【令和4年9月22日(東京地裁 令和2年(ワ)第15955号)】

【判旨】

 原告会社が、被告会社に対し、主位的に、被告会社による同社の本件商品の輸入及び譲渡(本件行為)は、原告会社の商品の形態を模倣した商品を輸入、譲渡する不正競争であるとして、不正競争防止法(不競法)4条に基づき、予備的に、本件行為は、原告会社の有する考案の名称を「調理用具スタンド」とする本件実用新案権を侵害するとして、不法行為に基づき、損害の一部として2090万円の支払を求め、更に予備的に、被告会社は、原告会社に無断で本件実用新案権に係る実用新案の実施品である本件商品を輸入、譲渡し、原告会社の損失により利得しているとして、不当利得返還請求権に基づき、400万円の支払を求めた事案。裁判所は、被告会社が原告会社の商品が販売されていることを認識した後の形態模倣行為である本件商品の輸入、譲渡について、少なくとも過失があったと認められるが、平成28年8月9日以降の本件商品の譲渡については、不競法19条1項5号イの規定により、不正競争として損害賠償請求をすることはできず、また、本件実用新案権侵害について、被告会社に故意、過失があったとは認められないが、同社は法律上の原因なく、実施料相当額の利益を受け、原告会社はこれにより損失を受けたと認められるなどとして、159万7112円の限度で、不正競争に係る主位的請求を一部認容するとともに、66万9289円の限度で、不当利得に係る予備的請求を一部認容した。

【キーワード】

不正競争防止法2条1項3号、形態模倣、実用新案権、損害賠償

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要

 原告は、プラスチック製品の製造、加工、販売等を目的とする株式会社であり、被告は、テレマーケティング業等を目的とする株式会社である。原告は、平成25年8月9日から、本件各考案に係る別紙原告商品のとおりの家型の「アピュイマルチスタンド」という名称の台所用多機能スタンド(以下「原告商品」という。)を小売り又は卸売りにより販売している。被告は、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間に、別紙被告商品のとおりの家型の「鍋ふたスタンド」(以下「被告商品」という。)を輸入した。被告は、平成27年8月4日から平成28年8月8日まで、輸入した前記の被告商品のうち、一部を小売価格1000円(消費税抜き)で販売し、一部を被告が別途販売する「セラフィット」という名称のフライパン(以下「被告フライパン」という。)の購入者にいわゆる「おまけ」として無償譲渡した。(争いがない事実のほか、甲19、20)また、被告は、平成28年8月9日から令和元年6月11日まで、輸入した前記の被告商品のうち、一部を小売価格(消費税抜き)1000円で販売し一部を卸売価格(消費税抜き)10円で販売し、一部を被告フライパンの購入者に「おまけ」として無償譲渡し、一部を廃棄した。

被告商品と原告商品の形態は以下のとおりであり、両形態の実質的同一性については争いがなかった。

 原告商品被告商品






(2)争点

 本件の争点は、下記のとおりである。

不正競争に係る損害賠償請求について
 ① 不正競争について被告に故意又は過失があるか。
 ② 平成28年8月9日以降の被告商品の譲渡が、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した原告商品についてのものか。
 ③ 不正競争について原告が受けた損害及び額
実用新案権侵害に係る損害賠償請求について
 ④  実用新案権侵害について被告に故意又は過失があるか。
 ⑤  実用新案権侵害について原告が受けた損害及び額
不当利得返還請求について
 ⑥  被告が法律上の原因なく本件実用新案権の使用料相当額を利得し、これによって原告が損失を受けたか。
 ⑦  原告が受けた損失及び額

2 裁判所の判断

(1)有償譲渡分(不競法)

 まず、裁判所は、不正競争防止法2条1項3号の適用に関し、被告が原告商品の形態を認識した後の販売について少なくとも過失があると認定しつつ、最初に販売された日から3年を経過した後の譲渡については、それ以前に輸入された商品であっても、不正競争防止法の適用対象外であると認定した。その上で、裁判所は、有償譲渡分の損害について、不正競争防止法5条1項~3項の各計算式により損害額を算出し、最も金額の大きい2項による計算に基づき損害額を認定した。なお、輸入及び無償譲渡分についての損害賠償は認められなかった。

