【令和5年12月14日(大阪地裁 令和5年(ワ)第73号)】

 

【キーワード】

不正競争防止法、不正競争、商品等表示、商品の形態

 

【事案の概要】

 本件は、原告ソール1[1](原告が用いるソールをいう。以下同じ。)を用いた婦人用靴(以下「原告商品」という。)を製造・販売する原告が、原告ソール1が周知又は著名な原告の商品等表示に該当し、これと同一又は類似する被告ソール(被告が用いるソールをいう。以下同じ。)を用いて靴を製造・販売する被告の行為が不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に該当すると主張して、①不競法3条1項及び2項に基づき被告ソールを用いた靴製品の販売等の差止請求及び廃棄請求を、②不競法4条に基づき損害賠償及び遅延損害金の支払を請求した事案である。

 

【争点】

原告ソール1の形態が周知又は著名な商品等表示に該当するか。

 

【判決(一部抜粋)】

第1・第2・第3⑴ 省略

第4 判断

1 争点1(原告ソール1の形態が周知又は著名な商品等表示に該当するか)について

「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年12月26日判決・判タ1408号235頁参照)。
なお、原告は、その主張からみて、原告商品の需要者を、一般消費者(及び卸売業者)と主張するものと解される。

⑴ 原告商品の販売開始時期

証拠及び弁論の全趣旨によれば、令和2年5月号の雑誌「フットウェア・プレスFW」に、原告ソール1を用いた原告の商品が掲載されたこと(甲22の2)が認められ、また、令和元年の後半に発刊されたと認められる刊行物(甲30の1)に、原告ソール1と思われる靴裏の写真が掲載されていることが認められるものの、これ以前の原告ソール1が使用された商品の存在を直接証明する証拠はない。
この点、証拠によると、令和3年7月号の前掲誌には、原告商品(商品名「ドラエスダブリュー7032」)につき、同商品が「8年前(引用者注:平成25年)から売れているロングセラー商品」であると紹介されたこと(甲22の16)、令和5年5月に出力されたECサイトの画面印刷物において、同ECサイトで販売された原告ソール1を用いた商品(ただし、ブランド名は「Milla Sports」)の購入者が平成27年11月に商品レビューを投稿していることが認められるが(甲44の8)、そこで言及された商品において、ソールの形態が不変であったことを認めるに足りる証拠はなく、使用されたソールが原告ソール1と同一であると推認することは困難である。
原告は、平成25年から原告商品を販売したと主張するところ、自らその登録意匠の無効(意匠法3条)を来す主張をする意図は判然としないものの、その販売開始時期は、早くて令和元年の後半とする限度でこれを認めることができるというべきであり、これより以前の販売を主張する部分は、理由がない。

⑵ 特別顕著性について

原告ソール1が、合成樹脂を用いた厚底ソールであり、原告主張の特徴1ないし特徴4の形態を備えていること、一部の溝の形状が略コの字状となっていることについては、当事者間に争いがない。そこで、これらの形態やその組み合わせが、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴といえるか、以下検討する。

ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態について

証拠(乙20)によれば、イタリアのVibram社(ソールのメーカー)が、原告商品1(原文ママ)の販売の相当前である昭和59年(1984年)にカジュアルシューズ向けの合成樹脂(EVA)製の超軽量ソールの製造を開始したことが認められるところ、合成樹脂製のソールの厚みを厚くすることが製造技術上困難であるような事情は見当たらない(令和5年7月時点では、複数の他社から合成樹脂製の厚底ソールを使用した婦人靴が販売されていた(乙21、22)。)。そうすると、合成樹脂を用いた厚底ソールである形態が、従来の同種商品と異なる形態とはいえない。

イ 特徴1(靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視において全体として略格   子状のイメージを奏すること)について

証拠(乙7の1、7の3ないし7の6)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の他社から靴底裏面に複数の縦溝と横溝が施されて全体として略格子状の形態の靴底の意匠登録出願がされ、その後、いずれも意匠登録がされたことが認められるから、特徴1の形態はありふれた形態というべきである。
また、ソールの溝の深さを深くすることによって排水機能や防滑機能が実現されることは一般的な知見といえる(乙8)から、特徴1の形態は技術的機能に由来する形態といえる。

ウ 特徴2(靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、ii)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)同士が対向する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右3対の横溝2よりもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配されていること)について

証拠(乙7の1、7の4、7の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の他社から靴底裏面の中央より前方(つま先)部分に概ね2本の縦溝と、左右端から形成され上記縦溝と交差し、先端同士が対向する左右3ないし5対の横溝と、同横溝よりつま先側において左端から右端に形成される横溝とが配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。また、上記横溝の数を原告ソール1の「横溝2」のように3対とすることに特別な意義があると解する理由は見当たらない。そうすると、特徴2の形態は、ありふれた形態というべきである。また、特徴2の形態は、上記イと同様の理由から、技術的機能に由来する形態ともいえる。

