【令和3年12月23日判決(知財高裁 令和元年(ワ)第18374号)】

【判旨】
 原告が,被告らに対し,被告らによる各被告商品の製造及び販売等は,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されている各原告商の形態と同一若しくは類似の商品等表示を使用して原告の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不正競争防止法2条1項1号)であり,又は,各原告商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為(同項3号)であるなどとして,損害賠償請求権(民法709条,719条,不正競争防止法4条)に基づき,連帯して1億1994万6010円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案。裁判所は,原告が主張する各原告商品の特徴は,ありふれたといえるもので出所を識別する根拠となり得る他の同種商品と異なる顕著な特徴とはいえないから,商品等表示とは認められないとして,原告の請求を棄却した。

【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、特別顕著性

1 事案の概要及び争点 

(1)事案の概要
本件で問題となった商品は,骨折の治療の際に骨の固定に用いる「リングピン」と呼ばれるもので,一方の先端がとがっている細長い形状の金属製のピンであり,その中間にワイヤーを通すための中空を有する円形の部分(以下「リング部」という。)があり,とがっている先端からリング部までの部分(以下「埋没部」という。)を骨に打ち込み,リング部の中空の部分にワイヤーを通してワイヤーによって複数のリングピンや骨を固定し,リング部より持ち手方向の部分(以下「把持部」という。)をリング部から切断するというものである。

※原告商品の形態(被告商品については判決別紙に記載がないため省略)

(2)争点
 本件の争点は,下記のとおりである。本稿では争点①のうち,特に混同惹起行為(不正競争2条1項1号)該当性の点について述べる。
 ① 不正競争(混同惹起行為及び形態模倣行為)に係る不法行為による損害賠償請求等
 ② 秘密保持義務違反,取引妨害,競業避止義務違反の不法行為に係る損害賠償請求等

2 裁判所の判断

(1)判断基準
 まず,裁判所は,従来の不正競争防止法2条1項1号による商品形態保護の判断枠組みと同様,商品等表示として保護されるためには商品形態の特別顕著性・周知性が必要であると述べた。

※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

2  争点①(各原告商品の形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているか。)について
   ⑴  商品の形態は本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有し,かつ,それが特定の者の商品に長期間独占的に使用され,又は,極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等が存在することなどにより,その形態を有する商品が特定の者の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っている場合には,不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されているものに該当するというべきである。

2)原告商品の特別顕著性について
 次に,裁判所は,形態上の特徴であると主張する①~⑦の点について,それぞれ原告商品の発売前から,上記特徴のうち一部を除く特徴を備えた同種商品(リングピン)が他社から販売され,原告商品の発売後も販売されていたと認定した。

  ⑵ア  原告は,各原告商品を販売している(原告商品1について前記1⑽,原告商品2ないし4について同⑹)ところ,リングピンである各原告商品について,①把持部の長さが5cm以上である点,②埋没部直径より把持部直径が細く外観が優れている点,③リング部の形状がドーナツ型である点,④リング部の内径が1.8mmである点,⑤材料としてステンレス鋼316L-VMが使用されている点等に特徴があり,さらに,原告商品1は,⑥埋没部の長さが3cmと極めて短く,これに対し把持部の長さが6cmでバランスが最適化されている点に,原告商品4は,⑦埋没部の長さが9cmと極めて長い点に特徴(以下,番号に応じて「特徴①」などという。)があり,これらの特徴が,原告の商品であることを表示する商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)として周知となっていると主張する(前記第2の3⑴(原告の主張))。
    イ  ここで,各原告商品の販売以前から,少なくとも,ナカシマメディカルが,埋没部が3cmのものを含め,把持部が6cm,リング部の形状がドーナツ型のリングピンを,アイメディックが,把持部が5.8cmのリングピンを販売しており(前記1⒁),また,メディカルネクストが,埋没部が9cmのものを含め,リング部の形状がドーナツ型,リング部の内径1.8mmのアキュメッド社製リングピンを販売していた(同⑷)。
 したがって,各原告商品の販売前から,把持部の長さが5cm以上(特徴①),リング部の形状がドーナツ型(特徴③),リング部の内径が1.8mm(特徴④),埋没部の長さが3cm,把持部の長さが6cm(特徴⑥),埋没部の長さが9cm(特徴⑦)等の特徴を備えたリングピンが存在していた。
 また,各原告商品の販売から数年以内のうちには,アイメディックやネオメディカルなどにより,リング部の形状がドーナツ型(特徴③),埋没部の長さが3cm,9cm(特徴⑥,⑦)等の特徴を備えたリングピンが販売された(前記1⒁)。
 特徴②である埋没部直径より把持部直径が細い点について,各原告商品の埋没部直径は2.0mmで,把持部直径は1.6mmであり,差はあるもののその差は相当に小さいほか,各社のリングピンの直径が1.6mmから3mmの範囲で設定され(前記1⒁),アキュメッド社製リングピンは,平成25年頃にはピン直径が1.6mmのものが販売され,平成26年4月にはピン直径が2mmのものが販売されるなどし(同⑷),埋没部直径2mmのピンも複数の会社から販売されていた(同⒁)。

