【平成30年2月27日判決(東京地裁平成28年(ワ)10736号】
【判旨】
洋傘の製造及び販売を業とする原告が、洋傘の卸売等を業とする被告に対し、原告の販売する折り畳み傘の形態が商品等表示に当たり、被告による被告各商品の輸入、譲渡等の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たると主張して、被告各商品の輸入、譲渡等の差止め及び被告各商品の廃棄並びに損害賠償を求めた事案。裁判所は,原告商品形態について、特別顕著性及び周知性が認められるから、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると認められるとした上で、原告商品形態と被告各商品の形態(被告商品形態)はほぼ全部において同一であるといえ、被告商品形態は、原告商品と出所の混同を生じさせるものであると認められるなどとして、差止め及び廃棄に係る各請求を認容するとともに、損害賠償請求を一部認容した。
【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号,商品等表示,特別顕著性,周知性
1 事案の概要
原告は,洋傘の製造及び販売を業とする株式会社であり,平成16年11月頃から,「ポケフラット」,「ポケフラシャトル」との商品名の折り畳み傘(以下「原告商品」と総称し,個別の商品は商品名に従い,「ポケフラット」などという。)の販売を開始した。ポケフラットは,折り畳んで包袋に入れた状態において,次の①~③の形態(ただし,①における本体部分の横幅は約6.0~6.5cm)を有している。ポケフラシャトルの形態は,折り畳んで包袋に入れた状態において,次の①~③の形態(ただし,①における本体部分の横幅は約4.5~5.0cm)を有している(以下,①~③の形態を「原告商品形態」という。)。
【原告商品形態】
① 本体部分は,全長が約22~24cm,横幅が約4.5~5.0cm又は約6.0~6.5cm,厚さが約2.5cmの薄く扁平な板のような形状をしている。
② 本体部分の板の面は,傘布のふくらみによりやや弧を描いて丸みを帯びている。
③ 柄の部分は,薄く扁平な板の長手方向の一端を構成し,本体部分の横幅及び厚さを超えない幅の扁平な形状をしている。
被告は,洋傘の卸売等を業とする株式会社であり,平成27年初め頃から,被告商品の輸入及び販売を開始した。被告商品の形態(以下「被告商品形態」という。)は,原告商品形態と比較すると,上記①について全長(最長部分)が約24cm,横幅(最大部分)が6.5cmとやや寸法が異なるものの,②③を含むその他の形態的特徴は同一であった。
2 本件の争点
本件の争点は,下記のとおりである。本稿では,⑴の商品等該当性(特に,特別顕著性)の有無を中心に検討する。
【争点】
⑴ 原告商品形態についての周知の商品等表示該当性の有無
⑵ 原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同の有無
⑶ 原告の損害額
3 裁判所の判断
まず,裁判所は,商品形態の営業表示該当性について,従来の裁判例の判断基準を踏襲し,①特別顕著性,②周知性,の2要件によるとの判断基準を示した。
※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)
⑵ 不正競争防止法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。 商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。 |
次に,裁判所は,原告商品の販売実績,原告商品の取扱店舗,原告の広告活動(新聞,雑誌,テレビ,ウェブサイト等),新聞・雑誌・テレビ番組等による取材,消費者の感想(口コミ,ブログ等),受賞歴等について,各証拠から事実を認定した上で,以下のとおり,原告商品形態は,薄く扁平な板のような,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有すると認定した。
一般的な折り畳み傘は,折り畳んで包袋に入れた状態において円筒形の形態をしているのに対し,原告商品の形態は,折り畳んで包袋に入れた状態において,原告商品形態を有しているところ,当該形態によって,原告商品は,全体的に薄く扁平な板のような形状を有することが認められ,円筒形でないだけでなく,それが全体的に薄く,扁平な板のような形状である点で,一般的な折り畳み傘の形状とは明らかに異なる特徴を有しているといえる。 |
