【平成30年(行ケ)第10175号(知財高裁H29・7・19)】

【判旨】
 原告が、本件商標につき商標登録取消審判を不成立とした審決(取消2016-300405号事件)の取消訴訟を提起したものであり、当該訴訟の請求は棄却されたものである。
【キーワード】
資格の学校,商標法第50条,不使用取消審判

手続の概要

 原告は,平成28年6月10日,特許庁に対し,商標法50条1項の規定に基づく本件商標の商標登録の取消しを求める審判を請求し,当該請求は同月27日に登録された。
 特許庁は,これを取消2016-300405号事件として審理し,平成29年8月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする別紙審決書(写し)記載の審決をし(以下「本件審決」という。),その謄本は,同月24日,原告に送達された。
 原告は,平成29年9月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【本件商標】
登録商標:
登録出願:平成13年4月18日
設定登録:平成14年11月22日
指定商品:第9類「電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む),その他の電子応用機械器具,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」
指定役務:第35類「広告,トレ-ディングスタンプの発行,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,書類の複製,速記,筆耕,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワ-ドプロセツサの貸与」
第38類「移動体電話による通信,テレックスによる通信,電子計算機端末による通信,電報による通信,電話による通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し,テレビジョン放送,有線テレビジョン放送,ラジオ放送,報道をする者に対するニュ-スの供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」
第42類「求人情報の提供」

争点

争点は,商標法第50条所定の使用の有無である。

判旨抜粋(証拠番号等は適宜省略する。)

