平成25年9月25日判決(知財高裁 平成25年(行ケ)第10045号)
【ポイント】
指定商品を「切子模様を備えるクリスタルガラス製品,切子模様を備えるグラス,切子模様を備えるコップ類…」とする本願商標「カガミクリスタル江戸切子」から「江戸切子」部分を要部として抽出し,引用商標である地域団体商標「江戸切子」と類似すると判断した審決の判断を維持した事例
【関連条文】
商標法4条1項11号

【事案の概要】
本件は,クリスタル製品メーカーである原告が,本願商標について商標登録出願をしたところ,引用商標である地域団体商標「江戸切子」に類似するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から,請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。なお、商標法4条1項15号に関する判断は割愛する。

1 本件商標

 原告は平成23年1月24日、「カガミクリスタル江戸切子」という文字からなる商標(以下本件商標という。)につき、指定商品を第21類等として商標登録出願をしたが、同年10月7日に拒絶査定を受けた。
2 特許庁における手続の経緯
 原告は、本件商標について平成24年1月10日、本件商標の拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁は、これを不服2012-422号事件として審理し、同年12月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、平成25年1月21日、原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
 特許庁は、下記の先願先登録商標を引用商標として、商標法4条1項11号に該当するとして、上記請求を不成立とした。
  引用商標(登録第5085277号)
  「江戸切子」(標準文字)
  平成18年6月5日 登録出願(地域団体商標)
  平成19年10月19日 設定登録
  指定商品役務 第21類「東京地方に由来する製法により東京都江東区・墨田区・葛飾区・江戸川区
            及びその周辺で生産されたガラス製酒瓶」等
  商標権者 東京カットグラス工業協同組合

【争点】
商標法4条1項11号該当性

【判旨抜粋】
本判決は,要旨,次の⑴、⑵のとおり判示し,両商標は類似するとした。
⑴ 要部の認定
本願商標における「カガミクリスタル」部分と「江戸切子」部分について,その配置,文字の大きさ,種類に加え,いずれも特徴的な筆文字体で書されており,「江戸切子」製品自体が全国的に周知であることから,当該文字が「江戸切子」との表記であるとすぐに判読できるが,「カガミクリスタル」部分は,一見して判読が容易であるとまではいえないこと,「切子」は,広辞苑において「切り子グラスの略」の意があるとされ,「切り子グラス」について,「彫琢または切込細工を施したクリスタルガラス。きりこガラス。」とされていることから,「江戸」と結びついて,江戸時代又は江戸地方の切り子ガラスとの観念が自然に生じるほか,東京及びその周辺地域で製作される金属や砥石の円盤を用いて表面をカットする技法により製作される伝統工芸品としての江戸切子を想起するものであることなどから,「江戸切子」部分の文字は,「カガミクリスタル」の文字から明瞭に区別することができ,本願商標に接した需要者等は,大きく記された「江戸切子」の漢字部分を強く意識することが多いものと認められる。
⑵ 両商標の類否判断
①外観について,本願商標の要部が「江戸切子」部分であることからすれば,漢字で「江戸切子」と記載されている点において共通しており,外観において共通する部分がある。②称呼について,本願商標の要部である「エドキリコ」において共通し,「江戸切子」という観念についても共通する。③本願商標の指定商品の一部は,引用商標の指定商品と同一又は類似のものであり,引用商標権者である東京カットグラス工業協同組合の引用商標は,各種の展示会の実績やその案内,成果等の新聞等掲載,東京都や経済産業省の伝統工芸品指定を受けるなどしていることから,自他識別機能があり,一定程度の周知性を保っている。他方,原告は,創業以来80年近くの伝統を有するクリスタル製品メーカーとして全国的に知られる会社であり,「カガミクリスタル」のブランドで商品展開しているものである。以上を踏まえると,原告の本願商標と上記組合又はその組合員の使用する引用商標とで,いずれかが他方を凌駕して圧倒的に顕著な著名性を有するとまではいえず,取引における誤認混同のおそれが存在している。
そうすると,本願商標と引用商標は,外観において共通する部分があり,称呼と観念を共通にする類似の商標というべきであり,また,指定商品は同一又は類似していると認められるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。なお,引用商標が周知性を獲得していない等との原告の主張については,「現に引用商標が地域団体商標として登録され,本件組合の商標として江戸切子が一定程度の周知性を保っていることも否定することができない以上,原告の本願商標が,要部と認めざるを得ない『江戸切子』部分において引用商標の自他識別機能を凌駕していると認めることはできないといわなければならない」として排斥した。

【解説】
1 本件における判断について
 本件の主な争点は、本件商標の称呼と引用商標の称呼が類似するか否かである。特に、「カガミクリスタル江戸切子」のうち、「江戸切子」を要部として抽出することが許されるか否かが主な争点となった。
 知財高裁は、「商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,そのためには,まずその外観,観念,称呼の対比を基準にして需要者等に与える印象,記憶,連想等を総合し,要部が抽出できるならばそれに基づいて考察すべく,その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る場合には,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。」との規範を用いたうえで、本件においては、
①「カガミクリスタル」の片仮名文字と「江戸切子」の漢字文字とが縦書き二段に配列されており、「カガミクリスタル」も文字は、「江戸切子」の文字と比較して一文字につき高さで約2分の1、幅で約3分の1の大きさで示され、文字の太さも2分の1程度であるという点
②「江戸切子」部分は,漢字で大きく示されていることや「江戸切子」製品自体が全国的に周知である点
③「カガミクリスタル」部分は,一見して判読が容易であるとまではいえない点
などを主な考慮要素として、本件商標の要部は「江戸切子」であるとした。
2 考察
 商標を構成する文字のうち、ある一部を要部として抽出することができるか否かについては、商標の類否の判断において大きな争点となることが多い。この点につき、過去の裁判例では、一体としてまとまりよく表されているか、一部が支配的な印象を与えるものかという観点から判断しているものが多い。具体的な考慮要素としては、文字の大きさ、字体、色等でまとまりを判断し、周知性、要部以外の部分が一般的な名称か等で支配的か否かを判断している。本件では、「カガミクリスタル」は「江戸切子」よりも文字の大きさが小さく、判別しにくいものであるから、知財高裁の判断は妥当である。商標実務担当者としては、例えば周知な名称を一部に取り込んだ商標を出願する場合などは、全体として一体としてまとまりよく表されているかを吟味して出願する必要があるだろう。

2013.11.5 弁護士 幸谷泰造