【令和3年1月21日(大阪地裁 平成30年(ワ)第5948号)】

【事案の概要】

本件は、競艇の勝舟投票券(以下「舟券」という。)を自動的に購入する等の機能を有するソフトウェア(以下「原告ソフトウェア」という。)に係るプログラム(以下「原告プログラム」という。)について著作権を共有する原告らが、被告らが制作し、販売していた同様の機能を有するソフトウェア(以下「被告ソフトウェア」という。)に係るプログラム(以下「被告プログラム」という。)は、原告プログラムを複製又は翻案したものであり、被告らは被告ソフトウェアを販売して利益を得たと主張して、著作権法114条2項に基づき、被告ら各自に対し、著作権侵害の共同不法行為による損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【判決抜粋】(下線部筆者)

主文
1 被告らは、連帯して、原告P1に対し1400万円及びうち50万円に対する平成28年5月2日から、うち1350万円に対する平成28年9月2日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、連帯して、原告P2に対し1400万円及びうち50万円に対する平成28年5月2日から、うち1350万円に対する平成28年9月2日から支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
(中略)
第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
  前記前提事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる(被告P4、被告P3の供述のうち、下記認定事実に反する部分は採用できない。)。
  (1) 「ボートスナイパー」の制作(原告P1)
  ア 原告P1は、平成18年ころより、設定した舟券を競艇のオフィシャルサイトから購入することのできるソフトウェアを制作し、これをネットオークション等で販売していたところ、これを購入した原告P2と知り合い、原告P2の要望を受けて、前記ソフトウェアに機能を追加するなどしていた。
  イ その後、原告P2が、前記ソフトウェアに時間が来たら舟券の投票を自動的に行う機能を持たせることを提案したところ、原告P1はこれを制作し、平成19年ころより、原告らが等分の権利を有することを確認して、「ボートスナイパー」の名称で一般に販売した
  (2) 原告ソフトウェアの制作、販売(甲41、証人P7、原告P1)
  ア 原告らは、「ボートスナイパー」自体を販売するほか、その名称を変更したOEM製品を制作し、販売を希望する者に提供することもしていたところ、事務機器の販売をしていたP7は、そのうちの一つを入手してこれに関心を持ち、原告P2に対し、「ボートスナイパー」のP7用のOEM製品を制作するよう依頼した。
  イ 原告らは、P7のために、「ボートスナイパー」のOEM製品である原告プログラム(スペクターナイン)を制作してP7に提供したが、名称や画面を変更した程度で、機能的には「ボートスナイパー」と同一であった。その後、原告P1は、「ボートスナイパー」のバージョンアップをして機能を追加したが、これは原告プログラムには反映されず、逆にP7が原告らに依頼して、原告プログラムに機能を追加してもらうということもあった。
  ウ 原告P1は、原告ソフトウェアをP7に提供するに当たり、無断で複製されないよう、ワイブキーによるハードウェアベースのコピープロテクトを施すとともに、逆コンパイルの手法によってプログラムの複製、改変がされないよう、難読化ツールを使用した。
  エ P7は、原告らに1台分20万円を支払って前記ワイブキーを入手し、原告ソフトウェアをインストールしたパソコンを50万円ないし80万円程度で、30人ほどの顧客に販売した。
  (3) 被告プログラムの制作(甲46、乙4、5、証人P7、被告P4、被告P3)
  ア 被告P4は、被告エーワンの代表者であるP6の紹介で、平成27年11月か12月ころ、P7と面談し、P7が持参した原告ソフトウェア(スペクターナイン)の説明を受けた。その際、P7は、被告P4に対し、原告ソフトウェアは自分のために開発してもらったソフトウェアであること、その開発、検証のために多額の費用を使ったことを説明し、被告P4は、P7が原告ソフトウェアの販売で儲けている旨をP6より聞かされていたいことから、P7に対し、被告P4も原告ソフトウェアを販売したいこと、5台から10台は販売できることを申し出た。
