平成25年9月24日判決(知財高裁 平成25年(行ケ)第10122号)
【ポイント】
未登録商標「オルトリリー」は、日本国内において周知であり、本願商標「オルトリリー」は商標法4条1項10号に該当するとした審決の判断を維持した事例
【関連条文】
商標法4条1項10号


【事案の概要】
本件は,原告が,本願商標について商標登録出願をしたところ,引用商標である未登録商標「Ortolily」又は「オルトリリー」に類似するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から,請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。

1 本件商標
 原告は平成23年6月8日、「オルトリリー」という標準文字からなる商標(以下本件商標という。)につき、指定商品を第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」として商標登録出願をしたが、平成24年1月30日に拒絶査定を受けた。
2 特許庁における手続の経緯
 原告は、本件商標について平成24年4月19日、本件商標の拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁は、これを不服2012-7131号事件として審理し、平成25年4月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、その謄本は、同年4月26日、原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
 特許庁は、下記の未登録商標を引用商標として、商標法4条1項10号に該当するとして、上記請求を不成立とした。
[引用商標1]
イタリア国所在のファベ社(Fabe S.r.l.〔ファベ ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ〕)が,イタリア国において,本願商標の登録出願前から商品『まくら』について使用する商標『Ortolily』
[引用商標2]
ファベ社が,我が国において,本願商標の登録出願前から商品『まくら』について使用する商標『オルトリリー』

【争点】
商標法4条1項10号の周知性

【判旨抜粋】
1 本願商標出願日前の周知性につき
 ①引用商標2を付して電磁的方法により広告が提供されていたファベ社製の枕は,本願商標出願日前から,相当数のウェブサイトで高い人気を得た売れ筋商品として取り上げられていたことが認められ,これによれば,引用商標2は,これらウェブサイトを通じて多数の需要者の目に触れられたものと推認され,また,②引用商標1を付された同枕は,原告以外の大手通販業者内で販売される寝具類の中での販売ランキングで上位を占め多数の者がこれを購入したものと認められ,これによれば,引用商標1は直接多数の需要者の目に触れられたものと推認される。したがって,引用商標は,遅くとも本願商標出願日までにはファベ社製の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていた商標であると認めるのが相当である。
2 本願商標出願日後の周知性につき
 ひとたび周知性を得た商標は,短期間のうちにその周知性を喪失することはないのが通常であるところ,引用商標を付されたファベ社製の枕は,本願商標出願日後も相当数のウェブサイトで高い人気を得た売れ筋商品として取り上げられ続け,また,大手通販業者内で販売される寝具類の中での販売ランキングでも上位を占めている。したがって,引用商標は,現在においてもファベ社製の業務に係る商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められる。

【解説】
1 本件における判断について
 本件の主な争点は、引用商標の周知性である。
知財高裁は、
①引用商標2を付したファベ社製の枕は,本願商標出願日前から,相当数のウェブサイトで高い人気を得た売れ筋商品として取り上げられていたことが認められ,これによれば,引用商標2は,これらウェブサイトを通じて多数の需要者の目に触れられたものと推認されること
②引用商標1を付された同枕は,原告以外の大手通販業者内で販売される寝具類の中での販売ランキングで上位を占め多数の者がこれを購入したものと認められ,これによれば,引用商標1は直接多数の需要者の目に触れられたものと推認されること
を考慮要素として、引用商標1及び2は周知であるとした。
2 考察
 周知性が問題となる事案においては、証拠が非常に重要となる。本件においては、大手ネットショッピングサイトで相当数の売り上げを得ていたことが大きく、知財高裁においても、その点を重視した判断となっている。原告は、周知性の認定資料や、周知性の寄与者について争っているが、いずれもあまり意味のない主張であるといえる。未登録周知商標を引例として挙げられた側としては、今回の原告のような争い方ではなく、需要者に対してアンケートをとったり、被告が証拠として挙げたウェブサイトの信用性を揺るがす事実を証拠として提出するなど、証拠収集に最大限の努力をすべきだろう。

2013.11.5 弁護士 幸谷泰造