【東京地裁平成30年4月26日(平成29年(ワ)29099号)】

【判旨】
 群馬県立桐生高等学校応援団の卒業生で組織する法人格なき社団である原告が、被告が本件写真(野球大会における群馬県立桐生高等学校応援団による応援風景)を本件書籍(北海道高等学校校歌全集)に使用し、本件書籍を販売したことが本件写真に係る著作権(複製権、翻案権、譲渡権又は著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)侵害に該当するなどと主張して,被告に対し、本件書籍の印刷、頒布の差止め,廃棄及び損害賠償を求めた事案。裁判所は,本件写真の著作物性を認めた上で,本件写真の販売は本件写真に係る著作権(複製権,譲渡権)を侵害するものであるとした上で,差止及び廃棄請求を認め,損害賠償についても一部認容した。

【キーワード】
写真の著作物,創作性,損害賠償,著作権法第21条,著作権法第28条,著作権法114条3項

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要
 原告は,群馬県立桐生高等学校応援団の卒業生で組織する法人格なき社団であり,被告は,書籍雑誌の発行,印刷及び販売等を業とする株式会社である。
 被告は,平成21年8月20日,本件書籍を発行した。本件書籍は,北海道内の高等学校の校訓や校歌,応援歌の歌詞等を紹介する全8集の書籍であり,本件書籍の別紙書籍目録の使用頁欄記載の頁の下方の部分(合計99箇所)には,それぞれ応援団による応援風景のグレー一色モノクロ画像(いずれの頁の画像も同じ画像。以下「本件画像」という。)が掲載されている。なお,本件書籍は全8集で合計1160頁(1集145頁)であり,見開き2頁で上記校訓,校歌の歌詞等を紹介しており,本件画像を使用していない校訓,校歌の歌詞等の紹介頁には,本件画像とは異なるグレー一色モノクロ画像が掲載されている。
 本件画像は,本件書籍のデザイン等を担当した者が,インターネット上にアップロードされていた本件写真(別紙写真目録記載のとおりのカラー写真であって,高等学校の野球の試合における,応援団による応援風景の写真)のデジタルデータを加工して作成したものである。

(2)争点
 本件の争点は,下記のとおりである。
① 本件写真の著作物性
② 本件写真に係る著作権の侵害の有無
③ 本件書籍の販売期間及び方法
④ 本件写真の著作権及び損害賠償請求権の帰属
⑤ 損害の発生の有無及び損害額

 本稿では,主に①②⑤の点について採り上げる。

2 裁判所の判断

(1)本件写真の著作物性
 まず,裁判所は,本件写真の著作物性(争点①)について,被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等に工夫を加えて撮影しており,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているから,本件写真は写真の著作物として著作物性が認められると判示した。

※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

 本件写真は,画像の上半分に野球場のフェンス,その土台及びフェンス越しのグラウンド,下半分にスタンドが写っていて,フェンス側及びスタンド側で画面が斜め(右斜め下方向)に分けられているカラー写真である。スタンドとフェンスの間には,スタンドに向いて起立し,背中を大きくそらし,両手を上方に広げ,口を大きく開けて応援団を統率している学生服姿の女子生徒が写っており,その女子生徒の左側にスタンドの観客席で起立してメガホンを持つなどする学生服姿やユニホーム姿の数名の男子生徒が写っていて,また,女子生徒の右側下部分には試合を観戦する観客数名の後頭部が写っている(甲1)。
 本件写真は,撮影者であるAが,平成17年5月16日,埼玉県営大宮公園野球場で開催された関東地区春季高等学校野球大会における群馬県立桐生高等学校応援団による応援風景を,被写体,シャッターチャンス,撮影方向(アングル),撮影角度を変え,全体の構図を考えながら,デジタルカメラで何枚も撮影したうちの1枚であり,野球場のグラウンド部分と三塁側スタンド部分で画面を斜め(右斜め下方向)に分け,中央に女子生徒を配し,同女が応援団を統率する光景を,スタンド上方斜め右(本塁寄り)から俯瞰する角度で,女子生徒が両手を上方に高く広げる構図を狙って撮影したものである(甲4)。
 このように,本件写真の撮影者であるAは,本件写真の撮影に当たり,被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等に工夫を加えて撮影しており,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているから,本件写真は写真の著作物として著作物性が認められる。
 これに対し,被告は,本件写真には著作物性が認められないと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件写真は被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等において,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているものであり,被告の主張を採用することはできない。

