平成25年10月22日判決(知財高裁 平成25年(ワ)第15365号)
【判旨】
 本件動画(被告の提供するインターネット接続サービスを利用し、被告のサーバを経由して投稿された動画)を作成して本件サイト(「ニコニコ動画」)に投稿する行為は,原告動画(原告に著作権が譲渡されたとする動画)のうち少なくとも原告動画の部分1及び4についての複製権及び公衆送信権を侵害するものということができる。そして,本件の関係各証拠上,著作権侵害を否定すべき事情は何らうかがわれないから,本件動画の本件サイトへの投稿により,原告の著作権が侵害されたことは明らかであると判断することが相当である。
 原告が原告動画の著作権を侵害した者に対して損害賠償請求権を行使するためには,本件動画の発信者その他本件動画の送信に係る者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスを取得することが必要であると認められるから,原告にはこれら発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
【キーワード】
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項、プロバイダ責任制限法4条1項、発信者情報の開示請求、映画の著作物、著作権侵害,東京地裁46部判決

【事案の概要】
 本件は,原告が,氏名不詳者により被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイトに掲載された本件動画が原告の著作権を侵害していると主張して,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案である。

 本件訴訟の争点は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項の要件のうち、①「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき(4条1項1号)」、具体的には、本件動画の本件サイトへの投稿により,原告の著作権が侵害されたことが明らかであるといえるか、②「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき(4条1項2号)」、具体的には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか、の2点である。

【判旨抜粋】
[主文(抜粋)]
被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
(別紙発信者情報目録)
本件動画に関する以下の情報
1 発信者その他本件動画の送信に係る者の氏名又は名称
2 発信者その他本件動画の送信に係る者の住所
3 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号)

[事実及び理由]
1 争点(1)(明らかな著作権侵害の有無)について
・・・中略・・・
(2) そこで,まず,原告動画の著作物性について検討するに,証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば,①原告動画は,芸能人であり,原告の信者である久本雅美(以下「久本」という。)らの体験談を紹介する内容の久本らに対するインタビューを中心に構成されたものであり,原告動画のうち,別紙対応一覧表の「原告動画」欄の「時間」欄に記載の時間の部分(以下,別紙対応一覧表に記載の原告動画の部分のうち,「1」欄に対応する上記「時間」欄に記載の時間の部分を「原告動画の部分1」のようにいう。)は,「場面の説明」欄に記載のとおりの内容であること,②このうち,原告動画の部分1は,久本を被写体とするインタビューの動画の後に,引き続き同インタビューにおける久本の音声を流し続けたまま,原告の会合において久本外1名が漫才を演じている映像を挿入するものであり,原告動画の部分4は,上記挿入された映像の後に続く,同人を被写体とするインタビューの動画であること,③これら原告動画の部分1及び4のインタビューの動画は,久本が自らの体験を語る様子を,被写体の大きさ,撮影する角度等の構図を選択して撮影し,編集したものであり,さらに原告動画の部分1については,上記インタビューの動画に加え,久本が語っている内容に合わせた映像を選択して挿入し,編集したものであることが認められる。
 そうすると,原告動画のうち,少なくとも原告動画の部分1及び4は,久本の体験談を視聴者に対して効果的に伝える工夫をした部分であり,著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとして映画の著作物に該当し,著作権法の保護の対象になると解するのが相当である。
(3) 次に,原告動画の著作権者についてみるに,証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば,原告動画は,平成5年1月10日,シナノ企画の発意に基づき,シナノ企画の従業員であるAがシナノ企画の職務として作成したものであり,シナノ企画の著作の名義の下に公表されたことが認められる。したがって,原告動画の部分1及び4を含む原告動画の著作権は,Aの職務著作として,シナノ企画に帰属していたとみることができる。そして,シナノ企画は,平成12年3月31日,原告に対し,原告動画についてのすべての著作権を譲渡したと認められるから・・・原告は原告動画について著作権を有していると認めることができる。
(4) 進んで,本件動画による著作権侵害の有無についてみるに,証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば,①本件動画は,原告動画の部分1~7に加えて原告に関連する動画等を複数合成し,これに音楽を付した2分程度の動画であること,②本件動画の部分1は原告動画の部分1と同一の映像及び音声に,本件動画の部分4は原告動画の部分4と同一の映像及び音声に,それぞれ音楽を付し,画面左下,右下又は中央部に他の映像を部分的に合成したものであるが,このような音楽の付加及び映像の合成によって,久本の談話やその表情など原告動画の部分1及び4の主要部分の視聴が妨げられることはないことが認められる。そうすると,本件動画の部分1に接した者は原告動画の部分1の,本件動画の部分4に接した者は原告動画の部分4の表現上の本質的な特徴を直接感得し得るものであるから,本件動画の部分1及び4は,上記のとおり対応する原告動画の部分を有形的に再生し,複製したものと評価することができる。
(5) 以上によれば,本件動画を作成して本件サイトに投稿する行為は,原告動画のうち少なくとも原告動画の部分1及び4についての複製権及び公衆送信権を侵害するものということができる。そして,本件の関係各証拠上,著作権侵害を否定すべき事情は何らうかがわれないから,本件動画の本件サイトへの投稿により,原告の著作権が侵害されたことは明らかであると判断することが相当である。