※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

 2  争点①(不正競争について被告に故意又は過失があるか。)について
 被告は、平成27年5月頃、台湾仕入先から被告商品を紹介され、調査を行った結果、被告商品の形態と実質的に形態が同一の原告商品が販売されていることを認識した(前記第2の1⑷ウ)から、その後に行った形態模倣行為である被告商品の輸入、譲渡(同ア、前記1⑵イ)について、少なくとも過失があったと認められる。
 3  争点②(平成28年8月9日以降の被告商品の譲渡が、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した原告商品についてのものか。)について
 日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為については、不正競争防止法4条等の規定は適用されない(同法19条1項5号イ)。原告商品は日本国内において平成25年8月9日から販売された(前記第2の1⑶)から、平成28年8月9日以降の被告商品の譲渡は、販売された日から3年を経過した原告商品についてのものである。仮に、同譲渡に係る被告商品が同日より前に輸入されたものであったとしても、同日以降にされた譲渡を理由として不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求をすることはできないと解される。
  したがって、被告による平成28年8月9日から令和元年6月11日までの被告商品●(省略)●個の有償譲渡及び●(省略)●個の無償譲渡(前記第2の1⑷ア)は、不正競争(形態模倣行為)として損害賠償請求をすることはできない。
 4  争点③(不正競争について原告が受けた損害及び額)について
   ⑴  被告商品の輸入及び有償譲渡について
    ア 被告は、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間に輸入した●(省略)●個の被告商品のうち、平成27年8月4日から平成28年8月8日までに●(省略)●個を、同月9日から令和元年6月11日までに●(省略)●個を販売した(前記第2の1⑷ア)。
  被告による被告商品の輸入、譲渡は、原告商品の形態模倣行為に該当する(前記第2の1⑷イ、前記2。もっとも、平成28年8月9日から令和元年6月11日までの被告商品●(省略)●個の譲渡については、不正競争として損害賠償請求をすることはできない(前記3)。)。
    イ(ア) 不正競争防止法5条1項の算定による損害額
・・・(中略)・・・
 (イ) 不正競争防止法5条2項の算定による損害額
・・・(中略)・・・
 (ウ) 不正競争防止法5条3項の算定による損害額
・・・(中略)・・・
   ウ 以上から、平成27年8月4日から平成28年8月8日までの被告商品●(省略)●個の有償譲渡について、原告が受けた損害の額は、●(省略)●円(前記イ(ア))、13万3783円(同(イ))、●(省略)●円(同(ウ))のうちの最も高い額である13万3783円であると認められ、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち1万5000円は、被告の不正競争と相当因果関係がある損害として被告が負担すべきである。
  以上の合計は、●(省略)●円となる。

(2)無償譲渡分(不競法)

 また、裁判所は、被告の他の商品の「おまけ」として無償譲渡された分について、不正競争防止法5条1項及び同3項の適用を認めつつも、1項については原告商品と市場が異なること等を理由として、不正競争防止法5条1項ただし書に定める「販売することができないとする事情」により85%の減額を行った上で、損害額を認定した。