(2)本件写真に係る著作権の侵害の有無
 次に,裁判所は,本件写真に係る著作権の侵害の有無について,本件画像は本件写真に写っていたグラウンドや一部の観客の後頭部等が写っていないほか,加工を経たことによってモノクロ画像となり,本件写真と比べると,女子生徒や応援する男子生徒らの表情等がやや不鮮明なものとなっているものの,本件写真における創作的な部分(本質的特徴)を本件書籍に掲載(再製)したものであるから,本件写真を複製したものである(複製権侵害)と認定した。

2  争点(2)(本件写真に係る著作権の侵害の有無)について
(1) 本件画像(乙5)は,別紙書籍目録の使用頁欄記載の各頁の下部分において,歌詞等の背景として,1頁の3分の1程度の大きさで掲載された,やや不鮮明なモノクロ画像であり,右斜め下方向にフェンスとその土台が伸びているのが写り,上記フェンスの前に,起立し,背中を大きくそらして,両手を上方に広げ,口を大きく開けて応援団を統率している学生服姿の女子生徒が写っており,女子生徒の左側には学生服姿やユニホーム姿の男子生徒が3名写っていて,これらの女子生徒や男子生徒を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた画像である。
(2) 本件画像は,被告担当者が本件写真を加工して制作したものである(前提事実(3))。
 上記1のとおりの本件写真と本件画像を対比すると,本件画像は,本件写真のうち,応援団を統率する女子生徒と起立して応援する生徒等が写っている左部分及び中央部分を使用し(本件写真の約半分程度),グラウンドや観客数名の後頭部等が写っている部分を除いて,モノクロ画像にするなどの加工を経たものであると認められる(甲1,乙5)。
 本件画像は,本件写真に写っていたグラウンドや一部の観客の後頭部等が写っていないほか,加工を経たことによって,モノクロ画像となり,また,本件写真と比べると,女子生徒や応援する男子生徒らの表情等がやや不鮮明なものとなっている。しかし,上記(1)のとおり,本件画像は,フェンスとその土台で画面を右斜め下方向に分け,フェンスの前に応援団を統率している学生服姿の女子生徒を配し,女子生徒の左側に学生服姿やユニホーム姿の男子生徒を配して,女子生徒が起立して背中を大きくそらし,両手を上方に広げ,口を大きく開けた瞬間を斜め上方から俯瞰する角度で捉えた画像であるところ,これらは,上記1に照らし,本件写真における創作的な部分であり,本質的特徴といえる部分で,本件画像は本件写真におけるこの創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したといえる。
 したがって,本件画像は,本件写真に依拠し,本件写真の創作的な部分を本件書籍に掲載(再製)したものであって,本件写真を複製したものであると認められる。
(3) これに対し,被告は,本件写真は,多色カラートーンであり,鮮明に映された女子生徒の表情や姿勢等から,その高い統率能力が印象づけられる点に本質的特徴があるのに対し,本件画像では,本件写真の本質的特徴は排除されていると主張する。しかしながら,上記のとおり,本件画像において本件写真の創作的な部分が本件書籍に掲載(再製)されているといえるから,被告の主張を採用することはできない。

(3)損害の発生の有無及び損害額
 損害額の認定にあたっては,素材販売サイトの使用料規程に基づく使用量相当額の損害を主張した原告主張に対し,裁判所は,当該使用料規程における「使用期間」が書籍の販売期間を指すものとは認められない点や,本件書籍は第1版が発行された後,現在に至るまで増刷されていない点に鑑み,原告の主張を直ちに採用することはできないと判示した。
 更に,裁判所は,本件画像が,北海道内の高等学校の校訓及び校歌や応援歌等の歌詞等を紹介する本件書籍において,校歌等の歌詞の背景として,1頁の下部3分の1程度の大きさで,モノクロでやや不鮮明な画像として掲載されたにすぎず,本件写真自体が独立の鑑賞の対象となる作品として使用されたものではない点や,本件書籍の単価・販売数量等に鑑み,本件における使用料相当額を上記使用料規程に基づいて算定することは適切ではないと判示した。

