【令和4年8月25日(大阪地裁 令和2年(ワ)4530号)】

【事案の概要】

 本件は、別紙原告商品目録記載1~14の釣り用のうき(以下、それぞれ「原告商品1」~「原告商品14」といい、これらを総称して「原告商品」という。)を販売する原告が、別紙被告商品目録記載1~5の釣り用のうき(以下、それぞれ「被告商品1」~「被告商品5」といい、これらを総称して「被告商品」という。)を販売する被告に対し、次の各請求をする事案である。
 (1) 被告商品1及び被告商品3~5が原告の周知の商品等表示である原告商品1~9の形態に類似する形態の商品であり、被告商品2が原告の周知の商品等表示である原告商品10及び11の形態に類似する形態の商品であり、被告による被告商品の販売が、それぞれ原告の商品と混同を生じさせ、不正競争防止法(以下「法」ともいう。)2条1項1号の不正競争に該当するとする、法3条1項に基づき、被告商品の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示、輸出及び輸入の差止め並びに同条2項に基づき、被告商品の廃棄請求
 (2) 前記(1)の不正競争について、法4条に基づき、損害賠償金386万円及びこれに対する当該行為の後である令和2年3月6日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 1 被告は、別紙被告商品目録記載1~5の商品を譲渡し、引き渡し、譲渡又は引渡しのために展示し、輸出し、輸入してはならない。
 2 被告は、前項記載の商品を廃棄せよ。
 3 被告は、原告に対し、386万円及びこれに対する令和2年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
(中略)
 2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。なお、以下において枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)
 (1) 当事者
 原告は、釣り具としてのうきの製造及び販売等を業とする特例有限会社である。
 被告は、釣り具としてのうきの製造及び販売等を業とする特例有限会社である。
 (2) 原告商品
 原告商品の外観は、別紙原告商品目録記載1~14のとおりであり、原告は、平成16年3月から、原告商品1~3を、同年9月から、原告商品4~6を、平成17年4月から、原告商品9を、同年9月から、原告商品7及び8を、平成18年10月から、原告商品10~12を、平成22年10月から、原告商品14を、平成28年7月から、原告商品13を、それぞれ釣具店やインターネット上のウェブサイトを通じて販売している。
 原告商品1~9は、海釣りにおいて釣り人から近く浅い位置にいるグレ(メジナ)を主たる対象とした釣り用のうきであり、「遠矢グレ」と称し、ZF180、ZF150、ZF120の各大、中、小の9種からなる。原告商品10~12も同様にグレを対象とする釣り用のうきであり、「遠矢グレスペシャル」と称し、SP230、SP100、SP80の3種からなる。原告商品13及び14は、海釣りにおいて釣り人から遠く浅い位置にいるクロダイ(チヌ)やグレを主たる対象とした釣り用のうきであり、「遠矢ダイレクトポイント」と称し、DP300及びDP230の2種からなる。(甲2、3)
 原告商品は、上下方向の長さと水平方向の長さに大きな違いがない形状の「円錐うき」に対して、上下方向に細長いことから「棒うき」と一般に称されるうきの一種であり、浮力を発生させるうき本体(ボディ)と、その上部に使用時に水面から突出するトップ(魚信部材)を接続するためのゴム管、下部に釣り糸と接続するための金具等を取り付けるための金属製の環から構成されている。(甲3の3)
 (3) 被告商品
 被告商品の外観は、別紙被告商品目録記載1~5のとおりであり、被告は、平成25年6月から、被告商品1を、平成26年1月から、被告商品2を、平成27年9月から、被告商品3を、平成28年1月から、被告商品4を、平成31年1月から、被告商品5を、それぞれ釣具卸売業者やインターネット上のウェブサイトを通じて販売している。
 被告商品は、海釣り用の棒うきであり、「Sai」と称する被告商品1と、やや遠距離用の「遠投Sai」と称する被告商品2、昼夜兼用のためLEDライトを搭載した「Sai night」と称する被告商品3、高感度近距離用の「Sai mini」と称する被告商品4、遠距離用の「Direct Sai」と称する被告商品5の5種からなる。その余の被告の「Sai」シリーズには、「Sai Super LONG」や「Sai matte」がある。(甲83)
 3 争点
 (1) 原告商品1~11の形態の商品等表示該当性(争点1)
 (2) 原告商品1~11の形態の周知性(争点2)
 (3) 原告商品1~11の形態と被告商品の形態の類否(争点3)
 (4) 混同の有無(争点4)
 (5) 損害の発生及び額(争点5)
 (6) 差止め・廃棄の必要性(争点6)
 4 当事者の主張
