【平成30年11月5日判決(大阪地裁 平成29年(ワ)第6906号)】
【キーワード】
商標的使用,非商標的使用,商標法26条1項6号,周知な商標,デザイン,出所識別機能,コラボレーション商品,キャラクター
・事案
シリーズもののアニメ映画に登場する,主人公ではないものの人気を博した複数のキャラクターのキャラクターグッズ(下記の被告商品目録抜粋参照)を,被告は,その運営するテーマパークの公式グッズとして,平成26年11月から当該テーマパークで販売し始めた。
なお,当該キャラクターは人気を博し,平成27年以降,当該キャラクターを主人公とするスピンオフ作品のアニメ映画シリーズも公開された。また,当該スピンオフ作品のシリーズ公開の約3か月前の平成29年4月に,被告は,当該キャラクターをテーマとするエリアもテーマパークに開設した。
他方,原告は,平成20年に筆記体風の「Bello」から成り洋服等を指定商品とする商標権を取得し,平成22年には太ゴシック体の「BELLO」の文字から成り洋服等を指定商品とする商標権を取得し,これら2件の商標権(本件各商標権)を自社の服飾雑貨に付して販売してきた(下記の本件各商標権参照))。
そこで,原告は,被告が販売する当該キャラクターグッズのうち,BELLOの文字または飾り文字(被告各標章)が付されたTシャツ,腹巻付きの毛糸のパンツ,トランクス及び帽子等(被告各商品)の販売等が本件各商標権を侵害するとして差止め及び損害の賠償を請求して提訴した。
・大阪地裁の判断
大阪地裁は,以下のとおり,図柄や単語,フレーズが装飾的なデザインとして用いられた服飾品における,①当該図柄等の非商標的使用(商標法26条1項6号)該当性の考慮事由と,②権利者の権利者の商標が周知なものである場合には別異に取り扱う必要性及び③コラボレーション商品に関する検討を判示した。
そのうえで,結論としては,「被告各商品が販売されているいずれの局面においても,被告各標章が出所表示として機能していない」として,被告による被告各標章の使用は商標法26条1項6号に該当する(商標的使用ではない)と結論付け,類否については判断せずに原告の請求を棄却した。
・判旨抜粋
(※丸付数字,太字,下線及び墨括弧箇所は,筆者加筆による)
【服飾品のデザインと非商標的使用について】 【本件各商標が周知なものである場合について】 【コラボレーション商品の取扱いについて】 |
・被告商品目録抜粋(大阪地裁平成30年11月5日判決(平成29年(ワ)第6906号)より)
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本件各商標(特許情報プラットフォームJ Plat Patより)
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・検討
・1. 服飾品のデザインと非商標的使用について
・(1) 問題の所在
服飾品のデザインの一部として,他社の標章(商標)に似ているまたはそっくりなデザインが施されることがある。
このような場合,服飾品を市場にリリースする前に,当該デザイン部分(当 該標章)が需要者において当該服飾品の出所を混同させるおそれがないか,すなわち当該服飾品が自社のものではなく当該他社の商品と混同されて商標権侵害に該当する可能性がないかにつき検討・確認する必要がある。仮に,市場にリリースした後,商標権侵害に当たるとの疑義が生じると,当該他社から販売停止や廃棄を求められ得るからである。
・(2) 商標的使用・非商標的使用について
仮に商標登録されている商標が用いられていたとしても,商品・役務(サービス)の出所を誤認させるおそれがない使用態様なのであれば,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し,商標権侵害とはなり得ない。
もっとも,そのような場合であっても,当該商標がありふれたフォントの文字で構成されたものではなく,デザインされた文字(ロゴタイプ)または図柄で構成されるもの(ロゴマーク)であれば著作権侵害という論点も惹起されるので,非商標的使用であるからといって,他の知的財産権を侵害しないというわけではない。
