平成23年(ワ)第32488号、平成23年(ワ)第32489号(東京地裁H25・1・31)

【判旨】
「発光ダイオード」という名称の発明について本件特許権(特許第4530094号)を有する原告が,台湾の企業であるエバーライト社が製造するLEDパッケージについて原告の特許権に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,そのLEDパッケージの輸入,譲渡等の差止め及び廃棄を求めたが、被告がこれらの行為を行ったとは認められず、行う蓋然性も認められないとして、請求が棄却された事例。

【キーワード】
 発光ダイオード、特許法2条3項1号


【事案の概要】
 本件は,発光ダイオードに関する特許権 を有する原告が,台湾の企業が製造し,被告が輸入し,譲渡等をしているLEDパッケージについて,原告の特許権に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,そのLEDパッケージの輸入,譲渡等の差止め及び廃棄,民法709条に基づく損害賠償金100万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

【前提となる事実】
 (4) 台湾の会社である億光電子工業股□有限公司(Everlight Electronics Co., Ltd.。以下「エバーライト社」という。)は,別紙物件目録記載1及び2の製品(以下,それぞれ「本件製品1」,「本件製品2」といい,併せて「本件各製品」という。)を製造している(第32488号事件甲4,18,乙12,第32489号事件甲4)。

【争点】
 被告が本件各製品の輸入,譲渡及び譲渡の申出をしているか否か(本稿に関係するもののみ。)。

【判旨抜粋】
1 争点1(被告が本件各製品の輸入,譲渡及び譲渡の申出をしているか否か)について
 (中略)
 (2) 被告が被告のウェブサイトにおいて本件各製品の譲渡の申出をしているか否かについて,検討する。
 ア 証拠(第32488号事件甲3の1ないし3,6の3,8,10,11の1ないし7,18,25,乙7,第32489号事件甲3の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (ア) 被告は,FAシステム事業,半導体デバイス事業,情報通信事業,施設事業,ソリューション事業及び海外事業の六つの事業を展開する技術商社であり,半導体製品については,複数の仕入先メーカーからこれを仕入れて顧客に販売するとともに,独自の製品開発も行っている。
 (イ) 被告のウェブサイトのトップページ(http://以下省略)にある,「製品情報」のボタンをクリックすると,製品情報のページ(http://以下省略)に移動し,このページには,「技術商社ならではの,豊富で最適なProduct」との見出しとともに,「豊富な情報と知識,さらにメーカーとのネットワークを活かし,付加価値の高い製品とシステムの提供,またユーザーオリエンテッドのサポート体制を整えており,オリジナル製品の開発も行っています。」との記載があり,さらに「取り扱い製品」として,「FA(Factory Automation)」,「情報通信」,「施設」,「海外」との項目とともに「半導体デバイス」の項目があり,その項目の下には「取り扱いメーカー」との記載がある。この「半導体デバイス」の部分をクリックすると,半導体デバイスのページ(http://以下省略)に移動し,このページには,「規格品からユーザー仕様まで,ニーズに合わせた半導体やデバイス製品を豊富な製品ラインアップから提供いたします。またASIC開発などで培った技術力で,オリジナルICなどの半導体製品を開発しています。」との記載があり,「取り扱いメーカー」として「半導体」にはエバーライト社を含む15社の社名が記載され,「デバイス」には14社の社名が記載されている。そして,上記「半導体」に記載された15社の社名のうち「エバーライト・エレクトロニクス社」の部分をクリックすると,「半導体製品一覧」との表題のあるページ(http://以下省略)に移動し,このページには,上記15社のロゴ,社名,ウェブサイトへのリンク及び紹介文が掲載され,このうちエバーライト社については,同社のウェブサイトのトップページ(http://以下省略)へのリンクとともに紹介文として,「照明・車載,LEDバックライト,電飾看板等,省エネ・ECOに貢献して今後も伸び続けるLED市場。エバーライト・エレクトロニクスは,世界でもトップクラスの生産能力と豊富なLED製品群で,発展する市場の様々なニーズにお応えします。」と記載されている。
 (ウ) 過去には,被告ウェブサイト内に,上記各ページとほぼ同じ内容のページのほか,エバーライト社についてのページ(http://以下省略。なお,平成19年7月の時点においては,URLが異なっていた。)が存在し,このページには,同社のロゴ,社名及びウェブサイトのトップページ(http://以下省略)へのリンクとともに,「台湾ナンバーワンのLEDパッケージメーカ」と記載され,これに続き,製品案内として,「アプリケーション」に「屋内外サインボード」,「各種信号灯」,「車載関連(インテリア・エクステリア)」,「携帯端末バックライト」,「DVD/STB/TV」との記載,「製品」に「砲弾型LED全般」,「面実装タイプ LED全般」,「IrDA」,「フォトカプラ」,「フォトリンク」との記載があり,さらに,「お問い合わせ」として「このメーカーに関するお問い合わせはこちらより承っております。」との記載があった(なお,平成19年7月及び平成20年2月の時点においても,具体的な記載は異なるものの,同趣旨の記載があった。)。