エ 特徴3(靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面4aを有すること)について

証拠(乙7の4、7の6、10の1、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の他社から、①つま先から指の付け根付近に複数の横方向の段部が配され、②この段部が後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面を有する靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる(ただし、乙7の4の登録意匠の靴底には、上記②の構成は含まれていない。)。そうすると、特徴3に係る形態は、ありふれた形態というべきである。

オ 特徴4(靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパー面5aを有すること)について

証拠(乙7の4、10の5)によれば、原告商品の販売開始前に、複数の他社から、靴底裏面の踵に相当する部分に横方向に伸び、後方につれて表面側に傾斜するテーパー面を有する複数の段部が配された靴底の意匠登録出願がされ、その後いずれも意匠登録されたことが認められる。そうすると、特徴4に係る形態は、ありふれた形態というべきである。

カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態について

当該形態は、原告の主張によっても、原告代表者の名字の頭文字「F」をなぞったデザインの一つにすぎない。また、当該形態が施された範囲は、親指から薬指にかけた部分及び小指部分であって、原告ソール1全体の約6分の1程度と非常に狭く(甲5)、需要者が着目するとは解し難い。

キ 以上によれば、原告ソール1の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するとはいえないから、原告ソール1の形態に特別顕著性があると認めることはできず、原告の主張は理由がない。

(3) 周知性又は著名性について

なお、周知性について、念のため検討する。
原告は、原告商品の販売開始後、①平成30年以降に複数の展示会に原告商品を出展したことや、②多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介されたこと、③国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと、④平成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったことなどから、原告ソール1が令和2年秋頃には周知になったと主張する。
しかしながら、そもそも原告主張の原告商品の販売開始時期をその通り認定できないことは前記のとおりであるが、原告ソール1の需要者は、婦人靴の購入を検討する一般消費者(及びその取引業者)であるところ、当該需要者は、靴全体のデザイン(中でも人目を引くアッパーの部分)や着用感に着目し、仮にソールに注意を払うとしても、その注意はおおむね機能的な観点で向けられるものと解され、ソールの形態や材質それ自体から出所を認識するとの一般的な経験則は認め難いものと解されるから、原告主張の事情は直ちに原告ソール1が周知であることを基礎づけるものではない。
その上で検討すると、上記①については、各展示会に原告商品が出展されたとしても、原告ソール1がどのように展示されていたかは明らかではない。
上記②については、令和2年5月号から令和4年1月号の業界雑誌「フットウェア・プレスFW」には原告ソール1の画像が掲載されているが(甲22の2ないし22の22)、同誌は一般消費者向けの媒体としての性質は薄いものと認められるうえ、原告商品が掲載された業界外雑誌(甲26、28、30(いずれも枝番を含む。))は、大半において通信販売の媒体としてのものであって、商品それ自体を紹介するものとは性質を異にするうえ、原告ソール1は掲載されておらず、掲載されている場合でも掲載範囲は小さく(甲24の1ないし24の4、26の1ないし26の4、28の1、28の2、30の1、30の2、32)、需要者が原告ソール1の形態に着目するとは解し難い。
上記③については、原告の国内直営店舗数は10店舗にとどまる(甲53)。また、複数のECサイトに原告ソール1を用いた商品が掲載されているが、原告ソール1の画像が掲載されていない例も多数存在するうえ、掲載されている場合も、複数の商品画像中の3枚目以降に掲載されているから、需要者が原告ソール1の形態に着目するとはいえない。また、ECサイトに掲載された原告ソール1を用いた商品は、原告とは異なる他社ブランド名で販売されているものが多く、このような掲載方法によって、掲載されたソールが原告のソールであると需要者が認識するとはいえない(甲44の1ないし47の6、弁論の全趣旨)。
上記④については、原告の主張を前提としても、業界内における売上高が極めて上位にあるものとはいえない。
以上によれば、原告ソール1の形態が周知であると認めることはできず、他に、本件証拠上、原告ソール1の形態が周知性又は著名性を有すると認めるに足りる証拠はない。

(4) 小括

したがって、原告ソール1の形態は、周知な商品等表示に該当するとか、まして著名な商品等表示であるとかと認めることはできない。

 

【若干の解説等】

1 総論

 不競法2条1項1号は他人の周知な商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用等して他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を、同2号は他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを自己の商品等表示として使用等する行為をそれぞれ不正競争と規定し、差止めや損害賠償請求の対象としている(不競法3条、4条)。
ここでいう商品等表示とは「人の業務係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」を指し(不競法2条1項1号)、商品の形態もこの商品等表示に該当することがあり得る。ただし、商品の形態は本来的に商品の出所を表示する目的を有するものではないことから、これが商品等表示に当たるとするためには一定の要件を満たすことが求められる。その要件とは①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していること(特別顕著性)、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)の二つである(知財高判平成24年12月26日判時2178号99頁等)。
本件は靴用のソールの形態が商品等表示に該当するか、以上2つの要件のもと判断された事例である。

2 本件の判断

 本判決では、結論として原告ソール1の形態(以下「本件形態」という。)について特別顕著性及び周知性の双方が否定され、原告ソール1の形態の商品等表示該当性が否定された。以下、それぞれの要件についてそれが否定された理由を見ることとする。