   ⑵  被告商品の輸入及び無償譲渡について
   ア 被告は、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間に輸入した●(省略)●個の被告商品のうち、平成27年8月4日から平成28年8月8日までに●(省略)●個を、同月9日から令和元年6月11日までに●(省略)●個を、被告フライパンの購入者に無償譲渡した(前記第2の1⑷ア)。
 被告による被告商品の輸入、譲渡は、原告商品の形態模倣行為に該当する(前記第2の1⑷イ、前記2。もっとも、平成28年8月9日から令和元年6月11日までの被告商品●(省略)●個の譲渡については、不正競争として損害賠償請求をすることはできない(前記3)。)。
   イ(ア) 不正競争防止法5条1項の算定による損害について
 原告は、被告による平成27年8月4日から平成28年8月8日までの被告商品●(省略)●個の譲渡によって営業上の利益を侵害され、被告による同譲渡がなければ、原告商品を販売することができた関係があったと認められる。
 原告商品の不正競争防止法5条1項における1個当たりの限界利益の額は●(省略)●円である(前記⑴イ(ア))。
 もっとも、被告は、被告商品●(省略)●個を、被告フライパンの購入者に「おまけ」として無償譲渡した(前記第2の1⑷ア、前記1⑵イ)。被告は、平成26年5月から平成28年8月までの約2年間に、約●(省略)●万円もの費用を投じて、複数の著名人を起用し、各種媒体において、大量かつ集中的に被告フライパンの特徴を紹介する宣伝広告を行い、被告フライパンを170万個以上売り上げたのに対して、被告が平成27年8月4日から平成28年8月8日までの約1年間に販売した被告商品は●(省略)●個であった。●(省略)●被告商品の小売価格が1000円であるのに対し、被告フライパンは、セラミックコーティングを施したフライパンであり、1万4800円から4万1559円と原告商品の価格の十倍以上の価格で販売されているのであるから、被告フライパンを購入して被告商品を入手したことにより原告商品を購入しなかった消費者がいなかったとまではいえないものの、原告商品を入手したいと考える消費者がそのために敢えて被告フライパンを購入したとは一般的には考え難い。
 そうすると、被告は、被告フライパンの特徴や宣伝広告により、被告フライパンについて、フライパンを求める顧客に対する顧客吸引力を獲得してこれを多数販売し、被告フライパンの購入者に「おまけ」として被告商品を無償で譲渡することにより被告商品●(省略)●個を譲渡するに至ったといえる。したがって、本件においては、被告商品が実際に譲渡された市場は原告商品の市場とは異なっていたともいえる部分が相当に大きいという、被告商品の譲渡と原告商品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情が存在する。そして、前記の事実関係に照らせば、被告商品の無償譲渡個数●(省略)●個の約85%に相当する数量である●(省略)●個について、原告が販売することができないとする事情(不正競争防止法5条1項ただし書)があるというべきである。
 したがって、原告は、被告商品の譲渡数量●(省略)●個に原告商品の1個当たりの限界利益●(省略)●円を乗じて得た額から、前記販売することができないとする事情に相当する数量●(省略)●個に応じた額を控除した●(省略)●円を原告の損害の額とすることができる。
 【計算式】●(省略)●×●(省略)●-●(省略)●×●(省略)●≒●(省略)●
 なお、被告による前記譲渡に係る被告商品●(省略)●個の輸入について、その譲渡による前記損害額を超えて原告が損害を受けたとは認められない。
 (イ) 不正競争防止法5条2項の算定による損害について
 原告は、被告による平成27年8月4日から平成28年8月8日までの被告商品●(省略)●個の譲渡によって営業上の利益を侵害され、被告による同譲渡がなければ、原告商品を販売することができた関係があった(前記(ア))。もっとも、不正競争防止法5条2項所定の侵害者が侵害行為により受けた利益の額は、侵害品の売上高からその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額をいうところ、被告は、被告フライパンの特徴等を宣伝して被告フライパンを販売したのであり、被告商品●(省略)●個は被告フライパンの購入者にキャンペーン中の「おまけ」として無償譲渡した(前記第2の1⑷ア、前記1⑵イ)のであって、「侵害の行為により利益を受け」たとはいえず、同項の適用に関してはその基礎を欠く。また、被告による同譲渡に係る被告商品●(省略)●個の輸入についても同様である。
 (ウ) 不正競争防止法5条3項の算定による損害について
  a 平成27年8月4日から平成28年8月8日までに譲渡した被告商品●(省略)●個のうち、原告が販売することができないとする事情に相当する数量である●(省略)●個(前記(ア))について、被告商品の譲渡と原告商品の販売減少との間に相当因果関係が認められないとしても、その理由に照らせば、被告が原告商品の形態を模倣した被告商品を譲渡したことについて損害の評価が尽くされているとはいえないと解される。したがって、原告は、前記(ア)に加え、上記数量について、原告商品の形態の使用に対し受けるべき金銭に相当する額を損害額としてその賠償を請求することができるというべきである。
 そして、株式会社帝国データバンク作成に係る平成22年3月付け「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~本編」によれば、個人用品又は家庭用品に係る発明についてその実施料率は平均3.5%であるとされている(乙25)ものの、原告商品は、家型の独特な形状の商品であり、雑誌やテレビ番組等で紹介された(前記1⑴ア、ウ)ほか、被告が原告商品の存在を認識しながらその形態を模倣した被告商品を譲渡したことなど、本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、原告商品の形態の使用に対し受けるべき金銭としては、商品の販売価格に対する5%相当額が合理的であると認められる。
 被告は、前記の●(省略)●個を無償譲渡したところ、それは、被告フライパンの販売という被告の営業活動において消費者に対して譲渡したものであることなどに照らすと、原告は、原告商品の形態の使用に対し、小売市場における価格である●(省略)●円に対する5%相当額を受けるべきであり、したがって、●(省略)●円を原告が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
 【計算式】●(省略)●×5%×●(省略)●=●(省略)●
 なお、被告による前記譲渡に係る被告商品●(省略)●個の輸入について、その譲渡による前記損害額を超えて原告が損害を受けたとは認められない。
  b 平成28年8月9日から令和元年6月11日までに譲渡した被告商品●(省略)●個の輸入について、原告商品の形態の使用に対し、輸入のみについて、原告に受けるべき金銭があると認めるに足りる証拠はない。
   ウ 以上から、平成27年8月4日から平成28年8月8日までの被告商品●(省略)●個の無償譲渡について、原告が受けた損害の額は、●(省略)●円(前記ア)及び●(省略)●円(前記ウa)の合計●(省略)●円であると認められ、原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち13万円は、被告の不法行為と相当因果関係がある損害として被告が負担すべきである。
 以上の合計は、●(省略)●円となる。