 (1) 原告商品1~11の形態の商品等表示該当性(争点1)
 (原告の主張)
 ア 原告商品1~11の形態の特別顕著性
 (ア) 原告商品1~9の形態
 原告商品1~9の形態は、以下の特徴(以下「ZF形態」という。)を有する。
 A ボディ全長(ゴム管及び環を含めた上端から下端までの長さをいう。以下同じ。)が約15.5cm~22cmであって、
 B 木製黒色のボディ下部に最太部の直径が約10mm~14mmとなる膨らみがあり、
 C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ、
 D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている。
 (イ) 原告商品10及び11の形態
 原告商品10及び11の形態は、以下の特徴(以下「SP形態」という。)を有する。
 A ボディ全長が約11.5cm~13.5cmであって、
 B 木製黒色のボディ下部に最太部の直径が約16mm~18mmとなる膨らみがあり、
 C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ、
 D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている。

(中略)

第3 当裁判所の判断
 1 原告商品の形態(甲3、84、128)
 (1) 共通する形態
 B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり、
 C そのボディ上部に黄白色(写真では黄緑色に見えることがある。以下、写真において黄緑色に見える色も黄白色として扱う。)の樹脂塗装がされ、
 D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ており、
 E ボディ最太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まっており、
 F ボディ下端に金属製の環が突き出ており、
 G 黄白色の塗装部の下方、ボディの長手方向中央付近及びボディの最太部の下方にそれぞれ金色の二重線が引かれている棒うきである。
 (2) 商品により相違する形態(甲1、3、128)
 A ボディ全長が
  約11.5cm(原告商品11)、
  約13.5cm(原告商品10)、
  約15.5cm(原告商品7~9)、
  約18.5cm(原告商品4~6)、
  約22cm(原告商品1~3)、
  約26.5cm(原告商品12、13)、
  約34cm(原告商品14)であって、
 B 最太部の直径が
  約10mm(原告商品3、6、9、13、14)
  約12mm(原告商品2、5、8)
  約14mm(原告商品1、4、7)
  約16mm(原告商品10、12)
  約18mm(原告商品11)であり、
 H ボディ最太部に、金色の文字で
  遠矢グレZF(原告商品1~9)、
  遠矢グレSP(原告商品10~12)、
  遠矢DP(原告商品13、14)と記載されたシールが貼られている。
 2 認定事実
 前記前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
 (1) 原告商品1~3の発売前の原告及び原告代表者の製作に係るうきの形態
(中略)
 (2) 原告商品1~3の発売前の同種商品の形状
(中略)
 (3) 被告商品の販売以前の原告商品1~12及び同種商品の販売状況等
(中略)
 (4) 現在の原告商品及び同種商品の販売状況等
 ア 原告の商品
 原告は、原告商品のほか、「180s」、「230s」、「300s」、「磯専」、「日本海」、「超遠投」、「0号」、「遠矢チヌスペシャル」などを販売している(甲3の8)。原告商品1~11の販売数量は、平成28年7月1日~平成29年6月30日間に3355個(希望小売価格での販売額608万6490円)、同年7月1日~平成30年6月30日間に3219個(希望小売価格での販売額584万7300円)、同年7月1日~令和元年6月30日間に815個(希望小売価格での販売額148万0090円)であった(甲2)。
 イ 同種商品
 (ア) キザクラは、「自立チヌ」、「玄秀自立」、「スーパースリムチヌ」のほか、「A ボディ全長が17.2cmであって」、「B 黒色ボディ下部に最太部の直径が17.1mmとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」形態を備えた「黒魂 Joker」を販売している(乙8、13、15、16)。
 (イ) ソルト・ブレイク・ジャパン株式会社は、「A ボディ全長が9cm~17cmであって」、「B 黒色ボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」形態を備えた「G-ARROW」を販売している(乙8、18)。