  イ P7は、手付金10万円を受領して被告P4自身のパソコンを一旦預かり、これに原告ソフトウェアをインストールして、前記ワイブキーと共に、被告P4に交付した。
  ウ その後、被告P4は、P7にさらなる原告ソフトウェアの販売の申し出をすることなく、プログラマーである被告P3に対し、期待値と称して、勝率を数値化した推奨設定により、舟券を自動購入する機能を原告ソフトウェアに追加するよう依頼した。
  エ 被告P3は、P7又は原告らから原告プログラムのソースコードの提供を受けることなく、1か月ほどかけて、原告プログラムの逆コンパイルを行うと共に、原告P1が施した難読化を解除し、前記期待値と称する機能を追加した以外には、元々の原告プログラムの機能をそのまま利用して、被告プログラムを作成した。
  (4) 被告ソフトウェアの販売(甲16ないし18、26の1、2、甲30、証人P7、原告P1、被告P4、被告P3)
  ア 被告ガルヒは、被告プログラムのコピー防止用に、HASPキー(ハスプキー)と呼ばれるセキュリティ認証キーを140個用意し、「BOAT HACKER」(ボートハッカー)の名称で被告ソフトウェアをパソコンにインストールし、これにハスプキーを付したものを1台20万円で被告エーワンに卸し、被告エーワンは、その宣伝、販売を被告P5に委託した。
  イ 被告P5は、被告P3が、逆コンパイルをする等、原告プログラムを利用して被告プログラムを作成したことを知っており、平成28年3月ころから、メールを送信したり、勧誘セミナーを開催してプロモーション動画を見せるなどして、被告ソフトウェアを購入すれば年利300パーセントに相当する利益が得られる旨を宣伝し、購入者を募った。被告P3は、被告P5が前述のような宣伝をすることを知っていた。
  ウ 被告P5は、被告エーワンの名義で、平成28年5月2日にP8に被告ソフトウェアを100万円で販売したほか、その前後の3ないし4か月の間に、被告ソフトウェアを、1本60万円ないし100万円で約70本販売した。その際、被告エーワンの代表者であるP6は、被告ソフトウェアの発送作業に協力した。
  エ P8が、購入した被告ソフトウェアを売却しようとしてネットオークションに出品したことから、原告P1は、「ボートスナイパー」とよく似たソフトウェアが「ボートハッカー」の名称で出品されているとして、当初はP7が無断で複製したことを疑い、P7に問い合わせたP7がこれを否定したため、原告P1は、前記P8より「ボートハッカー」を入手し、被告エーワンが売主で、販売担当が被告P5であることを知ると共に、名称は異なるものの、被告ソフトウェアである「ボートハッカー」は、原告ソフトウェアである「スペクターナイン」とほぼ同一であると判断した。
  (5) 原告プログラムのソースコード上の表現(甲31ないし40)
  ア 原告プログラムの使用言語等
  原告プログラムは、Microsoft Visual Studioを使用して、Microsoft Visual Basic言語を用いて作成されている。
  イ 自動運転中の画面レイアウト生成のソースコード(甲34)
  自動運転(ユーザーの設定した条件等に従って原告プログラムが自動的に舟券の購入等の動作を実行している状態)中の画面レイアウトについて、処理の高速化を図り、表中の数値等と的中や外れの結果の画像を重ねて見やすく表示するために、市販のソフトウェアにより自動生成されるコードを使用せず独自のメソッドを作成し、オブジェクトを配列化し、オブジェクト間の関係を工夫した構造を記述している。
  ウ 自動運転の設定を保存するための構造体のソースコード(甲35)
  レジストリに保存された自動運転の設定情報を読み込む方法として、自動運転設定画面の情報を格納する構造体を介する方式を採り、コードを軽量化して見やすくし、処理を高速化するために、構造体を画面に表示される項目に対応した構成及び配列として記述し、その一部の項目について固定配列として記述している。
  エ 自動運転を制御するための構造体のソースコード(甲36)
  自動運転中に使用する電話締切時刻や進入方法、オッズの取得状態、出走表等の情報について、処理の都度、データベースから呼び出すのではなく、何度もデータベースを直接呼び出す処理を省くため、多数の構造体を定義し、画面の表示の記述に適合した入れ子式の構造を採用している。