(3)廃棄分及び適用除外(不競法)

 さらに、裁判所は、被告が輸入したものの廃棄した商品については、原告の損害を観念できないとして請求を棄却し、最初の販売から3年が経過した分についても、それ以前に輸入された分を含め損害の対象外とした。

   ⑶  被告商品(●(省略)●)の輸入について
 被告は、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間に輸入した●(省略)●個の被告商品のうち、平成28年8月9日から令和元年6月11日までに●(省略)●個を廃棄した(前記第2の1⑷ア)。
 この廃棄した被告商品●(省略)●個の輸入について、被告は、「侵害の行為を組成した物を譲渡」しておらず、「侵害の行為により利益を受け」たとはいえないから、不正競争防止法5条1項及び2項の適用に関しては、その基礎を欠く。また、同条3項の適用に関し、原告商品の形態の使用に対し、譲渡の実績がないにもかかわらず、輸入のみについて、原告に受けるべき金銭があると認めるに足りる証拠はない。
 したがって、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間の被告商品●(省略)●個の輸入について、原告が損害を受けたとは認めるに足りない。
   ⑷  小括   以上から、被告による平成27年8月4日から平成28年8月8日までの被告商品●(省略)●個の有償譲渡、●(省略)●個の無償譲渡について、原告は、被告の不正競争(形態模倣行為)により、●(省略)●円(前記⑴ウ)及び●(省略)●円(前記⑵ウ)の合計159万7112円の損害を受けたと認められる(これらの譲渡に係る被告商品の輸入について、その譲渡に係る損害額を超えて原告が損害を受けたとは認められない。)。
 他方、被告による平成28年8月9日から令和元年6月11日までに廃棄した被告商品●(省略)●個の輸入について、原告が損害を受けたとは認めるに足りない(前記⑶)。

(4)実用新案権侵害に基づく請求

 さらに、裁判所は、実用新案権侵害に基づく請求について、原告が実用新案技術評価書を提示して警告する前の譲渡分については故意・過失がないとして、不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した。一方、不当利得返還請求については、実用新案権の設定の登録がされているにもかかわらず、本件各考案の実施料を支払うことなく、本件各考案の技術的範囲に属する被告商品を輸入、販売したから、法律上の原因なく、実施料相当額の利益を受け、原告はこれにより損失を受けたと認められたとして、一定の損失額を認定した。なお、輸入したのみで譲渡がされていない分については、不競法の場合と同じく、損失が認められなかった。

