【平成30年9月26日(知財高裁平成30年(行ケ)第10046号)】

【要旨】
 商標法50条の不使用取消審判請求を不成立とした審決が維持された。

【キーワード】
商標法50条、使用、商標法2条3項8号

事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,以下の商標(登録第5614489号。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
商標

登録出願日 平成25年5月1日 設定登録日 平成25年9月13日
指定商品 第16類「絵はがき,楽譜,カタログ,カレンダー,雑誌,時刻表,書籍,新聞,地図,日記帳,ニューズレター,パンフレット」,第26類「つけかつら,頭飾品,ヘアネット,ヘアピン,ヘアバンド,髪止め,元結」
(2) 原告は,平成28年9月26日,本件商標の指定商品中,第26類「つけかつら,頭飾品,ヘアネット,ヘアピン,ヘアバンド,髪止め,元結」に係る商標登録について,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(以下「本件審判」という。)を請求した。特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300666号事件として審理し,平成30年2月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
(3) 原告は,平成30年4月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2 本件審決の理由の要旨
 本件審決の要旨は,被告が,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に,日本国内において,使用商標(以下「本件使用商標」という。)を付した付箋紙(以下「本件付箋紙」という。)を,医療に関係した学会の総会等の併設展示会において被告が販売する商品「ウィッグ」を展示した各展示ブースで来訪者に対し販促品として無償配布した行為は,商標法2条3項8号の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当し,本件審判の請求に係る指定商品中の「つけかつら,頭飾品」に含まれる上記商品に関する広告に本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,同法50条の規定により取り消すことはできないというものである。

争点

 医療に関係した学会の総会等の併設展示会において被告が販売する商品「ウィッグ」を展示した各展示ブースで,来訪者に対し,本件使用商標を付した本件付箋紙を販促品として無償配布した行為が,商標法2条3項8号の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当するか。

判旨一部抜粋(下線は筆者による。また「別紙2」「別紙3」は省略する。)

第1~3 省略
第4  当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 被告は,理容,美容,育毛,発毛商品,化粧品の輸入販売等を目的とする株式会社である。被告は,平成15年4月から,女性用ウィッグの販売を開始するとともに,医療用ウィッグの販売を開始した。
(2) 被告は,平成26年2月28日ころ,株式会社エムツーカンパニーに発注した,二つ折りの表紙カバーが付いた3種類(イエロー・ピンク・ブルー)の付箋紙のセットである本件付箋紙4000部の納品を受けた。
(3) 被告は,平成26年7月10日から12日まで大阪市内の大阪国際会議場で開催された第22回日本乳癌学会学術総会において,併設展示会に出展した。被告は,その展示ブースにおいて,被告の販売する医療用ウィッグ等の商品を展示した。被告は,上記展示ブースを訪れた総会の参加者(医療従事者等)に対し,商品カタログを配布したほか,販促品として,本件付箋紙を無償で配布した。その後,被告は,同年11月29日に京都市内の「みやこめっせ」で開催された第12回日本乳癌学会近畿地方会において,併設展示会に出展した。被告は,上記と同様に,その展示ブースにおいて,被告の販売する医療用ウィッグ等の商品を展示し,上記展示ブースを訪れた近畿地方会の参加者に対し,販促品として,本件付箋紙を無償で配布した。

2  本件使用商標の認定判断について
(1)ア 本件付箋紙は,二つ折りの表紙カバーが付いた3種類(イエロー・ピンク・ブルー)の付箋紙のセットであり,・・・略・・・。
イ  本件付箋紙の見開き内面部分の左側(表紙部分の裏側)には,①上段において,2本のピンク色の破線様の装飾の間に「スヴェンソンのウィッグを使用した患者さまの/「嬉しい」という気持ちから生まれた/体がウィッグの形をした妖精です。」との3行書きの黒色の文字列が記載され,②中央において,左側半分を占める本件キャラクターの図形が,右側半分の上段部を占める「Wiggy」(「i」を構成する点(「・」)はハート表記。特に断りのない限り,以下同じ。)及び「ウィッギー」の文字部分が,右側半分の下段部を占める「両腕に抱えたハートは,/いつも患者さまの気持ちと/共にあることを表しています。」との3行書きされた点線による下線付きのピンク色の文字列が,本件キャラクターの図形の真下に「昼間はスヴェンソンの/各サロンに,夜は本社企画部周辺に/現れるというウワサ。」との3行書きの茶褐色の文字列が記載され,本件キャラクターの図形の「ハート」部分から上記下線付きのピンク色の文字列の1行目の冒頭にかけてピンク色の引き出し線が付されており,③下段において,右側に二つのキャラクター図形並びにそれぞれ図形の下に「ウィッギーパパ」及び「ウィッギーママ」の文字部分が,左側に「Profile」の文字部分の下に本件キャラクターの「性別」,「年齢」,「誕生日」,「性格」,「口癖」及び「好きなこと」に関する情報が記載されている。
(2) そこで,本件付箋紙の見開き内面部分から本件使用商標を抽出し,これを商標として認識できるかについて検討するに,前記(1)イの認定事実によれば,本件付箋紙の見開き内面部分の左側には,中央の目立つ位置に本件キャラクターの図形及び「Wiggy」及び「ウィッギー」の文字部分が記載され,上記文字部分の下に記載された「両腕に抱えたハートは,/いつも患者さまの気持ちと/共にあることを表しています。」との3行書きされた点線による下線付きのピンク色の文字列と本件キャラクターの図形の「ハート」部分とを関連付けるようにピンク色の引き出し線が付されており,しかも,上記文字部分及び上記ピンク色の文字列は,本件キャラクターの図形の右隣に近接してまとまりよく配置されていることが認められるから,本件キャラクターの図形,上記文字部分,上記ピンク色の文字列及び上記引き出し線は,相互に関連するひとまとまりのものとして,本件付箋紙の見開き内面部分に接した看者の注意をひくものといえる。そうすると,本件キャラクターの図形,上記文字部分,上記ピンク色の文字列及び上記引き出し線から構成される本件使用商標を本件付箋紙の見開き内面部分の他の記載部分から分離して観察し,図形及び文字から成る結合商標として認識できるものと認められる
 また,本件付箋紙の見開き内面部分には,本件キャラクターの図形の上方に「スヴェンソンのウィッグを使用した患者さまの/「嬉しい」という気持ちから生まれた/体がウィッグの形をした妖精です。」との3行書きの黒色の文字列が記載されており,本件付箋紙の見開き内面部分に接した看者は,上記黒色の文字列から本件キャラクターは「スヴェンソンのウィッグ」商品を広告宣伝するためのキャラクターであり,上記商品の出所識別標識として用いられることを認識することができるから,本件キャラクターの図形を構成に含む本件使用商標は,全体として「スヴェンソンのウィッグ」商品の出所識別標識として認識することができる態様で使用されているものと認められる。
 したがって,本件付箋紙から本件使用商標を商標として抽出し,これが自他商品識別標識としての機能を果たしているとした本件審決の認定判断に誤りはない。

