平成25年10月10日判決(知財高裁 平成25年(行ケ)第10126号)
【ポイント】
被告登録商標「きょロッケ」(第29類)に対して、原告が原告登録商標「魚ロッケ」(第29類等)を引用商標として商標法4条1項11号違反を理由に商標登録無効審判を請求したが不成立となった審決に対し、本件商標は引用商標と類似しない等の理由により、審決を維持して原告の請求を棄却した事例
【キーワード】
商標法4条1項11号


【事案の概要】
本件は、原告が後記の手続において、原告の本件商標に対する商標登録無効審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求めた事案である。

1 本件商標
 被告は平成23年8月2日、文字及び図形からなる商標(以下本件商標という。)につき、指定商品を第29類「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」として商標登録出願をし、平成24年3月23日に設定登録がなされた(登録第5480453号)。

登録第5480453号

2 特許庁における手続の経緯
 原告は、本件商標について平成24年11月20日、商標登録第2448697号(以下「引用商標」という。)を引用商標として本件商標の登録無効審判を請求したところ、特許庁は、これを無効2012-890101号事件として審理し、平成25年4月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同月11日、原告に送達された。

登録第2448697号

3 本件審決の理由の要旨
 特許庁は、「本件商標と引用商標は非類似であるから、11号に違反して登録されたものということはできない。」として上記請求を不成立とした。

【争点】
商標法4条1項11号該当性

【判旨抜粋】
1.本件商標の称呼の認定
 本件商標を一連・全体としてみれば,何ら特定の観念を生ずるものではなく,「カイセキ ヨシザキ キョロッケ」と一連に称呼するものと認められる。
 これに対し,本件商標の構成中,「きょロッケ」の文字は,本件商標のほぼ中央部に橙色でひときわ大きな文字で極めて読みとりやすく表示され,それ自体が成語ではなく一種の造語と解されることから,この部分が独立して看る者の注意を引くように構成されている。しかも,本件商標の構成中,左端の略円形図形及び同図形内の「快席 吉前 よしざき」の文字は子鬼の図形を挟んで離れて配置され,また,「きょロッケ」の文字部分の両側に配置された子鬼の図形及び略おにぎり形状の頭部を有する擬人化した人形の図形には,いずれも出所識別標識としての称呼,観念を生じることはないと見るのが相当である。そうすると,「きょロッケ」の文字部分と本件商標の他の構成部分とは,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,本件商標においては,「きょロッケ」の文字部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を与えるものといえるから,これを要部と認めるべきである。そして,「きょロッケ」の文字部分からは,特に何らの観念を生ずるものではなく,「きょロッケ」の文字部分に相応して「キョロッケ」の称呼を生じる。
2.引用商標との類否(称呼部分の判断のみを抜粋)
 「きょロッケ」はその文字部分に相応する「きょろっけ」の称呼を生じ,引用商標は,その構成文字に相応する「ぎょろっけ」の称呼を生ずるものであるから,両者の称呼は,「きょ」と「ぎょ」において相違するだけであり,比較的近似するものであるといえる。しかし,語頭音である「きょ」と「ぎょ」の称呼上の差異は清音と濁音の違いであり,比較的容易に認識できるものであるといえる。
 さらに,取引の実情として,外観や観念よりも称呼によって商品の出所を識別しているなど,称呼上の識別性が外観及び観念上の識別性を上回っているような特段の事情も認められない。そうすると,本件商標の要部たる「きょロッケ」の文字部分と引用商標とは,外観が異なる上,観念については相違するかまたは比較することができないものであって,称呼においても上記の程度に区別できるから,取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合判断すると,両商標を取り違えて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず,両者は類似しないものというべきである。

【解説】
1 本件商標の称呼の認定について
 本件商標は「きょロッケ」の他、「快席 吉前 よしざき」の文字を含んでおり、「きょロッケ」のみを要部として抽出することができるかが問題となったが、知財高裁は、①「きょロッケ」の文字がひときわ大きな文字で極めて読み取りやすいこと、②「快席 吉前 よしざき」の文字は子鬼を挟んで離れて配置されていること、③図形には出所識別標識としての称呼、観念を生じないこと、を挙げ、「きょロッケ」を要部とした。この認定は妥当であり、特に異存はないだろう。
2 引用商標との類否判断について
 本件の主な争点は、本件商標の要部の称呼「きょろっけ」と引用商標の称呼「ぎょろっけ」が類似するか否かである。
 知財高裁は、
①「きょ」と「ぎょ」において相違するだけで比較的近似するものであるが、「きょ」と「ぎょ」の称呼上の差異は清音と濁音の違いであり,比較的容易に認識できるものであること
②取引の実情として,外観や観念よりも称呼によって商品の出所を識別しているなど,称呼上の識別性が外観及び観念上の識別性を上回っているような特段の事情も認められないこと
を考慮要素として、両者の称呼は類似しないとした。清音と濁音の違いのみの商標は審査段階においても問題になることが多いが、この差異は比較的容易に認識できるとした判断は今後の実務においても参考となる。
 また、本件では、取引の実情も考慮している。知財高裁は「外観や観念よりも称呼によって商品の出所を識別しているなど,称呼上の識別性が外観及び観念上の識別性を上回っているような特段の事情」が認められないとしたが、この判断によれば、称呼が有名であり、外観や観念よりも圧倒的に識別性を獲得している事情を立証できれば、両者は類似と判断された可能性があることになる。無効審判を請求する側としては、今回のような清音と濁音の違いのみの商標等においては、今後は特段の事情についても十分な証拠収集をして臨む必要があるだろう。

2013.11.5 弁護士 幸谷泰造