【令和4年8月26日(東京地裁令和3年(ワ)3418号)】

【事案の概要】

本件は、別紙原告製品目録記載の各製品(以下、同目録記載1の製品を「原告製品1」、同目録記載2の製品を「原告製品2」などといい、これらを併せて「原告各製品」という。)を販売する原告が、被告に対し、被告は、原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告各製品の形態と同一の別紙被告製品目録記載の各製品(以下、同目録記載1の製品を「被告製品1」、同目録記載2の製品を「被告製品2」などといい、これらを併せて「被告各製品」という。)を販売して、原告の商品と混同を生じさせ、かつ、原告各製品の形態を模倣した被告各製品を販売したものであり、これらの被告の行為は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号、3号の不正競争に該当すると主張して、不競法3条1項、2項に基づき、被告各製品の販売及び輸入の差止め並びに廃棄を求め、不競法4条に基づき、1億円(不競法5条1項による損害)の支払を求める事案である。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は、別紙被告製品目録記載の各製品を販売してはならない。

2 被告は、別紙被告製品目録記載の各製品を輸入してはならない。

3 被告は、別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

4 被告は、原告に対し、1億円を支払え。

第2 事案の概要

(中略)

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者

ア 原告は、インテリア照明器具をオリジナルで設計し、製造し、販売する会社である(弁論の全趣旨)。

イ 被告は、EC(電子商取引)を利用した商品販売を行っている会社である。

(2) 原告各製品

ア 原告は、平成22年から平成24年までの間、日本国内において、原告各製品の第1世代製品を販売した(弁論の全趣旨)。

原告各製品は、シーリングライトであり、本体部分(発光部分、台座等)及びシェード部分により構成されるところ、上記第1世代製品の本体部分の形状は、いずれの製品も、2段になった円形の台座に3個の電球が取り付けられたものであったのに対し、シェード部分の形状は、製品ごとに異なっていた(甲11、弁論の全趣旨)。

イ 原告は、平成24年から平成27年までの間、日本国内において、原告各製品の第2世代製品を販売した(弁論の全趣旨)。

上記第2世代製品の本体部分の形状は、いずれの製品も、2段になった円形の台座に大小二つの環形蛍光灯等が取り付けられたものに変更されたが、シェード部分の形状は、前記アの第1世代製品から変更はなかった(甲3、12、17、弁論の全趣旨)。

ウ 原告は、平成27年から平成30年までの間、日本国内において、原告各製品の第3世代製品を販売した(弁論の全趣旨)。

上記第3世代製品の本体部分の形状は、いずれの製品も、2段になった円形の台座に大小二つの環形LED光源等が取り付けられたものに変更されたが、シェード部分の形状は、前記アの第1世代製品から変更はなかった(甲4、13、17、弁論の全趣旨)。

エ 原告は、平成30年以降、日本国内において、原告各製品の第4世代製品を販売している(弁論の全趣旨)。

上記第4世代製品の本体部分の形状は、いずれの製品も、フラットな円形の台座に三つのU字型LEDモジュールが磁石で取り付けられるなどし、台座側面に換気孔が設けられ、調光調温機能の付いたリモコンが付属するものに変更されたが、シェード部分の形状は、前記アの第1世代製品から変更はなかった(甲5、14、17ないし19、弁論の全趣旨)。

(3) 被告各製品

ア 被告は、遅くとも平成31年2月頃、被告各製品の販売を開始した。

イ 令和3年5月頃までに製造販売された被告各製品について、被告製品1は原告製品1の第4世代製品と、被告製品2は原告製品2の第4世代製品と、被告製品3は原告製品3の第4世代製品と、被告製品4は原告製品4の第4世代製品と、それぞれ、実質的に同一の形態をしていた(甲1、2、10、27、28、弁論の全趣旨)。

3 争点

(1) 不競法2条1項1号関係

原告各製品の形態が原告の「商品等表示」(不競法2条1項1号)として周知であるか(争点1)

(2) 不競法2条1項3号関係

ア 原告が「営業上の利益」(不競法3条、4条)を侵害された者に該当するか(争点2)

イ 原告各製品が「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」(不競法19条1項5号イ)に該当するか(争点3)

(3) 損害の発生及びその額(争点4)