3 本件使用商標と本件商標の社会通念上の同一性について
 ・・・略・・・
 以上によれば,本件商標と本件使用商標は,上記①及び②の点で相違するが,その余の構成態様を共通にするものであり,上記相違点は両商標の外観,称呼及び観念の共通性に実質的な影響を及ぼすものとはいえないから,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。

4 本件付箋紙の配布行為の商標法2条3項8号該当性について
(1) 前記1の認定事実によれば,被告は,要証期間内である平成26年7月10日から12日まで大阪市内の大阪国際会議場で開催された第22回日本乳癌学会学術総会及び同年11月29日に京都市内の「みやこめっせ」で開催された第12回日本乳癌学会近畿地方会において,各併設展示会の展示ブースに被告の販売する医療用ウィッグ等の商品を展示し,上記展示ブースを訪れた総会等の参加者(医療従事者等)に対し,商品カタログを配布したほか,販促品として,本件付箋紙を無償で配布したことが認められる。上記認定事実によれば,被告による本件付箋紙の配布行為は,上記各併設展示会の展示ブースにおいて,被告の販売する医療用ウィッグ等の商品の広告の一環として行われたものと認められる。そして,本件付箋紙の見開き内面部分に掲載された本件使用商標は,全体として「スヴェンソンのウィッグ」商品の出所識別標識として認識することができる態様で使用されているものと認められることは,前記2(2)認定のとおりである。そうすると,本件付箋紙は,被告の販売する医療用ウィッグ等の商品(「スヴェンソンのウィッグ」商品)の広告媒体に当たるものであって,被告による本件付箋紙の配布行為は,上記商品に関する広告に本件使用商標を付して頒布する行為(商標法2条3項8号)に該当するものと認められる。

解説

 医療に関係した学会の総会等の併設展示会において被告が販売する商品「ウィッグ」を展示した各展示ブースで,来訪者に対し,本件使用商標を付した本件付箋紙を販促品として無償配布した行為が,商標法2条3項8号の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当するかが争点になった。本件商標の(取り消し請求の対象となった)指定商品は,「第26類『つけかつら,頭飾品,ヘアネット,ヘアピン,ヘアバンド,髪止め,元結』」であった。指定商品(医療用ウィッグ)自体やその包装には本件使用商標が付されていなかったということであろう。このため,本件付箋紙に本件使用商標を付した行為が上記指定商品との関係で商標法2条3項8号の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」と言えるかが問題となった。
 本判決では,要証期間内に,指定商品(医療用ウィッグ)を展示した各展示ブースで,来訪者に対し,使用商標が付された販促品(付箋紙)を無償配布した行為が,商標法2条3項8号の「商品に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当するとしたが,単に「付箋紙の配布行為」だけが独立に存在したわけではなく,「指定商品を展示した各展示ブースで,来訪者に対して」という事情とともに「付箋紙の配布行為」が存在していたことを踏まえて上記結論に至ったものと言え,妥当な判断であったと思う。
 なお,商標法50条1項の「使用」に関して,①商標法50条1項の「使用」について,商標的使用であることを要するという考え方の他に,②「当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである」とする裁判例も存在する(知財高判平成27年11月26日(平成26年(行ケ)10234号など)。本件では,原告が本件使用商標の使用に自他商品識別標識としての機能がないことを主張し,それに対し,判決が「商品の出所識別標識として用いられることを認識することができる」と判断していることからすると,上記①,②のいずれの立場からも,商標法50条1項の「使用」の使用に該当するということになるが,「商品の出所識別標識として用いられる」という判旨を積極的に行ったところからすれば,上記①に整合的な立場を採ったものと思われる。

以上
(文責)弁護士 高野芳徳