 (ウ) 釣研は、「A ボディ全長が20cm(全長32cm、トップ12cm)であって」、「B 黒色ボディ下部に最太部の直径が19mmとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」形態を備えた「スリムグレ自立」及び「A トップを含めた全長が15.3cm~17.1cmであって」、「B 黒色ボディ下部に最太部の直径が19mm~22mmとなる膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」形態を備えた「T-LANCER」を販売している(乙19、20)。
 (エ) グローブライド株式会社は、黒色ボディ下部に膨らみがあり、上部にゴム管を備えた「ベガスティックタフ」を、釣武者は、黒色ボディ下部に膨らみがあり、上部の一部に黄白色の樹脂塗装がされ、上部にゴム管を備えた「鬼馬棒」を、YOU☆SHI JAPANは、黒色ボディ下部に膨らみがあり、上部に黄白色の樹脂塗装がされ、上部にゴム管を備えた「ヴィピーステック800」を、それぞれ販売している(乙11、21、22)。
 (オ) 被告は、被告商品を販売している。
 ウ うき市場(甲2、乙23)
 国内のうきの総出荷金額は、平成25年~令和2年において、年間約12億円~13億円であり、海用うきについては、平成28年~令和2年において、年間約7億円である。国内のうきの小売市場規模は、平成25年~令和2年において、年間約16億円~18億円である。うきメーカーのシェア上位5社の市場占有率は、平成28年~令和2年において、約35%である。
 3 商品等表示該当性について
 (1) 法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用等することをもって不正競争に該当すると規定しており、これは、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護する観点から、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保する趣旨と解される。そして、色彩を含む商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、その形態が商標等と同程度に不正競争防止法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうすると、商品の形態は、〈1〉客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有しており、かつ、〈2〉特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知である(周知性)と認められる特段の事情がない限り、法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
 (2) 特別顕著性
 ア これを本件についてみると、まず、原告商品1~11は、釣り用のうきとして、もっぱら釣果を得るための実用品であり、その性能を発揮するために形態が工夫されているものであって、基本的には、需要者が形状や色彩等のデザインを鑑賞するためのものではない。また、使用時にはそのボディの大半が水中に隠れている状態であり、実際の性能は外観のみでは判断し難いから、釣りをする一般的な需要者においては、購入時に、釣果に関する自らの経験や評判ないし価格を参考に選択しているものと考えられ、少なくともボディの色や形状を主に観察して違いを見極めるような商品ではないから、ボディの形態をもって特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態を備えている必要がある
 そして、前記認定事実によれば、昭和50年代に原告代表者が開発した「遠矢うき」の形態であり、原告商品に共通する形態でもある「B ボディ下部に膨らみがあり」、「D そのボディ上部に上方向にゴム管が突き出ており」、「E ボディ最太部からボディ下端にかけて円錐状に窄まっており」、「F ボディ下端に金属製の環が突き出ており」、「G ボディ上部、ボディの長手方向中央付近及びボディの最太部の下方にそれぞれ二重線が引かれている」形態は、昭和57年7月30日に登録された意匠であり、平成9年7月30日に意匠権の存続期間が満了し、それ以降は当該形態について意匠権による独占は認められなくなっていたことが明らかである(なお、前記実用新案権についてはそれ以前に存続期間が満了していることが明らかである。)ところ、ZF形態に係る原告商品1~3の発売以前から、「B 木製黒色のボディ下部に膨らみがあり」、「C そのボディ上部に黄白色の樹脂塗装がなされ」、「D そのボディ上部に上方向に黒色のゴム管が突き出ている」各特徴の1つ又は2つを備えた棒うきが各メーカーから複数種類販売されていたことが認められる。また、ボディの大きさについても、ボディ全長が10cm台~20cm台のものが存在し、ボディ最太部の直径も10mm台のものが存在したことが認められる。そうすると、ZF形態は、その発売以前に存在した他のうきとかけ離れた特異な形態を備えているとはいえず、特別顕著性が認められない
