【平成30年12月26日(東京地裁 平成30年(ワ)第13381号)】

【判旨】
原告が,医療機器である携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器として原告の販売する別紙3原告商品目録記載の商品(原告商品)の形態について,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されており,同様の医療機器として被告の販売する別紙2被告商品目録記載の商品(被告商品)の形態が原告商品の形態と類似し,被告による被告商品の製造販売は,原告商品と混同を生じさせる行為であって,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たる旨を主張して,被告に対し,被告商品の製造,輸入,譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止め並びに被告商品の廃棄を求めた事案。裁判所は,原告商品の形態は,少なくとも被告商品が販売された平成30年1月頃には,同法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されたものとなっていたと認められ,また,原告商品の形態と被告商品の形態については,需要者が外観に基づく印象として,両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあると認められ,同号の「類似」に該当すると認められるが,被告による被告商品の製造販売行為が,同号にいう「混同を生じさせる行為」に当たると認めることはできないとして,請求を棄却した。

【キーワード】 不正競争防止法2条1項1号,商品形態の保護,混同のおそれ

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要
 本件で問題となった商品は,「携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器」と呼ばれる医療機器であり,原告商品,被告商品の各形態は以下のとおりである(それぞれ複数の商品ラインナップが存在するため,ここでは1つずつのみ取り上げる)。両商品はいずれも,鞄の生地上に硬質な三角形等のピースが多数配置されており,中に入れる荷物に応じて,ピースの形を保ったままで様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出す点において共通している。一方,ピースの形状や具体的な配置関係については,両商品において違いが見られる。

原告商品被告商品

(2)争点
 本件の争点は以下のとおりである。
  ア 原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか(争点1)
  イ 原告商品の形態と被告商品の形態とは類似するか(争点2)
  ウ 被告商品の製造販売は,原告商品と混同を生じさせるか(争点3)

2 裁判所の判断

(1)商品等表示該当性について
 まず,裁判所は,不正競争防止法2条1項1号における商品等表示該当性の要件として,①特別顕著性,②周知性,という2つの要件を備えることが必要であるとしつつ,商品の形態が技術的な機能等を実現するための不可避的な構成に由来するものである場合には,商品等表示に該当しないとの判断基準を示した。

※判決文より抜粋

 2  争点1(原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか)について
   ⑴  不競法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し, 同号にいう「商品等表示」に該当するというためには,①特別顕著性を有すること,すなわち,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していること及び②周知性を備えていること,すなわち,その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
 もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合,そのような商品の形態自体が商品等表示に当たるとすると,当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり,結果的に,特許権等の工業所有権制度によることなく,当該形態によって実現される技術的な機能及び効用を奏する商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながり,しかも,不正競争の禁止には期間制限が設けられていないことから,上記独占状態が事実上永続することとなる。したがって,上記のような商品の形態に商品等表示該当性を認めると,不競法2条1項1号の趣旨である周知な商品等表示の有する出所表示機能の保護にとどまらず,商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することまで許されなくなり,それは,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することにほかならず,かえって,不競法の目的に反する結果を招くことになる。したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には,商品等表示に該当しないと解するのが相当である。

 その上で,本件においては,原告商品が備える「直方体の排液ボトル,丸みを帯びた略立方体の吸引ボトル本体及びその上部に取り付けられた球体のゴム球体という形状の異なる3つのパーツをまとまりよく一体化して構成されている」という形態が,原告商品の販売が開始された昭和59年から,平被告商品の販売開始時期である成30年1月頃まで,原告製品以外には見られない形態であったことや,原告商品が高い市場シェアを維持していたこと等を踏まえ,原告商品について特別顕著性・周知性を認めた。また,原告商品の形態が機能を発揮させるための不可避的な形態であるとの被告主張も棄却された。

