平成25年11月23日判決(知財高裁 平成24年(ワ)第22013号、平成24年(ワ)第36288号)
【判旨】
 「確かに,不正競争防止法2条4項は,「この法律において『商品の形態』とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と規定しているから,「通常の用法に従った使用」,すなわち,本件でいえば着用時における商品の形態をもって比較するのが相当である。しかし,別紙原告商品目録及び被告商品目録(甲2も同じ)における着用時の一方向からの写真のみでは,撮影方向が一方向に限定され,また,マネキンの足の方向によっても見え方が左右されるから,限定された写真のみから着用時の星柄模様の状態を正確に把握することはできない。そのため,着用時の状態を正確に把握するためには,非着用時の模様の配置を参考にする必要がある。その意味で,非着用時の模様の配置(被告のいう着用前の平置きの状態)を参照することが相当であると解される。他方,被告は,ストッキングは,伸縮性のある生地が用いられており,それを着用する人の体型や着用の仕方等によって,柄の見え方が変わってくるから,誰かが着用した状態で形態を捉えることは不適切である旨主張する(別紙2参照)。しかしながら,そのような問題点があることを踏まえながら,非着用時の状態(平置きの状態)での形態も考慮して比較をすればよいのであって,ストッキングを着用した状態での比較が許されないとはいえない。」
【キーワード】
 不正競争2条1項3号、形態、形態模倣、実質的同一性、ストッキング、星柄、プリントストッキング

第1 事案の概要
 「proef」(プロエフ)というブランド名でプリントストッキングを企画・開発・販売していたX1、X2、及び株式会社Cry ltd.が、靴下等の製造・販売会社である被告に対して、同社が「proef」ブランドのプリントストッキングのうち、星柄がプリントされた商品(以下、(以下「原告商品」という。)の「形態」を「模倣」して、星柄プリントのストッキング(以下、「被告商品」という。)を販売していると主張して、不正競争防止法2条1項3号、同法3条、及び同法4条に基づき被告製品の譲渡等の差止及び損害賠償請求等を行った事案である。