 また、SP形態は、前記認定事実のとおり、従前の「2号」や「180s」等の「遠矢うき」の形態を引き継いだZF形態の特徴を維持しつつ、円錐うきに慣れた需要者にも受け入れやすくするために開発されたものであって、原告商品12を含めて「遠矢グレスペシャル」として販売されているものであり、客観的な形態も、原告商品1~9のボディ全長を数cm短く(原告商品10、11)又は長く(原告商品12)、最太部の直径を2mm程度太くしたにすぎないから、ZF形態のバリエーションの一種というべきであって、ZF形態と同様に特別顕著性があるとは認められない
 イ 原告は、ZF形態及びSP形態を備えた商品は、被告商品の登場まで他に存在せず、被告商品以外の模倣品は短期間で市場から消えたと主張する。
 しかしながら、原告において原告商品1~3のボディ上部に黄白色の樹脂塗装をし始めたのは、原告の従来の遠矢うきと製造工程において区別するためであったというのであるから、ZF形態のうち、「C ボディ上部の樹脂塗装」以外は従来から存在した形態であることが明らかである。そして、前記認定事実のとおり、ボディ上部に黄白色の樹脂塗装をしたうきが原告商品1~12の発売以前から複数存在しており、ボディ上部に黄白色の樹脂塗装をすることは何ら特異な配色とはいえないから、従来から存在する形態に黄白色の樹脂塗装を加えたからといって、特別顕著性が備わるとはいえない
 また、前記認定事実のとおり、ZF形態及びSP形態と共通する特徴を備えた商品は、原告商品1~3の発売以前から複数存在し、商品カタログに掲載されているにもかかわらず全く販売されなかったとは考え難い上、原告代表者において、「遠矢うき」の模倣品が大量に出回った時期があったことを認めており平成2年頃においてもなお、原告が類似品と認識するような商品が大量に出回っていることを前提に、遠矢の名入りの有無で区別するよう注意を呼び掛ける広告をし、平成19年以降も継続的に類似品が出回っている旨の広告をしていたのであるから、被告商品以外のZF形態及びSP形態を備えた商品が全て短期間で市場から消えたとは到底考えられない
  そうであれば、被告商品販売開始時において、ZF形態ないしSP形態と同一又は類似する特徴を備えた商品は複数存在し、これらの形態はありふれたものとなっていたというべきである。
 なお、原告は、個別の同種商品について、ZF形態及びSP形態と一部共通する特徴を備えているとしても、特徴の全部が同一ではない旨主張するが、前記のように、うきの形態に特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態であるといえる必要があり、形態上の特徴が同一又は類似の同種商品が存在すれば、特別顕著性は認められないというべきである。
 ウ 以上によれば、ZF形態及びSP形態は、他の同種商品との関係で顕著な特徴を有しているとはいえず、原告商品1~11のその余の特徴も特異なものとはいえないから、原告商品1~11の形態には特別顕著性が認められない。
 (3) 周知性
 ア 前記前提事実によれば、原告は、原告商品1~11を平成18年頃までは年間1万3000個程度販売していたものの、平成22年頃には年間7000個程度に減少し、被告商品1が販売開始された平成25年頃には年間3500個程度にまで減少し、最盛期の3分の1以下に激減していたのであるから、およそZF形態及びSP形態を備えた原告商品1~11が同年以前において長期にわたって市場を独占していたとはいえない。また、同年以降も、原告商品1~11の販売数は3000個程度であり、販売額も、平成30年頃まで年間600万円程度に過ぎず、令和元年頃には年間150万円程度にとどまっているところ、出荷金額ベースの海用うきの市場規模が年間約7億円であり、現在も複数の同種商品が販売されていることからすれば、平成25年頃から現在までの間においても原告がZF形態及びSP形態を独占的に利用し続けていたとはいえない
 さらに、前記前提事実によれば、原告は、釣りの専門雑誌や書籍等に広告や記事を掲載していたものの、それらの発行部数は明らかではなく、新聞やテレビ等の全国的なマスメディアを通じて繰り返し継続的に広告するなどの方法は採っていないから、極めて強力な宣伝広告が行われたともいえない
 そうすると、ZF形態及びSP形態を含む原告商品1~11の形態に周知性があるとも認められない。
 イ 原告は、原告代表者であるP1及び遠矢うきは、需要者の間で著名であり、ZF形態及びSP形態も需要者に広く知られていると主張する。
 しかしながら、これらの形態の周知性を認めるに足りる証拠はない。かえって、P1が有名な釣り人あるいはうき製作者であるゆえにその製作に係る原告の商品が周知であるとすれば原告の商品は、その形態のいかんにかかわらず、P1が製作した「遠矢うき」としてその名称において識別されることになるはずである。そして、前記認定事実のとおり、ZF形態及びSP形態と共通する特徴を備えた同種商品が存在し、原告が販売する「遠矢うき」は長年ボディ上部が黄白色ではなかった(「2号」、「180s」等)上、「遠矢うき」には、ボディ下部の膨らみを備えず(「磯専」等)、ボディが黒色でないもの(「チビ」)も存在する以上は、遠矢の名入りの有無によって需要者が原告の商品を識別しているものというほかなく、ZF形態及びSP形態自体が周知性を有しているということはできない
