【令和4年6月13日(大阪地裁 令和3年(ワ)第4467号)損害賠償等請求事件】
【キーワード】
不正競争、形態模倣、デッド・コピー、ファッションデザイン、衣服、コート
【事案の概要】[i]
原告は、下記「⑴」の婦人用のスプリングコート(以下「原告商品」という)を販売していた一方、被告が下記「⑵」の婦人用スプリングコート(以下「被告商品」という)を販売していた。原告は、被告に対し、被告による被告商品の販売が、不正競争防止法2条1項3号の不正競争(商品形態模倣行為)に該当するとして、損害賠償等を請求した事案である。
⑴ 原告商品(正面視のみ、腰ベルトあり)
⑵ 被告商品(正面視のみ、腰ベルトあり)
原告商品及び被告商品は、いずれも婦人用のスプリングコートであり、その構成態様は下記「⑶」の「原告商品」及び「被告商品」欄記載のとおりである。
⑶「原告商品及び被告商品の構成態様」
本稿では、特に原告商品と被告商品の形態の実質的同一性に焦点を当てて説明する。
【判旨(概要)】
裁判所は、以下の理由により、被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一であるため、被告商品は原告商品の形態を模倣した商品(不正競争防止法2条1項3号)に該当するとした。
- 原告商品の形態と被告商品の形態とを対比すると、両者は、別紙「原告商品及び被告商品の構成態様」記載のとおり構成態様A~G とa~g が共通し、原告商品と被告商品から受ける商品全体としての印象が共通することにより、商品全体の形態が酷似している。
- また、原告商品と被告商品とは、背面上部のヨークの裾が縫い付けられているか、浮きヨークであるか(構成態様H、h)、カラーとラペルの間にノッチがあるか否か(構成態様I、i)において相違する。また、被告においても、両商品について、背面上部の浮きヨークの有無、カラーとラペルの間のノッチの有無、生地及びその質感の差異、色合いの違い、背の内部の切り替えの有無等の相違点があるが主張していた。しかし、これらの相違はいずれも、商品の全体的形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまる。
【若干のコメント】
不正競争防止法2条1項3号(商品形態模倣行為)は、ファッションデザインの模倣(デッド・コピー)に係る紛争において、活用されることの多い規定である。
形態の実質的同一性について、裁判例の傾向としては、基本的には需要者基準により判断され、装飾的形態がない衣服であるほどシンプルな形態となる以上、商品全体としてどこかに相違があれば、それをもって需要者代替性を欠く傾向にあるとする見解もある[ii]。一方、装飾性形態のないデザインの衣服(コート等)について争われた事例は数少ないものの、東京地判平成14年11月27日(平成13年(ワ)第27144号)、東京地判平成30年8月30日(平成28年(ワ)第35026号)や本件は、両商品の実質的同一性を肯定している。
本件では、原告は、原告商品と被告商品との間で複数の構成態様が共通していると主張しているが、特に原告商品を特徴づける構成は、長袖、ロング丈であること、腰部の帯状ベルトの構成あたりであろう。裁判所は、少なくともこれらの点を「商品全体の印象に影響を与える特徴的な構成態様に当たる」としていた。これに対して、被告は、両商品について、背面上部の浮きヨークの有無、カラーとラペルの間のノッチの有無、生地及びその質感の差異、色合いの違い、背の内部の切り替えの有無等の相違点を主張したが、裁判所は、いずれについても「商品全体の形態に与える変化に乏しく、商品全体からみると些細な相違にとどまる」とした。
以上のとおり、本件では、シンプルなデザインのスプリングコートの模倣が争われたが、装飾的形態の少ない衣服に対する判断の一つの指標となりうるため、本稿で取りあげた。
[i] 「⑴」ないし「⑶」に掲載する画像及び対比表は、いずれも裁判所ウェブサイトより抜粋
[ii] 田村善之・青木博通・青木大也・関真也・中川隆太郎・山本真祐子・平澤卓人「不正競争防止法2条1項3号によるファッションデザイン保護(1)」有斐閣Onlineロージャーナル(2023年)(YOLJ-L2305003)等
以上
弁護士 藤枝典明