これに対し,被告は,原告商品の販売開始時以前に同様の商品形態の折り畳み傘が存在したことや,扁平な骨組みを有する折り畳み傘の実用新案登録が公開されていたこと等を根拠に,原告商品形態がありふれた形態であるとの主張を行ったが,下記のとおり,証拠不足等を理由に当該主張は採用されなかった。
しかし,原告商品が販売される前から,一定の形状の折り畳み傘の骨組みが存在し,また,骨組みの形状に関する実用新案登録等がされていたとしても,それは骨組みに関するものであって,それを利用した折り畳み傘の形態は不明であり,折り畳み傘の形態としての原告商品形態の特別顕著性の有無を直ちに左右するものとはいえない。また,被告が指摘する商品(乙5,7,18~21)には,折り畳んで包袋に入れた状態が円筒形ではなく,直方体に似た形状を有するものもある。しかし,被告が指摘する商品はいずれも販売数量及び売上高は明らかになっておらず,市場において広く流通している商品であると認めるに足りる証拠はないこと,乙第5号証及び乙第7号証の商品は既に販売が終了していること(乙6,8,41)などからすると,上記各商品によって,原告商品形態がありふれており,他の商品と識別し得る特徴を有しないとはいえない。 |
裁判所は,特別顕著性の認定で用いた事実関係を基に,下記のとおり周知性についても認定し,原告商品形態は不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると結論付けた。
上記⑶のとおり,薄く扁平な板のような形状という特徴がある原告商品形態を有する原告商品が,上記のような極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,購入者を含む需要者の目に触れてきたこと,その結果,インターネット上の商品販売サイト等において消費者から原告商品を紹介する書き込みが多数され,かかる書き込みの多くで原告商品形態の特徴が強調されていること(上記⑴オ)からすると,原告商品形態は,遅くとも平成27年初め頃の時点において,原告の出所を示すものとして需要者に広く認識されたと認めることができる。 ⑸ 小活 |
そして,被告商品形態は,前述のとおり全長の寸法の微差を除き原告商品形態とほぼ同一であることから,類似性及び混同の有無についても肯定され,被告による被告商品の輸入及び販売行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとされた。
4 検討
商品形態が商品等表示として保護されるためには,当該商品形態が独創的なものであること(特別顕著性)に加え,商品形態についての周知性まで要求されるため,一般的にそのそのハードルは高いと考えられるが,本件は,そのような立証の高いハードルを越えて,商品形態の商品等表示該当性が認められた事例として参考になると思われる。
特に,本件の事実認定では,原告が「薄く扁平な板のような形状」という商品形態をアピールする形で広告活動を行ってきたことや,消費者も原告の商品について,鞄や衣服のポケットに入れやすいなどとの表現で「薄い」との認識を持っていたことが認定されている点が注目に値する(下記参照)。
(ア) 原告は,平成17年から平成21年にかけて,一般の書店で販売される雑誌,会員情報誌,新聞(日本流通新聞,毎日新聞)等の媒体において,原告商品の広告を多数掲載し,同広告には原告商品が原告商品形態が判別し得る形で掲載された。これらの広告には,いずれも,原告商品の側面(厚さ2.5cm)を正面に向けて上下を両手で挟むようにして撮影した写真や原告商品を上着の胸ポケットに入れて撮影した写真等,原告商品が薄いことを強調する写真や原告商品が薄いことを強調した文章が掲載された。(甲14の1~26・28~30・33) ・・・(中略)・・・ エ 新聞,雑誌,テレビ番組等による取材 オ 消費者の感想 |
上記のとおり,商品形態を営業等表示として保護することができれば,有効期間のある特許権や意匠権などと異なり,半永久的に商品形態を模倣から保護することが可能となる。そのためには,単に商品をたくさん売るだけでなく,商品の形態的な特徴を上手くアピールし,消費者にそうした特徴を認識させるためのPR戦略が重要になると考えられる。
以 上
(文責)弁護士・弁理士 丸山 真幸