【平成30年5月30日(知財高裁平成29年(行ケ)第10197号)】

【要旨】
 特許出願手続において代理人の追加選任がなされたが,それ以前から選任されていた代理人に拒絶査定謄本の送達がなされた場合においても,そのような拒絶査定謄本の送達は適法である。

【キーワード】
代理人の選任,送達

事案の概要

 本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を却下した審決の取消訴訟である。

(特許庁における手続の経緯)
 原告は,名称を「処理可能な高熱中性子吸収Fe基合金」とする発明につき,平成23年8月25日,特許出願(以下「本願」という。)をし,平成27年1月22日付けの拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)を受け,平成29年3月10日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2017-3565号,以下「本件審判請求」という。)。
 特許庁は,平成29年6月23日,「本件審判の請求を却下する。」との審決をした。

(代理人の選任に関する経緯)
 原告は,平成25年2月頃,A弁理士を,本願(特願2013-526145号)の代理人として選任し,同弁理士は,以来,原告の代理人として,本願の手続を行っていた。その後,原告は,本願の代理人として,B弁理士外2名の弁理士を選任し,平成26年11月21日,特許庁長官に対し,その旨の代理人選任届を提出した。
 特許庁は,平成27年1月22日付けで,本願につき,本件拒絶査定を行い,A弁理士に対し,同年2月17日,その謄本を発送し,当該謄本は,同弁理士に対して送達された。
 原告は,上記の送達の後,A弁理士を解任し,B弁理士は,平成27年2月25日,原告の代理人として,特許庁長官に対し,A弁理士を解任した旨の代理人解任届を提出した。
 その後,B弁理士外2名の弁理士は,平成29年3月10日,原告の代理人として,本件拒絶査定につき,本件審判請求をし,特許庁は,平成29年6月23日,「本件審判の請求を却下する。」との審決をした。

争点

 特許出願手続において代理人の追加選任がなされたが,それ以前から選任されていた代理人に拒絶査定謄本の送達がなされた場合においても,そのような拒絶査定謄本の送達は適法か。

判旨

第1~第4 ・・・略・・・
第3 当裁判所の判断
1 ・・・略・・・
2  判断
(1) 前記1によると,本件拒絶査定がされ,その謄本が送達された時点では,原告の本願に係る代理人は,A弁理士,B弁理士外2名の弁理士であったところ,A弁理士に対し,本件拒絶査定の謄本の送達がされたことが認められる。特許法12条は,手続をする者の代理人が二人以上あるときは,特許庁に対しては,各人が本人を代理すると定めていることからすると,A弁理士への本件拒絶査定の謄本の送達は,原告への送達として,適法なものであり,上記送達は有効である。
(2) 本件拒絶査定において,在外者については,特許法121条1項が定める期間(3月)が延長され,拒絶査定の謄本の送達があった日から4月以内が,拒絶査定不服審判請求をすることができる期間であると定められている(甲16)。前記1によると,本件審判請求がされた時点は,上記(1)の本件拒絶査定の謄本の送達があった日から4月の期間を経過していたことが明らかである。
(3) したがって,本件審判請求は,所定の期間経過後にされた点で不適法であり,その補正をすることができないものである。
(4) 原告は,特許出願手続においては,代理人の追加選任がされた場合には,新たな代理人(新たな代理人が複数の場合は,その筆頭代理人)に対し,書類の送付を行う実務運用がされてきたのであって,その実務運用には法規範性が認められ,特許庁長官が,その実務運用に反する名宛人及び場所に送達をした場合,当該送達には方式の瑕疵があり,適法な送達と認められない旨主張する。日本弁理士会の対庁協議事項集(甲12)には,特許庁が,昭和54年4月1日以前において,特許出願につき,「代理人が追加受任された場合は,新たな代理人を筆頭の代理人とし,特許庁からの手続は,新たな代理人に対して行うが,筆頭代理人の変更を希望しない旨の申出があったときは,この限りでない。」との取扱いを行っていた旨記載されており,日本弁理士会の対庁協議事項集(甲13)には,平成28年3月17日においても,同様の取扱いを行っていたことが記載されている。しかし,特許法12条は,前記のとおり,代理人の個別代理を定めているから,特許庁が上記のような取扱いをしており,それが対庁協議事項集に記載されているからといって,新たな代理人以外の代理人に対する送達の効力を否定することはできないものと解される。特許庁の上記取扱いに法規範性を認めることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。そして,上記の結論は,A弁理士に任務懈怠があったとしても,左右されるものではない。

解説

 本件では,特許出願手続において代理人の追加選任がなされたが,それ以前から選任されていた代理人に拒絶査定謄本の送達がなされた場合においても,そのような拒絶査定謄本の送達が適法であるか否かが争われた。
 この点,特許法12条は,「手続をする者の代理人が二人以上あるときは、特許庁に対しては、各人が本人を代理する。」とあり,「出願人,請求人等が特許庁に対して手続をする場合二人以上の代理人のうち一人がすれば本人がしたと同じような効果が生ずるわけであるが,逆に特許庁からする手続についても二人以上の代理人のうちの一人に対してすれば本人に対してしたと同じような効果を生ずることになる」。(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第20版〕の35頁)。したがって,本件の拒絶査定謄本の送達は判旨のとおり適法ということになろう。ただ,本件では,「日本弁理士会の対庁協議事項集」において「代理人が追加受任された場合は,新たな代理人を筆頭の代理人とし,特許庁からの手続は,新たな代理人に対して行うが,筆頭代理人の変更を希望しない旨の申出があったときは,この限りでない。」との記載があったという点で特別な事情があったともいえるが,特許庁の扱いに法規範性を認めることはできないので,やはり本件の判旨は妥当である。
 もっとも,当該対庁協議事項集に則った運用は,それ自体に問題があるわけではない。本件を踏まえて我々が注意すべきは,「平成26年11月21日」に代理人選任届を提出し,「平成27年1月22日付け」の拒絶査定で「同年2月17日」の謄本発送というタイミングであると,要するに3か月程度の時間差では,「運用」のとおりになされない場合があり,従前の代理人に送達される場合があるということである。
 ただ,査定は審査官による審査タイミングに応じて行われるので,出願人が査定時を正確に把握することは難しい。そうなると我々ができる対策は,「従前の代理人(辞めてもらう代理人)」との関係性をいつまで維持しておくかということに尽きるであろう。本件でも,従前の代理人が出願人に報告してさえくれればこのような事態にはならなかったかもしれず(従前の代理人が委任契約上の義務を果たしていたか否かについては本項では踏み込まない),従前の代理人との関係を解消する際(特に中途で解消する際)には留意しておきたい内容と思われる。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高野芳徳