1 認定事実
⑴ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 訴外会社の業務内容等
 被告は,昭和55年12月に設立された,国家試験その他資格試験等の教育などを目的とする株式会社である。
 訴外会社は,平成13年5月に,被告が全ての議決権を有する子会社として設立された株式会社であり,職業紹介事業,労働者派遣事業,求人広告サイト運営,求人情報誌の発行,就職支援イベント運営などを営んでいる。また,訴外会社の代表取締役(2名)は,被告の取締役副社長及び被告の取締役であり,他の役員(取締役1名,監査役1名)は,被告の代表取締役社長及び被告の監査役である。被告は,人材紹介等の人材事業を本格的に立ち上げるために,訴外会社を設立したものであり,同社を設立後,従来被告本体で行っていた人材事業を全面的に同社に移管した。
イ 会計業界合同就職説明会の開催
 訴外会社は,平成27年12月18日から同月20日にかけて,東京,名古屋及び大阪において各1日ずつ,税理士試験合格者等を対象とする,会計業界合同就職説明会(以下「本件就職説明会」という。)を開催した。
ウ 本件冊子の発行
 訴外会社は,平成27年11月25日頃,本件冊子を発行した。本件冊子には,本件就職説明会の開催日時,会場,参加方法等が記載されているほか,「求人情報」として,合計60の税理士法人,公認会計士事務所等について,「社名,勤務地,本件就職説明会参加の有無,TACキャリアナビ(訴外会社が運営する求人情報サイト)掲載の有無,雇用区分,実務経験の要否,応募資格」等が記載された「インデックス」,上記税理士法人等の募集要項の詳細等が掲載されている。
 また,本件冊子は,税理士試験の合格者,科目合格者及び学習者,日商簿記試験の合格者,学習者等を読者対象とするものであり,全国の被告校舎に積み置く,TAC税理士通信講座の受講生に送付する,TAC税理士講座ガイダンスにて配布するなどの方法で,上記読者対象に配布された。
 本件冊子の表紙の右側下部には,赤字で「資格の学校」の標章が付されている(以下「本件使用標章」という。)。
(中略)
2 取消事由(商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り)について
⑴ 本件商標の通常使用権者
ア 前記1⑴のとおり,①訴外会社は,被告が全ての議決権を有する子会社であり,被告の代表取締役社長,取締役副社長等の役員が訴外会社の役員を兼務していること,②被告は,人材紹介等の人材事業を本格的に立ち上げるために,訴外会社を設立したものであり,同社を設立後,従来被告本体で行っていた人材事業を全面的に同社に移管し,訴外会社は,職業紹介事業,労働者派遣事業,求人広告サイト運営,求人情報誌の発行,就職支援イベント運営などを営んでいること,③訴外会社は,平成27年11月25日頃,本件就職説明会の開催日時や,税理士法人,公認会計士事務所等の求人情報が掲載された本件冊子を発行し,その表紙に本件使用標章が付されていることが認められる。また,被告は,本件審判において,特許庁に対し,被告は訴外会社の設立以来,本件商標の全ての指定商品及び指定役務について,使用地域を日本国内,使用期間を本件商標の有効期間中,使用内容を「本件商標を付した商品又は役務の製造,販売,輸出,提供等」として使用を許諾していた旨報告している。
 これらの事実関係によれば,被告は,本件冊子が発行される前に,訴外会社に対し,指定役務「求人情報の提供」について,本件商標の通常使用権を,少なくとも黙示に許諾していたものと認められる。
イ 原告の主張について
 原告は,本件覚書は,被告が訴外会社への本件商標の使用許諾の事実がないにもかかわらず,これがあったかのようにして作成されたものであり,本件覚書を根拠として,同社が本件商標の通常使用権者であると認定した本件審決は誤りである旨主張する。
(中略)
 しかし,前記1⑴に認定した訴外会社の設立経緯,業務内容,被告との資本関係及び人的関係等に照らすと,被告が訴外会社に対して指定役務「求人情報の提供」について本件商標の通常使用権を許諾することは,不自然ではない。また,上記のような関係にある親会社から子会社に対して商標の使用を許諾する場合にも,常に何らかの書面が作成されるとまではいえないし,訴外会社に本件商標の使用を許諾することが,被告にとって「重要な財産の処分」(会社法362条4項1号)に当たり,取締役会の決議を要するものであることを認めるに足りる証拠はない。さらに,本件覚書の内容と甲22の報告内容とは,細部において整合しない点はあるものの,本件商標を「求人情報の提供」の目的で使用することを許諾するという点では,一致している。
 したがって,原告の主張する事情を考慮しても,本件覚書が,被告が訴外会社への本件商標の使用許諾の事実がないにもかかわらず,これがあったかのようにして作成されたものであるとまでは認められず,前記アのとおり,被告は訴外会社に対して本件商標の通常使用権を少なくとも黙示に許諾していたものと認めるのが相当である。
(中略)
⑵ 本件冊子における本件商標の使用の有無
ア 本件冊子の表紙には,赤字で「資格の学校」の標章(本件使用標章)が付されている。そして,本件使用標章は,本件商標と同様,赤字でゴシック体風に表されている「資格の学校」の文字からなり,各文字が等間隔で並んでおり,「シカクノガッコウ」という称呼を生じ,「資格の学校」という観念を生じるものであることから,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。
イ 原告の主張について
 原告は,本件冊子に付されている標章は「資格の学校/TAC」であり,本件商標とは構成される文字,称呼,観念及び外観が異なるものである,そのうちの「資格の学校」の部分だけを取り出して本件商標と比較するべきではなく,本件商標と社会通念上同一とは認められない旨主張する。
(中略)
 一方,本件冊子に付されている「資格の学校」の部分と「TAC」の部分とは,文字の大きさが異なる上,上下に分かれており,両者の間には間隔が設けられているものであって,両者は,必ずしも不可分一体の構成をなすものとまではいえない。
したがって,本件冊子には,「資格の学校/TAC」という標章のみならず,「資格の学校」の標章及び「TAC」の標章も付されているというべきである。原告の主張する事情を考慮しても,本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているとの認定が左右されるものではなく,原告の主張は採用できない。
(中略)
⑷ 小括
 以上によれば,本件商標の通常使用権者である訴外会社は,要証期間内に,日本国内において,本件商標の指定役務である「求人情報の提供」に係る本件冊子に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して頒布したものであり,かかる行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(商標法2条3項4号)に該当するものと認められる。

解説

 本件は、商標登録取消審判1を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第50条における「使用」が商標権者等によってなされたのかが問題となった。
 本件において,原告は,被告の100%子会社である訴外会社が本件冊子を配布した行為は,被告から通常使用権の許諾を得ずに行ったものであるとの主張や,引用したように,本件商標「資格の学校」と,本件冊子に付された「資格の学校/TAC」との標章が異なる旨主張した。
 しかし,裁判所は,前者については,被告が許諾があったと主張する根拠となる覚書に疑義があるものの,少なくとも黙示での許諾を認め,後者については,資格の学校及びTACとの標章が,不可分一体の構成をなすものとまでは言えず,「本件冊子には,『資格の学校/TAC』という標章のみならず,『資格の学校』の標章及び『TAC』の標章も付されているというべきである」と判断して,原告の主張を排斥した。
 実務上は,使用許諾の有無について,疑義を招かないように,100%子会社が相手方であったとしても,使用許諾契約書等の書式を,きちんと整えておく必要がある。この点で,本件は参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志

1(商標登録の取消しの審判)
第五十条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。