平成25年10月18日判決(東京地裁 平成25年(行ワ)第13223号)
【判旨】
訴訟物を異にするものの,債権の発生原因として主張する事実関係がほぼ同一であって,前訴等及び本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及び主張の蒸し返しに当たる訴えにも及び,その訴えも同様に信義則に反して許されない。
【キーワード】
テレホンカード、金銭の数量的一部請求、既判力、訴訟物


【事案の概要】
本件は,被告の製造・販売したテレフォンカードが,原告が共有持分を有していた実用新案権(実用新案登録第2150603号。以下「本件実用新案」という。)の考案の技術的範囲に属するとして,被告に対し,平成8年2月21日から平成11年9月5日までの販売にかかる仮保護に基づく損害賠償金9億円の一部請求として,100万円及びこれに対する平成25年6月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

【争点】
本件訴えが、被告製品が本件考案の技術的範囲に属しないとして原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たるか否か。

【判旨抜粋】
一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。数量的一部請求を全部棄却する旨の判決は,債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないとの判断を示すものであって,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならないから,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した判決が確定した後に,原告が残部請求の訴えを
提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものとして,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないというべきである。
そして,この理は,訴訟物を異にするものの,債権の発生原因として主張する事実関係がほぼ同一であって,前訴等及び本訴の訴訟経過に照らし,実質的には敗訴に終わった前訴等の請求及び主張の蒸し返しに当たる訴えにも及び,その訴えも同様に信義則に反して許されないものというべきである(上記平成10年最判参照)。
これを本件についてみると,前々訴は,被告が製造・販売しているテレホンカードの構成につき,「カード式公衆電話機に差し込むことにより電話がかけられるテレホンカードで,縦の辺が横の辺に比して短い長方形であって,表裏ともに一様に平坦で,その一短辺には,その中央から一側に偏った位置に,一つあるいは二つの半月状の切欠部が形成されており,この切欠部に手,指で触れることにより,カードの表裏及び差込方向の確認をすることができるもので,この内,使用度数が五〇度数のものは切欠部が二個あり,使用度数が一〇五度数のものは切欠部が一個ある」としていたところ,これは本件訴えにおける被告製品の構成を含むものである。そして,前々訴は,その被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,昭和59年9月5日以降,10年分の被告製品の販売にかかる不当利得の返還を求めたものであり,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提として,平成8年2月21日から平成11年9月5日までの仮保護に基づく損害賠償請求であるとするところ,訴訟物を異にするものとしても,被告製品が本件考案の技術的範囲に属することにより,原告の有する本件実用新案権が侵害されたことについては,主張立証すべき事実関係はほぼ同一であって,被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないことを理由として原告が敗訴した前々訴の訴訟経過に加え,前訴及び本件訴えの訴訟経緯にも照らすと,本件訴えは,被告製品が本件考案の技術的範囲に属しないとして原告が全面的に敗訴した前々訴の請求及び主張の蒸し返しに当たることが明らかである。
そうすると,本件訴えは,信義則に反し許されず,これを許容する特段の事情がない限り,不適法として却下すべきこととなる。

【解説】
 原告は、昭和59年9月5日以降,10年分の不当利得の返還として,570億円の一部である125億円の支払を求める訴訟を東京地裁に提起し(東京地裁平成11年(ワ)第24280号不当利得返還事件。「前々訴」)、請求が全部棄却された。これは控訴審(東京高等裁判所平成12年(ネ)第4209号不当利得請求控訴事件 平成13年4月17日判決)を経て、平成13年10月16日,最高裁判所による上告棄却,上告不受理決定により確定した(平成13年(オ)第1182号,同(受)1161号)。
 その後、再び原告が平成8年2月21日から平成11年9月5日までの販売にかかる仮保護に基づく損害賠償金9億円の一部請求を行ったのが本件である。
 裁判所は訴訟物を異にするものであったとしても、主張立証すべき事実関係がほぼ同一であって、原告が敗訴した前々訴の訴訟経過を踏まえて、蒸し返しに当たると判断した。
 原告は、前々訴とは訴訟物と異なること以外にも、一部請求訴訟における審理の範囲が必ずしも債権全部に及ばなかったような事情、つまり特段の主張として、前々訴では争点にならなかった部分があり、当該部分について実質的な判断が示されていない等の主張を行ったが、当該主張に対しては「十分な主張立証の機会」が与えられていたとして、当該主張を排斥している。
 実務的には、訴訟物を異にするということをもって訴訟提起されているが、実質的には主張立証すべき事実関係がほぼ同一であるという訴訟は散見され、本件判決は、そういった信義則に反する濫訴に対する戒めとして、有意義なものであると思われる。

(文責)弁護士 宅間仁志