【東京地裁令和5年5月11日(令3(ワ)11472号 損害賠償請求事件)】

【キーワード】

不正競争防止法2条1項21号、著作権侵害、ECモールへの申告

【事案の概要】

 原告は、アマゾンジャパン合同会社(以下「アマゾン」という。)の運営するインターネットショッピングサイト(以下「アマゾンサイト」という。)上に開設している仮想店舗(以下「原告サイト」という。)「韓流BANK」の屋号を用いて、韓国の芸能人に係る商品等を販売しており、被告は、アマゾンサイト上に開設している仮想店舗(以下「被告サイト」という。)において、「P1」の屋号を用いて、韓国の芸能人に係る商品等を販売している。
 被告は、韓国の芸能人の写真集や卓上カレンダー等の商品(それぞれ「本件商品1」などといい、併せて「本件各商品」という。)を被告サイトにおいて、本件各商品を正面から撮影した画像など(それぞれ「被告画像1」などといい、併せて「被告各画像」という。)を掲載して販売していた。
 そして、同じ頃、原告は、本件各商品について、原告サイトにおいて被告各画像とほぼ同一の画像(以下「原告各画像」という。)を掲載して販売していた。
 被告は、10回にわたり、アマゾンサイトのオンラインフォームから、アマゾンに対し、原告サイトに係る各「ASIN」欄記載の番号、原告各画像、商品名等を特定し、侵害の種類として著作権侵害を選択した上で、権利侵害の申告(以下、それぞれ「本件申告1」などといい、併せて「本件各申告」という。)を行ったところ、当該各申告により原告の扱う本件各商品はアマゾンサイト上での出品が停止された。
 原告は、被告による当該申告は虚偽の事実を告知するものであり、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争行為又は不法行為に該当すると主張して、不競法4条又は民法709条に基づき、被告に対し、損害賠償を請求した。

【争点】

・本件各申告が虚偽事実の告知(不競法2条1項21号の不正競争)に該当するか

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

    第1~第3(省略)
  • 第4 当裁判所の判断
  • 1 争点1(本件各申告が虚偽事実の告知又は不法行為に該当するか)について
  • (1)・(2)(省略)
  • (3) 本件各申告の内容・態様等
  • ア 被告は、令和3年7月初旬頃、アマゾンに対し、被告サイトの商品ページと原告サイトの商品ページが重複している旨並びに原告サイトにおいて被告サイト上の商品画像、商品名及び商品の説明文が盗用されている旨を申告した。
     これに対しアマゾンは、同月11日、被告に対し、知的財産侵害の通知は、アマゾンブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームから送る必要があること、別のアマゾンストアに出品されているASIN を報告する場合は、報告対象のASIN が出品されているアマゾンストアにある侵害の通知フォームを利用する必要があること等を教示した上で、いずれかの方法で侵害の通知を再度提出してアマゾンで申立てを処理できるように協力して欲しい旨を連絡した。(以上につき乙27の1、弁論の全趣旨)

  • イ 被告は、前記アのアマゾンからの連絡を受け、同月17日までに、アマゾンブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームから、本件申告1を行った。
     当該ブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームには、「権利侵害を申告する」という表題のほか、「このフォームは、知的財産権の権利者またはその代理人が、知的財産権を侵害されたと思われる場合に、その旨をAmazon に申告するためのものです。その他の規約違反や不正行為を報告するには、お問い合わせを使用してください。」と記載されている。
     被告は、本件申告1に際し、「著作権侵害」、「意匠権の侵害」、「特許の侵害」、「商標権侵害」の選択肢のうち「著作権侵害」を選択し、当該フォームの検索機能等を使用して、本件商品1に係る商品詳細ページのASIN、申告対象とする画像、商品名、商品のブランド名等を選択・記載し、「著作物の登録番号」、「著作権のある商品/著作物を提示するサイトへのリンク」、「著作権があることの説明」のうち、「著作権のある商品/著作物を提示するサイトへのリンク」を選択し、対応する被告サイトのURL を記載したほか、詳細を書き込む欄に、被告が作成したカタログの商品画像、商品名を盗用して、別のカタログを作成している旨を記載した。(以上につき甲2の1、乙2、28、弁論の全趣旨)

  • ウ アマゾンは、本件申告1を受け、原告サイト上の本件商品1に係る商品詳細ページを削除する等によりその出品を停止し、原告に対し、同日、原告が出品した商品に関連した商品詳細ページについて著作権侵害であるとの報告が届いたこと、該当するASIN の番号、出品を再開するためには申告した権利者の著作権を侵害することがないよう商品詳細ページを訂正する必要があること、出品情報が誤って削除されたと思う場合はアマゾンに対して必要書類を提出すること、権利者が誤って通知を送信したと考えられる場合は権利者に連絡して通知取り下げの申請を依頼すること、本件申告1の際に被告がアマゾンに通知した被告のメールアドレス等を通知した(甲2の1)。

  • エ ~ク(省略)

  • (4) 検討
  • ア 本件各申告の趣旨等
     本件各申告の内容及び態様並びにこれに対するアマゾンの対応(前記(3)イからエ、カ、ク)に照らせば、被告は、アマゾンに対して、原告サイト上の原告各画像及び商品名が、被告サイト上の被告各画像及び商品名を盗用したものであること、及び当該行為が著作権侵害に該当することを理由として、権利侵害の申告(本件各申告)をしたと認められる。

