【知財高判平成30年2月27日(平成30年(行ケ)第10143号)】
【キーワード】
役務の…質、提供の用に供する物…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
【判旨】
「LOG」は本件役務(以下で定義します。)の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから、「LOG」のみからなる本件商標(以下で定義します。)は、本件役務との関係において、商標法3条1項3号に該当する
第1.事案の概要
1.はじめに
本件は、不成立と判断された商標登録無効審判の審決の取消しを求める訴訟です。争点は、商標法3条1項3号の該当性です。
2.本件商標
被告は、次の商標(本稿において「本件商標」といいます。)の商標権者です。
登録番号:登録第5890540号
商標の構成:LOG(標準文字)
出願年月日:平成28年5月18日
査定年月日:平成28年10月7日
登録年月日:平成28年10月21日
指定役務:第36類「建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介」及び第37類「建設工事、建築工事に関する助言」(本稿では、併せて「本件役務」といいます。)を含みます。
3.本件審判
原告は、本件商標登録のうち、本件役務を指定役務とする部分について、商標登録無効審判を請求しました。特許庁は、原告の請求に対し、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」といいます。)をしました。
4.本件訴訟
上記審決の取り消しを求めたのが本件訴訟です。原告は、取消事由として、商標法3条1項3号該当性判断の誤り(取消事由1)と、同法4条1項16号該当性判断の誤り(取消事由2)を主張しました。
裁判所は、取消事由1には理由があるとして、本件審決を取り消しました。なお、裁判所は、取消事由2については判断していません。以下では、商標法3条1項3号の該当性について、ご説明します。
第2.判旨(-請求認容-)
「商標登録出願に係る商標が商標法3条1項3号にいう『役務の…質、提供の用に供する物…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標』に該当するというためには、需要者又は取引者によって、当該商標が、当該指定役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得ることをもって足りるというべきである。
そこで、本件商標の査定時において、本件商標が、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得るか否かについて検討する。…」
「本件商標の査定時において、「LOG」は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる。したがって、本件商標は、その査定時において、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得る。
よって、「LOG」は本件役務の質又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから、「LOG」のみからなる本件商標は、本件役務との関係において、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
以上のとおり、取消事由1は理由がある。」
第3.検討
1.商標法3条1項3号
(1)条文の内容
商標法3条1項3号は、次のとおり規定しています。
「(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一号及び二号(略)
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
(以下略)」
(2)規定の趣旨
商標法3条1項3号に列挙されている品質等の表示は、取引上、一般的に使用されることが多いため、自他識別力がありません。また、このような表示は、取引上、何人も使用する必要があるため、特定人に独占を認めることは妥当ではないと考えられます。このような理由から、このような表示は、商標登録を受けることができないとされています。
(3)その他
誤って商標法3条1項3号に該当する商標が登録された場合でも、その登録商標は無効理由を有することとなるほか(同法46条1項1号)、商標権者の権利行使は制限されます(同法26条1項2号3号)。
また、商標法3条1項3号は、「のみからなる商標」と規定しているため、例えば、産地とその他の識別力ある標章との結合からなる商標は、同号には該当せず、その他の登録要件を備えれば、登録を受けることができます。また、「普通に用いられる方法」で表示されたものではなく、特殊な態様で表示されている場合は、同号に該当しません。
なお、商標法3条1項3号に該当する商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができ」ます(同条2項)。
2.裁判所の判断過程
裁判所は、本件商標の商標法3条1項3号の該当性について、①「LOG」、②「Log」、③「log」及び④「ログ」の使用状況について、役務の主体及び客体を表示するものとしての使用、複合語としての使用並びに単独使用等といった観点から、詳細に事実認定を行った上で、「本件役務に関する分野では、本件商標の査定日以前において、役務の提供の用に供する物の内容について、それが丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物であることを表示するために、その役務の主体や客体の名称の一部に、『LOG』や、『LOG』と社会通念上同一と認められる『Log』及び『log』並びに『LOG』から比較的容易に想起される『ログ』が数多く使用されるとともに、丸太で構成される建物等に関するものであることを表示するために、『LOG』、『Log』、『log』及び『ログ』が他の単語と組み合わさって又は単独で、数多く使用されていた」と認定しました。
その上で、「本件商標の査定時において、「LOG」は、本件役務の提供の用に供する建物の種別について、ログハウス、ログキャビンなどの丸太で構成される建物又は丸太風の壁材で構成される建物という一定の内容であることを、本件役務の需要者又は取引者に明らかに認識させるものということができる」とし、「したがって、本件商標は、その査定時において、本件役務の需要者又は取引者によって、本件役務の質又は提供の用に供する物を表示するものであろうと一般に認識され得るというべきである」としています。
そして、一般また本件役務の分野において、「LOG」は、造語ないし多義語として実際に使用されている等の被告の反論を全て排斥しました。
3.実務的な留意点
本件では、原告に有利な事実の認定において、100点を超す原告提出の証拠が採用されています。また、裁判所は、被告の主張を排斥するに当たり、被告に有利な事実(ひいてはその証拠)の数が少ない点を理由として挙げています。
上述のとおり、商標法3条1項3号該当性の判断においては、需要者又は取引者の一般的な認識の内容が問題となりますが、審判及び訴訟の当事者は、審判等において、自己の主張を基礎づけるためになるべく多くの証拠を集めることが重要といえます。審判を請求する当事者としては、審判の請求前に、なるべく多くの証拠を収集しておく必要があります。
以上
(文責)弁護士 永島太郎