 ウ なお、原告は、原告商品1~11の形態に関する周知性などを立証するため、需要者に対するアンケートを実施した(甲152)が、回答数が400名程度にとどまり、回答の内容からすると回答者の多くは「遠矢うき」を愛用する顧客であることがうかがえ、需要者一般の認識が正確に調査できているとはいい難い上、類似品に対する訴訟において証拠とすることを明示した上で、回答用紙に「遠矢グレの類似品が多く出回っております。」と記載して、回答者全員にステッカー、10名以上分の回答をまとめて出した者にワッペン、さらに抽選で「遠矢うき」をプレゼントするというものであり(乙25)、回答の中立性に大いに疑義があり、その結果に基づいて認定判断することはできないといわざるを得ない。
 (4) 以上によれば、ZF形態及びSP形態を含む原告商品1~11の形態が商品等表示に当たるということはできない。
第4 結論
 以上によれば、その余の点を検討するまでもなく、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することし、主文のとおり判決する。

【解説】

 本件は、釣り用のうき(「原告商品」)を販売する原告が、釣り用のうき(「被告商品」)を販売する被告に対し、被告による被告商品の販売が、原告の商品と混同を生じさせ、不正競争防止法(「法」)2条1項1号の不正競争に該当するとして、法3条1項に基づく差止め及び同条2項に基づく廃棄請求並びに法4条に基づく損害賠償を請求した事案である。
 裁判所は、色彩を含む商品の形態は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、商品の形態が商標等と同程度に不正競争防止法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示に該当しない、とした上で、商品の形態は、〈1〉客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有しており、かつ、〈2〉特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知である(周知性)と認められる特段の事情がない限り、法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない、との規範を示した。
 そして、原告商品は釣り用のうきという実用品である点から、需要者が形状やデザインを鑑賞するためのものではなく、ボディの色や形状を主に観察して違いを見極める商品ではないことから、ボディの形態をもって特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態を備えている必要があるところ、原告商品に共通する形態は、原告代表者が開発した「遠矢うき」の形態であって昭和57年に登録された意匠であり、平成9年には意匠権の存続期間が満了して意匠権による独占は認められなくなったため、原告商品の発売以前から各特徴の1つ又は2つを備えた棒うきが各メーカーから複数種類販売されていたことから、ZF形態は、発売以前に存在した他のうきとかけ離れた特異な形態を備えているとはいえず、特別顕著性は認められなかった。また、SP形態も、ZF形態のバリエーションの一種というべきであるから、同様に特別顕著性は認められなかった。
 さらに、周知性については、海用うきの市場規模が年間約7億円であるのに対して原告商品の販売額が平成30年頃まで年間600万円程度に過ぎないことから、原告がZF形態及びSP形態を独占的に利用し続けていたとはいえず、原告が掲載した広告や記事の発行部数は明らかでなく、新聞やテレビ等の全国的なマスメディアを通じて繰り返し継続的に広告するなどの方法を取っていないので、極めて強力な宣伝広告が行われたともいえないので、原告商品の形態に周知性は認められなかった。
 このように、特別顕著性も周知性も認められないため、原告商品の形態は商品等表示に該当しないと判断された。これは妥当な結論であると考えられる。
 原告は、原告商品と同種の他の商品について、原告商品と一部共通する特徴を備えていたとしても、特徴の全部が同一ではない旨主張したが、特別顕著性があるというためには、他のうきとはかけ離れた特異な形態であるといえる必要があるとして、認められなかった。また、周知性の立証のために、アンケートを実施したが、回答の中立性に大いに疑義があるとして、その結果に基づく認定判断はされなかった。アンケートを実施する対象や回答の方式など、中立性を担保するための参考となる。
 本件は、商品の形態が不正競争防止法上の商品等表示に該当するために必要な要件の具体例として参考となると考え、取り上げさせていただいた。

以上
弁護士 石橋茂


第一法規『D1-Law.com 判例体系』