【大阪地方裁判所平成30年10月18日(平成28年(ワ)第6539号)】

【キーワード】
美術の著作物、応用美術、美術工芸品

【判旨】
 原告傘立てのデザインは、よく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえないから、原告傘立てについて、美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。

第1.事案の概要

 本件は、家庭日用品の企画、製造、販売等を目的とする株式会社である原告が、雑貨品等の輸入、販売等を目的とする株式会社である被告に対し、不法行為(原告傘立てに係る著作権侵害等)に基づく損害金等の支払を求める事案です。その理由は、被告が、原告が商品化した以下の2種類の傘立て(以下そのうちの1種類を「原告傘立て1」、もう1種類を「原告傘立て2」といい、両者を総称して「原告傘立て」といいます。)の形態を模倣した傘立て(以下「被告傘立て」といいます。)を販売等する行為が、原告傘立てに係る著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)を侵害等するというものです。
 なお、本件では、原告傘立てについて、不正競争防止法に関する請求や、一般不法行為に関する請求もされていますが、割愛します。また、原告は、被告が販売していたごみ箱に関しても差止請求や損害金の請求等を行っていますが、同じく割愛します(本件では、結論として、ごみ箱に関する原告の差止請求及び損害賠償請求等の一部を認めています。)。
 上記のとおり、以下では、本件の争点のうち、本件傘立て1の著作物性の有無についてとりあげます。

原告傘立て1 被告傘立て

(裁判所のHPより引用)

原告傘立て2 被告傘立て

(裁判所のHPより引用)

第2.判旨

1.論点
(1)原告の主張
 原告は、原告傘立て1について、次のように主張しました。
 「原告傘立て1のようないわゆる応用美術につき、他の表現物と同様に、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性を認めても、一般社会における利用、流通に関し、実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは、考え難い。したがって、原告傘立て1も、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性が認められる。」

(2)被告の主張
 これに対し、被告は、次のように反論しました。
 「原告傘立て1のような応用美術については、実用面及び機能面を離れてそれ自体完結した美術品として専ら美的鑑賞の対象とされるような、純粋美術と同視し得る創作性を有するものに限って、美術の著作物として保護される。しかし、規則的な格子状で無地のタイルは、タイルとして一般的なものであるところ、そのようなタイルが貼付された様な原告傘立て1のデザインも、平凡でありふれており、原告傘立て1が傘立てとしてではなく鑑賞の対象となるものではないから、著作物性を有しない。」

2.判旨
 「有底略角柱状の容器である原告傘立て1の基本的形状…は、傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また、原告は、原告傘立て1の側壁のデザインが鑑賞の対象であると主張するが、そこではタイルが壁面に格子状に貼付された様になっている…にすぎず、これは壁状のものによく見られる形状であって、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。したがって、原告傘立て1について、美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。」

第3.説明

1.美術の著作物
(1)著作権法の規定
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定され(著作権法2条1項1号。以下単に法といいます。)、その例示として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」が挙げられています(法10条1項4号)。そして、「美術の著作物」には、「美術工芸品を含むものとする」と規定されています(法2条2項)。
 著作権法は、美術工芸品について定義規定を置いていませんが、立法者は、実用品自体であるものについては、意匠法との棲み分けを明確にしようとするため、一品制作品に限定しようとしたと言われています1

(2)応用美術
 絵画や彫刻のように、専ら美的鑑賞を目的として創作される作品は、一般に純粋美術と呼ばれます。純粋美術が美術の著作物として保護されることに異論はありません。
 他方、実用に供する物品に応用される美的な表現物は、一般に、応用美術と呼ばれます。応用美術には、壺や壁掛けなどの一品制作の美術工芸品と、机・椅子、電化製品、自動車など、量産される物品のデザインとが含まれます。このうち、美術工芸品については、上述のとおり、著作物として保護されます(法2条2項)。しかし、量産される物品のデザインについては、著作権法上、特段の規定がないため、著作物として保護されるかどうかは定かではありません2
 本件の傘立ては、正に、上記の「量産される物品」であり、著作権法上は、必ずしも著作物として保護されるかどうかが明らかではないものでした。

2.本判決の内容等
 本判決は、原告傘立てのように、実用に供されるためにデザインされた工業製品が著作物として保護されるための要件について、次のように述べました。
「著作権法2条2項は美術工業品が美術の著作物として保護されることを明記したにすぎず、それ以外の実用的機能を有する美的創作物を一切保護の対象外とする趣旨とは解されないものの、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地からすれば、それに著作物性が認められるためには、その実用的な機能を離れて見た場合に、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていることを要すると解するのが相当である。」
 そして、本判決は、原告傘立て1について、上記保護要件の有無につき検討し、上記のとおり、原告傘立て1の著作物性を否定しました(なお、原告傘立て2についても、同様の理由から著作物性が否定されています。)。

3.本判決の説明等
 本判決が示した考えは、応用美術が著作物として保護されるためには、表現に創作性が認められるだけでは足りず、純粋美術と同視しうる程度の美的鑑賞性を備えていることが必要であるとする見解です。現在の裁判実務では、このような見解が多勢を占めると言われています3
 もっとも、一般に、量産品のデザインは、表現に創作性があるとしても、純粋美術と同視しうるような美的鑑賞性までは有しないものが多いため、上記の見解に従えば、その多くは著作物性が否定されることになります。このため、実務的な観点からは、量産品のデザインの保護を著作権法のみに頼ることは、賢明とはいえません。他人による自社製品の形態模倣については、意匠法や不正競争防止による保護(不正競争防止法2条1項3号4。ただし、販売日から3年以内という期間制限があります。同法19条1項5号イ)を検討する必要があるといえます。

以上
(文責)弁護士 永島太郎


1 中山信弘「著作権法」140頁。もっとも、裁判例では、量産品であっても著作物性を認めた例が多く、現在では一品制作品に限るとする学説も少ないと言われています。
2 島並良等「著作権法入門第2版」40頁
3 島並良等「著作権法入門第2版」40~41頁
4 「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」