平成25年7月18日判決(知財高裁 平成24年(行ケ)第10244号 審決取消請求事件)

【はじめに】
本件は、引用例の実施例において、搬送チャンバ内に設けられたロボットが開示されていたが、搬送チャンバの存在に関わらず、周知技術であるコラム型の上下移動装置を適用することができるとしたものである。引用例の搬送チャンバの存在は、当該周知技術を適用することが困難である事情の一つとなり得るが、本判決は、引用例に記載された、ハンドがアーム部に対して昇降する機能や、アーム部及びハンド全体が昇降する機能を有してもよい旨の記載に基づき、引用例に当該周知技術を適用し、引用発明にコラム型の上下移動装置を採用することは、当業者が容易に想到し得るものであると判断した。

【キーワード】
引用発明、認定、進歩性、動機、組合わせ、組み合わせ

【概要】
本件は、原告が「ダブルアーム型ロボット」に係る本件特許に対する無効審判請求を不成立とした審決の審決取消訴訟に関するものである。
原告は、審決の引用発明、一致点及び相違点の認定並びに相違点の判断等は、いずれも誤りであると主張した。

【主な争点】
相違点1に関し、引用例に記載された実施例には、ダブルアーム型ロボットであって、当該ダブルアーム型ロボットは搬送チャンバ内に設けられているものであり、当該ダブルアーム型ロボットは、上下方向に移動することは記載されていないものであった。すなわち、当該ダブルアーム型ロボットは搬送チャンバという狭い区画内部に収納されていることから、引用発明のダブルアーム型ロボットは、上下方向に移動することを想定していないのではないか。また、搬送チャンバは、当該ダブルアーム型ロボットを上下方向に移動可能とすることを妨げる阻害要因であるのではないかが争点となった。

【判旨】
本判決において、引用発明、一致点及び相違点の認定は、審決における認定がそのまま是認されたところ、それらは以下のとおりである。なお、本件発明は、以下に示すように、本願の請求項2に係る発明である。

●    本願発明(特願2000―82983号)
【請求項2】
ハンド部と、前腕と、上腕と、前記ハンド部と前記前腕を連結するハンド関節部と、前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と、前記上腕の前記肘関節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と、前記各関節部を連結駆動して回動させる回転駆動源とを有するとともに、前記ハンド部が一方向を向いて、前記上腕と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて、前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の支持部材と、前記第1及び第2の支持部材を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構を備え、前記アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異なる高さで配置された前記第1及び第2の支持部材にそれぞれ取り付けられると共に、前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2の支持部材の間に配置され、前記アームを前記縮み位置に移動させたときに、当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の間に位置し、かつ、二組の前記肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関して同方向でかつ水平方向側方に突出させ、前記ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に前記移動機構を配置し、前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって、前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであるダブルアーム型ロボットであって、前記第1及び第2の支持部材は共に前記ハンド部の移動方向と直交するように前記コラムから側方に突出して前記コラムに保持され、前記ハンド部は前記移動機構によって前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で上下に移動可能とされ、前記第1及び第2の支持部材は前記第1の支持部材が上側であると共に前記第2の支持部材が下側であって前記二組のアームのうちの一方のアームの基端の関節部は前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられると共に前記二組のアームのうちの他方のアームの基端の関節部は前記第2の支持部材の移動方向上側の面に取り付けられて前記二組のアームは前記第1と第2の支持部材の間に配置され、前記アームを前記縮み位置に移動させたときに前記ハンド部が前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部と前記第2の支持部材の移動方向上側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部の間に位置し、前記ハンド部が前記ワークを載置しての前記伸長位置と前記縮み位置との間の前記移動は前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であり、且つ、前記移動の際に前記ハンド関節部及び前記ワークの前記ハンド関節部側端部の少なくとも一部が共に前記コラムと前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とで囲まれた空間を通過し、前記縮み位置に移動した前記ワークを前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部と前記第2の支持部材の移動方向上側の面に取り付けられた前記アームの基端の関節部との間に位置させるものであるダブルアーム型ロボット。