  • イ 被告各画像等の著作物性
    (ア) 前記(1)アのとおり、被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない
    (イ) 単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。
    (ウ) 以上より、被告各画像は、被告自身の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、著作物とは認められない。
    (エ) (省略)

  • ウ 被告各画像等の使用の事実の有無
    (ア) 前記イのとおり、被告各画像等についていずれも著作物とは認められない以上、仮に原告が原告サイトにおいて被告各画像等を使用したとしても、著作権侵害は成立しない。
     その点を措くとしても、原告が、アマゾンから出品停止の連絡を受けた後、被告に対して2度にわたり原告サイトについて著作権侵害と判断した理由等を尋ねる旨のメールを送信するとともに、原告訴訟代理人に委任の上で本件通知書を送付していること、本件通知書には、原告を含む競業他社が同一商品を独自に撮影した商品写真を使用する場合には被告商標を付さない限り被告の商標権を侵害しない旨記載されていること(前記(3)オ、キ)、少なくとも本件商品2、6及び8ないし10の商品名は原告サイトと被告サイトとで異なること(前記(1)イ、(2)イ)、そのほか原告各画像が被告各画像それ自体であることを的確に示す証拠が存しないこと等の事情に照らせば、原告が原告サイトに掲載していた原告各画像は、被告各画像を盗用したものではなかったと認めるのが相当である。
    (イ) 被告は、アマゾンが本件各申告を受けて出品を停止したこと及び被告からの問合せに対してアマゾンが被告の申告が適切であったと回答していること(前記第2「1」前提事実(4)、前記(3)ウ、ク)等から、原告が被告各画像を盗用していた事実が強く推認されると主張するが、アマゾンにおいて権利侵害申告がどのように処理されているかは不明であって、前記認定を左右しない。

  • エ 被告の故意過失・違法性
     前記(1)ア及びイのとおり、被告は、アマゾンから、権利侵害の申告に係る手続について、知的財産権の侵害を理由とする場合の通知方法、ASIN の重複を理由とする場合の通知方法及びそれぞれ個別に申告することが必要であるとのメールを受信し、自らASIN の重複を申告する方法ではなく知的財産権の侵害を理由とする場合の方法を選択し、申告に係る原告各画像等を特定し、「著作権侵害」の項目を選択の上で本件各申告を行っている。このような被告の行動に照らせば、被告は、アマゾンに対して自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告したといえ、被告が本件各申告をするにつき、少なくとも過失が認められ、本件各申告は違法である。
     被告は、権利行使の一貫として本件各申告を行い、やむを得ず著作権侵害という選択肢を選んだにすぎないこと、著作物性の判断を正確に行った上で申告することが求められるとすれば権利行使を不必要に萎縮させる等と主張するが、被告に本件各商品に関する知的所有権がないことは自明である上、原告からの問合せに対応することなく本件各申告を続けたとの事実関係のもとでは、採用の限りでない。

  • オ 小括
     以上のとおり、本件各申告は、原告各画像が被告各画像等を無断で使用していることを理由とする原告による著作権侵害をアマゾンに伝える趣旨の権利侵害の申告である一方、被告各画像について被告が著作権を有さず、また原告が被告各画像を無断で使用したとも言えないことから、その内容は、いずれも、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を申告する行為であり、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当するといえる。また、被告には少なくとも過失が認められる。

  • ・・(以下、省略)・・

【検討】

    1 不競法2条1項21号
     不正競争法防止法は、「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」を不正競争として定めている(不正競争防止法第2条第1項第21号)。当該行為は、競争関係にある事業者の営業所の信用を直接的に毀損する行為であることから、典型的な違法行為と考えられており、民法上の不法行為として構成することも可能である。
     裁判例の多くは、A社が、競争関係にあるB社の取引先に対して、「B社はA社の知的財産権を侵害している」という旨を通知した行為について、実際にはB社がA社の知的財産権を侵害していない場合、当該通知行為は「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」に該当すると判示している。ただし、正当な権利行使の一貫であり、社会通念上相当な内容・態様である場合は、違法性が阻却される旨を判示する裁判例も存在する。

    2 本件の検討
     本件は、被告がアマゾンに対して、原告が被告の著作権を侵害している旨の申告を行ったところ、当該申告が不正競争に該当すると判断され、損害賠償請求が認められた事案である。
     裁判所は、被告各画像が著作物とは認められないことから、被告による申告は虚偽の事実を告知する行為に該当すると認定し、さらに、被告はアマゾンでは複数の申告方法があることを把握しつつ、あえて「著作権の侵害」を選択して権利侵害の申告を行っている等の被告の行動から、被告が自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告したといえ、被告には過失があると認定した。
     自身の画像が著作物であると判断した申告者が、アマゾンの複数の申告方法のうち権利侵害の申告を選択することは、ある意味当然のことともいえるし、社会通念上不相当な態様とはいえないと考えるため、従前の権利侵害の告知に関する裁判例より厳しい判断と考える。
     結果論となるが、本件において、被告は被告各画像の著作物性を慎重に判断したうえで、権利侵害の申告以外の申告方法を選択していた場合、問題とならなかった可能性がある。

アマゾンへの権利侵害の申告の不正競争行為該当性については、東京地判令和2年7月10日(平成30(ワ)22428号)でも問題となり、当該裁判例においても該当性が肯定されている。
 ECモールへの権利侵害の申告の際には、権利侵害が認められるか否かについて事前に専門家へ相談を行い、検討することを推奨する。

以上

弁護士・弁理士 市橋景子