【平成30年7月26日判決(平成29年(ワ)第14637号) 商標権侵害差止等請求事件】
【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品等表示
【判旨】
本件は、浄水器及びその交換用カートリッジ等の販売を業とする原告が、ウェブサイトで原告浄水器に使用することのできる交換用カートリッジを販売する被告に対し、不正競争防止法及び商標法に基づく販売の差止め、損害賠償等を求めた事案である。本稿では、不正競争防止法に関する判断のうち、商品等表示性に関する部分のみを取り上げる。
裁判所は、被告が、原告の周知な商品等表示と類似する標章を用いていたとして、損害賠償請求を一部認容した。一方、被告は訴訟提起前にウェブサイトにおいて当該標章を用いる態様を変更しており、変更後の態様によれば、商品等表示としての使用であるとはいえないとして、差止請求については棄却した。
本件は、ウェブサイトにおいて「タイトルタグ」や「メタタグ」として商品等表示を用いた場合にも、不正競争防止法違反が生ずることを述べるものであり、実務上参考となる。また、判旨は、被告がウェブサイトにおいて標章を用いる態様を説明的記載に変更したことをもって、商品等表示としての使用に該当しなくなったと述べており、表現方法による商品等表示性の分水嶺を検討する上でも参考となる。
第1 事案の概要
1 原告の商品等表示
2 被告標章
3 判旨抜粋
被告グレイスランドは、…被告ウェブページのタイトルタグ及びメタタグに別紙1-1のタイトルタグ欄及びメタタグ欄のとおり記載したこと、その記載によって「楽天市場」のウェブサイトで「タカギ」、「カートリッジ」という語をキーワードとして検索した場合の検索結果の表示画面において、被告商品の写真が表示されるとともにその横に「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ浄水器カートリッジ 浄水カートリッジ(標準タイ...」といった、被告商品の種類に対応したタイトル…が表示されたこと、それらのタイトルの下には「グレイスランド」、「楽天市場店」と表示されたこと、それらのタイトル部分を選択することで当該種類の被告商品を販売する被告ウェブページに移動することができたこと、その検索結果の表示画面においては上記のほかにタイトルタグに記載された説明は表示されず、メタタグに記載された説明も表示されなかったことの各事実が認められる。
以上のとおり…タイトルタグ及びメタタグの記載によって、検索結果を表示するウェブサイトにおいて、タイトルとして被告標章…が表示され、その後に空白部分があり、さらにその後に商品の品名が表示されたり、説明として被告標章が表示され、その後に空白部分があり、さらにその後に商品の品名や説明が表示されたりした。このような態様での被告標章…の使用は、写真や品名で説明される商品の出所を示すものであると認めることが相当である。そして、タイトルタグやメタタグにおける記載によって、ウェブサイトにおいて上記のような表示がされ、同サイトを閲覧した者もその表示を見ることができることに照らすと、タイトルタグやメタタグにおいて、被告標章…は、商品を表示する商品等表示として使用(不競法2条1項1号)されたものと認められる。
被告らは、「取付互換性のある交換用カートリッジ」、「当製品はメーカー純正品ではございません」等といった表示があることや被告ウェブページ上における被告商品の外観写真が原告の純正品とは異なるものであることなどを挙げて、タイトルタグ、メタタグ、被告ウェブページにおいて、被告標章…は商品の出所を表示するものとして使用されていない旨主張する。しかし、上記のとおり、被告標章…の後に空白部分があり、さらにその後に商品の品名等が記載されているという表示の態様、「互換性」という用語は製造販売者が同じ商品間でも用いられること、検索結果の表示画面において表示される内容やそこでの説明の文字の大きさ、当該商品の性質やウェブページでの表示であることに鑑み需要者は全ての記載を注意深く観察しない可能性が相当程度あることなどに照らし、被告らの主張は採用することができない。