●    引用発明(特開平4-87785号公報)
ハンドと、第2アームと、第1アームと、前記ハンドと前記第2アームを連結する軸部、軸受と、前記第2アームと前記第1アームを連結する軸、ボス部と、前記第1アームの前記軸とは反対側に設けた第1アームの基端のボス部、第1駆動軸と、前記第1駆動軸、ボス部、軸部を連結駆動して回動させる第1モータ、第2モータとを有するとともに、前記ハンドが一方向を向いて、前記第1アームと前記第2アームとを伸ばしきった伸長位置と前記第1アームと前記第2アームとを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えた搬送装置において、前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる搬送チャンバの上板部材、下板部材と、アーム部及びハンド全体の基端部が昇降する機能を備え、前記アームは前記第1アームの基端のボス部、第1駆動軸が互いに上下に異なる高さで搬送チャンバの上板部材、下板部材にそれぞれ取り付けられると共に、前記第1アームの基端のボス部、第1駆動軸はともに前記搬送チャンバの上板部材、下板部材の間に配置され、前記アームを前記縮み位置に移動させたときに、当該アームに取り付けられたそれぞれのハンドが前記第1アームの基端のボス部、第1駆動軸の間に位置し、かつ、二組の前記軸、ボス部を水平方向側方に突出させ、前記ハンドは基板を載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものである搬送装置において、前記搬送チャンバの上板部材、下板部材は、上板部材が上側であると共に下板部材が下側であって、前記二組のアームのうちの一方のアームの基端のボス部、第1駆動軸は前記搬送チャンバの上板部材の下側の面に取り付けられると共に前記二組のアームのうちの他方のアームの基端のボス部、第1駆動軸は前記搬送チャンバの下板部材の上側の面に取り付けられて、前記二組のアームは前記搬送チャンバの上板部材、下板部材の間に配置され、前記ハンド部が前記ワークを載置しての前記伸長位置と前記縮み位置の間の移動は軸、ボス部突出方向に対し直交する方向であるものである搬送装置

●    一致点
ハンド部と、前腕と、上腕と、前記ハンド部と前記前腕を連結するハンド関節部と、前記前腕と前記上腕を連結する肘関節部と、前記上腕の前記肘関節部とは反対側に設けたアームの基端の関節部と、前記各関節部を連結駆動して回動させる回転駆動源とを有するとともに、前記ハンド部が一方向を向いて、前記上腕と前記前腕とを伸ばしきった伸長位置と前記上腕と前記前腕とを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するアームを二組備えたダブルアーム型ロボットにおいて、前記二組のアームがそれぞれ取り付けられる第1及び第2の被取付部材と、前記アームの上下移動機構を備え、前記アームは前記アームの基端の関節部が互いに上下に異なる高さで配置された前記第1及び第2の被取付部材にそれぞれ取り付けられると共に、前記アームの基端の関節部はともに前記第1及び第2の被取付部材の間に配置され、前記アームを前記縮み位置に移動させたときに、当該アームに取り付けられたそれぞれのハンド部が前記アームの基端の関節部の間に位置し、かつ、二組の前記肘関節部を水平方向側方に突出させ、前記ハンド部はワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであるダブルアーム型ロボットであって、前記第1及び第2の被取付部材は第1の被取付部材が上側であると共に第2の被取付部材が下側であって、前記二組のアームのうちの一方のアームの基端の関節部は前記第1の被取付部材の下側の面に取り付けられると共に前記二組のアームのうちの他方のアームの基端の関節部は前記第2の被取付部材の上側の面に取り付けられて、前記二組のアームは前記第1及び第2の被取付部材の間に配置されるものであるダブルアーム型ロボット

●    相違点1
本件発明2は、
(ア) 「第1及び第2の支持部材(以下「両支持部材」という。)を上下方向に移動可能に保持するコラムとを含む移動機構」を有し、二組のアームが両支持部材の「移動方向」下側、上側の面に取り付けられ、「両支持部材は共にハンド部の移動方向と直交するようにコラムから側方に突出してコラムに保持され」、「ハンド部は移動機構によってコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で上下に移動可能とされ」ており、すなわち「コラム型」を前提とし(以下、当該構成を、「相違点1(ア)に係る構成」という。)、
(イ) 「二組の肘関節部を二組ともに前記ハンド部の移動方向に関して同方向に突出させ」、「ハンド部の移動方向に関して前記肘関節部が突出する方向と反対側に移動機構を配置し」、すなわち「肘関節部突出方向」を特定し(以下、当該構成を、「相違点1(イ)に係る構成」という。)、
(ウ) 「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮み位置との間の移動は両支持部材の移動方向及び支持部材がコラムから伸びる方向に関して直交する方向であり」、「移動の際にハンド関節部及びワークのハンド関節部側端部の少なくとも一部が共にコラムと両支持部材とで囲まれた空間を通過し」、すなわち「伸縮移動経路」を特定し(以下、当該構成を、「相違点1(ウ)に係る構成」という。)、
(エ) 「縮み位置に移動したとき」「ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」とともに、「ワークをコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の関節部との間に位置させ」、「ハンド部がコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の関節部の間に位置」する、すなわち、「縮み位置におけるワーク、ハンド部の位置」を特定するものであるが(以下、当該構成を、「相違点1(エ)に係る構成」という。)、
引用発明は、
(ア) 二組のアームは「搬送チャンバの上板部材、下板部材」に取り付けられ、コラムを有さず、上下移動機構が、アーム部及びハンド全体の基端部を昇降する機能を有するが、アームごとか二組のアームに共通かを含めその詳細は明らかでなく、
(イ) 二組の肘関節部が同方向に突出させるか不明であり、
(ウ) 伸縮移動経路は肘関節部突出方向に対し直交するものであり、
(エ) 縮み位置に移動したときのワークの位置、ハンド部の位置が明らかでない点

