【平成30年10月5日判決(大阪地裁 平成29年(ワ)第13794号)】
【判旨】
発明の名称を「LED照明装置およびLED照明光源」とする本件特許権を有する原告会社が、被告C社及び被告N社においてそれぞれ業として製造等をしている照明光源(被告照明光源1,同2)、並びに被告D社において業として製造等をしている照明装置(被告照明装置)について、特許権侵害に基づく被告各製品の製造等の差止め、損害賠償等を求めた事案。裁判所は,被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められないとして、全ての請求を棄却した。
【キーワード】
充足論,限定解釈,70条1項,70条2項
事案の概要と争点
本件特許権(特許第3989794号)において,照明光源に対応する訂正後の請求項7に係る発明(以下「本件訂正発明1」という。)の内容は以下のとおりであり,下線部が訂正箇所である。
構成要件 | 内容 |
1A | 基板と,前記基板の片面に実装されたLEDとを備えたLED照明光源であって, |
1B | 前記基板のうち前記LEDが実装されている前記基板片面の一端側に,当該LED照明光源が取り付けられるLED照明装置のコネクタによって前記基板片面から基板裏面への方向に押圧されて前記コネクタに接続される給電端子が設けられており, |
1E’ | 前記基板の一部にマークが形成されており, |
1C’ | 前記コネクタに設けられたバネ性を有する端子部が前記給電端子を押圧することにより,前記基板片面から基板裏面への方向に押圧されるとともに,前記コネクタにより,前記基板片面において,隣接する少なくとも3つの外周辺が,それぞれその過半が覆われて,前記LED照明装置に着脱可能に固定される, |
1D |
LED照明光源。 |
また,照明装置に対応する訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明2」という。)の内容は以下のとおりであり,下線部が訂正箇所である。
構成要件 | 内容 |
2A | LEDが片面に実装された基板の当該面に給電端子を有する着脱可能なLED照明光源と, |
2B | 前記基板のうち前記LEDが実装されていない基板裏面と接触する熱伝導部材と, |
2C | 前記基板裏面と前記熱伝導部材とを押圧しながら前記給電端子に接続される少なくとも1つのコネクタと, |
2D | 前記コネクタを介して前記LED照明光源と電気的に接続される点灯回路と,を備えるLED照明装置であって, |
2G’ | 前記基板の一部にマークが形成されており, |
2E’ | 前記コネクタに設けられたバネ性を有する端子部が前記給電端子を押圧することにより,前記基板裏面を前記熱伝導部材に押し付けるとともに,前記コネクタにより,前記基板片面において,隣接する少なくとも3つの外周辺が,それぞれその過半が覆われて,前記LED照明光源を前記LED照明装置に着脱可能に固定する, |
2F | LED照明装置。 |
被告Cは被告照明光源1,被告Nは被告照明光源2について,それぞれ業として,製造,販売等をしており,被告Dは被告照明装置を,業として,製造,販売等している。被告各照明光源のうち,一部の型番に係る製品は,被告照明装置に搭載されている。
本件では,本件発明1及び本件発明2のそれぞれについて,充足論,無効論(記載要件及び新規性・進歩性の点)が争われ,更に間接侵害の成否,損害論,訂正の再抗弁についても争われたが,本稿では非充足の根拠となった「一端側」(構成要件1B)及び「コネクタ」(構成要件2C及び2E)の充足性に係る争点につき採り上げることとする。
裁判所の判断
(1)本件各発明の意義
まず,裁判所は,明細書の記載及び出願経過を参酌しつつ,本件発明2(照明装置)については照明光源を着脱可能なカード状構造物とすることにより放熱性と耐久性を高めたこと,本件発明1(照明光源)についてはその構造により高密度化,放熱性,及び光利用効率の向上を同時に実現したことが,各発明の技術的意義であると認定した。
※判決文より引用(下線部は筆者付与。以下同じ。)
⑶ 本件各発明の意義 |
(2)「一端側」(構成要件1B)について
上記を前提として,裁判所は,構成要件1Bにおける「基板片面の一端側に,・・・給電端子が設けられて」いる構成とは,基板片面の複数の辺のうち1つの辺のみに給電端子を設ける構成を意味するとした上で,被告各照明光源の給電端子は,略正方形状の基板片面の一対の対角付近に設けられているから,構成要件Bを充足しないと判示した。