平成29年3月23日以降、被告ウェブページのタイトルタグ及びメタタグに別紙1-2…のとおり記載したこと、その記載によって「楽天市場」のウェブサイトで「タカギ」、「カートリッジ」という語をキーワードとして検索した場合の検索結果の表示画面に被告商品の写真及びその横に「タカギに使用出来る取り付け互換性のある交換用カートリッジ(標準タイプ)※当製品はメーカー純正...」…といった被告商品の種類に対応したタイトル…が表示されたこと、それらのタイトルの下には「グレイスランド」、「楽天市場店」との表示がされたこと、それらのタイトル部分を選択することで当該種類の被告商品を販売する被告ウェブページに移動することができたこと、その検索結果の表示画面には上記表示のほかにはタイトルタグに記 載された説明は表示されず、メタタグに記載された説明も表示されなかったことの各事実が認められる。
以上のとおり、平成29年3月23日以降、タイトルタグ及びメタタグの記載によって、検索結果を示すウェブサイトに上記のとおりの表示がされ、また、ウェブサイトによっては、検索結果の表示画面に別紙1-2…のメタタグ欄記載の説明が表示されることになったと推認されるが、それらにおいては、いずれも「タカギ」というカタカナ3文字の後に「に」又は「の」という助詞が付加され、当該商品が原告商品に対応するものであるという、商品内容を説明するまとまりのある文章が表示されている。そして、このような表示内容に照らせば、需要者が上記の表示に接した場合には、それらにおける「タカギ」との表示は、当該商品が対応する商品を示すものであると受け取り、当該商品自体の出所を表示するものであると受け取ることはないと認められる。
【別紙1-1】(抜粋)
【別紙1-2】(抜粋)
第2 検討
標章をウェブサイトのタイトルタグやメタタグに使用した際、当該使用によって検索結果表示画面で顧客に対し当該標章が表示されることとなる態様によって、商品等表示性や商標的使用の有無を判断するというのが実務である。タイトルタグやメタタグに標章を使用しても、ウェブサイトには当該標章は表示されず、検索エンジンの検索結果に表示されることとなるに過ぎない。しかし、検索結果をクリックすれば、直ちに商品販売用のウェブサイトに遷移することから、ウェブサイトに直接標章が表示されないことを理由として、商品等表示性ないし商標的使用を否定する裁判例は見当たらない。
メタタグには、本件で問題となった「ディスクリプションタグ」(別紙1−1等参照)の他、「キーワードタグ」と呼ばれるものがある。前者は、タグ中に記載された標章が検索結果として表示されることとなるのに対して、後者は単に検索結果に影響を与える(つまり、ウェブサイトのキーワードタグに含まれる標章をキーワードとして検索がなされた場合、検索結果として当該ウェブサイトを表示する)のみであり、標章がユーザーに表示されることはない。標章が「キーワードタグ」に用いられた場合に商品等表示性が認められるかどうかについては、裁判例は無いが、本件のように顧客に対する表示の態様によって商品等表示性を判断するのであれば、キーワードタグとしての使用に商品等表示性が認められることは考え難いと思われる。
一方、本件と同様に、ディスクリプションタグに標章を用いた場合には、それがメタタグとしての使用であることを理由として商品等表示性が否定されることはない(ディスクリプションタグにおける標章の使用が商標的使用に該当するとした裁判例として、例えば東京地裁平成27年1月29日判決)。この場合には、例えば使用の態様が説明的記載であって、出所識別表示としての使用でないことをもって、商品等表示性が否定される余地があるに過ぎない。
本件では、「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ浄水器カートリッジ 浄水カートリッジ(標準タイ...」との記載には商品等表示性が認められたのに対し、「タカギに使用出来る取り付け互換性のある交換用カートリッジ(標準タイプ)※当製品はメーカー純正...」(下線は筆者が追加した。)との記載は説明的記載であるとして商品等表示性が否定された。また、被告は「純正品ではない」ことを内容とする打ち消し表示をウェブサイト中に追加していたが、目立つ箇所に記載されていないことなどから、参酌されることはなかった。
本判決に鑑みると、ウェブサイトにおいて他社の商品等表示ないし商標を用いる場合、消費者の目につく部分において、それが説明的使用であることを明確に表示することを要する。本件と同様、打ち消し表示による対策を実施している販売者は多いのではないかと思われるが、望ましい慣行とはいえない。
以上
(文責)弁護士・弁理士 森下 梓