●    相違点1の判断
  (2) 相違点1に係る判断について
  ア 相違点1(ア)に係る構成について
  (ア) 引用発明は、基板の搬送時間の短縮及び基板処理装置のスループットの向上並びに基板処理装置のクリーンルーム内に占める面積の減少を目的として、一側面が相対向するようにして上下にロボットが配設される構成を採用するものであるところ、引用例には、ハンドが二次元的にしか動作できないものに限らず、「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や、アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有してもよい旨が記載されており、しかも、引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれていないから、相対向するロボットに上下移動機構を採用し、作業範囲を増加させることについて、動機付けが認められる。
  また、前記2(2)によれば、本件特許の出願当時、コラム型を有する産業用ロボットは、周知技術であったということができる。
  したがって、当業者が、引用例の記載から、実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットについて、搬送チャンバとは無関係に、「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や、アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成を実現するため、アーム部とハンド部とを支持部材を介して上下移動機構に組み合わせる際に、周知技術であるコラム型の上下移動装置を採用することも、容易に想到し得るものということができる。
  (イ) 被告は、引用発明は搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明であり、当然に上板部材及び下板部材が存在しているものであるところ、その作用効果は、各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることであって、コラム型を採用すると、コラムがアーム動作の障害物となって、引用発明の課題を解決することができなくなるから、引用発明にコラム型を採用する動機付け自体が存在せず、むしろ阻害事由が存在する、引用発明においてコラム型を採用し、任意の方向に向けて順次移動可能とする機能を維持するためには、コラムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題を解決しなければならないから、当業者は技術的課題を解決する必要のないテレスコピック型の上下移動機構を採用するはずである、仮にコラム型を採用した場合、本件発明2と同様の構成を実現するためには、二つの支持部材とコラムとを含む移動機構としては、周知例1ないし3に記載されている上面載置構造を採用するものである、引用発明において、肘の出る方向は俯瞰図的には別々であるところ、アームを支持部材の対向面に設けたまま、本件発明2と同様の構成を採用する場合、肘の出る方向が揃うように、システム構成から変更する必要が生じるなどと主張する。
  しかしながら、引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれておらず、チャンバの存在を前提とする「エッチング」についても、従来技術においてロボットが用いられている工程の例示として指摘されているにすぎないこと、引用発明の目的は、クリーンルーム内等でのロボットの占有面積を減少させる点において本件発明と共通するところ、当該目的自体は、チャンバの有無とは無関係であることからすると、引用例には搬送チャンバ内における基板搬送装置を前提とする発明のみが開示されているとする被告の主張は、その前提自体を欠く。また、引用例には、各チャンバ内のあらゆる位置に任意の方向に向けて順次移動可能になることが、引用発明の解決課題として記載されているものではないし、当該機能を実現するために、当業者が当然にテレスコピック型を採用するとまでいうことはできない。
  なお、被告は、コラムに旋回機能を適用することに伴う様々な技術的課題の詳細について具体的に主張しないが、テレスコピック型かコラム型かにかかわらず、旋回機能を設ける周知技術(甲7~9、19~21)を採用すれば足りるものである。
  また、引用発明において、肘の出る方向を揃えるための変更が必要であったとしても、そのこと自体が引用発明にコラム型を採用する場合の阻害事由となるとまでいうことはできない。
  したがって、被告の前記主張は、いずれも採用することができない。
  イ 相違点1(イ)に係る構成ないし相違点1(エ)に係る構成について