2 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 上記1で判断したところによれば,原告が原告動画の著作権を侵害した者に対して損害賠償請求権を行使するためには,被告が別紙動画投稿目録の「投稿日時」欄記載の日時に「投稿時IPアドレス」欄記載のIPアドレスを割り振った者,すなわち本件動画の発信者その他本件動画の送信に係る者の氏名又は名称,住所及び電子メールアドレスを取得することが必要であると認められるから,原告にはこれら発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるということができる。
・・・中略・・・
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
(下線部は筆者が付した。)

【解説】
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律とは、いわゆるプロバイダ責任制限法と呼ばれる法律をいう。この法律は、インターネットの掲示板などで個人の権利が侵害されるなどの書込等が発生し、当該個人(権利者)がプロバイダ事業者や掲示板管理者などに対して当該書込等を削除するよう要請した場合に、事業者側が当該書込等を削除しないこと又は削除をしたことに対して、権利者又は投稿者からの損害賠償の責任を一定要件の下で免責することを規定している(3条)。また、この法律は、権利者が、事業者に対して、権利を侵害する情報を投稿した者に関する情報開示を請求することができることも規定している(4条)。
 本件では4条1項の該当性が問題となった。4条1項は、

第四条
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
(下線は筆者が付した。)

と規定され、氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定める発信者情報として、発信者の氏名又は名称(1号)、発信者の住所(2号)、発信者のメールアドレス(3号)、侵害情報に係るIPアドレス(4号)・・・等が規定されている(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成十四年五月二十二日総務省令第五十七号) 最終改正:平成二三年九月一五日総務省令第一二八号)。原告は、これらのうち、1~3号について開示を求めた(別紙発信者情報目録記載の情報を参照)。

 ところで、本件においては、4条1項1号、2号該当性が問題となった。
 裁判所は、1号該当性については、①原告動画の著作物性→②原告動画の著作権者→③被疑侵害利益(著作権侵害の有無)というオーソドックスな検討順番で、「本件動画を作成して本件サイトに投稿する行為は,原告動画のうち少なくとも原告動画の部分1及び4についての複製権及び公衆送信権を侵害する」とし、「本件の関係各証拠上,著作権侵害を否定すべき事情は何らうかがわれない(④権利制限事由がない)」から、「本件動画の本件サイトへの投稿により,原告の著作権が侵害されたことは明らかである」と判断した。
 裁判所の判断は妥当であると考えるが、この判断過程で個人的に興味深いのは、原告動画の著作物性の認定である。裁判所は、本件動画で複製された原告動画の部分1、4のインタビューの動画について、「久本が自らの体験を語る様子を,被写体の大きさ,撮影する角度等の構図を選択して撮影し,編集したものであり,さらに原告動画の部分1については,上記インタビューの動画に加え,久本が語っている内容に合わせた映像を選択して挿入し,編集したものであることが認められ・・・久本の体験談を視聴者に対して効果的に伝える工夫をした部分であり,著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとして映画の著作物に該当」すると判示した。インタビュー動画に加え、当該インタビューで語られている事実に関する動画が画面の一部分で再生される手法は比較的よく使用されるものの、当該手法を使用した表現に創作性が認められたものと考えられる。

 他方、2号該当性については、「『発信者情報の開示を受ける正当な理由があるとき』とは、発信者情報開示請求権の要件として、開示請求者が発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められることを意味する」とされているところ(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 -逐条解説- 平成14年5月 総務省)、裁判所は、著作権侵害が認められる以上は損害賠償請求が可能となるため、原告が発信者情報(発信者の氏名又は名称、発信者の住所、及び発信者のメールアドレス)を入手することの合理的な必要性が認められると判示した。この判示も妥当であると考える。

 本件は、著作権侵害の投稿がされた場合におけるプロバイダ責任制限法4条1項の適用について判示したものであって、実務上参考になると考えられるため紹介する次第である。

(文責)弁護士 柳下彰彦