⑴ 特別顕著性

 本判決では、本件形態の特徴が抽出され、それぞれにつき特別顕著性を肯定する事情になり得るかが判断されている。その特徴とは以下の6つである。

ア 合成樹脂を用いた厚底のソールであるとの形態

イ 靴底裏面に複数の縦溝1及び横溝2、3を有することで、裏面視において全体として略格子状のイ メージを奏すること(特徴1)

ウ 靴底裏面の前方部分に、i)左右一対の2本の前記縦溝1と、ii)左右端から形成され前記各縦溝1とそれぞれ交差し、先端(中央側端部)同士が対抗する左右3対の前記横溝2と、iii)前記左右の3対の横溝2よりもつま先側において左端から右端にかけて形成される横溝3とが配されていること(特徴2)

エ 靴底裏面において、つま先部分から指の付け根に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の複数の段部4を有し、この段部4が、後方につれて裏面側に傾斜するテーパー面4aを有すること(特徴3)

オ 靴底裏面において、踵に相当する部分に、横方向に伸びる畝状の複数の段部5を有し、この段部5が、後方につれて表面側に傾斜するテーパー面5aを有すること(特徴4)

カ 一部の溝の形状が略コの字状となっているとの形態

 このうちまずアについては、原告商品の販売前から合成樹脂製の超軽量ソールの製造が開始されており、その厚みを厚くすることが困難であるような事情はないことから、従来の同種製品と異なるものではないことが導かれている。
またイ~オについては、原告商品の販売開始前からそれぞれの特徴に係る形態と同一又は類似の意匠につき意匠登録出願がされ、その後意匠登録がされていることから、当該形態はいずれもありふれたものに過ぎないことが導かれた。
なお、イ及びウについては特別顕著性を否定する事情として、これらの形態が技術的機能に由来するものであることも指摘されているが、これは同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態は「商品等表示」に該当しない、と解されていることによると考えられる。敷衍すると、仮にこのような形態にまで商品等表示としての保護を与えるとすると、不競法2条1項1号が目的とする出所表示機能の保護を超えて共通の機能及び効用を奏する同種の商品の市場参入が阻害されることになるが、このような事態は実質的に競合する複数の商品の自由な競争の下における出所の混同の防止を図ろうとする同号の趣旨に反する結果となる。そのため、上記のような形態については商品等表示に該当しないものとされており(東京高判平成13年12月19日判時1781号142頁)、本判決でイ及びウについて技術的機能に由来するものであることが指摘されているのはこのような事情によるものと考えられる。
最後にカについては、「F」をなぞったデザインに過ぎず、またこれが施された範囲も非常に狭く、需要者が着目するとはいえないことから、特別顕著性の根拠にはならないとされた。
以上から、本判決では本件形態につき特別顕著性が否定されている。

⑵ 周知性

 本件形態につき特別顕著性が否定された時点で本件形態の商品等表示該当性は否定されるものではあるが、本判決では「念のため」という名目で周知性についても判断がされ、結論としてこれが否定されているため、その理由についても以下で簡単に触れる。
原告から本件形態の周知性の根拠として主張された内容は主に
①平成30年以降に複数の展示会に原告商品を出展したこと
②多数の業界雑誌や業界外雑誌に原告商品が紹介されたこと
③国内直営店舗や複数のECサイトで原告商品が販売されたこと
④平成28年以降の原告の靴製品の売上高が伸び、業界内で上位となったこと
であった。
本判決ではまず一般論として、原告商品の需要者(婦人靴の購入を検討する一般消費者(及びその取引業者))はソールではなく靴全体のデザイン・着用感に着目するもので、ソールに注意を払うことがあるとしても、それは概ね機能的な観点で向けられるもので、出所を認識するという経験則は認めがたいということが指摘されている。その上で、①~③については、需要者が本件形態から出所を認識するような展示・掲載方法であったことが否定され、又は明らかでないとされ、④についてはそもそも業界内における売上高が極めて上位にあるものとはいえないとされ、結論として本件形態の周知性が否定された。

3 補論

 本判決で本件形態の商品等表示該当性が否定されたことからも窺えるように、商品の形態について商品等表示該当性が肯定されるハードルは一般的に低いものとはいえない。
なお余談ではあるが、商品の形態についてはこれを立体商標として出願することも可能であり、商標登録がされるかの判断においては、商標法3条1項3号との関係で当該形態に自他商品識別力・出所表示機能があるかの判断が行われることになる。そして、この判断において検討される事項には、上記の特別顕著性及び周知性の判断において検討される事項と実質的に重なる点が多く、商品の形態について商標登録出願やその拒絶査定、又は拒絶査定不服審判に係る審決が存在する場合には、その内容(特に審決の内容)が当該形態の商品等表示該当性を検討する上でも有用な資料となり得る。そのため、商品の形態が商品等表示に該当することを前提に何らかの主張・請求等を受けた場合には、反論を検討する上で、これらの資料の有無を調査することも有益といえる。

[1] 原告は原告商品の販売開始後、原告ソール1とは別のソール(原告ソール2)を用いたサンダルも販売していた。

 

以上
弁護士 稲垣紀穂