(4) 差止め等の必要性(争点5)

4 争点に対する当事者の主張

(中略)

第3 当裁判所の判断

1 争点1(原告各製品の形態が原告の「商品等表示」(不競法2条1項1号)として周知であるか)について

(1) 不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいうところ、商品の形態は、「商標」等とは異なり、本来的には商品の出所を表示するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、「商品等表示」に該当するためには、その形態が「商標」等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮し得ること、すなわち、〈1〉 商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、〈2〉 その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。

(2) そこで、まず、原告各製品の第4世代製品の形態が有する特徴について検討する。

証拠(甲1、2、27、28)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品1、2及び4のシェード部分の形状は、白色のポリプロピレンの平板を、中心部から放射状に多数の山又は谷ができるように鋭角又は湾曲に折り畳み、これを一層又は大きさの異なる複数層となるように配置した形状をしており、原告製品3のシェード部分の形状は、多数の白色のポリプロピレンの平板を湾曲に折り畳み、全体としてバラ様の略円形に整えた形状をしていることが認められ、いずれの製品も、一般的なシーリングライト(甲22、32ないし35、乙22)のシェード部分の形状とは異なる特徴を有しているといえる。しかし、シーリングライトのシェード部分は、その外観を構成する主たる構造である一方で、その実用目的である発光機能を直接担う部材ではないことから、シーリングライトを設置する場所に合わせて、様々なデザインとすることが可能であると考えられ(証拠(乙3、4)によれば、実際に、様々な形状のシェード部分を有するライトが販売されていることが認められる。)、このようなシェード部分の性質に照らせば、原告各製品のシェード部分の形状が他の同種商品と比べて顕著に異なることを基礎付ける事情を認めるに足りる証拠はないというほかない。

また、前記前提事実(2)エのとおり、第4世代製品の本体部分の形状は、フラットな円形の台座に三つのU字型LEDモジュールが磁石で取り付けられるなどし、台座側面に換気孔が設けられ、調光調温機能の付いたリモコンが付属するものであるが、一般的なシーリングライト(甲24、25、32ないし35、乙22)の本体部分の形状と比較して、特徴的なものとはいえない

(3) 次に、原告各製品の第4世代製品の形態の周知性について検討する。

前記前提事実(2)のとおり、第4世代製品のシェード部分は、第1世代製品から変更がなく、第1世代製品の販売が開始された平成22年から既に10年以上が経過しているが、原告各製品のこれまでの販売数を認めるに足りる証拠はなく、Yahoo!等の媒体やFacebook等のSNSによる原告各製品に係る宣伝広告の期間、内容及び効果を認めるに足りる証拠もない(Facebookで行ったとする広告に関する資料(甲46)を見ても、具体的にどのような広告がどの程度行われたのかは明らかでない。)。また、前記前提事実(2)エのとおり、第4世代製品の本体部分について、改良が加えられて販売が開始されたのは平成30年からであり、上記シェード部分ほど時間が経過していない上、通常、シェード部分によって隠れているため、需要者の注意を惹くことも少ないといえる。

さらに、証拠(乙17ないし19)によれば、1943年に創業した、デンマークのレ・クリント社が製造販売するシーリングライトは、そのシェード部分が、白色の平板を中心部から放射状に多数の山又は谷ができるように鋭角に折り畳み、これを一層又は大きさの異なる複数層となるように配置した形状をしていることが認められ、少なくとも原告製品1、2及び4のシェード部分とかなり似通っているということができる。このような事情からすると、原告各製品のシェード部分の形状が、長年にわたり、原告により独占的に利用されていたとは認め難い

そして、他に原告各製品の形態が原告の出所を表示するものとして周知になっていることを認めるに足りる証拠はない。

(4) 以上を総合すると、原告各製品の第4世代製品の形態が、不競法2条1項1号の「商標」等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮し得るとは認められないから、同号の「商品等表示」に該当するとは認められない。

したがって、被告が被告各製品を販売したことは不競法2条1項1号の不正競争には該当しない。

2 争点2(原告が「営業上の利益」(不競法3条、4条)を侵害された者に該当するか)について

(中略)

3 争点3(原告各製品が「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」(不競法19条1項5号イ)に該当するか)について