(2) 著作権侵害(著作権法114条3項に基づく損害)について
ア 原告は,写真を使用する場合の標準的な使用料規程によれば,写真を書籍の中面で使用する場合,最低単位となる使用期間は5年間であり,被告は平成21年8月20日から現在まで本件書籍の販売を継続しているから,本件における使用料相当額は使用期間10年(最低使用期間5年×2)を基準として,278万円になると主張する。
 株式会社アフロが定める使用料規程においては,B7サイズの写真を書籍の中面で使用する場合の使用料相当額は,使用期間5年間で1点当たり2万円であり,同一利用者が同一書籍内で同一写真を複数回使用する場合の2回目以降は1万4000円(1回目の使用料の70%)である(甲5)。株式会社アマナイメージズが定める使用料規程においては,B7サイズの写真を単行本の中面で使用する場合の使用料相当額は使用期間5年間で1点当たり2万1060円であり,同一利用者が同一書籍内で同一写真を複数回使用する場合の2回目以降は1万4742円(1回目の使用料の70%)であり,「使用期間を超過しての増刷は別途料金が発生」すると定められている(甲6の1・5)。
 しかしながら,株式会社アマナイメージズが定める使用料規程においては,「使用期間を超過しての増刷は別途料金が発生」すると定められており(株式会社アフロが定める使用料規程には当該規定はないが,株式会社アマナイメージズが定める使用料規程と同様の仕組みであると考えられる。),上記各使用料規程における「使用期間」は,書籍の販売期間を指すものとは認められない。そして,本件書籍は第1版が発行された後,現在に至るまで増刷されていないから,原告の主張を直ちに採用することはできない。
イ 本件において,本件画像は,本件写真の一部(約半分程度)を切り出し,モノクロ画像に加工したものであり,その画像もやや不鮮明なものである。本件書籍において,本件画像は,北海道内の高等学校の校訓及び校歌や応援歌等の歌詞等を紹介する本件書籍において,校歌等の歌詞の背景として,1頁の下部3分の1程度の大きさで,モノクロでやや不鮮明な画像として掲載されたにすぎず,本件写真自体が独立の鑑賞の対象となる作品として使用されたものではない。また,本件書籍は1集につき各2000部(8集合計1万6000部)発行され,本件画像の掲載枚数も相当数ではあるが,本件画像を使用していない校訓,校歌の歌詞等の紹介頁には,本件画像とは異なるグレー一色モノクロ画像が掲載されている。なお,本件書籍の1集の本体価格は476円(税抜価格)であり,実際の販売量は明らかではないが,仮に全部販売されたとしても,その売上額は761万6000円(1冊476円×1万6000部)である。
 以上の事情に照らすと,本件における使用料相当額を上記使用料規程(甲5,6の1・5)に基づいて算定することは適切ではないというべきである。
 そこで,本件における本件画像の内容,本件書籍における使用方法,本件書籍の内容や発行数等その他本件に現れた諸事情に照らし,本件における使用料相当額は30万円とするのが相当である。
(3) 弁護士費用相当額の損害額
 本件に現れた諸事情に照らし,本件における弁護士費用相当額の損害額は10万円とするのが相当である。
(4) 小活
 したがって,原告は,被告に対し,損害賠償金合計40万円及びこれに対する不法行為日(本件書籍の発行日)である平成21年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

 結局,上記のとおり,本件における使用量相当額は,本件書籍の内容や発行数等その他本件に現れた諸事情に照らし「30万円」と算定され,これに弁護士費用10万円を加えた40万円が損害賠償として認定された。

3 検討

 本件のような写真の著作物では,創作性(著作物性)の有無がしばしば争点となる。本件写真は,高等学校の野球の試合における,応援団による応援風景の写真であり,それ自体は事実をそのまま写したものにすぎないともいえるが,被写体の選択や配置,シャッターチャンスの捕捉,アングル,構図等に工夫があることを根拠に,撮影者の思想・感情が創作的に表現されているとして,創作性が肯定された。
 そして,本件画像は,本件写真をインターネットから無断でダウンロードして加工したものであるところ,著作権侵害及び損害賠償についてはこれを認めたものの,損害額は諸般の事情を考慮して原告主張の損害額(220万円)よりもかなり低めに認定され,この点において現実の事案に即した利害調整が図られたものいえ,同様の事案において参考になると思われる。
 なお,本件では,元の写真に加工(一部切り取り,モノクロ化)が施されていたものの,侵害の態様としては翻案権侵害(著作権法第28条)ではなく複製権侵害(著作権法第23条,本件写真の再製)の方を認めた点も注目される。

以上
(文責)弁護士・弁理士 丸山真幸