平成30年1月15日判決(知財高裁 平30(行ケ)10107号 審決取消請求事件)

【キーワード】
商標権の共有、不使用取消審判の審決の審決取消訴訟、商標法35号、特許法73条、商標法50条、商標法54条、商標法63条

【事案の概要】

原告は、以下の商標(登録第5151243号。以下「本件商標」という。)の商標権を、株式会社いきいき緑健(以下「いきいき緑健」という。)と共有で有していた。

・登録商標第5151243号

・登録出願:平成19年4月2日
・設定登録:平成20年7月18日
・指定商品:第32類「縁色野菜(粉末を含む)を主原料とする飲料用青汁のもと、緑色野菜(粉末を含む)を主原料とする飲料用青汁」

 被告は、本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないとして、商標法50条1項の規定に基づく本件商標の商標登録の取消しを求める審判を請求し、特許庁は、本件商標の商標登録を取消す旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。
 原告は、本件審決に対して単独で取消訴訟を提起したが、被告は、本案前の抗弁として、共有に係る商標権の商標登録の取消審決に対する審決取消訴訟は、合一確定の必要があるから、共有者全員で訴えを提起する必要がある固有必要的共同訴訟に当たり、共有者の1名のみによる訴え提起は不適法である、と主張した。

【争点】

・商標権の共有者による単独での取消審決取消訴訟の適法性

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 当裁判所の判断

1 本案前の抗弁について

 被告は、原告といきいき緑健は、本件商標に係る商標権を共有するところ、原告は、単独で本件審決の取消しを請求するから、本件訴えは不適法であると主張する。

 しかし、いったん登録された商標権について、登録商標の使用をしていないことを理由に商標登録の取消審決がされた場合に、これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは、商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることとなり、登録商標を排他的に使用する権利が消滅するものとされている(商標法54条2項)。したがって、上記取消訴訟の提起は、商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから、商標権の共有者の1人が単独でもすることができるものと解される。そして、商標権の共有者の1人が単独で上記取消訴訟を提起することができるとしても、訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。

 また、商標権の設定登録から長期間経過した後に他の共有者が所在不明等の事態に陥る場合や、訴訟提起について他の共有者の協力が得られない場合なども考えられるところ、このような場合に、共有に係る商標登録の取消審決に対する取消訴訟が固有必要的共同訴訟であると解して、共有者の1人が単独で提起した訴えは不適法であるとすると、出訴期間の満了と同時に取消審決が確定し、商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることとなり、不当な結果となりかねない。

 さらに、商標権の共有者の1人が単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解しても、その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には、その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項)、再度、特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方、その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には、他の共有者の出訴期間の満了により、取消審決が確定し、商標権は審判請求の登録日に消滅したものとみなされることになる(商標法54条2項)。いずれの場合にも、合一確定の要請に反する事態は生じない。なお、各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には、これらの訴訟は、類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから、併合の上審理判断されることになり、合一確定の要請は充たされる。

 以上によれば、商標権の共有者の1人は、共有に係る商標登録の取消審決がされたときは、単独で取消審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である(最高裁平成13年(行ヒ)第142号同14年2月22日第二小法廷判決・民集56巻2号348頁参照)。

 よって、原告は、単独で本件審決の取消しを請求することができる。被告の本案前の抗弁は、理由がない。 ・・・(以下、省略)

【検討】

1 商標権の共有と審決取消訴訟
 商標権は財産権の一つであるため、当然に共有の対象となる。商標権が共有となった場合、共有権者は商標の使用は自由にできるが、第三者への使用許諾などには他の共有権者の同意が必要となる(商標法35条、特許法73条)。
 また、共有に係る商標権について、審判を請求するときは、共有者の全員が共同してしなければならず(商標法56条、特許法132条3項)、第三者が登録無効審判を請求する場合は、共有権者全員を被請求人としなければならない(商標法56条、特許法132条2項)。共有者全員の意思の合致を要求する趣旨と解される。
 しかし、審決取消訴訟の当事者については、法律上定められていないため、問題となる。
 裁判例では、拒絶査定不服審判の不成立審決に対する審決取消訴訟(査定系審判の審決取消訴訟の一つ)については、共有者全員につき合一に確定すべきものであり、共有者全員で提起する必要があると判断されている(最高裁平成7年3月7日(平成6(行ツ)83号)。ただし、旧実用新案法の事例。)。その一方で、登録無効審判の無効審決に対する審決取消訴訟については、「商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから、商標権の共有者の1人が単独でもすることができる」と判断している(最判平成14年2月2日(平13(行ヒ)142号))。

2 本件
 本件では、従前の裁判例にて判断されていなかった登録商標の不使用取消審判の取消審決に対する審決取消訴訟が問題となった。結論として、裁判所は、登録無効審判の無効審決に対する審決取消訴訟と同様の理由により、取消審決に対する審決取消訴訟は、商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるとして、商標権の共有者が単独で提起することができる、と判断した。
 不使用取消審判は商標法独自の制度であるが(商標法50条)、審決取消訴訟を提起せずに出訴期間を経過した場合に商標権が審判請求の登録日に消滅したものとみなされる点(商標法54条2項)が無効審判と同一であるため、登録無効審判の無効審決に対する審決取消訴訟と同様に判断されたものと考えられる。

以上

弁護士 市橋 景子