⑴ 争点1-1(被告各照明光源は「一端側」(構成要件1B)を充足するか)について |
※参考:本件特許明細書の関連箇所
【0077】 【0142】 |
原告は,「一端側」とは,基板の中心部ではなく周辺部に給電端子を形成することを意味するに留まり,それ以上に一端側「のみ」に集中的に給電端子が設けられている必要はない旨を主張したが,裁判所は,辞書的意味や明細書における文言の使い分けを根拠に,当該主張を採用しなかった。
これに対し,原告は,「基板片面の一端側に」とは,基板の中心部ではなく,周辺部に給電端子を形成することを規定しているものであるから,一端側に給電端子が設けられていれば足り,それ以上に一端側「のみ」に集中的に給電端子が設けられている必要はない旨を主張する。しかしながら,「一端側」が周辺部を意味するものであるとすれば,日本語の通常の用法とは離れた意味となるし,段落【0077】において,「周辺部」と「一端(一辺)」とを異なった態様として使用していることとも整合しないから,上記主張を採用することはできない。 |
(3)「コネクタ」(構成要件2C及び2E)について
また,裁判所は,本件発明2における「コネクタ」とは,その電極が基板裏面と熱伝導部材とを押圧しながら給電端子に接続されるとともに,その押圧力により基板裏面が熱伝導部材に押し付けられる構成を有するものであるとした上で,被告照明装置は,被告照明光源1ないし2を搭載してはいるものの,いずれもホルダーをヒートシンクにねじ止めすることにより照明光源を固定するものであって,電極部の押圧力により照明光源を固定するものではないとして,構成要件2C及び2Eを充足しないと判断した。なお,構成要件2Eは,拒絶理由回避のために補正により追加された構成要件であり,同時に提出された意見書において,出願人(原告)は,当該構成要件が「コネクタ電極が給電端子を押すことにより,LED照明光源がLED照明装置に対して固定されることを意味する」旨説明していた。
⑵ 争点1-4(被告照明装置は「コネクタ」(構成要件2C及び2E)を充足するか)について |
※参考:本件特許明細書の関連箇所
【0167】 【図14(b)】 |
原告は,被告照明装置のホルダーの電極部はバネのように付勢されており,ホルダーが基板裏面と熱伝導部材を押圧し,基板裏面を熱伝導部材に押し付けて固定していると主張したが,裁判所は,ホルダーの電極部の被告各照明光源への接触の有無にかかわらず被告各照明光源が固定されていることを理由に,原告の上記主張は採用しなかった。
ウ これに対し,原告は,被告照明装置のホルダーの電極部は,バネのように付勢されているから,ホルダーが基板裏面と熱伝導部材を押圧し,基板裏面を熱伝導部材に押し付けて固定しているといえ,構成要件2C及び2Eを充足する旨を主張する。 |
検討
非充足に関する2つの争点のうち,「一端側」については,文言自体からはやや厳しい限定解釈がされた印象があるものの,明細書における「基板周辺の一端(一辺)の近傍に複数の給電電極が配列される」「給電電極54が多層配線基板51の上面における4つの辺のうちの1つの辺の側に集中的に配列されている」「給電電極54を基板の一端に集中させることにより、多層配線基板51の上面における他の3つの辺に対応する端部は、必ずしもコネクタの内部に完全に嵌め込まれる必要がなくなり、形状などの設計自由度が向上する。」などの記載に照らせば,給電電極をあえて1つの辺のみに集中して配置させるという点に技術的特徴があると読めるから,裁判所のクレーム解釈は妥当と考えられる。
一方,「コネクタ」に関しては,その電極が基板裏面と熱伝導部材とを押圧しながら給電端子に接続されるものであるというクレーム解釈自体に違和感はないものの,被告製品との対比において,被告照明装置のホルダーの電極部がバネのように付勢されることは明確に否定されていないにも関わらず,非充足とした判断がやや引っかかる。仮に,裁判所の判示のとおり,「ホルダーの電極部の被告各照明光源への接触の有無にかかわらず,被告各照明光源が固定されている」ものだとしても,ホルダーの電極部が照明光源に接触した際に,バネのように付勢されて押圧力が働くのだとすれば,クレーム文言上は充足となる余地が残るようにも思える(明細書【0167】段落でも,給電端子以外に追加的な押圧手段を設けてもよい旨の記載がある)。
公開されている判決文からは被告製品の詳細な構成が不明であるが,充足性に係るクレーム解釈及び被告製品との対比を示した裁判例として,実務上参考になると思われる。
以上
(文責)弁護士・弁理士 丸山真幸