【令和3年2月9日判決(東京地裁 平成30年(ワ)第3789号)(オリゴ糖事件)】

【キーワード】
ネットビジネス,品質誤認表示,信用棄損行為,不正競争防止法2条1項20号,不正競争防止法2条1項15号,損害賠償,推定規定

1 事案の特徴

 本事案は,原告「株式会社北の達人コーポレーション」が,被告「株式会社はぐくみプラス」が行う広告表示について,不正競争防止法2条1項20号及び同項21号を根拠として,表示の差止,損害賠償等の請求を求めた事案である。

 本事案では,被告の販売する「はぐくみオリゴ」(被告商品)に含まれるオリゴ糖の成分が53.29%であるのにもかかわらず,被告が「オリゴ糖100%」等と表示した点が,需要者に対し,被告商品の品質について誤認させるような表示(品質誤認表示)であると認定された。

 そして,東京地裁は,この品質誤認表示により認められる損害賠償の額について,以下のように判示した。

2 東京地裁の判断

「・・・被告の本件品質誤認表示によって,原告の営業上の利益が侵害されたと認められ,不正競争防止法5条2項により,被告が上記の期間において本件品質誤認表示により受けた利益の額が原告が受けた損害の額と推定される。」

「以上から,被告が前記期間に被告商品の販売により受けた利益の額は,別紙損害額の限界利益欄記載のとおり,合計6億1192万6912円となる。」

「不正競争防止法5条2項による推定は,侵害者による侵害行為がなかったとしても侵害者が受けた利益を被侵害者が受けたとはいえない事情が認められる場合には,覆滅されると解される。」

「・・・これらを考慮すると,被告の本件品質誤認表示による被告商品の販売数量の増加と,他のオリゴ糖類食品の販売数量の低下,さらには,原告商品の販売数量の低下との間には,それほど強い相関関係が成り立つとはいえず,上記の各事情を総合考慮すれば,被告の本件品質誤認表示がなかったとしても被告が受けた利益を原告が受けたとはいえない事情が相当程度認められ,被告が受けた利益の額の97%について,原告が受けた損害の額であるとの推定が覆滅されるとするのが相当である。以上から,上記推定覆滅後の額は,別紙損害額の推定覆滅後の金額欄記載のとおり,1835万7803円となる。」

3 検討

(1)損害額の推定規定

 知的財産権侵害があった場合,原告が行うべき損害額の立証は,きわめて困難なものとなる。なぜならば,知的財産権侵害のケースも,不法行為の一般原則に照らして考えると,逸失利益(知的財産侵害行為が無かったら権利者が得られたであろう利益)を損害額とすることになり,これを客観的に立証することになるからである。たとえば,売上が1億円減少した例において,なぜ1億円の減少が生じたかを推測することはできても,立証まで行うことは極めて困難と言える。

 このような立証困難を軽減するために,知的財産法は,損害額の推定規定を準備している。

 たとえば,特許法では,特許侵害者が侵害品を売ったことで得られた利益があった場合,当該利益を損害額と推定する規定を置いている(特許法102条2項,不正競争防止法5条2項も同旨)。ただし,その利益の全てを損害とできない事情がある場合,覆滅事由として,損害賠償額から控除することになる。

(2)本件での適用

 本件では,品質誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)という不正競争行為が認められる場合に,不正競争防止法5条2項の推定規定の適用があるか,適用される場合どのように適用されるのかが注目された。

 東京地裁は,「不正競争防止法5条2項により,被告が上記の期間において本件品質誤認表示により受けた利益の額が原告が受けた損害の額と推定される。」として,推定規定を適用し,覆滅事由の認定も行い,結果,1835万7803円の損害賠償額を認容した。

 本件は,品質誤認表示に該当する場合の損害賠償の判断枠組みを示しており,実務上参考になるであろう。

以上

弁護士・弁理士 高橋 正憲