平成25年10月16日判決(知財高裁 平成24年(行ケ)第10405号)
【判旨】
本件拒絶理由通知においては進歩性を欠如するとの拒絶理由が通知されていたものの,補正前発明1とは異なり,引用発明と差異はないから新規性を欠如するとの拒絶理由が通知されたとは認められず、審決には取り消すべき違法がある。
【キーワード】
 特許法159条1項、特許法50条、拒絶理由通知の不備


【事案の概要】
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
 原告は、発明の名称を「殺菌消毒液の製造方法」とする発明について、平成17年7月28日に特許出願(特願2005-218755号。以下「本願」という。)をしたが、平成21年8月26日付けで拒絶査定を受けたので、同年11月11日、これに対する不服の審判を請求し、特許庁は、この審判を、不服2009-21966号事件として審理した。
 この審理において、特許庁は、平成24年7月18日付けで拒絶理由通知(最後)を行い(以下「本件拒絶理由通知」という。)、原告は、同年8月27日付けで、本願の特許請求の範囲について、請求項の数を2から1へ減少させるなどの手続補正を行った(以下「本件補正」という。)ところ、特許庁は、同年10月9日、本件補正後の本願について、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、審決の謄本を、同月23日、原告に送達した。

【審決の理由】
 別紙審決書写しのとおりであるが、要するに、本願発明は、本願出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/098657号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と、以下の点で一致し、相違点を有しないから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないというものである。
「次亜塩素酸ナトリウムの水溶液に、炭酸ガスを混入した後に、塩酸の水溶液を溶解してpH調整を行うようにした希釈用濃縮殺菌消毒液の製造方法」。

【争点】
 本願発明が刊行物1に記載された発明であり新規性を欠くとの拒絶理由は原告に通知されていないから、審決には、特許法159条2項の準用する同法50条に反する違法があるか否か(本評釈に関連する部分のみ。)。

【判旨抜粋】
2 取消事由4について
(1) 原告は、本願発明が刊行物1に記載された発明であり新規性を欠くとの拒絶理由は原告に通知されていないから、審決には、特許法159条2項の準用する同法50条に反する違法があると主張する。
(中略)
(2) ・・・本願についての手続の経過に照らすと、本願発明が引用発明と一致し相違点を有しないから新規性を欠如するとの拒絶理由は、拒絶査定において示されていないから、特許法159条2項の「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たる。そして、上記(1)オの本件補正の内容に照らすと、本願発明は、実質的には補正前発明2に当たるところ、補正前発明2については、本件拒絶理由通知においては進歩性を欠如するとの拒絶理由が通知されていたものの、補正前発明1とは異なり、引用発明と差異はないから新規性を欠如するとの拒絶理由が通知されたとは認められない。
 この点、・・・引用発明と同一であるとの拒絶理由が、実質的には通知されていたと評価する余地もないわけではない。
 しかしながら、本件拒絶理由通知は、あえて補正前発明1についてのみ、引用発明と差異がないとの拒絶理由を通知し、補正前発明2については、相違点4等が存在することを理由に、進歩性を欠くとの拒絶理由のみを通知したにすぎないから、出願人である原告において、本件拒絶理由通知によって、補正前発明2のうち炭酸源として炭酸ガスを選択する態様については引用発明と同一であるとの拒絶理由が示されていることを認識することは困難であったと考えられる。
 そうすると、審決は、かかる拒絶の理由を通知することなく行った点で、特許法159条1項の準用する同法50条の規定に違反したものであるといわざるを得ず、出願人の防御権を保障し、手続の適正を確保するという観点からすれば、かかる手続違背は、審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。(以下略。下線は筆者による。)

【解説】
 本件では、特許庁が行った拒絶査定に係る拒絶理由通知において、新規性欠如という拒絶理由が示されておらず、特許法159条2項の準用する特許法50条に違反していると判断されたものである。
 特許庁は、補正前発明1については引用発明との差異がないとの拒絶理由通知を通知し、補正前発明2については進歩性を欠くとの拒絶理由のみを通知していた。特許庁は、補正前発明1のうち、当該発明の態様を限定したものが補正前発明2であり、当該態様については引用発明と同一であって実質的には通知されていたと主張したものであるが、裁判所は当該主張について、原告が当該通知を認識することは困難であったと判断した。
 実務的には特許出願について拒絶査定がなされた場合には、技術的な内容も十分に検討する必要があるが、本件のように、拒絶理由通知の不備によって、審決が取り消されている例もあり、拒絶理由通知等の手続上の不備に関しても慎重に検討する必要がある。

(文責)弁護士 宅間仁志