 また,裁判所は,⑤材料としてステンレス鋼316L-VMが使用されている点について,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる形態(不正競争防止法2条4項)ではないから,当該特徴は商品等表示にならないとも判示した。

  ウ  材料としてステンレス鋼316L-VMが使用されている点(特徴⑤)について,材料そのものは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる形態(不正競争防止法2条4項)とはいえない。なお,その色彩,光沢,質感が金属製である他の同種商品と異なる顕著な特徴を有していたと認めるに足りる証拠はない。JSピンを開発するに当たって参考にされたアキュメッド社製リングピンにも同じ材料が使用されていて,かつ,その材料が何であるかは外観からは判明しなかった(前記1⑷)。

 加えて,原告主張の各特徴はいずれもいずれも機能的観点から選択された形状であり,需要者にとって,上記観点から選択された一つの仕様と認識され得る状況があったとも認定し,上記の事情を総合考慮した上で,原告商品の特別顕著性(商品等表示性)を否定した。

  エ  以上によれば,原告が,各原告商品の商品等表示として主張する各点のうち,特徴①,③,④,⑥及び⑦は,同様の特徴を有する他の商品が存在した(前記イ)。特徴⑤は,商品等表示となる特徴ではない。特徴②についても,埋没部と把持部の直径の違いは相当に小さく,また,各原告商品の埋没部の直径(2mm)と同じ直径のリングピンや把持部の直径(1.6mm)と同じ直径のリングピン自体は従前から知られていた。
 そして,複数の会社が,リングピンについて,その長さや直径,リング部の形状などの点に関しそれぞれ複数の仕様のものを販売していて,短期間でその仕様の追加,変更等を行ったりもしていた(前記1⑷,⒁)。この状況や原告が主張する各特徴と同じ形状を有する他社の販売する同種商品が存在したことから,原告が主張する各特徴は,需要者にとり,変更されることもあり得る複数の仕様のうちの一つと認識されるといえるものであり,原告自身も,埋没部,把持部の長さ(特徴①,⑥,⑦)により区別される複数の種類の製品(各原告商品)を販売していた。さらに,原告が主張する各特徴には,骨折部位との関係(特徴⑥,⑦ 前記1⑻),把持のための機器との関係(特徴① 同⑹),強度の関係(特徴② 同⑷)によって選択されたものがあり,これらはいずれも機能的観点から選択された形状といえるものであった。原告が主張する各特徴は,需要者にとって,上記観点から選択された一つの仕様と認識され得る状況があったといえ,特に,他社が販売する同種商品に原告が主張する各特徴と同じ特徴(その一部であるものも含む。)を有するものがあったとの事情は,上記状況の下で,原告が主張する各特徴を商品の出所を識別する根拠となるものであると需要者が認識することを,より困難にするものであった。
 以上を総合的に考慮すると,原告が主張する各原告商品の特徴は,同種の商品における複数の仕様のうちの一つと認識されるようなありふれたものであり,いずれも,他の同種商品との関係で,商品の出所を識別する根拠となり得る顕著な特徴とは認められないとするのが相当である。また,その特徴の性質,内容から,それらの組合せによっても,複数の仕様が単に組み合わされたものであることを超える特段の意匠的効果を奏するとは認められないものであり,それらの組合せをもって他の同種商品に対して出所を識別する根拠となり得る顕著な特徴であるということはできない。
   ⑶  以上から,原告が主張する各原告商品の特徴は,ありふれたといえるもので出所を識別する根拠となり得る他の同種商品と異なる顕著な特徴とはいえないから,その他の点を考慮するまでもなく,商品等表示とは認められない。

3 検討

 本件は、リングピンという商品の形態について,不正競争防止法2条1項1号に基づく具体的判断を示したものであり,実務上参考になると思われる。特に,材料の点について商品形態の要素として認めなかった点や,機能的観点から選択された形態について複数の仕様のうちの一つの仕様と認識されると認定した点などは,注目に値する。

以上

弁護士・弁理士 丸山真幸