≪星座板に関する著作権侵害の成否について判示した事例≫
【判旨】
①原告星座板と被告星座板の一致点は,いずれも表現上の選択の幅が狭く,ありふれた又は平凡な表現であって創作性がない部分に過ぎないから,複製権侵害は成立しない。
②被告星座板と原告星座板が実質的に同一の形態(デッドコピー)であるとしても,このような被告星座板を作成,頒布する被告の行為は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる「法的に保護された利益」を侵害するものとはいえない。
【キーワード】
創作性,表現上の選択の幅,一般不法行為


第1 事案の概要
1 当事者

 原告は,「小,中学校文部省学習指導要領に準拠せる理科教材,工作機械の研究並びに製造販売」等を目的とする会社である。
 被告は,「教育用の教材,器材の仕入及び販売」等を目的とする会社である。
2 原告による星座板の作成及び頒布

 原告は,昭和55年頃,星座板を作成し,昭和57年4月1日,「星の観察C型」という商品名で販売を開始した。
 原告は,上記星座板の改良を重ね,平成13年頃,これを電子情報化して別紙原告星座板記載の星座板(以下「原告星座板」という。)を作成し,「星・月の動きA型」という商品名で販売を開始した。
 原告星座板は単体で販売・使用されるものではなく,時刻等を記載した別の板(以下「マスク円盤」という。)と組み合わせて販売・使用されるもの(以下組み合わせたものを「原告製品」という。)である。
3 被告の行為

 被告は,平成24年6月頃から,原告製品と同様に,マスク円盤と組み合わせて販売・使用される星座版(以下、「被告星座版」という。)を販売するものである。

4 原告の請求
 原告は,被告に対し,前記被告の行為について,① 原告星座板に対する原告の複製権,譲渡権,氏名表示権及び同一性保持権を侵害するものであるとして,著作権及び著作者人格権に基づき,被告星座板の作成及び頒布の差止め並びに被告星座板及びその半製品の廃棄を求めるとともに,② 上記著作権若しくは著作者人格権侵害に係る不法行為又は一般不法行為に基づき,330万円の損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

第2 判旨 ―請求棄却―
1 著作権侵害・著作者人格権侵害の成否について

 「星座板を作成するに当たっては,その使用目的に適うように,星及び星座の天球における極座標上の位置を,そのまま円形平面の極座標に転記するのではなく,実際に天空を観測した場合の星座の形状等を反映するように修正することが行われている。そのような修正をするに当たっては,実際の観測における星の位置関係を反映させる必要があることに加え,星座板自体の大きさの制約から,その修正をした後における星の位置関係等を含む表現の幅は限られたものとならざるを得ず,表現自体として差異化する(個性を表現する)ことのできる部分は少ない。
 …(原告星座板と被告星座板とでは,星の数や位置,星座線の位置や形状,天の川の形状が一致しているが)原告が原告星座板と被告星座板の一致点として主張する点は,いずれも表現上の選択の幅が狭く,ありふれた又は平凡な表現であって創作性がないから,被告の行為は複製に当たらないというべきである。」
 などと判示して,著作権侵害の成立を否定するとともに,著作者人格権の侵害も否定した。
2 一般不法行為の成否について

 「原告は,被告星座板と原告星座板が実質的に同一の形態(デッドコピー)であり,このような被告星座板を作成,頒布する被告の行為は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するものであって,一般不法行為が成立すると主張する。
 しかしながら…,原告が主張するこのような利益は,著作権法による保護の対象とされるべきものである。本件で著作権侵害が認められないことは前述のとおりであり,上記利益侵害を理由に不法行為が成立する余地はない。」
 などと判示して,一般不法行為の成立を否定した。

第3 若干の検討
1 著作権侵害の成否について

 著作権法は創作的な表現を保護する法律であるから,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,著作権侵害は成立しない(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁[江差追分]参照)。また、この場合には、既存の著作物を利用したといえないため、著作者人格権侵害が成立することもない。
 本件では,原告星座版と被告星座版とは,「ありふれた又は平凡な表現」部分,すなわち,表現上の創作性がない部分において一致点があるに過ぎないとして,著作権侵害・著作者人格権侵害の成立が否定されている。
 訴訟においては,著作権者は,同種の作品では異なる表現がなされていることを主張・立証することにより,自己が保護を求めている表現が,ありふれた表現や平凡な表現ではないことを明らかにしていくことが肝要である。他方,被疑侵害者側は,著作権者が一致点として主張する部分については、同種作品でも同様の表現がなされていることを主張・立証し,以て、著作権者が主張する一致部分は、ありふれた表現、または平凡な表現部分に過ぎないとして、著作権侵害の成立を争うことができる。
 判旨の詳細な説明は割愛したが、本件は、被疑侵害者側が上記のような主張・立証に成功し、著作権侵害・著作者人格権侵害の成立が否定されたものである。
2 一般不法行為の成否について

 著作権侵害に基づき損害賠償を請求する際の根拠条文は,民法709条である。同条は、「他人の権利又は法律上保護される利益」が侵害された場合に不法行為が成立し得る旨規定しており、文言上は,著作権侵害が否定された場合でも、別途,「法律上保護される利益」の侵害が認められるのであれば、一般不法行為の成立を肯定することに差支えはない。
 もっとも,著作権法は,本来的には自由である情報の利用行為の中から,「文化の発展に寄与」(著作権法1条)することを究極的な目的として,一定の行為のみを切り出して著作権者に排他権を与えているのであるから,上記のような一般不法行為の成立を安易に認めるのは相当ではない。
 かかる観点から,最判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁[北朝鮮映画]は,一般不法行為の成立につき、「同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」として,限定をかけている。
 本件でも一般不法行為の成立が主張されたが,裁判所は,原告は著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる「法的に保護された利益」の主張を為し得てないとして,一般不法行為の成立を否定した。
 本判決は,一般不法行為の成立を主張する場合には,「営業上の利益」など,著作権法とは異なる観点から保護されるべき利益が侵害されたことを主張・立証する必要があることを確認するものといえる。

以上

(文責)弁護士 高瀬 亜富