  本件審決は、相違点1(ア)に係る構成、すなわち引用発明にコラム型を採用することが困難であることを前提として、相違点1(イ)に係る構成ないし相違点1(エ)に係る構成も、同様に、引用発明及び周知技術から容易とすることはできないとするが、前記アのとおり、その前提自体が誤りである以上、本件審決の上記判断を直ちに是認することはできない。
  なお、念のため、以下、上記各構成についても検討する。
  (ア) 相違点1(イ)に係る構成について
  本件発明2及び引用発明のいずれも、二組のアームの突出方向に干渉が生じることを防止することが共通の課題とされているところ、肘関節部の突出と上下移動機構との干渉を回避するために、移動機構を、アームと接触しない位置、すなわち、ハンド部の移動方向に関して肘関節部が突出する方向と反対側に設ける構成を採用することは、設計事項にすぎないものということができる。
  その場合、二組のアーム部の肘関節部が突出する方向も、相互の干渉や上下移動機構との干渉を防止するために、同方向とすることはむしろ当然であって、肘関節部が突出する方向を同方向とすることもまた、設計事項というほかない。
  したがって、相違点1(イ)に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
  (イ) 相違点1(ウ)に係る構成について
  相違点1(ウ)に係る構成のうち、「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮み位置との間の移動は支持部材がコラムから伸びる方向に関して直交する方向」であることは、前記(ア)と同様、設計事項にすぎないものということができる。
  また、「ハンド部がワークを載置しての伸長位置と縮み位置との間の移動は両支持部材の移動方向に関して直交する方向」であることは、移動機構が垂直方向における移動を前提とする機構であり、ハンド部の伸張方向が水平方向である以上、むしろ当然である。
  さらに、「移動の際にハンド関節部及びワークのハンド関節部側端部の少なくとも一部が共にコラムと両支持部材とで囲まれた空間を通過」する構成についても、本件明細書において、当該構成に係る技術的意義が明らかにされているものではなく、当業者が適宜設計可能な事項ということができる。
  (ウ) 相違点1(エ)に係る構成について
  本件審決は、「ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」ことは、テレスコピック型においては周知(甲7~12)であるが、コラム型との関係で特定することは困難であるとする。
  しかしながら、二組のアーム部及びハンド部を支持部材を介してコラム型の移動装置と組み合わせる場合、上下二組のアーム部及びハンド部の配置としては、それらの支持部材に対して、上側と上側、下側と下側、上側と下側、下側と上側の4とおりの配置が想定できるところ、引用例において、上下二組のアーム部及びハンド部を相対向するように設けることが開示されているから、引用発明において、コラム型を採用する際、上下二組のアーム部及びハンド部をそれらの支持部材に対して下側と上側に配置することは、当業者が容易に想到し得るものということができる。当該構成を採用すると、ハンド部がワークを載置して縮み位置に移動した場合、「ワークを前記二組のアームの前記基端の関節部の間に位置させる」構成となることについて、技術上の格別の困難性を見いだすことはできない。
  また、「ワークをコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の関節部との間に位置させ」る構成及び「ハンド部がコラムの上下方向の長さと重なる範囲以内で両アームの基端の関節部の間に位置」する構成は、相対向する二組のロボットを支持部材を介してコラム型の上下移動機構と組み合わせた場合、縮み位置におけるワーク及びハンド部の位置として、当然に想定される構成にすぎない。
  ウ 以上のとおり、本件審決の相違点1に係る判断は誤りである。

【コメント】
本件は、進歩性(特許法29条2項)の有無、特に審決の相違点の判断の誤りが問題となった事案である。
審決は、引用発明の認定において、引用例の実施例に即した認定を行ったが、本判決は、これが狭きに失するものであると判断した。すなわち、引用発明は、引用例の実施例に記載された、搬送チャンバ内に設けられたダブルアーム型ロボットであって、上下移動できないものに限られないという判断をした。
本判決がそのように判断した理由として、「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や、アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有してもよい旨の記載に加え、引用例の特許請求の範囲に記載された発明特定事項にチャンバは含まれていないことをあげている。本判決は、これらの事情を考慮して、引用発明には、上下方向に移動可能とすることの動機付けがあると判断をしたものであり、進歩性の動機付けの判断方法として参考となる判決である。

以上
(文責)弁護士 関裕治朗