 (エ) エバーライト社のウェブサイトのトップページ(http://以下省略)には,「Products」とのボタンがあり,これをクリックすると「Products」のページに移動し,ここには,「Visible LED Components」,「Lighting Solutions」,「Infrared LED,Sensors,Couplers」,「LED Digital Displays」との項目がある。この中の「Visible LED Components」をクリックすると,「Visible LED Components」のページに移動し,ここには,「Low-Mid Power LED」,「High Power LED」,「LED Lamps」,「Super Flux LEDs」,「SMD LEDs」,「Flash LEDs」との項目がある。この中の「Low-Mid Power LED」をクリックすると「Low-Mid Power LED」のページに移動し,ここには,「5050(0.2w)」のほか,4種類のパッケージについての項目がある。この中の「5050(0.2w)」をクリックすると,「5050(0.2w)」のページに移動し,ここには,
「Product」として,本件製品1に該当する製品番号を含む九つの製品が記載され,「Datasheet」の欄の下にあるPDFファイルのアイコンをクリックすると,その製品に対応するデータシートがPDF形式で表示される。
イ 上記アの認定事実によれば,被告は,技術商社であって,仕入先メーカーから仕入れた各種半導体製品を顧客に販売しているところ,エバーライト社は,10社を超える被告の半導体製品の仕入先メーカーの一つであること被告ウェブサイトには,半導体デバイスのページに半導体の取扱いメーカーの一つとして,エバーライト社についての記載があり,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクやエバーライト社がLED製品を取り扱っている旨の記載があるが,具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がないこと,エバーライト社のウェブサイトのトップページへのリンクをクリックすると,同社のトップページに移動するが,このページには具体的なLED製品の記載はないこと,このページからさらに具体的な製品が掲載されたページにたどり着くためには,複数回リンクをたどる必要があり,例えば,本件製品1に関する情報が掲載されたページにたどり着くためには,トップページの「Products」のボタン,「Visible LED Components」の項目,「Low-Mid Power LED」の項目,「5050(0.2w)」の項目を順次たどる必要があることが認められ,これらの事情に鑑みると,被告ウェブサイトの記載をもって,被告が本件各製品について譲渡の申出をしていると認めることはできない。
 なお,過去には,被告ウェブサイト内にエバーライト社についてのページが存在し,このページにおいて,製品案内として,「アプリケーション」に「屋内外サインボード」,「各種信号灯」,「車載関連(インテリア・エクステリア)」,「携帯端末バックライト」,「DVD/STB/TV」との記載,「製品」に「砲弾型LED全般」,「面実装タイプ LED全般」,「IrDA」,「フォトカプラ」,「フォトリンク」との記載があったが,さらに具体的にどのLED製品を取り扱っているかについては記載がなく,結局,具体的な個別のLED製品を知るには,エバーライト社のウェブサイトによらなければならないのであって,過去の被告ウェブサイト内に,現在のページとほぼ同じ内容のページのほか,上記のエバーライト社についてのページが存在していたとしても,これをもって,被告が本件各製品について譲渡の申出をしていたと認めることはできない。
 (3) 以上によれば,被告が過去に本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をしたり,現在これらの行為をしているとは認められないし,被告が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をする蓋然性があることをうかがわせるような証拠もないから,被告が本件各製品の輸入,譲渡又は譲渡の申出をするおそれがあることも認められない。
 2 そうであるから,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
 
【解説】
 本件は、原告が、被告に対して、発光ダイオードに係る特許権に基づいて、輸入,譲渡等の差止め及び廃棄を求めたが、これが認められなかった事案である。
 裁判所は、本件において、被告らのHP上の記載を上記のように詳細に認定(エバーライト社のHP上において、本件製品に至るリンクの関係についても極めて詳細に認定している。)し、その上で、当該記載からは被告の実施は認められないと認定したものである。
 一般的に、実務上、特許権の侵害に関して、実施主体を特定することが極めて難しい場合があり、そういった場合にはHP等の記載も参考にして実施主体を特定することになる。しかしながら、HPの記載のみでは、実施主体であるとすることは困難であり、多数の間接的な事情を積み上げる必要がある。
 なお本件は、現在上告受理申立て中のようであり、確定していないようである。


 本件特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。      
  特許番号   第4530094号      
  出願日     平成21年3月18日      
  登録日     平成22年6月18日      
  発明の名称  発光ダイオード

以上

(文責)弁護士 宅間仁志

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