【令和5年4月27日(大阪高裁 令和4年(ネ)第2081号)】

【事案の概要】

⑴ 本件は、釣り具の「うき」である原告商品を製造販売する控訴人が、同じく「うき」である被告商品を製造販売する被控訴人に対し、被告商品1及び被告商品3~5の形態が原告商品1~9の形態(ZF形態)に、被告商品2の形態が原告商品10及び11の形態(SP形態)にそれぞれ類似しており、被控訴人による被告商品の販売は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、同法3条1項に基づき、被告商品の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示、輸出及び輸入の差止め、同条2項に基づき、被告商品の廃棄をそれぞれ求めるとともに、同法4条に基づき、前記不正競争行為によって控訴人が被った損害386万円及びこれに対する当該行為の後の日(被告商品の販売中止を求める催告をした日の翌日)である令和2年3月6日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
⑵ 原審(大阪地裁令和4年8月25日)は、原告商品1~11の形態が不競法2条1項1号にいう「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」に該当するとはいえないと判断し、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、原判決別紙被告商品目録記載1ないし5の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示し、輸出し、輸入してはならない。
 3 被控訴人は、前項記載の商品を廃棄せよ。
 4 被控訴人は、控訴人に対し、386万円及びこれに対する令和2年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
 6 仮執行宣言

第2 事案の概要
  以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による
(中略)

第3 当裁判所の判断

 1 争点1(原告商品1~11の形態の商品等表示該当性)について
  当裁判所も原告商品1ないし11の形態は、不競法2条1項1号にいう「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」、すなわち商品等表示に該当するとはいえないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第3(原判決14頁9行目から29頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。  (1) 原判決24頁11行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。
  「(1) 不競法2条1項1号の趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにあると解される。
  そして、不競法2条1項1号は、「商品等表示」について、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と規定しているところ、商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかしながら、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至った場合には、法2条1項1号の趣旨に照らし、当該形態の出所表示機能が不競法によって保護される余地があると解される。そして、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不競法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するといえるためには、「商品等表示」が「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と規定されていることに照らし、〈1〉 商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、〈2〉 その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。
  そこで、以下、原告商品1ないし11について検討する。」
  (2) 原判決25頁1行目の「これを本件についてみると、」を削る。
  (3) 原判決25頁4行目の「使用時には」から同頁5行目の「状態であり、」までを削る。
  (4) 原判決27頁25行目冒頭から28頁4行目末尾までを次のとおり改める。
  「さらに、前記前提事実によれば、控訴人は、釣りの専門雑誌や書籍等に広告や記事を掲載しており、これらはうきの需要者である釣り愛好家間で原告商品について一定の宣伝効果を有するものということができるが、その広告や記事の内容はうきの形態そのものより製作者であるP1が製作したうきであることが強調ないし印象づけられるものであるから、これから原告商品の形態そのものに周知性が生じるほどの極めて強力な宣伝広告が行われていたとは認められない。」
  (5) 原判決28頁15行目の「識別しているもの」から同頁16行目の「できない」までを「識別しているものと認めるほかない」に改める。
  (6) 原判決28頁16行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
  「ウ そうすると、ZF形態及びSP形態を含む原告商品1~11の形態に周知性があると認めることはできない。」
  (7) 原判決28頁17行目の「ウ」を「エ」に改める。

