平成25年9月10日判決(知財高裁 平成25年(行コ)第10001号)
【判旨】
原告が本件原出願の分割出願(平成12年2月15日、平成18年改正特許法44条2項により、同日に出願したものとみなされる。)をしたのは,本件原出願についての特許査定の送達がされた平成23年1月28日より後の同年2月10日であるから,本件出願は,平成14年改正特許法44条1項の定める出願期間経過後にされたもので,不適法である。
【キーワード】
分割出願、適用条項、特許法44条2項、特許法改正附則、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号。以下「平成18年改正法」という。関係部分につき平成19年4月1日施行。)、経過措置


【事案の概要】
 控訴人(原告)は,平成12年2月15日,ドイツ特許庁を受理官庁として,同日にされた特許出願とみなされる国際出願(本件原々出願)をした後,平成22年6月8日,本件原々出願の一部を新たな特許出願(本件原出願)とし,さらに,本件原出願の特許査定の謄本の送達があった後である平成23年2月10日に至って,本件原出願の一部を新たな特許出願とする出願(本件出願)をした。
 本件出願につき,特許庁長官は,平成18年法律第55号(平成18年改正法)による改正前の特許法44条(平成14年法律第24号〈平成14年改正法〉による改正後のもの。旧44条)1項に規定する期間の経過後にされた出願であるとして出願却下の本件却下処分をした。本件は,控訴人が本件却下処分の取消しを求めるものである。
 原判決は,本件却下処分に違法はないとして,控訴人の請求を棄却した。
【争点】
本件出願が本件原出願からの分割出願をすることができる期間内にされたものであるか否か。
【判旨抜粋】
2 平成18年改正法は,・・・分割出願ができる時期につき,・・・旧44条1項の改正により,特許査定謄本の送達後30日以内の期間にも可能となるよう時期的制限を緩和した。
 本件出願は,本件原出願の一部を新たな出願とする分割出願であるから,本件出願が,分割をすることができる時期的制限内に行われたか否かが本件の争点である。すなわち,平成22年にされた本件原出願からの分割出願に新44条1項が適用されるならば,控訴人による本件出願は分割出願の時期的制限内に行われたものとして適法となり,新44条1項が適用されないならば,分割出願の時期的制限を徒過したものとして,不適法となるという関係にある。
3 平成18年改正法附則3条1項は,同法による改正に伴う経過措置・・・を規定する。
 (中略)経過規定の解釈に当たっては,当該改正法の立法趣旨及び経過措置の置かれた趣旨を十分に斟酌する必要がある。一方で,その解釈には法的安定性が要求され,その適用についても明確性が求められることはいうまでもない。
 そこで,検討するに,平成18年改正法の主たる改正点は,技術的特徴が異なる別発明への補正の禁止(特許法17条の2第4項,41条,49条ないし50条の2,53条,159条,163条),分割制度の濫用防止(特許法17条の2,50条の2,53条),分割の時期的制限の緩和(特許法44条1項,5項,6項),外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長(特許法17条の3,36条の2,44条2項,46条の2)であったところ,平成18年改正法附則3条1項は,これらの各条文の適用に当たり,審査の着手時期等によって適用される制限や基準が区々となり,手続継続中に基準が変更されて審査実務や出願人等が混乱することのないよう,各種手続の基礎となり,その時期が明確である「特許出願」を基準として,「この法律の施行後にした特許出願」に新法を適用することとしたものと解される。
 そして,上記改正後の特許法44条1項は,「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。…」と規定し,原出願の「特許出願人」が,原出願の「特許出願の一部を…新たな特許出願」とできる時期的制限や実体的要件を定めたものであるから,この規定が規律しているのは原出願である特許出願の分割についてであることが明らかである。そうすると,平成18年改正法附則3条1項にいう「この法律の施行後にする特許出願」とは,「新たな特許出願」を指すものではなく,新44条1項が規律の対象としている原出願を指しているものと考えるのが自然である。
 また,・・・同改正法は,出願人の利益を図って分割出願の時期的要件を緩和する一方で,分割制度の濫用防止のための方策を同時に改正していることから,分割の時期的要件の緩和と濫用防止策は同時に適用の移行がされることが望ましいのであり,特許法17条の2,44条,50条の2,53条について上記の経過措置を一律に制定した趣旨はこの点にある。
 (中略)以上からすれば,平成18年改正法附則3条1項の「この法律の施行後にする特許出願」とは,新44条1項にいう「新たな特許出願」ではなく,「二以上の発明を包含する特許出願」(44条1項),すなわち,分割のもととなる原出願を指すものと解すべきである。
4 本件においては,本件原出願からの分割出願が適法な時期的制限内になされたか否かが問題となるところ,平成22年にされた本件原出願自体は平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)以降になされているものの,本件原出願は平成12年にされた本件原々出願からの分割出願である。そして,控訴人は,本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり,本件原出願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前提としているところ,本件原々出願が,平成12年2月15日にしたものとみなされる国際出願であり,平成18年改正法の施行前にした出願であるから,本件原出願は本件原々出願のこの出願の時にしたものとみなされる。したがって,本件出願は,平成18年改正法の施行後にする「特許出願」からの分割ではないので,結局,本件出願について同改正法は適用されないことになる。

【解説】
 本件は、分割出願を行うに際して、どの時点の特許法が適用されるかが争点となった東京地方裁判所平成24年(行ウ)383号平成24年12月6日判決の控訴審である。すなわち平成18年改正法によって、特許法44条第1項第2号に「特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。」が追加され、分割可能な時期が緩和された。従前の平成14年改正法には当該規定が存在しなかったため、平成18年改正法と平成14年改正法のいずれが適用されるかが問題となった。
 控訴審において控訴人は、主として①平成18年改正法附則3条1項 に定める「この法律の施行後にする特許出願」とは「現実の出願」をいうという、②「この法律の施行後にする特許出願」が、分割に
係る「もとの特許出願」をいうと考えたとしても、本件においては、本件出願に係る「もとの特許出願」が平成18年改正法施行後になされた本件原出願である旨を新たに主張した。
 なお、①については、原審において指摘された、「分割出願制度の濫用を抑止する制度を設ける必要から,特許法17条の2,50条の2,53条等の改正も合わせて行っている」ことへの対応として、「現実の出願」である旨を主張したようである。
 裁判所はこれに対して、平18年改正法の趣旨を解釈し、その上で改正後の特許法を解釈して、①の控訴人の主張を退け、その上で、「本件原々出願の出願日の遡及の利益を求めて本件出願をしているものであり,本件原出願が本件原々出願の時に出願したものとみなされて特許査定されたことを当事者双方とも当然の前提」としているとの実体的な理由から②を退けた。
 前回も述べたが、実務上、特許法等の政策に深く関連する法律は、頻繁に改正が繰り返される。特に、出願の可能な時期等に関しては厳しく判断されるので、注意することが必要である。当該判断を誤ると、本件のように控訴審まで争ってなお、当事者の求める結果が得られないことがあり、特許庁へ問い合わせるなど、慎重の上に慎重を期す必要がある。

https://www.ip-bengoshi.com/hanrei/20121217.html
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第三条  第二条の規定による改正後の特許法(以下「新特許法」という。)第十七条の二、第十七条の三、第三十六条の二、第四十一条、第四十四条、第四十六条の二、第四十九条から第五十条の二まで、第五十三条、第百五十九条及び第百六十三条の規定は、この法律の施行後にする特許出願について適用し、この法律の施行前にした特許出願については、なお従前の例による。

(文責)弁護士 宅間仁志