第2 判旨(下線は筆者による)
  裁判所は、以下のとおり、原告商品と被告商品は実質的に同一の形態ではないと判示して、被告による原告商品の「模倣」を認めなかった。
 1 「模倣」性についての判示
   「 (1)  不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなどの行為を不正競争行為として規定する。ここで「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう(同法2条5項)から,同号の不正競争行為といえるためには,他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に,それぞれの形態が同一であるか実質的に同一といえる程度に類似していることが必要である。そして,問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体からみて些細な相違にとどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して,当該相違部分についての改変の着想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできない。」
  「(ア) 外部形状の対比 原告商品は,(1)ウエスト巾約18cm,股上約22cm,股下約48cm,太もも巾約8cmであり,(2)股部分にマチがあり,(3)つま先部分の生地が厚い。これに対し,被告商品は,(1)’ウエスト巾約20cm,股上約20cm,股下約67cm,太もも巾約10cmであり,(2)’股部分にマチがなく,(3)’つま先部分の生地は厚くない。以上のとおり,原告商品と被告商品とは,サイズの違い((1)と(1)’)があるが,これは生地の伸縮性によるものと解されるから,形態として大きな相違点であるとは解されない。また,原告商品と被告商品とは,マチの有無((2)と(2)’),つま先部分の生地の厚さ((3)と(3)’)に違いがあるが,これらは機能的な工夫によるものと解される上,通常の着用の状態では見えない部分であるから,同様に形態として大きな相違点であるとは解されない。
  「(イ) 外部形状に結合した模様の対比 原告商品は,(4)外部形状に結合した模様として,星柄のフェルト状の黒色生地がストッキングに張り付けられ,(5)右脚には,19個の星柄が付されており,着用時における具体的配列は,原告商品写真(1)のとおりであり,右脚の星柄模様が付された位置は,膝下付近の模様は脚の外側に位置するが,流れ落ちるように緩やかに正面方向へ向かい,足首付近では,ほぼ正面に位置している。足首部分の星の配置の形状に特色は見られない。(6)左脚には,19個の星柄が付されており,着用時における具体的配列は,原告商品写真(2)のとおりであり,左脚の星柄模様が付された位置は,膝のやや上部に位置する大腿下部において,最も上部の2個の星柄は左脚の正面近くに位置し,そこから正面から背面へ向けて流れ落ちるように緩やかにふくらはぎ方向へ向かい,一番下の3個の星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部にまで達している。星柄模様が回転しながら脚に巻かれているように見える。(7)星柄の大きさ(1つの山部から対の谷部までの長さ)には,4種類あり,それぞれ約6~8mm,約10.5mm,約15mm,約18.5mmである。それぞれの個数は,右脚が小さい方から4個,8個,5個,2個,左脚が小さい方から4個,8個,5個,2個である。これに対し,被告商品は,(4)’外部形状に結合した模様として,星柄は顔料インクでストッキングにプリントがされ,(5)’右脚には,17個の星柄が付されており,着用時における具体的配列は,被告商品写真(1)のとおりであり,右脚の星柄模様が付された位置は,膝下付近の模様は脚の外側に位置し,そのままほぼ外側を流れ落ちるが,足首付近で正面方向へ向きを変え,足首の星柄模様はほぼ正面に位置している。足首部分の星柄の形状が北斗七星のひしゃく部分のように見える点に特色がある。(6)’左脚には,19個の星柄が付されており,着用時における具体的配列は,被告商品写真(2)のとおりであり,左脚の星柄模様が付された位置は,最上部の星柄が膝の外側側部に位置し,そこから左脚の外側側部を流れ落ちるようにふくらはぎ方向に向かい,一番下の3個の星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部まで達している。星柄模様はほぼ縦の直線状に見える。(7)’星柄の大きさ(1つの山部から対の谷部までの長さ)には,4種類あり,それぞれ約6mm,約8mm,約11mm,約15mmである。それぞれの個数は,右脚が小さい方から3個,8個,4個,2個,左脚が小さい方から7個,5個,5個,2個である。以上のとおり,原告商品と被告商品とは,星柄がフェルト状かプリント((4)と(4)’)との違いがあり,原告商品では星柄が浮き出ているという違いがある。また,原告商品と被告商品とは,右脚では,星柄の個数に違いがある上,着用による対比によっても,上から5番目以降の星の配置に違いがあり,その結果,星柄模様の流れの方向性に違いがある((5)と(5)’)。特に,被告商品では足首部分が北斗七星のひしゃく部分のように見える模様があるが,原告商品ではそのような特色はない。左脚では,星柄の個数は同じであるが,着用による対比によっても,上から9番目までの星の配置が,原告商品では脚の正面側に寄っているのに対し,被告商品では膝の横に位置するという違いがあり,その結果,原告商品では,星柄模様が回転しながら脚に巻かれているように見えるのに対し,被告商品では,星柄模様はほぼ縦の直線に見えるという違いがある((6)と(6)’)。さらに,原告商品と被告商品とは,星柄の大きさに違いがあるが,特に一番大きな星の大きさが異なる((7)と(7)’)。また,被告商品の方が星の大きさが原告商品と比較してより小さく,より繊細な印象を与える
  「(ウ) 外部形状に結合した色彩の対比 原告商品は,(8)ストッキングの生地が濃いベージュである。これに対し,被告商品は,(8)’ストッキングの生地が薄いベージュである。このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の色に違いがある((8)と(8)’)
  「(エ) 外部形状に結合した光沢の対比 原告商品は,(9)ストッキングの生地の透明感が低く光沢がない。これに対し,被告商品は,(9)’ストッキングの生地の透明感が高く光沢がある。このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の透明感や光沢に違いがある((9)と(9)’)。」
  「(オ) 外部形状に結合した質感の対比 原告商品は,(10)ストッキングの生地は,比較的厚く,網目が緊密でなめらかである。これに対し,被告商品は,(10)’ストッキングの生地は,比較的薄く,網目が粗い」「このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の厚さ及び網目の違いから,なめらかさの有無という質感に違いがある((10)と(10)’)。」
  「(カ) 以上のとおり,原告商品と被告商品とは,(1)~(10)と(1)’~(10)’の違いがある。もっとも,被告商品の(1)’~(3)’については,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体からみて些細な相違にとどまるといい得る。しかしながら,被告商品の(4)’~(10)’については,これらを総合して判断すると,これらによって商品に相応の形態的特徴がもたらされており,被告商品(4)’~(10)’と原告商品(4)~(10)との相違が商品全体の形態の同一性の判断の上で無視できるものとはいい難い。特に,着用時における星柄の模様の配置等について検討すると,1)右脚について,原告商品と被告商品では星柄の数(原告商品19個,被告商品17個)という相違があるほか着用時において星柄の模様の配置された箇所が,原告商品においては,模様が膝下の外側から流れ落ちるように緩やかに正面方向へ向かい,足首付近でほぼ正面に位置するのに対し,被告商品においては,模様が膝下の外側からそのまま外側を流れ落ち,足首付近で正面方向へ向きを変え,足首の星柄模様がほぼ正面に位置するという相違があり,また,被告商品においては足首部分の星柄の形状が北斗七星のひしゃく部分のように見えるのに,原告商品ではそのような特徴がないという相違がある2)左脚について,原告商品では,星柄の最も上部の2個の星が左脚の正面近くに位置し,そこから星柄模様が正面から背面へ向けて流れ落ちるように緩やかにふくらはぎ方向へ向かい,脚に巻かれているように見えるのに対し,被告商品では,最上部の星柄が膝の外側側部に位置し,そこから左脚の外側側部を流れ落ちるようにふくらはぎ方向に向かい,一番下の3個の星はふくらはぎの下部まで達しており,ほぼ縦の直線状に見えるという相違がある。したがって,これらの点を考慮すると,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるとは認められない。仮に,星柄の模様のみで実質的同一性を判断するとしても,上記の相違点に鑑みれば,原告商品と被告商品の星柄の模様は実質的に同一とはいえない。