 2 当審における当事者の補充主張について
  (1) 控訴人は、需要者は、うきの選択に際してその形状の微細な差に着目して商品選択をするから、特別顕著であるといえるためには、かけ離れた特異な形態を備えている必要はなく、他のうきにはない形態を備えていれば足りると主張する
  しかし、証拠(甲155、156、乙26、証人P2(原審)、控訴人代表者(原審)、被控訴人代表者(原審))及び弁論の全趣旨によると、釣り具のうきの形態は、時代によって変化してきているが、その変化は、他の商品一般に見られるような需要喚起のための装飾的観点からのものではなくより良い釣果を上げるための技術的工夫がうきの形態に反映され、徐々に改良されていった結果であると認められるところ、より良い釣果を求めてうきに対して加えられる技術的工夫は、機能及び効用の側面等から自ずと一定の範囲に収れんすることになるため、商品ごとの形態の差は細部に及ぶ上、その差は微細なものになることが認められる。
  そうすると、需要者が、より多くの釣果を求めて釣り具の選択をする際、その形状や色彩を釣り具の性能を推知する資料として観察するとしても、もともと形態の差が細部に及ぶ微細なものである上、そもそも外観から観察してうきの性能の優劣自体を判断することには自ずと限度があることから(控訴人が自立うきの性能を決する上で重要である旨主張する錘の量及び錘の位置は、うきの形態からは分からないはずのものである。)、結局、需要者は、棒うき、円錐うき等といったうきの種類を商品形態によって見分けるとしても、その中で、さらに微細な商品形態の差に依拠して商品選択をするとは考えられず、それよりも、釣り仲間や雑誌等の情報から得られる商品やその製造者の評判ないし評価を主に参考にして商品を選択しているものと考えられる。そうすると、上記のような商品群の中における商品選択の在り方を前提にして、商品形態に特別顕著性があるといえるためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態であることが必要であって、これに反する前提に立つ控訴人の主張は採用できない。そして、原告商品が他社のうきとはかけ離れた特異な形態であるとも認められないから、その商品形態に特別顕著性があるということは到底できない
  また、控訴人は、原告商品に用いられた色彩にも特徴があるように主張するが、その付された色彩は、明らかに釣り人が遠方から見て判別が容易な色が選択されており、その色彩は、そのような目的において採用され得る色彩の中でありふれたものにすぎないから、その彩色部分が他のうきと少し異なっていたからといって原告商品の色彩が出所表示機能を有するようになったとは到底認められない。
  (2) なお、補正の上引用した原判決「事実及び理由」欄の第3の2(3)エ(原判決21頁10行目から同頁26行目まで)の記載に係る認定事実及び甲163の1ないし121、甲165の1ないし27によれば、原告商品の製作者である控訴人の前代表者のP1は、クロダイ(チヌ)釣りの世界で「名人」と称され、多くの雑誌で特集が組まれる程度に同業界で著名な人物であり、原告商品がそのP1が製作したうきであるという事実も多くの雑誌で紹介されている事実が認められるから、原告商品は、P1が製作したうきとして釣り愛好家の間で知られている商品であること自体は認められる。しかし、前記のとおり、需要者は、主に商品やその製造者の評判ないし評価を参考にして商品を選択すると考えられることからすると、需要者は、原告商品を、その商品名を手掛かりとして、有名なP1が製作したうきであると認識した上で他の商品から識別して認識するものと考えられる(現に原告商品自体のみならず、そのパッケージには、P1が製作したうきであることが一目で分かるよう行書体からなる「遠矢」の文字が記載されており、これによって他社の商品であるうきと識別されていると認められる。)。
  そうすると、周知性という点では、原告商品について、これを認める余地があるが、それはあくまで「遠矢」ないし「遠矢うき」という商品名と結びついて知られているものと認めるのが合理的であって、その商品形態の周知性を裏付けるものではないというべきである。
  (3) したがって、原告商品1ないし11の形態は不競法2条1項1号に規定する「商品等表示」に該当するとは認められないから、不競法2条1項1号該当を前提とする控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないというほかない。

 3 結論
  以上によると、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないからいずれも棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

【解説】

 控訴人(原審の原告)は、被控訴人(原審の被告)による被告商品の販売は不競法2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張しているところ、原審(大阪地裁令和4年8月25日)においては、原告が販売する原告商品の形態が同号の「商品等表示」に該当するための要件である特別顕著性及び周知性のいずれも否定された。本判決でも、原審と同様、原告商品の形態についての特別顕著性及び周知性は、いずれも否定されている。
 また、補充主張として、控訴人は、需要者は、うきの形状の微細な差に着目して商品選択をするから、特別顕著であると言えるためには、かけ離れた特異な形態を備えている必要はなく、他のうきにはない形態を備えていれば足りると主張した。しかし、裁判所は、うきの形状の差は微細なものであるから、需要者は商品形態の差に依拠して商品選択をするとは考えられず、釣り仲間や雑誌等の情報から得らえる評判ないし評価を主に参考にして商品を選択すると考えられるから、商品形態に特別顕著性があるといえるためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態であることが必要、という原審の規範を維持した。原審では、原告商品は釣り用のうきという実用品である点から、需要者が形状やデザインを鑑賞するためのものではなく、ボディの色や形状を主に観察して違いを見極める商品ではないことから、商品形態に特別顕著性があるといえるための規範を示したのであり、本判決でも当該規範が維持されたことは妥当なものと考えられる。
 さらに、裁判所は、原告商品の製作者P1(控訴人の前代表者)は、クロダイ釣りの世界で「名人」と称され、原告商品はP1が製作したうきとして釣り愛好家の間で知られている商品であること自体は認めたものの、その周知性は「遠矢うき」という商品名と結びついて知られているものであって、商品形態そのものに周知性を裏付けるものではないと判断した。控訴人が主張しているのは、原告商品の商品形態が商品等表示に該当するということであるから、商品名と商品形態を区別した上記判断も妥当なものと考えられる。
 筆者は原審を本欄で取り上げたが、控訴審でも判断が維持された例として、本判決も紹介させていただいた。

弁護士 石橋茂