平成25年9月19日判決(大阪地裁 平成24年(行ワ)第13282号)
【判旨】
商品形態の商品等表示性は、特別顕著性及び周知性を充足するか否かにより判断されるところ、原告商品(テレビ台)の商品形態は、いずれも充足しないから、「商品等表示」には当たらない。
【キーワード】
商品形態 商品等表示 不正競争防止法2条1項1号


1 事案の概要
 原告は、平成18年6月以降、テレビ台(下図)を製造・販売している。

 原告は、原告商品の形態が、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示性を有するところ、被告商品の形態がこれに類似するなどとして、被告らに対し、差止め等を請求した。

2 争点
原告商品の商品形態は、不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか。

3 判決抜粋
(1)  原告商品の形態及びその特徴(特別顕著性)
 次のとおり、原告商品は、特徴的な機能を有するものの、同機能に導かれる形態としては、特徴的とはいえず、形態自体によって特別顕著性を取得しているということは困難である。

イ 原告商品の形態の特徴
 前提事実(2)イ(前記ア)によると、次のとおり認めることができる。
 すなわち、原告商品は、上部箱の片方だけに脚がついており、反対側(脚のついていない方)を下部収納箱の上に載置することにより(下部収納箱が脚の代わりとなる。)、2つの箱(下部収納箱と上部箱)を組み合わせて使用することが予定されている。そして、載置の範囲や位置を変えることにより、2つの箱の位置関係を左右に広げたり狭めたり、角度をつけたりすることができる機能を有している。
 その結果、2つの箱の位置関係から、様々な形態を生じることができる。例えば、2つの箱の位置関係を広げた場合は、2つの箱によって、段差を生じさせた上、全体として水平的な、横長の印象を看者に与え、2つの箱の位置関係を狭めた場合は、堅固で、質量感あふれる印象を与える。また、2つの箱の位置関係に角度をつけない場合(180度の場合)は、正面視において、平面的な印象を与え、角度をつけた場合(例えば90度の場合)、奥行き感を含めた立体的な印象を与える。
 一方、テレビ台の全体が木製のローボードであることは、同種商品にも多くあり、原告商品だけが有する特徴ということはできない。

ウ 原告商品の形態の特別顕著性
 前記イでみた原告商品の形態の特徴は、機能に基づくものということができる。
 しかも、原告が、原告商品の形態について周知性を獲得したと主張する平成22年1月までには、既に、他社のテレビ台が同様の機能に基づく形態上の特徴を有していたことも認められる(乙1~6)。

 これらの商品と原告商品とを対比すると、次のような相違点を認めることができる。
 すなわち、上部箱の片方についている脚が略円柱ではなく、略直方体である場合や(乙1の商品との対比。なお、乙1の商品については、インターネット上のウェブサイト(楽天市場)において、平成20年9月3日に、購入者によるコメントが投稿されている。)、上部箱の側壁が木製板でなく、透明板である場合や(乙2の商品との対比。なお、乙2の商品については、前同様に、平成20年9月24日にコメントが投稿されている。)、上部箱の片方についている支持体が2本の脚ではなく、全面板状である場合や(乙3の商品との対比。なお、乙3の商品は、前同様に、平成21年1月24日にコメントが投稿されている。)、上部箱の片方についている脚が木製ではなく、金属製である場合(乙4の商品との対比。なお乙4の商品については、前同様に、平成21年7月20日にコメントが投稿されている。)が認められる。
 しかし、これらの相違点は、家具などの商品を構成する、ありふれた部分の形状に係るものであり、その差異の程度も僅かというべきである。
以上によると、原告商品の形態に特別顕著性を認めることは困難であり、その形態についての需要者における認識の程度が、後記(2)の程度であったことを併せ考えると、原告商品の形態が、出所を表示する機能を有していると認めることはできない。

