平成25年7月11日判決(知財高裁 平成25年(ネ)第10014号)
【キーワード】
実施行為,譲渡,譲渡の申し出,ウェブサイトへの掲載
【事案の概要】
X(原告,控訴人):特許権者
Y(被告,被控訴人):Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者
「発光ダイオード」という名称の発明について本件特許権(特許第4530094号)を有する控訴人が,被控訴人は,台湾の企業であるエバーライト社が製造する本件各製品を輸入,譲渡又は譲渡の申出を行っており,被控訴人による当該輸入,譲渡又は譲渡の申出が本件特許権を侵害するものであると主張して,被控訴人に対し,本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出等の差止め及び廃棄並びに損害賠償として100万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被控訴人が本件各製品を輸入,譲渡又は譲渡の申出をしたことも,そのおそれがあることも認めることはできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,これを不服として控訴した。
【争点】
(1) 被控訴人(被告)が本件各製品の輸入,譲渡及び譲渡の申出をしているか否か
(2) 本件各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か
(3) 控訴人(原告)の損害
【結論】
(1) 被控訴人が過去に本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をしたり,現在これらの行為をしているとは認められないし,被控訴人が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をする蓋然性があると認められる具体的な事実が存在することをうかがわせるような証拠もないから,被控訴人が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をするおそれがあることも認められない。
(2),(3)判断せず
【判旨抜粋】
1 譲渡について
控訴人は,被控訴人が,・・そのウェブサイトに,エバーライト社について・・明らかに白色LEDを意味する照明ないしバックライト用LEDの紹介文を記載し,殊に平成19年ころのウェブサイトには,被控訴人がエバーライト社の「携帯端末バックライト」,「砲弾型LED全般」及び「面実装タイプLED全般」を取り扱っている旨明記し,顧客がエバーライト社の製品情報を掲載したページに容易にアクセスできるようにリンクを貼り,顧客のために問合せページも用意しているから,かかるウェブサイトを見た顧客が,被控訴人に照明ないしバックライト用LEDを注文することは当然予想され,商社である被控訴人が同注文を断ることはあり得ないこと,被控訴人ウェブサイトの「半導体製品」のカテゴリーにある15社のうち,LED関連の製品を挙げるのは,エバーライト社及び株式会社光波のみであり,顧客がLEDを購入しようとすれば,エバーライト社か他の1社しか選択肢がないことからすれば,被控訴人が過去において本件各製品を含むエバーライト社製白色LEDを実際に譲渡したことは十分合理的に推認できる旨主張する。」
「しかしながら,[1]被控訴人は,エバーライト社の製品の取扱代理店ではなく,商社として15社を数える半導体製品の仕入先メーカーの一つとしてエバーライト社を紹介しているものにすぎず,被控訴人ウェブサイトではエバーライト社の特定の製品を具体的に記載しておらず,本件各製品の記載もないこと,[2]照明用LED及びバックライト用LEDとしては白色LEDが多くを占めるとしても,この白色LEDには,一般的に,本件発明の採用する「蛍光体+青色LED」方式だけでなく,「3色LED」方式や「RGB蛍光体+近紫外LED」方式も利用されており,また,仮に控訴人主張のように一般的に携帯端末バックライト用LEDについては「蛍光体+青色LED」という構成の白色LEDがほとんどを占めるものであるとしても,それが全て本件発明の構成を採用するものであるとまで認めるに足りる証拠もないのであるから,被控訴人ウェブサイトを閲覧して照明用LED又はバックライト用LEDを注文しようとする顧客が,本件各製品の問合せや注文をするとは限らないこと,[3]本件全証拠によっても,本件各製品が我が国において一般市場に流通しているか否かは不明であることを考慮すれば,顧客が本件各製品について被控訴人に問合せや注文をする可能性が否定できないとしてもその程度が高いとまでは必ずしもいえないのであって,かかる可能性の存在だけでは,被控訴人が本件各製品を譲渡した事実を認定することはできず,他に譲渡の事実があったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,前掲乙1,2及び12の各陳述内容によれば,被控訴人による譲渡の事実が存在しないことがうかがわれるところである。そして,被控訴人ウェブサイトの「半導体製品」のカテゴリーにある15社のうち,LED関連の製品を挙げているのが,エバーライト社及び株式会社光波の2社のみであるからといって,上記認定が左右されるものではない。」(下線及びその文字は筆者が便宜のため付した。)
2 譲渡の申し出について
