平成25年3月25日判決(知財高裁 平成24年(行ケ)第10310号)
【ポイント】
被告登録商標「Fashion Walker」(第25類)に対して、訴外会社が不使用取消審判を請求したが不成立となった審決に対し、参加人である原告が審決取消訴訟を提起したところ、審決を維持して原告の請求を棄却した事例
【キーワード】
商標法50条


【事案の概要】
本件は、原告が後記の手続において、被告が本件商標を使用していないとして請求した不使用取消審判について特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求めた事案である。

1 本件商標
  被告は平成7年10月25日、「Fashion Walker」という文字からなる商標目録1記載の商標(以下「本件商標」という。)につき、指定商品を第25類として商標登録出願をし、平成9年8月29日に設定登録がなされた。平成19年9月4日に商標権の存続期間の更新登録がされている。

2 特許庁における手続の経緯
  訴外株式会社ブランディングは、本件商標について平成22年12月1日、本件商標登録の不使用取消審判を請求したところ、同月20日、その旨の予告登録がされた。
  原告は、平成23年10月31日付けで、本件審判への参加を申請し、平成24年1月10日付けで、上記参加申請を許可する旨の決定がされた。
特許庁は、これを取消2010-301269号事件として審理し、平成24年7月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同年8月6日、原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
  グンゼ株式会社(以下「グンゼ」という。)は本件商標権の通常使用権者であり,グンゼが製造販売し,商標目録2記載の商標(以下「本件使用商標」という。)が表示されたパンティストッキングが,本件審判の請求の登録前3年以内に,株式会社アイ・ティ・エム・ユー(以下「アイ・ティ・エム・ユー」という。)のネットショッピングのウェブサイト(以下「本件サイト」という。)において取引されていたと認められることから,通常使用権者によって,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が,本件商標の指定商品である「靴下」について使用されていたと判断するというものである。

【争点】
①被告はグンゼに本件商標につき、通常使用権を許諾していたといえるか
②流通業者等の販売も登録商標の使用にあたるか

【判旨抜粋】
①通常使用権許諾の有無について
被告は,グンゼとの間で,本件商標に関しては,通常使用権許諾契約書等を作成していない。
しかし,①被告とグンゼとの間では,既に,本件外商標(「ウォーカー」の登録商標及び「WALKER」の登録商標)について,契約書を作成した上で通常使用権を許諾する旨の契約をしており,上記商標と極めて類似性の強い本件商標についても,当然に使用許諾をしていると解するのが自然であること,②被告は,グンゼが本件使用商標を使用していることを知っていたと認められるが,グンゼの同使用行為について異議を述べていないこと,③本件商標の出願日と同じ日に被告が登録出願した商標「City Walker/シティ ウォーカー」についても,被告は,グンゼとの間で,通常使用権許諾契約書等を作成していないにもかかわらず,グンゼが,これと社会通念上同一の商標と解される商標を使用しているが,被告は,グンゼの同使用行為について異議を述べていないこと等の事実を総合すれば,グンゼは,本件商標に係る通常使用権者であると解するのが相当である。

②登録商標の使用の事実について
商標法50条1項には,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者等」という。)のいずれもが,同項に規定する登録商標の使用をしていないときは,取消しの審判により,その商標登録は取り消される旨規定されている。ここで,商標権者等が登録商標の使用をしている場合とは,特段の事情のある場合はさておき,商標権者等が,その製造に係る商品の販売等の行為をするに当たり,登録商標を使用する場合のみを指すのではなく,商標権者等によって市場に置かれた商品が流通する過程において,流通業者等が,商標権者等の製造に係る当該商品を販売等するに当たり,当該登録商標を使用する場合を含むものと解するのが相当である。このように解すべき理由は,今日の商品の流通に関する取引の実情に照らすならば,商品を製造した者が,自ら直接消費者に対して販売する態様が一般的であるとはいえず,むしろ,中間流通業者が介在した上で,消費者に販売することが常態であるといえるところ,このような中間流通業者が,当該商品を流通させる過程で,当該登録商標を使用している場合に,これを商標権者等の使用に該当しないと解して,商標法50条の不使用の対象とすることは,同条の趣旨に反することになるからである。
本件においてこれをみると,①アイ・ティ・エム・ユーは,グンゼが製造し,本件商標が付されたパンティストッキングを仕入れ,楽天株式会社の運営に係るウエブサイト(楽天市場,本件サイト)において,上記パンティストッキングを表示して,販売を継続しており,平成21年5月,同年8月,平成22年3月,同年6月,同年7月,同年10月,平成23年9月頃,本件サイトを利用して,一般消費者に上記パンティストッキングを販売していることが確認できること,②本件サイトには,本件使用商標の表示されたグンゼの製造に係るパンティストッキングの包装の写真が掲載されており,その掲載態様に照らすならば,本件使用商標は,その商品の出所がグンゼであることを示しているといえること,③グンゼの製造に係るパンティストッキングは,流通業者を介して,消費者に販売することを前提として,市場に置かれた商品であることが明確に理解でき,グンゼも,そのことを念頭に置いた上で,パンティストッキングを販売し,アイ・ティ・エム・ユーはこれを仕入れていると解されること等の事実が認められる(甲18の1ないし18の3,乙19)。以上のとおり,本件商標の通常使用権者であるグンゼは,流通業者を介して,本件審判請求の予告登録前3年以内に,指定商品である「靴下」に該当するパンティストッキングに,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたと認めることができる。

【解説】
1 通常使用権許諾の有無について
  本件では、本件商標については通常使用権許諾契約書を作成していないものの、その他の商標については契約書を作成しており、グンゼの本件商標の使用について被告が異議を述べていないこと等の間接事実から、通常使用権の許諾はあったと認定している。裁判所が認定した事実によれば、この判断は妥当である。
2 登録商標の使用の事実について
  知財高裁は、商標法50条1項の「使用」に関して、通常使用権者でなくとも、商標権者等によって市場に置かれた商品が流通する過程において、流通業者等が登録商標を使用する場合を含むとする規範を立てた。さまざまな中間流通業者が介在しうる現代では、このような判断は妥当であると思われるが、不使用取消審判を請求する側としては、商標権者等が直接販売をしているのみならず、流通業者を介しているか否かも考慮に入れて審判を請求する必要があり、今後の実務の参考となる。逆に不使用取消審判を請求された側としては、自己が使用していなくとも、自己と取引のある流通業者から使用の事実を収集することで取消を免れうることをぜひ知っておくべきである。

2013.9.2 弁護士 幸谷泰造