(1) 不競法2条1項3号は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなどの行為を不正競争とし、同法19条1項5号イは、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品については、同法2条1項3号を適用しないとしたものであるが、この趣旨は、同法1条の事業者間の公正な競争等を確保するという目的に鑑み、開発に費用や労力等をかけることなく、先行投資した他人の商品の形態を模倣した商品を製造販売し、投資に伴う危険の負担を回避して市場に参入しようとすることは公正とはいえないから、そのような行為を、先行開発者が投下資本の回収を終了し通常期待し得る利益を上げられる一定期間、不正競争として規制しようとしたものと解される。

このような立法趣旨からすれば、保護を求める商品の形態についての開発及び商品化が完了すれば、先行開発者は当該商品を販売することによる投下資本の回収が可能となるから、「最初に販売された日」(不競法19条1項5号イ)の対象となる「他人の商品」(不競法2条1項3号)とは、保護を求める商品の形態を具備した最初の商品を意味し、このような商品の形態を具備しつつ、若干の変更を加えた後続商品を意味するものではないと解するのが相当である。

(2) 前記前提事実(2)のとおり、原告各製品はシェード部分及び本体部分からなるところ、シェード部分の形状は、平成22年の原告各製品の販売開始以来、変更が加えられていないのに対し、本体部分は、最初は2段になった円形の台座に3個の電球が取り付けられたもの(第1世代製品)であり、平成24年に2段になった円形の台座に大小二つの環形蛍光灯等が取り付けられたもの(第2世代製品)に、平成27年に2段になった円形の台座に大小二つの環形LED光源等が取り付けられたもの(第3世代製品)に、平成30年にフラットな円形の台座に三つのU字型LEDモジュールが磁石で取り付けられるなどし、台座側面に換気孔が設けられ、調光調温機能の付いたリモコンが付属するもの(第4世代製品)に、それぞれ変更されている。

そして、このように第1世代製品から第4世代製品まで変更のない原告各製品のシェード部分の形状は、前記1(2)のとおり、一般的なシーリングライトのシェード部分の形状とは異なる特徴を有していることからすると、原告各製品は、電灯としての機能を有する部分の形状ではなく、シェード部分の形状に工夫を凝らし、需要者の購入意欲をかき立てることを特に目指した商品ということができるから、このような形状のシェード部分を商品化することには、相当程度の研究開発が必要であったということができる。

これに対し、本体部分のうち台座については、上記の電灯としての機能を有する部分に含まれ、かつ、シェード部分によって隠れるものであるため、その形状に工夫を凝らす必要性は低く、また、発光部分に応じた形状とする必要があるため(甲11ないし14、17、18)、形状の選択の幅が狭いことからすると、これを開発するのに特別の費用や労力等を要したとは認められない。

また、本体部分のうち発光部分についても、電灯としての機能を有する中心部分である上、台座と同様にシェード部分に隠れているため、その形状に工夫を凝らす必要性は低い。加えて、原告各製品の第2世代製品が販売される相当前から、シーリングライトに蛍光灯が広く使用され(当裁判所に顕著な事実)、遅くとも原告各製品の第3世代製品が販売された平成27年頃には、LEDを使用したシーリングライトも多数販売されており(甲24、25、32ないし35、乙22、弁論の全趣旨)、原告各製品の第2ないし4世代製品において採用された蛍光灯及びLEDが特殊な仕様のものであることをうかがわせる事情はなく、第1世代製品の電球を蛍光灯又はLEDに置き換えることが特に困難であったとも認められない。

さらに、前記2(2)のとおり、原告各製品に付属するリモコンは、中国のオンラインモールにおいて、誰でも購入することができるものである。

そうすると、仮に、原告が、自らの費用及び労力を投下し、原告各製品の第1世代製品を開発して市場に置いたと認められたとしても、シェード部分の形状の開発にその費用及び労力のほとんどが投下されたと考えるのが合理的であり、その後、電球を蛍光灯又はLEDに置き換えたり、リモコンを取り付けたりするために特段の費用及び労力を要したとは認められず、回収の機会を確保すべき資本が投下されたとはいえないから、第2ないし4世代製品は第1世代製品と実質的に同一であり、第1世代製品から若干の変更が加えられたにすぎないというべきである。

