【ポイント】
構成成分は同一であり、その構成成分の一つが主成分であるか(本件特許)、不純物であるか(引用発明1)という点が相違点である場合に、進歩性ありとされた審決が取り消された事例。
【キーワード】
進歩性、数値限定発明
 

【事案の概要】
・以下の特許請求の範囲の進歩性の有無が問題となった。
【請求項1】A)アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,B)グリコール酸塩,及びC)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤を主成分とし,C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部,かつアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対してグリコール酸塩が0.01~0.5重量部含有され,pHが10~13であることを特徴とする洗浄剤組成物。
 
・引用発明1の内容は以下のとおりである。
「珪酸ナトリウム50/52°Beを1[g/溶液L],コプラ石鹸を0.5[g/溶液L],非イオン界面活性剤(エトキシル化アルコール)を0.5[g/溶液L],CMC(カルボキシメチルセルロース)を0.12[g/溶液L],ペルオクソホウ酸ナトリウムを2[g/溶液L]含有するとともに,
さらに,
TPP(トリポリホスフェート)を0.8[g/溶液L],金属イオン封鎖組成物” OS1”を0.6[g/溶液L]含有するか,または,TPP(トリポリホスフェート)を1.6[g/溶液L],金属イオン封鎖組成物” OS1”0.8[g/溶液L]を含有し,残部として全体を8[g/溶液L]とする充填剤を含有する,洗浄剤混合物」
  ※金属イオン封鎖組成物は、グリコール酸ナトリウム(グリコール酸塩)を含有する。
 
・審決の認定は以下のとおりである。
相違点1については,引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物を含む洗浄剤混合物において,グリコール酸トリウムを洗浄効寄与する主成分であるとすることは,当業者が通常想到し得る事項であるとはいえない。よって,本件発明1は引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
 
【争点】
相違点1の認定の適否、本件発明の容易想到性の有無(グリコール酸ナトリウムを洗浄効果に寄与する主成分であるとすることは,当業者が通常想到し得る事項であるといえるか否か)
 
【結論】
グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできないと結論付けた。
 
【判旨抜粋】
(ア) グリコール酸塩の含有量について
本件発明1において,グリコール酸塩の含有量は,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.01~0.5重量部とされているところ,引用発明1におけるOS1には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩が60重量%,グリコール酸ナトリウムが12重量%含まれており,グリコール酸ナトリウムの含有量は,グルタミン酸二酢酸塩類の1種であるグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩1重量部に対して0.2重量部であって,本件発明1におけるグリコール酸塩の含有量の範囲内である。第2,3(1)ウに記載のとおり,本件発明1と引用発明1とは,上記の点において一致する。
 
引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,かつ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である
このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできない。
この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,容易想到ではないと主張する。
確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構成されるような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえる。
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エ 以上のとおり,審決は,相違点1を本件発明1と引用発明1の相違点であると認定した上で,相違点1が容易想到でないとした判断に,誤りがある。
 
【解説】
本件発明1の規定する3成分はいずれも引用発明1に記載されているものであり、そのうちの1成分であるグリコール酸ナトリウムが不純物であるか、主成分であるかは、進歩性を否定する根拠にはなり得ないと判断した。結論としては妥当と思われるが、数値限定が重要な要素となり得る。数値の範囲も本件発明1のグリコール酸塩は0.01~0.5重量部、引用発明1は0.2重量部であり、そもそも両者はその数値範囲が重複しているだけでなく、不純物ではなく主成分だとの主張が数量的に裏づけられているとはいえないことからも、妥当な判断といえる。
クレームにおいて「主成分」との文言のみで、「主成分」としない先行技術と差別化を図るのは得策とはいえないと思われる。「主成分」であることを根拠づける数値や製造条件等の構成を特定することで、「主成分」とする発明と「主成分」としない発明を差別化するのが望ましい。
2013.3.1 (文責)弁護士・弁理士 和田祐造