・(3) 判旨検討
本判決は,下線①のとおり,他の商標権侵害における判断基準同様,使用態様や取引の実情などを踏まえて総合考慮して非商標的使用か否かを判断するという基準を提示したものの,判旨が示した「デザインとしての性質を有することを前提」にするという考慮事由は,どのようにして結論を左右したのであろうか。
たとえば,本件において,被告各商品に付されたキャラクターが需要者において人気である(下線②)がゆえにそのキャラクターグッズが欲しくて被告各商品を接するという特殊性があること(下線③),被告各商品は直営店舗で販売されておりテーマパークの公式グッズであるとわかること(下線④)などは,当該キャラクターがデザインとして用いられていることを前提にして導かれた取引の実情であると考えられる。
このようにして,判旨は,このキャラクターのグッズが欲しいという需要者は当該キャラクターに注目するからキャラクター以外のデザインにはさほど注目しないであろうという経験則を基に,直営店舗における当該キャラクターの表示でもって需要者は商品の出所を十分に識別できると判示したものと考えられる(下記④,⑤)。
しかも,人気のキャラクターであるがゆえに,本件各商標との同一・類似性が主張されている部分はキャラクターと一体的なデザインであって,その部分だけ抽出して出所表示として機能するものでもないと判断したともいえ(下線⑥,⑦),これもデザインとしての性質を前提にした判断と考えられる。
・2. 服飾品のデザインに周知な商標が用いられた場合
・(1) 判旨検討
本件では,仮に本件各商標が被告各商品の需要者においても周知だった場合には,別の結論となることも示された(下線⑧)。
本件各商標が周知であれば,それと同一または類似のデザイン部分(被告各標章)の表示に接した需要者の一部,すなわち本件各商標についても知っている被告各商品の需要者が被告各商品は原告の服飾品ではないかと出所を誤認するおそれが生じ得るから,至極,真っ当な取扱いといえる。
・(2) 本件各商標の周知性の認定について
判旨が本件各商標の周知性を検討するにあたり,原告の広告宣伝活動について,「原告が取り扱う商品の需要者層に対する訴求力」と「被告各商品の需要者」に対する訴求力とを区別して検討したこと(下線⑩)は,商標権侵害における商標の類否判断が,被告各商品の需要者において,本件各商標と同一または類似する標章が付された被告各商品の出所が原告であると誤認される可能性があるか否かという観点から検討されるべきものである ことに由来する。
なお,周知性の有無を認定するための証拠のひとつとして,検索エンジンにおける検索結果を取り上げたこと(上位にヒットするからといって直ちに周知性が認められるものではないこと)は,興味深く,今後の訴訟活動における参考になろう。たとえば,今後,検索エンジンごとに,または検索エンジンが同一でもブラウザごとに,検索結果が異なる場合にどのような訴訟活動が望ましいのであろうか 。
3. コラボレーション商品について
判旨が,コラボレーション商品であればコラボレートする相互または複数のすべてのブランドの需要者層に消費を呼びかけるべくコラボレーション商品である旨を明記するのが通常であるという経験則を示したこと(下線⑪)については,さらなる検討が必要であろう。
承諾なく他社の商標を服飾品のデザインの一部として付し,コラボレーション商品であるという説明もせずに当該商品が販売されてしまった場合(流用したのであればコラボレーション商品であるというのも虚偽所事実となるから,コラボレーション商品であることを明示しないことが通常であろう),当該他社は,その保有する標章が著名であれば格別,被疑侵害者側の需要者において知られていないときには,どのような主張ができるのであろうか。
本件においてはテーマパーク内の直営店舗で販売される公式キャラクターグッズという特殊な取引の実情があったゆえに,コラボレーション商品でればその旨が表示されて当然といえるものの,そのような事情がない場合にも,上記判旨が妥当するのか。今後の裁判例の動向に注目したい。
以上
(筆者)弁護士 阿久津匡美
髙部眞規子「実務 商標関係訴訟」49~55頁(2015年9月,きんざい)