  オ DEMEDAS情報を取得する処理のソースコード(甲37)
  DEMEDAS情報から必要な要素を抽出処理するに当たって、ウェブサイト側でHTMLの記述を変更されると抽出できなくなりやすいデメリットはあるものの、メンテナンス性を考慮して、できるだけHTMLの記述を省略せずに文字列パターンを指定して記述している。
  カ 舟券購入サイトへの投票処理のソースコード(甲38)
  舟券をインターネット上で購入できるウェブサイト(BOAT RACE投票サイト)にログインし、舟券を購入する動作を自動的に実行するに当たって、ユーザーにログイン処理等が行われていることを認識しやすくし、また、投票サイトの仕様変更等に対応しやすくする目的で、より人間の操作に近い動作をするように、基本的には所要の情報をサイトの画面にセットしてサイトの「ログインする」ボタンを押下する動作をWebBrowser ActiveXコントロールを利用してエミュレートする方法により送信する処理を選択し、サイト側のJavaScript設定によりその方法でうまく動作しない部分については、ボタンの押下処理を残してJavaScriptを動作させつつ、その処理を1秒待って情報を直接POST送信するように記述している。
  (6) 原告プログラムと被告プログラムの対比(甲7ないし12、43、45の1、2)
  ア GUID値
  原告プログラムを構成するプログラムファイルであるBoatRaceCom.DLL及びKcommon.DLLのGUID値が、被告プログラムを構成する同名のプログラムファイルのGUID値と一致している。
  GUIDは、Microsoft Visual Studioを使用してプログラムを開発した際に自動的に生成される識別子であり、128ビットのランダムな数値であるから、偶然一致することはほぼあり得ず、GUID値が一致する場合は、当該プログラムファイルが複製されているといえる。
  原告プログラムのBoatRaceCom.DLLは、前記(5)エ記載の構造体や同カ記載のソースコードを含むプログラムファイルである。
  イ モジュール名
  原告プログラムと被告プログラムとでは、被告プログラムにセキュリティチェック関連のモジュールとプロジェクト定義モジュール等5つのモジュールが追加されているほかはモジュール名が一致している。被告プログラムにも、原告プログラムと同じ「Specter9」名のモジュールがある。
  ウ 実行時の画面表示
  原告プログラムと被告プログラムとでは、実行時の画面表示について、ロゴ、インフォメーションの情報、買目の推奨設定、「払戻情報」と「投票情報」の記載の違いを除き、ほぼ同一である。
  エ マニュアル
  原告プログラムのマニュアル(甲7、43)と被告プログラムのマニュアル(甲8、9)は、ソフトウェア名や問い合わせ先を除き、ほぼ同一である。被告プログラムのマニュアルは、原告プログラムのマニュアルのデータにpdf上でテキストボックスを張り付けるなどして改変して作成されたものと認められる。
 2 争点についての判断
  (1) 争点1(原告プログラムの著作物性)について
  ア プログラムは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり、所定のプログラム言語、規約及び解法に制約されつつ、コンピューターに対する指令をどのように表現するか、その指令の表現をどのように組み合せ、どのような表現順序とするかなどについて、著作権法により保護されるべき作成者の個性が表れることになる。
  したがって、プログラムに著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要するといわなければならない(知財高裁平成21年(ネ)第10024号同24年1月25日判決・判例時報2163号88頁)。
  イ そこで検討するに、前記1(5)で認定したところによれば、原告プログラムは、市販のプログラム開発支援ソフトウェアであるMicrosoft Visual Studioを使用してMicrosoft Visual Basic言語で記述されているから、ソースコードを個別の行についてみれば、標準的な構文やありふれた指令の表現が多用されており、独創的な関数等は用いられていない