 5  争点④(実用新案権侵害について被告に故意又は過失があるか。)について
   ⑴  被告は、平成27年5月頃、台湾仕入先から被告商品を紹介され、調査を行った結果、被告商品の形態と実質的に形態が同一の原告商品が販売されていること及び本件実用新案権の設定の登録がされていることを認識した(前記第2の1⑷ウ)上、同月頃から平成28年8月8日までの間に被告商品4万個を輸入し、令和元年6月11日までにこれらを有償譲渡、無償譲渡又は廃棄した(同ア)。
 被告は、令和元年5月30日、原告から本件実用新案権を侵害している旨の通知を受け、同年6月11日、被告商品の無償譲渡及び販売を中止し、その後、原告は、同年7月3日、被告に対し、本件評価書を提示して警告した(前記第2の1⑷ウ)。
   ⑵  実用新案権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない(実用新案法29条の2)。これは、実用新案権が実体審査なしで権利が付与されることから、警告をする際には実用新案技術評価書の提示を義務付けることによって、権利者自身に権利行使に先立って権利の有効性について客観的な評価を十分に認識させるとともに、権利行使を受けた侵害者等の過度な調査負担を防ぐことにより、適切な権利行使を担保する趣旨と解される。したがって、侵害者等が実用新案技術評価書の提示のない警告を受けたり、侵害者等が実用新案権の存在を認識していたりしたとしても、そのことから直ちに侵害者等に当該実用新案権の侵害について故意及び過失があるということはできないと解される。
 本件において、被告は、被告商品を輸入、譲渡した際、本件実用新案権の設定の登録がされていることは認識していたが、本件評価書を提示した警告を受けていなかったこと(前記⑴)や、被告において従前本件実用新案権についての紛争があったことを認めるに足りないことなどに照らせば、被告が、本件実用新案権の侵害について認識し又は認識し得たとは認められず、他にこれを認めるに足りる事情はうかがわれない。
   ⑶  以上のとおり、本件実用新案権侵害について、被告に故意、過失があったとは認められない。
 6  争点⑥(被告が法律上の原因なく本件実用新案の使用料相当額を利得し、これによって原告が損失を受けたか。)について
 実用新案権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権の侵害者等に対し、その権利を行使することができず、侵害者等が実用新案技術評価書の提示のない警告を受けたり、侵害者等が実用新案権の存在を認識していたりしたとしても、そのことから直ちに侵害者等に当該実用新案権の侵害について故意又は過失があるということはできない(前記5)が、本件実用新案権は、設定の登録により発生している。
 そして、被告は、本件実用新案権の設定の登録がされているにもかかわらず、本件各考案の実施料を支払うことなく、本件各考案の技術的範囲に属する被告商品を輸入、販売した(前記第2の1⑷ア~ウ)から、法律上の原因なく、実施料相当額の利益を受け、原告はこれにより損失を受けたと認められ、また、被告は、遅くとも、本件評価書の提示とともに警告を受けた後の令和2年7月23日以降、同利得について悪意であったと認められる。  7  争点⑦(原告が受けた損失及び額)について
・・・(中略)・・・
   ウ  以上から、被告商品の輸入及び無償譲渡については、平成28年8月9日から令和元年6月11日までの被告商品●(省略)●個の無償譲渡についての不当利得返還請求が問題となるところ、その無償譲渡により原告が受けた損失の額は、●(省略)●円であると認められる。
  ⑶ 被告商品の輸入について
 被告は、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間に輸入した●(省略)●個の被告商品のうち、平成28年8月9日から令和元年6月11日までに●(省略)●個を廃棄した(前記第2の1⑷ア)。
 この被告商品●(省略)●個の輸入について、本件各考案の実施に対し、譲渡の実績がないにもかかわらず、輸入のみについて、原告に受けるべき金銭があると認めるに足りる証拠はない。
 したがって、平成27年5月頃から平成28年8月8日までの間の被告商品●(省略)●個の輸入について、被告が法律上の原因なく利益を受け、これにより原告が損失を受けたとは認めるに足りない。

3 検討

 本件は、不正競争防止法2条1項3号違反及び実用新案権侵害を理由とする損害賠償について、輸入、有償譲渡、無償譲渡、廃棄等の各行為類型について、同法5条1項~3項の適用の具体的な考え方を示したものであり、実務上参考になると思われる。

以上

弁護士・弁理士 丸山 真幸