 2 対比方法についての判示
  「原告ら及び参加承継人は,ストッキングの「通常の用法に従った使用」が着用であるとして,平置きの状態の比較が誤っている旨主張する。確かに,不正競争防止法2条4項は,「この法律において『商品の形態』とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と規定しているから,「通常の用法に従った使用」,すなわち,本件でいえば着用時における商品の形態をもって比較するのが相当である。しかし,別紙原告商品目録及び被告商品目録(甲2も同じ)における着用時の一方向からの写真のみでは,撮影方向が一方向に限定され,また,マネキンの足の方向によっても見え方が左右されるから,限定された写真のみから着用時の星柄模様の状態を正確に把握することはできない。そのため,着用時の状態を正確に把握するためには,非着用時の模様の配置を参考にする必要がある。その意味で,非着用時の模様の配置(被告のいう着用前の平置きの状態)を参照することが相当であると解される。他方,被告は,ストッキングは,伸縮性のある生地が用いられており,それを着用する人の体型や着用の仕方等によって,柄の見え方が変わってくるから,誰かが着用した状態で形態を捉えることは不適切である旨主張する(別紙2参照)。しかしながら,そのような問題点があることを踏まえながら,非着用時の状態(平置きの状態)での形態も考慮して比較をすればよいのであって,ストッキングを着用した状態での比較が許されないとはいえない。」

第3 若干のコメント
 本件は、星柄がプリントされたストッキングの形態模倣が争われた事案である。ストッキングのような着用時と非着用時で形態が全く異なる商品の場合、その「形態」をどのように捉えるかが問題となる。この点、原告は「着用時」と主張し、被告は「着用前の平置きの状態」と主張した。
 不正競争防止法2条4項では「商品の形態」について「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部お形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう」と定義している。当該定義からすると、需用者はストッキングを平置きされた状態では使用しないため、原告の主張どおり「着用時」であるようにも思われる。
 しかし、本件で原告が提出した着用時の写真は、撮影方向が一方向に限定されており、またマネキンの足の方向によっても見え方が左右されるということを裁判所に指摘され、平置き状態での模様の配置も参考にする必要があると判断されている。
 かかる判断から、特に「形態」の認定によって結論に差が生じ得る事案の場合には、原告としては、主張する「形態」を認識し得る十分な証拠を提出する必要があることがわかる。本件のような、着用時か非着用時か等によって形態が変わる商品については、「着用時」の写真のバリエーション(写真の方向、マネキンのサイズ等)を増やす等して、可能な限り「非着用時」を参考にせずとも判断可能となるように証拠を提出する必要があるといえよう。
 なお、被告は原告商品の「商品の形態」該当性に関して、以下のような主張を行っている。
 「流行の追求を本質とするファッション・アパレル業界においては,その追求の過程において激しく競争し,その結果,抽象的なアイデアにおいて類似した商品が市場で多数流通することになる。むしろ,ファッション業界としての共通の利益として流行があり,様々な商品が共通のアイデア・スタイルの下に,多数のブランドから一時期一斉に流通することによってこそ流行が生まれ,流行が需要を喚起し,着用する需要者への満足を与えるのである。様々な事業者が流行を追うことによって,業界が活性化され,それぞれの需要を「食い合う」のではなく,相互にそれぞれの需要を活性化させるのである。このようなファッション・アパレル業界の競争の実態からすれば,抽象的な形態をして不正競争防止法2条1項3号により保護されるとの主張は,あまりに非常識なものといわざるを得ない。」
 たしかに、被告の主張のとおり、ファッション・アパレル業界においては一定の特殊事情があるだろう。当該被告主張は、「模倣」(不正競争防止法2条1項3号)の実質的同一性に関する主張としても整理できるように思われる。すなわち、共通部分は多数のブランドにおいて採用されている「ありふれた形態」に過ぎないため、相違部分を無視することができず実質的同一とはいえない、といった主張である。この点について、被告としては、原告商品が商品化される前から、他のブランドにおいても同様の製品が販売されていたこと等を立証していくことになるだろう。これに対し、原告としては、共通部分がありふれた形態ではなく、特徴的なものであるといった主張立証をしていくことになると思われる。
 近年、ファストファッションの台頭によって、ライフサイクルの短さから意匠権による保護が期待できないファッション・アパレル分野の商品がどのように保護されるべきかといった点が議論されるようになっており、今後の動向が注目されるところである。

(文責)弁護士 山本真祐子