  しかしながら、前記(5)イについては、一定の画面表示を得るために複数の記述方法が考えられるところ、一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ、独自のメソッドを作成して独自の構成で記述しており、同ウ及びエについては、一定の処理方式を選択すること自体はアイデアにすぎないが、やはり、一定の結果を得るためにどのように指令を組み合せ、どの範囲で構造体を設定し、配列・構造化するかには様々な選択肢が考えられるところ、その具体的な記述は、一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせ、多数の構造体を設定し、配列・構造化した独自のものになっている。
  また、同オについては、HTMLデータから一定の情報を抽出する指令の記述は選択の幅があるところ、メンテナンス性を考慮して独自の記述をしていることが認められ、同カについても、人間が情報を入力してログインや舟券購入の操作をすることを想定して作成されている投票サイトのサーバーに、人間の操作を介さずに必要なデータを送信してログインや舟券の購入を完了するための指令の表現方法は複数考えられるところ、複数の方式を適宜使い分けて記述し、一連の舟券購入動作を構成していることが認められる。
  そうすると、前記イないしカのソースコードには表現上の創作性があるといえ、これらを組み合わせて構成されている原告プログラムにも、表現上の創作性が認められるというべきである。
  ウ 被告ら(被告エーワンを除く。以下同じ。)は、原告プログラムの機能は、原告プログラムを利用せずに競艇公式ウェブサイト等により実行できると主張するが、競艇公式ウェブサイト等で人間の動作として情報を得たり舟券の購入をしたりすることと、原告プログラムにより情報を得たり自動的に舟券を購入したりすることは異なるから、原告プログラムに創作性がないとする理由にはならない。
  また、被告らは、原告プログラムが利用しているデータが競艇公式ウェブサイトで公知であると主張するが、プログラムに入力される変数であるレース情報等のデータが公知であるか否かはプログラムの著作物性とは関係がなく、失当である。
  さらに、被告らは、原告プログラムのうち自動運転機能の部分は、既存のソースコードを単純作業により組み合わせたものであり、「Boat Advisor」等の類似のソフトウェアが多数存在すると主張する。しかしながら、前記のとおり、原告プログラムは、独自の指令の組合せ、構造体等の設定、構成によって記述されており、ありふれたものとはいえず、証拠(乙2)をみても、「Boat Advisor」はレース予想、データ分析を主たる機能とするソフトウェアであり、原告プログラムのように舟券を自動購入するものであるとは認められず、原告プログラムがありふれたソースコードによって構成されているものとはいえない。
  原告プログラムに著作物性がないとの被告らの主張は、採用できない。
  (2) 争点2(被告プログラムは、原告プログラムを複製又は翻案したものか)について
  ア 前記1(3)で認定したところによれば、被告プログラムは、被告P4がP7より入手した原告プログラムについて、被告P3において逆コンパイルを行うと共に難読化を解除し、期待値と称する機能を追加した以外は、逆コンパイルによって得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから、少なくともそのまま利用した部分において、被告プログラムは、原告プログラムを複製したものということができる。
  イ また、前記1(6)で認定したところによれば、被告プログラムは、少なくとも、原告プログラムのBoatRaceCom.DLL及びKcommon.DLLを複製して作成されたことが明らかである。
  さらに、被告プログラムは、原告プログラムと画面表示やモジュール名がほぼ同じであること、マニュアルに記載された機能が原告プログラムとほぼ同一であることも、上記アの結論と合致する。
  ウ 被告らは、被告プログラムは、被告プログラム独自のアルゴリズムで算出された期待値(人気指数)に基づく予想をユーザーに提供するものであって、その部分に創作性があり、原告プログラムとは全く異なるものであると主張する。