※判決文より抜粋

   ⑵ア  これを本件についてみるに,前記認定のとおり,原告商品は,携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器であるSBバックのうちの排液ボトル及び吸引ボトルで構成されるものであるところ,携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器には様々な形態のものが存在する中で,SBバックのように主たる構成として2つの透明のボトルから構成される形態,取り分け,直方体の排液ボトル,丸みを帯びた略立方体の吸引ボトル本体及びその上部に取り付けられた球体のゴム球体という形状の異なる3つのパーツをまとまりよく一体化して構成されている形態は,平成30年1月頃に被告商品が販売されるまでは,SBバック以外の製品にはみられない形態であったのであり,吸引方法が異なる蛇腹(バネ)吸引や握り型吸引に属する吸引器はもとより,同じくバルーン吸引に分類される吸引器であり,株式会社メディコンが製造し,販売する「デイボール リリアバック」の形態もSBバックの形態とは,大きく異なっている(甲11,25,乙4)。そうすると,原告商品の形態は,①特別顕著性,すなわち,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認められる。
 これに対し,被告は,原告商品は,医療従事者を需要者とする医療機器であり,医療従事者が,患者の生命及び身体の安全に関わる医療機器を選定するに当たって重視するのは,当該商品の機能であってその形態ではないことなどから,原告商品の形態は,自他識別機能及び出所表示機能をおよそ備えていない旨を主張する。しかしながら,医療機器であっても,その使用に当たっては商品の形態が使用感や使いやすさ,利便性等に大きな影響を与えるのであるから,医療機関が商品を選定する際に考慮要素になると考えられるのであり,このことは,被告が行ったアンケート結果においても,利便性(乙6の1),使いやすさ(乙6の2,3,9,乙7の2),使い勝手(乙6の5,7,9,乙8の3),大きさ・寸法(乙6の2,6)等が挙げられていることから裏付けられている。したがって,原告商品の形態が自他識別機能及び出所表示機能をおよそ備えていないということはできない。
 また,被告は,原告商品の形態は,携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器としての機能及び効用を発揮するために選択されたものであり,同種製品でも採用されている一般的なありふれた形態を組み合わせたものにすぎない旨を主張する。しかしながら,原告商品を構成する直方体の排液ボトルの形状,略立方体の吸引ボトルの本体及びその上部に取り付けられた球体のゴム球それぞれの形態が個々の形態としてありふれた形状であったとしても,原告商品の形態は,これらを組み合わせて一体化したものであり,しかも,他の同種製品にはみられない形態であったのであるから,原告商品の形態がありふれた形態ということはできない。
    イ  そして,前記認定のとおり,原告は,昭和59年から,SBバックを,その形態を変更することなく製造し,販売しているところ,SBバックの形態は,平成30年1月頃に被告商品が販売されるまでは,SBバック以外の製品にはみられない形態であったこと,平成18年から平成28年までのポータブル低圧持続吸引器国内市場におけるSBバックの販売数量は同市場において30%程度を占め,業界首位であったこと,原告は,SBバックの販売開始以来,平成14年頃から発行している医療機器の総合カタログを定期的に更新し,医療機関に頒布してきたほか,少なくとも平成10年から医療機器の展示会等にSBバックを展示するなど,医療機関に対する説明会や個別の説明を常時実施してきたこと,SBバックの形態が多数の医療従事者向け書籍等に掲載されてきたことなどからすれば,原告商品の形態は,②その形態が原告によって長期間独占的に使用されてきたことにより,少なくとも被告商品が販売された平成30年1月頃には,原告の出所を示すものとして需要者である医療従事者に広く認識されるに至ったということができる。
 これに対し,被告は,原告商品の形態が掲載されている書籍等において,原告商品の形態のみならず,常に原告の会社名や商品名も併せて記載されていることなどから,原告商品の形態自体がその形態のみで出所表示機能を発揮しているのではない旨主張するが,上記説示のとおり,原告商品の形態は,その形態が原告によって長期間独占的に使用されてきたことにより周知性を獲得したと認められるのであるから,個別の表示の態様が原告商品の形態と原告の会社名や商品名とが併せて表示されていたとしても,上記認定を左右しないというべきである。
    ウ  さらに,前記認定のとおり,原告商品の形態は,携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器に様々な形態のものが存在し,排液ボトルや吸引ボトルの形状にも様々な選択肢がある中で,これらを組み合わせて一体的に構成されたものであるから,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には該当しないと認められる。
 これに対し,被告は,原告商品の形態は,単に機能を発揮する観点から選択されたにすぎず,その機能及び効用を発揮するために必然的,不可避的に採用せざるを得ない商品形態である旨を主張する。
 しかしながら,前記認定のとおり,原告商品は,創腔からの滲出液の集液量増加に伴う吸引圧の変動が小さく,創腔に常に適切な陰圧を負荷できること,採取された滲出液が逆流する陽圧発生の危険がなく取扱い容易であること,集液ゾーンと陰圧保持ゾーンが分離され,集液貯留が全て剛性容器で行われるため,使用中は常に集液量測定を精度良く簡便に行うことができるとともに,途中の吸引再セット時の排液操作が必要なく,集液を追加できることなどの機能を有しているところ,このような機能を有するための構成としては,ボトルの数,形状及び透明性,目盛の形状,排液口の位置,大きさ,形状及び色彩,集液ポートの位置及び形状,排液ボトルと吸引ボトルの連結態様,ゴム球の位置,大きさ,形状及び排気弁の有無等の様々な選択肢があるのであるから,被告の主張は採用できない。
   ⑶  以上のとおり,原告商品の形態は,少なくとも被告商品が販売された平成30年1月頃には,不競法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されたものとなっていたと認められる。

