【大阪高裁平成25年3月7日判決(平成23年(ネ)第2238号,平成24年(ネ)第293号)】

【ポイント】
 控訴人が店舗(看板,案内板,外壁,入口硝子面,広告)において控訴人各標章を使用していた点について,控訴人各標章の使用の対象が小売役務であるか商品であるか,また小売役務についての商標の使用は商品商標に関する商標権の侵害となるかが争点となった事案である。

【キーワード】
商品商標,小売役務,商標法2条6項,商標法26条1項1号

1 事案

 神戸の洋菓子メーカーであるゴンチャロフ製菓㈱(被控訴人・原告)は,「菓子,パン」を指定商品とする登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」(以下,「本件商標」といいます。)を有していた。
 一方,大阪において「堂島ロール」というロールケーキの販売で有名な㈱モンシュシュ(控訴人・被告)は,洋菓子を製造販売するにあたり,当時の社名であった控訴人各標章を包装,店舗(看板,案内板,外壁,入口硝子面,広告)に付して使用していた。
 そこで,被控訴人は控訴人に対して,本件商標権に基づき控訴人各標章の使用禁止,抹消,物の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償等を求めたところ,原審において商標権侵害が認められた。控訴人はこれを不服として大阪高裁に控訴審を提起したという事案である。

2 大阪高裁の判断

 大阪高裁は,控訴人各標章が,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているか否かについては,「当裁判所も,控訴人各標章は,洋菓子について使用される場合であっても,洋菓子の小売について使用される場合であっても,本件商標の指定商品又はこれに類似するものに使用されているといえると判断する。…控訴人は,控訴人各標章は,有名な『堂島ロール』を販売する控訴人の店舗名を表すものとして機能しており,商号その他店舗表示・営業表示として使用されているものである旨主張する。しかし,前記引用部分で判示したとおり,一般的に,『洋菓子』という商品に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を,『洋菓子の小売』という役務に使用した場合には,商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え,出所の混同を招くおそれがあるといえるのであり,入口ガラス壁面に営業時間や電話番号等が記載されていることなどの控訴人が指摘する事情や,証拠…により認められる実際の店舗看板等への使用態様をもって,上記おそれを否定することはできない。」と類似性を認めた。
 さらに,控訴人各標章と本件商標との類否については,「控訴人各標章(控訴人商標1,8及び9は要部)は,外観は本件商標の上段又は下段と類似し,その結果…外観において類似する。なお,字体やスペースの有無やハイフンの有無などの違いは存するが,類似であることを否定できるようなものではない。…控訴人各標章(控訴人各商標1,8及び9は要部),本件商標からは,いずれも「モンシュシュ」との称呼が生じるから,その称呼は同一である(なお,控訴人が主張するように,控訴人各標章1の称呼が「モン」「シュシュ」であったとしても,本件商標と称呼がほとんど同一である。)…控訴人各標章(控訴人商標1,8及び9は要部),本件商標からは,いずれも特定の観念は生じないと認められるから,観念において対比することはできないが,異なる観念が生じるものではない。なお,本件商標がフランス語で「私のお気に入り」を意味することを理解できる一部の需要者にとっては,控訴人各標章(控訴人商標1,8及び9は要部)についても同じ意味があると理解できることになるから,異なる観念が生じることはないといえる。…以上のとおり,控訴人各標章(控訴人商標1,8及び9は要部)は,いずれも,称呼において,本件商標と同一かほとんど同一であり,外観の違いも,本件商標をデザインし,文字装飾を施したと認識される程度のものといえ,異なる観念が生じるものでもないから,控訴人各標章は,本件商標と類似すると認められる。」と類似性を認め,商標権侵害を認定した。

3 検討

 本件において,控訴人は,控訴人による控訴人各標章の使用が「洋菓子の小売」という役務に対するものであり,「洋菓子」という商品への使用ではないと主張したが,大阪高裁は「商品の出所と役務の提供者が同一であるとの印象を需要者に与え,出所の混同を招くおそれがある」以上,非類似とはいえないとした。商品とサービスは商標法上の商品・役務分類という考え方の中では別に扱われているものの,現実にはある商品とその商品に係るサービスは出所の混同を引き起こす危険性が高く,裁判所の判断は妥当といえる。今後,この考え方は菓子業界のみに留まらず,様々な商品とその小売役務について適用される可能性が高い。このようなトラブルを未然に防ぐためには,製造小売業を営む場合にも,商品商標と小売役務商標の両方について権利を取得しておくことが重要ということになる。
 また,本件では,控訴人は自らの商号を標章として使用していたので,商標法26条1項1号に基づく主張を行った。商標法26条1項1号では,自己の名称や著名な略称等を普通に用いられる方法で表示する場合には,その使用に対して,商標権の効力が及ばないと規定されている。商標法は、商標権者にその商標に対する強力な独占権を付与することを認めると同時に、その範囲を指定した商品もしくは役務に限定したり、商号等の他の表示の使用との調整を図っている。そのため、本件でも控訴人による控訴人各標章の使用が自らの商号を普通に用いていると認定されれば非侵害とされたのであるが,大阪高裁は「モンシュシュ」はそもそも控訴人の著名な略称とは認められないとして,控訴人の主張を退けた。この点,商号の使用に関しては,商品の内容表示の部分に製造者として記載したり,会社自体の表示として使用する必要最低限の範囲を超える場合には,商標法26条1項1号に定める「自らの商号を普通に用いられる方法で表示する場合」には該当しないこととなる。したがって,商品名と同時に自らの商号をも宣伝や広告に使用したいと考える者は、あらかじめ、使用態様に合わせて商標出願をなす必要があると言える。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