  被告らが主張する期待値の機能については、本件の証拠によっても判然とはしないが、仮に、より勝率が高くなることが期待される買目を計算して推奨し、舟券を自動購入する機能を追加した点で、被告プログラムは原告プログラムと異なる旨をいう趣旨であるとしても、原告プログラムが元々有する買目設定の機能を強化、発展させたものと理解し得るものであると共に、既に認定したとおり、被告プログラムは、期待値の機能を追加した以外の部分については、原告プログラムを複製したものをそのまま利用しているとされるのであり、全体として、被告プログラムは、原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるから、少なくとも翻案にあたることは明らかというべきであり、被告プログラムの作成は、原告プログラムについての原告らの著作権を侵害するものである。
  なお、被告らは、被告プログラムに「買目切捨」や「保険買目」など、原告プログラムにはない機能があると主張するが、被告P3において、期待値の機能以外は原告プログラムと異なる機能はないと供述していること、前記のとおり、マニュアルや画面が同じであること、原告プログラムにも同一の機能があることから、当該主張は上記結論を左右するものではない。
  (3) 争点3(権利者の許諾)について
  被告らは、原告プログラムについてはこれを開発したP7が権利者であり、被告P4は、原告プログラムを複製し改変することについて、P7の許諾を得た旨主張し、被告P4の供述にもこれに沿う内容がある。
  しかしながら、前記1(2)で認定したところによれば、原告らは、ワイブキーによりコピープロテクトを施した上で、原告ソフトウェアをP7に交付し、その都度代金の支払いを受けているのであって、P7が、原告らより原告プログラムの著作権を譲り受けたと解し得る関係にはない。
  また、P7の証言では、被告P4に対し、原告プログラムの複製や改変を許諾したことはなかったとされているし、前記1(3)で認定したところによれば、被告P3は、P7又は原告らから、原告プログラムのソースコードの提供を受けることなく、逆コンパイルを行うと共に難読化を解除して原告プログラムを複製しているのであるから、P7の許諾があったとする被告らの主張は採用できず、これに沿う被告P4の供述は措信できない。
  (4) 争点4(被告らの共同不法行為責任)について
  ア 前記1の(3)及び(4)で認定したところによれば、被告P3は、被告ガルヒの代表取締役として、被告ガルヒの製品として販売する目的で、原告プログラムの逆コンパイルを行うと共に難読化を解除して被告プログラムを制作し、被告P5が行った被告ソフトウェアの宣伝内容も知っていたこと、被告P4は、被告ガルヒの取締役として、販売すると称してP7から原告ソフトウェアを入手したが実際には販売せず、原告プログラムの改変に関するアイデアを出すと共に、原告プログラムのデータを被告P3に提供したこと、被告P5は、勧誘メール、プロモーション動画、勧誘セミナー等を利用して被告ソフトウェアを宣伝し、被告エーワン名義で被告ソフトウェアを販売したこと、被告エーワンは、代表者であるP6において、P7に被告P4を紹介し、被告ガルヒより被告ソフトウェアを仕入れ、被告P5にその販売を委託して、被告ソフトウェアをインストールしたコンピューターを、被告エーワンの名義で販売のため顧客に発送したこと、以上の事実が認められる。
  イ 以上によれば、被告ガルヒについては、代表取締役である被告P3及び取締役である被告P4において原告プログラムの複製又は翻案被告プログラムの複製、販売に直接関与しており、被告P5も、被告プログラムが原告プログラムを複製又は翻案したものであることを知りながらその宣伝、販売をしており、被告エーワンも、代表者であるP6において、被告プログラムが作成された経緯を知りながら、被告ソフトウェアの販売に関与していたと認められるから、被告らは、被告プログラムの作成及び被告ソフトウェアの販売について共同不法行為責任を負うと認めるのが相当である。
  (5) 争点5(損害の発生及び損害額)について
  ア 前記1の(2)ないし(4)によれば、P7は1本20万円を原告らに支払って取得した原告ソフトウェアを1本50万円から80万円で約30本販売したこと、被告P5は、被告エーワンの名義で、被告ソフトウェア約70本を1本60万円から100万円で販売し、その中に、平成28年5月2日のP8に対する100万円の売買が含まれること、以上の事実が認められる。なお、被告ガルヒが被告ソフトウェアを販売するためのセキュリティ認証キーを140個用意したことは前記1の(4)で認定したとおりであるが、これに対応する140本の被告ソフトウェアが販売されたと認めるに足りる証拠はない