(2)類似性について
 原告商品・被告商品の形態の類似性については,主たる構成(廃液ボトル,吸引ボトル)が共通する他,各ボトルの形状自体も多数の点が共通することを理由として,これを肯定した。

※判決文より抜粋

 3  争点2(原告商品の形態と被告商品の形態とは類似するか)について
   ⑴  不競法2条1項1号の「類似」に該当するか否かは,取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである。
   ⑵  これを本件についてみるに,前記認定のとおり,原告商品の形態と被告商品の形態とは,外観において,主たる構成として排液ボトル及び吸引ボトルの2つのボトルを有している点で共通するほか,排液ボトル及び吸引ボトル自体の形状も多数の点が共通し,その寸法もほぼ共通する。他方,排液ボトルについては,目盛や文字の色等が相違し,吸引ボトルについては,「吸引ボトル」の文字や,社名,商品名等の文字の色,ゴム球の色等が相違し,社名や商品名の称呼も相違する。
 以上の共通点及び相違点を総合すると,外観上の共通点が極めて多数に上ることに比して,相違点はいずれも細部の相違であり,色彩の相違も同系色での相違にすぎず,社名や商品名の表示の相違も全体的な構成からは一部分にとどまることからすれば,上記共通点は,上記相違点よりも需要者に強い印象を与えるものであると評価することができる。したがって,原告商品の形態と被告商品の形態については,称呼が相違するものではあるが,需要者が外観に基づく印象として,両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあると認められ,不競法2条1項1号の「類似」に該当すると認められる。

(3)混同のおそれについて
 しかし,裁判所は,原告商品・被告商品間における混同のおそれについて,専門家である医療従事者が販売業者の担当者から説明を受けて購入するものであることや,業界の慣行として,同種の医療機器については一種類のみを採用する「一増一減ルール」が存在すること等,具体的な取引態様に鑑み,両商品について混同のおそれは認められないと判示した。

※判決文より抜粋

 4  争点3(被告商品の製造販売は,原告商品と混同を生じさせるか)について
 原告は,被告商品の形態は,原告の商品等表示である原告商品の形態に酷似するものであるから,被告商品に接した需要者において,被告商品を原告商品又は原告のシリーズ商品,原告のグループ会社の商品又は原告のライセンス商品であるとの誤認混同が生じるおそれが高い旨を主張する。
 不競法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」とは,商品又は役務について出所が同一であると誤認させ,あるいはその営業につき主体が同一であると誤認させる場合に限られず,他人の周知の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者と当該他人との間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係等の緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為も含まれると解される。
 そこで,これを本件についてみるに,前記認定によれば,原告商品及び被告商品の取引態様については,専門家である医療従事者が,医療機器の製造販売業者や販売業者の担当者から,当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けて,当該医療機器の購入を決め,医療機器専門の販売業者に対して当該医療機器を発注するというプロセスをたどって取引されているのであり,しかも,多くの医療機関においては,医療機器の使用について,医療機関が医療機器を採用するにあたっては,同種の医療機器については,一種類のみを採用するという原則的な取扱いであるいわゆる一増一減のルールが採用されているというのである。そして,原告商品と被告商品には商品自体には商品名及び会社名が記載され,それぞれ別々のパンフレット(甲1,20)が作成されて別々に販売される上,需要者である医療従事者も医療機器に関する専門知識を有する者なのであるから,被告商品の販売行為によって需要者である医療従事者において原告商品と被告商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるとは認められない。また,原告及び被告は,医療機器の分野において,相当程度のシェアを有する競合会社であり,ポータブル低圧持続吸引器国内市場における原告のシェアは約30ないし40%,被告のシェアは約5ないし15%である。上記の取引形態等からすると,需要者である医療従事者において原告と被告が競合関係にあることを十分に認識している状況であり,原告商品の形態と被告商品の形態が類似していることのみから,原告と被告との間に親会社,子会社の関係や系列関係等の緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるとは認められない。そうすると,被告による被告商品の製造販売行為が,不競法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に当たると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(4)本事件の結末
 上記のとおり,本件においては「混同のおそれ」が認定されなかったことから,不正競争防止法2条1項1号に基づく原告の請求も棄却された。

3 むすび

 不正競争防止法2条1項1号に基づく商品形態の保護が争われた事案においては,第1の要件である商品等表示該当性(特別顕著性,周知性)及び第2の要件である類似性が認められると,第3の要件である「混同のおそれ」については,特段検討されることなく肯定されることがほとんどであった。本事件は,商品等表示該当性及び類似性を肯定しつつも,「混同のおそれ」により不正競争防止法2条1項1号該当性を否定した珍しい事案である。ただし,本事件は,控訴審(知財高裁令和1年8月29日判決(平成31年(ネ)第10002号))において原告の逆転勝訴判決が出ており,被告側が「混同のおそれ」の争点のみで勝つことは非常に難しいことに留意する必要がある。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