIR」(第3類)(以下「本件商標」という。)に対して、原告が原告登録商標「ELIXIR」(第3類)等(以下「引用商標」という。)を引用商標として商標法4条1項11号、15号違反を理由に商標登録無効審判を請求したが不成立となった審決に対し、本件商標は引用商標と類似しない等の理由により、審決を維持して原告の請求を棄却した事例
【キーワード】
商標法4条1項11号、15号


【事案の概要】
本件は、原告が後記の手続において、原告の本件商標に対する商標登録無効審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求めた事案である。

1 本件商標
  被告は平成22年5月18日、「NINA L’ELIXIR」という文字からなる商標(以下本件商標という。)につき、指定商品を第3類として国際商標登録出願をし、同年12月17日に設定登録がなされた。
2 特許庁における手続の経緯
  原告は、本件商標について平成24年1月30日、商標登録第4671440号「ELIXIR」等を引用商標として本件商標の登録無効審判を請求したところ、特許庁は、これを無効2012-680001号事件として審理し、平成24年8月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同月28日、原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
  特許庁は、
  ①本件商標と引用商標は非類似であるから、11号に違反して登録されたものということはできない。
  ②商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるとはいえないから、15号に違反して登録されたものということはできない。
  として上記請求を不成立とした。

【争点】
①商標法4条1項11号該当性
②商標法4条1項15号該当性

【判旨抜粋】
①商標法4条1項11号該当性
 結合商標について,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されない(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決)。
 これを本件商標についてみると,外観上,本件商標を構成する各文字の大きさ及び書体は同一の全角で,等間隔でまとまりよく一体的に表されており,「NINA」と「L’ELIXIR」の間に空白部分があるものの,その広さは,半角程度にすぎず,全体として横に一行でまとまりよく表されているものであり,「L’ELIXIR」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできず,まして,「ELIXIR」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。

③商標法4条1項15号該当性
 本件商標と引用商標は,いずれも特段の観念を生じるものではなく,外観,称呼において異なるものであり,全体として類似する商標であるということはできないから,引用商標が,原告が製造販売する化粧品等を表示する商標として需要者の間において周知ないし著名であったとしても,本件商標は引用商標とは十分に識別できるものである。
 取引の実情を踏まえて本件商標を見れば,「NINA」の部分は,NINA RICCI社の社名から採ったものであることが容易に理解でき,その「NINA」の部分は,本件商標の構成全体の前半部分に配置されており,印象に残りやすいことから,本件商標を付した商品がNINA RICCI社の商品であることは,本件指定商品の取引者や需要者が容易に理解,認識し得るものである。
 したがって,本件商標を本件指定商品に使用した場合,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると認めることはできず,他に,本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるといえるだけの事実は認められない。

【解説】
1 審決取消訴訟における商標の類否判断について
  最近の結合商標の分離観察に関する裁判例では、つつみのおひなっこや事件(最判平20.9.8)が規範として用いられている。この中で最高裁は「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである」(最判昭37.12.5)を引用し、分離観察は原則として許されないとした。
2 本件における判断について
  本件の主な争点は、本件商標の称呼「NINA L’ELIXIR」と引用商標の称呼「ELIXIR」が類似するか否かである。特に、「NINA L’ELIXIR」を分離観察することが許されるか否かが主な争点となった。
  知財高裁は、前掲最高裁判例を規範として用いたうえで、本件においては、
①外観上,本件商標を構成する各文字の大きさ及び書体は同一の全角で,等間隔でまとまりよく一体的に表されていること、
②「NINA」と「L’ELIXIR」の間に空白部分があるものの,その広さは,半角程度にすぎず,全体として横に一行でまとまりよく表されているものであり,「L’ELIXIR」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできず、まして、「ELIXIR」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできないこと
を考慮要素として、分離観察は許されないとした。また、原告から、「ELIXIR」が周知であるとの主張がなされたのに対し、「たとえ,引用商標が,本件指定商品の取引者や需要者の間で周知であったとしても,本件商標の「L’ELIXIR」の文字部分あるいは「ELIXIR」の文字部分だけを比較の対象として類否の判断をすることは許されないというべきである。」として、「ELIXIR」の周知性については、上記判断を覆すものではないとした。
 本年になって結合商標に関する知財高裁判例がいくつか出されているが、分離観察が許されないとする裁判例が目立っており、比較的著名な略称等を含んでいたとしても、そこだけを大きくしたり、色を変えたりしない限り、分離観察が認められることは難しくなってきている。著名商標権者側としては、そういった状況も踏まえて商標戦略を立てていくことが今後必要となってくるだろう。

2013.8.5 弁護士 幸谷泰造