【知財高裁平成30年8月23日(平成30年(ネ)第10023号)】

【本稿における要旨】
 報道機関である被控訴人(原告)による著作権及び著作者人格権の行使に関して,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきである。

【キーワード】
著作権,報道機関,独占禁止法

事案の概要

 本件は,本件映像の著作者及び著作権者である被控訴人(原告)が,控訴人(被告)が被控訴人(原告)の許諾なく本件各映像を使用して製作した本件映画につき,本件映画を上映する行為は本件各映像につき被控訴人(原告)が有する上映権(著作権法22条)を侵害する等として本件各映像を含む本件映画の上映差止め等を求めた事案である。

争点(他の争点もあるが,本稿は下記争点に絞る)

 報道機関である被控訴人(原告)による著作権及び著作者人格権の行使

判旨抜粋(下線は筆者が付した)

第1,第2 ・・・略・・・
第3 当裁判所の判断
1~3 ・・・略・・・
 (1)~(4) ・・・略・・・
 (5) 行為①ないし④の違法性について(争点8関係)
 控訴人は,被控訴人の行為①ないし④は,独占禁止法2条9項1号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,かつ,被控訴人の権利濫用として,控訴人に対する不法行為に該当するとして,この点に関する原判決の認定判断には誤りがあると主張する。しかしながら,被控訴人の行為①ないし④が,いずれも被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使にほかならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではないと解すべきことは,原判決が説示するとおりである。しかるところ,被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使をもって権利濫用とすべき根拠ないし事情が認められないことは,前記(4)のとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠く。
 なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきであるが,本件においては,そのような事情が存するものとまでは認められない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点8に関する控訴人の主張は理由がない。

※「行為①ないし④」
 原告は,被告の平成27年2月19日付け「映像使用許諾申請書」(甲8)による本件各映像の利用許諾申請に対して,同月23日,合理的理由を示すことなくこれを拒絶した(以下「行為①」という。)。
 原告は,被告の同年9月7日付け「映像使用許諾申請書」(乙5)による本件各映像の利用許諾申請に対して,同年10月13日,本件各映像の入手先の開示及び再度の謝罪を求め,被告がこれを拒否するや,利用許諾を拒絶した(以下「行為②」という。)。
 原告は,同年12月10日,本件各映像の利用許諾の条件として,再度の謝罪文の提出,今回のみの許諾,高額な使用料金の支払い,利用は本件映画の劇場上映に限るなど,著しく差別的かつ不当な条件を提示し,被告がこれを拒否するや,利用許諾を最終的に拒絶した(以下「行為③」という。)。
 原告は,平成28年4月4日,那覇地方裁判所に対し,被告を相手方とする本訴を提起した(以下「行為④」という。)。

解説

 本件は,報道機関である被控訴人(原告)による著作権及び著作者人格権の行使と独占禁止法の関係について言及したものである。
 この点,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではない(独占禁止法21条)。原審によれば,上記行為①ないし同④は,いずれも被控訴人(原告)による著作権及び著作者人格権の行使にあたるものであると考えられる。つまり,被告は,原告に対して映像の使用許諾を求める際,本件映画について「沖縄地上戦から現在までの沖縄の歴史,とりわけ沖縄米軍基地の存在による地域抑圧や性暴力の実態を,沖縄・アメリカの双方に取材してまとめた2時間30分(予定)の作品です。」と極めて簡単な説明を付記するにとどまり,このような説明のみしか情報が与えられていない原告が,著作権者として映像の使用を許諾しなかったこと(行為①)が著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使に当たるとは評価できない。また,被告は,原告の許諾を得ないまま,本件各映像を使用した本件映画の公開に踏み切り,その本件映画には原告の名称が一切表示されていなかったのであるから,その後,原告が本件各映像の入手先の開示や重ねての謝罪を求め(行為②),事前に許諾を得て映像を使用させる場合よりも高額な使用料の支払を求めたとしても(行為③),著作権者による権利行使として著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使であるなど評価することは困難である。同様に,原告が本訴を提起したこと(行為④)が不当な権利行使ということもできない。
 この点,上記判旨抜粋では,「事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存する」とし,「事情」を明確に判旨しないものの,特殊な権利主体(報道機関)の場合には,当該著作権等の使用許諾を拒むことが不法行為責任を生じさせる余地があることを言及した点で,今後の(被告側の)反論材料の参考として一応参考になると言える。
 もっとも,原審で示された事実からすると,上記「事情によっては」の「事情」は,通常の交渉を行っている限りは生じ得ない事情であるとも推察され,当該不法行為が成立するための要件は相当に高いと思われる。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高野芳徳