したがって、原告各製品について、保護を求める商品の形態を具備した最初の商品とはその第1世代製品と認めるのが相当である。

(3) 前記前提事実(2)アのとおり、原告各製品の第1世代製品の日本国内における販売が開始されたのは平成22年であるから、「日本国内において最初に販売された日」(不競法19条1項5号イ)とは、遅くとも平成22年12月31日と認められる。

以上によれば、原告各製品(の第1世代製品)の保護期間は、遅くとも平成25年12月31日の経過により終了したから、被告が、平成31年2月以降に、原告各製品と実質的に同一の形態をした被告各製品を販売したことについて、不競法2条1項3号は適用されない。

第4 結論

よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

【解説】

本件は、同一の形態のシーリングライトを販売したことが不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項3号及び3号の不正競争に該当することを理由とする損害賠償請求及び差止請求が棄却された事案である。争点1から3について判断がなされたが、本稿では争点1及び3を取り上げる。

争点1の、原告各製品の形態に関する「商品等表示」該当性については、商品の形態が「商標」等と同程度に不競法による出所表示機能を発揮し得ることを要件とし、具体的には特別顕著性と周知性を要するとの規範が示された。

特別顕著性については、原告各製品のシーリングライトのシェード部分の形状は、一般的なシーリングライトのシェード部分の形状とは異なる特徴を有しているが、他の同種商品に比べて顕著に異なることを基礎付ける事情を認める証拠はないこと、本体部分の形状は、一般的なシーリングライトの本体部分の形状と比較して特徴的なものとはいえないことから、否定された。

また、周知性については、原告各製品のこれまでの販売数を認めるに足る証拠はなく、原告各製品に係る宣伝広告の期間、内容及び効果を認めるに足りる証拠もなく、デンマークの会社が原告各製品の一部と類似したシェード部分を有するシーリングライトを販売していることから、原告各製品のシェード部分の形状が、長年にわたり原告により独占的に利用されていたと認められないことから、否定された。

法2条1項1号の商品等表示該当性は、一般的な規範であり[1]、妥当な結論であると考える。

争点3の、原告各製品が「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」(法19条1項5号イ)に該当するか否かについては、法1条の事業者間の公正な競争等を確保するという目的に鑑み、先行投資した他人の商品の形態を模倣した商品を製造販売することを、先行開発者が投下資本の回収を終了し、通常期待し得る利益を上げられる一定期間、不正競争として規制しようとしたものと解されるので、「最初に販売された日」(法19条1項5号イ)の対象となる「他人の商品」(法2条1項3号)とは、保護を求める商品の形態を具備した最初の商品を意味し、このような商品の形態を具備しつつ、若干の変更を加えた後続商品を意味するものではない、との規範が示された。その上で、原告が、自らの費用及び労力を投下し、原告各製品の第1世代製品を開発して市場に置いたとしても、シェード部分の形状の開発にその費用及び労力が投下されたと考えられることから、シェード部分の形状が第1世代製品と実質的に同一な第2ないし第4製品は、若干の変更が加えられたにすぎないので、保護を求める商品の形態を具備した最初の商品は第1世代製品と認められた。そして、第1世代製品の保護期間は遅くとも平成25年末に終了したので、被告が平成31年2月以降に被告各製品を販売したことについて、法2条1項3号は適用されないと判断された。

争点3の判断で示された規範は、過去の裁判例と同一である[2]。意匠権等で保護されていない商品の形態を模倣された場合、法2条1項3号の適用を検討することになるが、争点3で示されたとおり、最初の商品に若干の変更を加えただけの商品については、法19条1項5号イの対象となる「他人の商品」に該当しない。わずかな変更により、法2条1項3号による保護期間が実質的に延長されてしまうことを防止するための判断といえるが、同号の適用を検討する際には過去の商品について留意する必要がある。

本件は、特に争点3との関係で、不正競争防止法2条1項3号を適用する際に問題となる同法19条1項5号イの解釈について参考になると考え、取り上げさせていただいた。

以上
弁護士 石橋茂

[1] 東京地判平成15年7月9日(ユニット家具事件)等

[2] 東京高判平成12年2月17日(建物空調ユニットシステム事件)等