「(ア) [1]被控訴人は,技術商社であって,仕入先メーカーから仕入れた各種半導体製品を顧客に販売しているところ,被控訴人の半導体製品の仕入先メーカーの一つにエバーライト社があるが,被控訴人はエバーライト社の取扱代理店ではないこと,[2]被控訴人ウェブサイトには,半導体デバイスのページに15社を数える半導体の取扱メーカーの一つとしてエバーライト社についての記載があり,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクやエバーライト社がLED製品を取り扱っている旨の記載があるが,具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がないこと,[3]エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクをクリックすると,同社のトップページに移動するが,このページには具体的なLED製品の記載はないこと,[4]このページからさらに具体的な製品が掲載されたページにたどり着くためには,複数回リンクをたどる必要があり,例えば,本件製品1に関する情報が掲載されたページにたどり着くためには,トップページの「Products」のボタン,「Visible LED Components」の項目,「Low-Mid Power LED」の項目,「5050(0.2w)」の項目,「Datasheet」の欄の下にあるPDFファイルのアイコンを順次たどる必要があることが認められ,これらの事情に鑑みると,被控訴人ウェブサイトの記載をもって,被控訴人が本
件各製品について譲渡の申出をしていると認めることはできない。
なお,過去には,被控訴人ウェブサイト内にエバーライト社についてのページが存在し,このページにおいて,製品案内として,「アプリケーション」に「屋内外サインボード」,「各種信号灯」,「車載関連(インテリア・エクステリア)」,「携帯端末バックライト」,「DVD/STB/TV」との記載,「製品」に「砲弾型LED全般」,「面実装タイプ LED全般」,「IrDA」,「フォトカプラ」,「フォトリンク」との記載があったが,さらに具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がなく,結局,具体的な個別のLED製品を知るには,エバーライト社のウェブサイトによらなければならなかったのであって,過去の被控訴人ウェブサイト内に,現在のページとほぼ同じ内容のページのほか,上記のエバーライト社についてのページが存在していたとしても,これをもって,被控訴人が本件各製品について譲渡の申出をしていたと認めることはできない。
(イ) この点,控訴人は,顧客は,必ず,購入したい特定の製品を念頭において,被控訴人ウェブサイトにアクセスし,目的とする品目の製品情報にたどり着くまでリンクをたどるのであるから,被控訴人ウェブサイトに具体的製品の記載がないことや,個別のLED製品の型番や製品情報に行き着くために複数回のクリックを要するかダイレクトに行き着くかは,「譲渡の申出」性を否定する理由にはならず,殊に被控訴人ウェブサイトの「半導体製品」のカテゴリーにある15社のうち,LED関連の製品を挙げるのは,エバーライト社及び株式会社光波のみであり,被控訴人の顧客がLEDを購入しようとすれば,実際上,エバーライト社か他の1社しか選択肢はないのであって,被控訴人ウェブサイトの記載からは,本件各製品について譲渡の申出が認められる旨主張する。
しかしながら,顧客が,必ず,購入したい特定の製品を念頭において被控訴人ウェブサイトにアクセスするものとは断定できない上に,被控訴人はエバーライト社の取扱代理店ではなく,被控訴人ウェブサイトにおいても,半導体デバイスの仕入先メーカーの一つとしてエバーライト社を紹介し,具体的製品を何ら特定することなく同社製品を一般的に取り扱っている旨を記載しているにすぎず,被控訴人ウェブサイトに貼られたエバーライト社のウェブサイトへのリンクも,単に同社のトップページに移動するもので,同社製品に直接リンクするものではない。そして,顧客が被控訴人ウェブサイトに貼られたエバーライト社のウェブサイトへのリンクから,同社ウェブサイトのトップページに移動した後,具体的な製品が記載されたページにたどり着くためには,同社のウェブサイトにおいて複数回リンクをたどる必要があるところ,かかるエバーライト社のウェブサイトにおけるリンクの方式や具体的な取扱製品の記載が同社による同社製品の譲渡の申出に当たるか否かは格別,エバーライト社が管理する上記ウェブサイトの記載をもって,被控訴人による譲渡の申出と認めることはできない。そして,前記(ア)で認定した事実に加え,前掲乙1,2及び12において,被控訴人が,本件各製品については,いずれもE&E社との間で商談を行ったこともサンプルの提供を受けたこともなく,その予定もない旨陳述していることや,被控訴人において今後も本件各製品を販売する意思のない旨を表明していることをも併せ考慮すれば,被控訴人ウェブサイトの記載やエバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクの貼り付けをもって,譲渡の申出の事実があるものと認めることはできない。」(下線及びその文字は筆者が便宜のため付した。)
【解説】
ウェブサイトの記載につき譲渡・譲渡の申し出の事実が原審・控訴審ともに否定された事例。
「譲渡」とは,物の発明たる特許発明を化体した特許製品についての移転をいい,「譲渡の申し出」とは,特許製品の販売を目的とした譲渡の前提としての販売促進活動や営業活動をいう。ウェブサイトによる営業活動も,「譲渡の申し出」に該当し得るが(大阪地裁平成24年3月22日,平成21年(ワ)第15096号,炉内ヒータ事件),「譲渡」及び「譲渡の申し出」の対象は,特許製品でなければならない。
本件の場合,他社のウェブサイトへのリンクを含め,複数回のリンクをたどらなければ特許製品と対比されるべき本件各製品のウェブサイトにたどり着けなかったものであり,被控訴人(被告)と当該他社の関係,当該他社のウェブサイト上の位置づけも複数社のうちの一つにすぎないことからしても,本件各製品の「譲渡の申し出」があったとはいえないとした。
また,単にウェブサイトでの紹介のみでは,実際に被控訴人(被告)が本件各製品を譲渡した事実は認められないとして,「譲渡」があったともいえないとした。
本件各製品を製造する当該他社は海外企業であり,当該他社を提訴しても,当該他社の日本国内での実施行為を認定するのは困難を伴うこともあったため,被控訴人(被告)を訴えたものと思われる。しかし,単にウェブサイトにリンクを貼り,そのリンク先で特許製品が紹介されているような場合,その事実のみをもって特許製品の譲渡,譲渡の申し出あるいはそれらのおそれがあったとは言い難い。実施行為の有無等の事実関係の確認や証拠収集を含め,提訴先の選定につき慎重を期すことが肝要と思われる。