(2) 原告商品の形態の周知性
以下の理由から、原告商品の形態が、商品等表示性を獲得するに足りるだけの周知性を獲得していると認めることはできない。
ア 販売実績
 原告は、平成18年6月から、原告直営店や自社のウェブサイト、デパートのほか、楽天市場やヤフーショッピング内における原告のサイトにおいて、原告商品を販売しており(デパートでの販売は、卸を通じたものであり、それ以外は直販である。)、平成22年1月ころまでに約1万5000台を販売したことが認められる。
 証拠(甲8の1~18、甲9、19から21、26、28、29)及び弁論の全趣旨によると、前記販売件数は、テレビ台の販売件数としては比較的多いということがいえる。もっとも、テレビ台全体の市場における原告商品の市場占有率等は明らかではない。原告は、原告商品の販売実績が多量であることを裏付ける事情として、楽天市場における販売ランキングの順位についても主張しているが、当該ランキングにおける順位は、販売数量だけを基準としたものでないこと、楽天市場のほかにも、インターネットにおいて家具等を販売するウェブサイトが多数存在していることは当裁判所に顕著な事実である。したがって、楽天市場におけるランキングのみをもって原告商品の知名度等を評価することはできない。
 そもそも、原告商品は、テレビ台であることから、その耐用年数や家庭での需要台数を考えると、1台購入した者が引き続き購入することは考えにくい商品といえる。
イ 広告宣伝等の状況及び購買状況
 原告が、原告商品について、大がかりな広告宣伝を実施していたことを認めるに足りる証拠があるわけではなく、上記販売件数のうち相当数は、テレビ台の購入希望者が、インターネットや店頭において、他の商品と比較しながら、原告商品を選択していったものであることを否定できない。
 このことは、上記販売件数が、原告商品の持つ機能やデザインが優れていることに起因すると推測することができるものの、原告商品の形態が予め購入希望者の意識にどの程度あり、これが、購入希望者にどのような影響を与えているかは不明である。
 以上によると、原告商品の形態が、商品等表示として出所識別機能を有するに至るまで、顧客との間で、長年継続的かつ独占的に使用されてきたと認めることはできない。
ウ レビュー件数
 確かに、インターネット販売において、原告商品に関するレビューの件数が、他のテレビ台より格段に多いことが認められる(
甲16の1~7、甲21)。
 しかし、上記レビューの数が、単に同種商品に関するレビューの数より格段に多いということのみをもって、原告商品の形態が、購入者層に広く普及したと認めることは困難というべきである。
(3) まとめ
 以上によると、原告商品の形態が、商品の出所識別機能を有していると認めることはできない。
 したがって、被告商品と原告商品の形態が類似しているか否かにかかわらず、原告の請求には理由がないというべきである。

4 考察
 本件は、原告商品の商品形態が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか否かが争われ否定された事例である。本裁判例では、めがねルーペ事件(知財高裁平成25年2月6日判決平成24年(ネ)10069号)の規範に則り、特別顕著性及び周知性により「商品等表示」該当性を判断しているところ、実務的には、周知性立証につき、判決抜粋の内下線を引いた部分が参考になる。
 前掲めがねルーペ事件において、周知性立証に関して知財高裁が述べたところによると、「その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され(た事実)、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等」を立証した場合に、当該商品形態が周知であると認められると解される。つまり、これらの評価根拠事実により当該廠ん品形態の周知性が認定されるということになる。
 本件において、裁判所は、上記めがねルーペ事件で挙げられた評価根拠事実と同じ、(a)販売実績、(b)広告宣伝等の状況及び購買状況、に加え、(c)口コミサイトのレビュー件数の観点から周知性があるとは認められない旨判断している。そこで、これら3つの観点から、実務のヒントとなりうる点を検討する。

(a)販売実績について裁判所は、「もっとも、テレビ台全体の市場における原告商品の市場占有率等は明らかではない。」と述べている。
 市場占有率が高ければ高いほど、販売実績が大きいことを裏付ける。したがって、市場占有率が高いことを立証することは、周知性立証では重要なポイントといえよう。
 本件では、テレビ台としての販売台数が多いこと、楽天ランキングで高順位であったことが立証されているが、市場占有率との結びつきを認めるには至っていない 。
 楽天ランキングを含め、他のウェブ上のショッピングモールや口コミサイトの販売ランキングは、必ずしも販売量に比例していないようである。したがって、これらのランキングは、市場占有率とは直接関係なく、補助事実あるいは弱い評価根拠事実にすぎないということになる。それよりも、テレビ台が必要になる大型のテレビの販売台数などから大まかなテレビ台の全販売数を求め、そこから割合を求める等の工夫が必要であると思われる。

(b)広告宣伝等の状況及び購買状況について裁判所は、「このことは、上記販売件数が、原告商品の持つ機能やデザインが優れていることに起因すると推測することができるものの、原告商品の形態が予め購入希望者の意識にどの程度あり、これが、購入希望者にどのような影響を与えているかは不明である。」と述べている。
 先に述べたとおり、強力な広告宣伝活動は周知性の評価根拠事実となりうる。
 本件では、大々的な宣伝をしていたわけではないと認定されているので、宣伝活動は評価根拠事実となりえない。
 もっとも、裁判所は、商品のデザイン(形態)が購入動機であり、当該デザイン故に販売件数が多いことを立証できれば、大々的な宣伝をしていなくとも、周知性あるいは特別顕著性立証につながりうる点を示唆しており、興味深い。

(c)口コミサイトのレビュー件数について裁判所は、「しかし、上記レビューの数が、単に同種商品に関するレビューの数より格段に多いということのみをもって、原告商品の形態が、購入者層に広く普及したと認めることは困難というべきである。」と述べている。
 口コミサイトなどで、レビュー件数(口コミ件数)が多ければ多いほど周知であると考えられるから、対象商品のレビュー数が同種商品のレビュー数に比して多いことを証明することは実務的にもあり得る。
 本件では、レビュー件数の多さ「のみ」をもって購入者層に広く普及したこと(周知性)につながらないと判断されている。かかる記載からすると、レビュー件数が多いことというのは、補助事実あるいは弱い評価根拠事実としかならないように読める。

 以上のとおり、本件裁判例は、実務上参考になる点が多数含まれており、興味深い。

以上
 (文責)弁護士・弁理士 溝田 宗司