  イ 以上によれば、被告らは、被告ソフトウェアを少なくとも70本販売し、うち少なくとも1本は平成28年5月2日に100万円で販売し、その余は少なくとも1本60万円で販売したと認めるのが相当であり、ここから控除すべき経費等の主張はないから、被告ソフトウェアの販売により被告らが受けた利益は、少なくとも4240万円であると認められる。
  そうすると、著作権法114条2項により、原告らの受けた損害額は4240万円、著作権を共有する原告各人について2120万円ずつと推定される。
  また、損害のうち100万円(各50万円)は、平成28年5月2日に被告ソフトウェアが販売されたことによるものであり、被告エーワンを含む被告らは、同日から遅滞の責を負う。その余については販売時期が不明であり、前記のとおり、被告ソフトウェアが3から4か月間販売されていたことからすれば、遅くとも同年9月2日までには、その余の損害すべてに係る侵害行為が行われたと認められるから、原告らのその余の損害について、被告らは、同日から遅滞の責を負うものと認められる。
 3 結論
  原告らは、総計1億4000万円の損害を主張して、その内金として1400万円ずつ及びこれに対する平成28年5月2日から支払済みまでの遅延損害金の請求をするものであるが、前記2(5)で検討したところによれば、原告らの請求は主文の限度で理由がある。
  また、被告P5の申立てに係る仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さないこととする。

【解説】

 本件は、プログラムの著作物の著作権侵害に基づく損害賠償請求が認容された事案である。原告プログラムの著作物性、被告プログラムは原告プログラムを複製又は翻案したものか、損害の発生及び損害額が主な争点となった。
 プログラムの著作物性については、「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性、すなわち、表現上の創作性が表れていることを要する」との規範に基づき判断された。そして、原告プログラムは、ソースコードの個別の行については、独創的な関数等は用いられていないものの、自動運転中の画面レイアウト生成、自動運転の設定を保存するための構造体、等のソースコードにおいて、様々な選択肢が考えられるところ、一定の意図のもとに特定の指令を組み合わせた独自なものになっていると認定された。このため、これらの部分のソースコードには表現上の創作性があるといえ、これらのソースコードを組み合わせて構成されている原告プログラムにも表現上の創作性が認められ、著作物性が肯定された。
 複製・翻案については、規範は明確に示されなかったものの、被告プログラムは、期待値と称する機能を追懐した以外は、逆コンパイルによって得られた原告プログラムの機能をそのまま利用したものであるから、少なくともそのまま利用した部分において、原告プログラムを複製したものであると認定された。この裏付けとして、原告プログラムを構成するプログラムファイルであるBoatRaceCom.DLL及びKcommon.DLLのGUID値が、被告プログラムを構成する同名のプログラムファイルのGUID値と一致していること、画面表示、モジュール名、及びマニュアルに記載された機能がほぼ同じであること、が挙げられた。これらの証拠の裏付けがあれば、被告プログラムは原告プログラムを複製したものであることは、間違いないと考えられる。また、被告プログラムにおいて機能が追加されたとしても、全体として、被告プログラムは、原告プログラムの本質的特徴を直接感得し得るものであるために、少なくとも翻案にあたることは明らかであると判断された。この判断も正当であると考えられる。
 損害額については、原告の計算は、被告ソフトウェア1本当たり100万円で100本販売されたとの想定に基づくものであるが、裁判所の認定は、被告ソフトウェア1本当たり60万円の最低額で、販売本数も最低限の70本との想定に基づくものであった。ただ、原告の請求額が、原告一人あたり1400万円であったため、認容額としては原告の請求を満額で認める形となった。
 本件は、プログラムの著作物性判断に関する着目点が比較的詳細に検討されているため、参考になると考え紹介させていただいた。

以上
(筆者)弁護士 石橋茂