【令和4年9月13日判決(東京地裁 令和4年(ワ)第8439号)】

1 事案の概要(説明のため事案を簡略化している)

 本件は、請求異議事件であるが、その前提となる債務名義となった確定判決(知財高判令和3年3月30日〔平成31年(ネ)第10008号〕、以下「本件知財高裁判決」という。)は、大要、以下のとおりであった。

 卵子等のガラス化凍結保存・加温融解に用いる医療関連器具を販売するY社が、同種の医療関連危惧を販売するX社の管理に係るウェブサイト・カタログの表示のうち、「解凍後100%生存」、「生存率」「100%」、「100% survival」等の記載(本件記載部分)は、X社が販売する製品の品質及び内容(品質等)を誤認させる表示であって、上記ウェブサイト・カタログに本件記載部分を表示することは、不正競争防止法2条1項20号(品質誤認表示等)の不正競争に該当する等と主張して、「解凍後100%生存」、「100% survival」、「100% Post-warm Survival」、「achieving 100%、 literally 100%、 survival」及び「凍結卵を解凍した後の生存率 100%を達成できる」旨の表示をすることの差止め等を求めていた事案に関し、本件知財高裁判決は、

「X社は、ガラス化凍結保存容器及びそれと共に用いる凍結液、融解液の広告、取引に用いる書類及びウェブサイトその他の宣伝広告媒体において、『解凍後100%生存』、『100% survival』、『100% Post-warm Survival』、『achieving 100%、 literally 100%、 survival』及び『凍結卵を解凍した後の生存率100%を達成できる』旨の表示をしてはならない。」(以下「本件不作為義務」という。)

等の判決をし、概ねY社の請求を認めた。

 Y社は、本件知財高裁判決に基づき、X社が本件不作為義務に違反するおそれがあるとして、東京地方裁判所に対し、X社が本件知財高裁判決により禁止された行為をした場合にX社に対して間接強制金の支払を命ずる旨の間接強制決定の申立てを行い、東京地方裁判所は、同決定(以下「本件決定」という。)をした。本件決定に対し、X社は知財高裁に対し執行抗告をしたが、知財高裁はこの執行抗告を棄却する決定をした。

 本件は、X社が本件決定につき請求異議事由があると主張して、強制執行の不許を求めた事案である。

2 請求異議事由の有無について

 東京地裁は、まず、不作為義務に違反しているかどうかは、間接強制決定の発令後、執行分の付与の当否において判断されるべきであり、不作為義務に違反していない事実を請求異議の事由とすることはできない旨述べ、X社の本件不作為義務に違反していない旨の主張は、失当であるとした。その上で、「なお」と続け、請求異議事由の有無につき、X社の請求には理由がないとした。

 ⑴ X社のウェブサイトの記載

 Y社は、本件知財高裁判決後もX社のウェブサイト上に「生存率100%」及び「100% Survival」という表示があり、これが本件不作為義務に違反することは明らかと主張した。

 これに対し、X社は、同社のウェブサイトに「チャレンジ100(Challenge 100)」という取組の紹介文があり、その紹介文の中にある「生存率100%」との表記は、飽くまでも「チャレンジ100(Challenge 100)」の目標、目的を説明したにすぎず、いずれもX社製品の品質を示すものではなく(一般的な用語として用いられている)、X社製品を用いれば生存率が100%であることを示すものでもない等と主張した。

 ⑵ 裁判所の判断

 東京地裁は、X社が、本件知財高裁判決言渡し後も、X社製品の宣伝広告に関して「生存率100%」との表示を行なっていることから、現に本件不作為義務が認められることと、現時点において事情の変動がない旨認定した。

 また、「生存率100%」はX社製品の品質を示すものではない(一般的な用語である)等のX社の主張については、認定した宣伝広告の態様から、原告事業と無関係になされたものとはいえず、単に一般的な用語として用いられたものとも認められないとして、原告の主張は採用できないとした。

⑴ 証拠…及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、本件知財高裁判決が言い渡された後も、原告製品に関する事業を継続したこと、②原告は、原告のウェブサイトにおいて、クライオテック法を実施するなどして生存率100%達成を目指す取組(チャレンジ100、Challenge 100)を紹介したり、「100% SURVIVAL CLUB」や同表示がある本件メダルを表示したこと、③原告は、令和3年7月20日、原告のツイッターアカウントにおいて、「#不妊治療」、「#リプロ」、「#胚凍結」及び「#卵子凍結」のハッシュタグを付けた上で、「Welcome to the “100% SURVIVAL CLUB”」との文言や本件メダルが表示されたトロフィーを写した画像と共に、「がん患者の妊孕性保存に力を入れておられる「A」を取材しました。こちらは、クライオテックを使用し、融解後生存が難しいとされる卵子の凍結融解100%生存達成された素晴らしいクリニックです。」との投稿をしたこと、④原告は、同日、原告のツイッターアカウントにおいて、「#不妊治療」、「#リプロ」、「#胚凍結」及び「#卵子凍結」のハッシュタグを付けた上で、「Welcome to the “100% SURVIVAL CLUB”」との文言や本件メダルが表示されたトロフィーを写した画像と共に、「素晴らしい臨床成績を残されている「B」にお邪魔しました。こちらは当社の製品を使用し、胚の凍結融解連続100周期100%生存を達成された凍結技術に優れた医療機関です。」との投稿をしたこと、⑤原告は、一般社団法人日本臨床エンブリオロジスト学会が令和3年12月10日に発行した学会雑誌において、本件メダルや「Welcome to the “100% SURVIVAL CLUB”」の表示と共に、原告製品を宣伝広告したこと、以上の事実が認められる。   
 上記認定事実によれば、原告が本件不作為義務に違反するおそれがあると認めるのが相当であり、更に原告の主張が仮に請求異議事由としての事情の変動による権利濫用の成否をいうものとしても、現時点においてその事情の変動がなく、その前提を欠くことは明らかである。
⑵ これに対し、原告は、「チャレンジ100」は、原告が契約を締結した医療施設に、専任のインストラクターを派遣し、一定のトレーニングを経た後に、卵子、分割胚又は胚盤胞の凍結周期、いずれか1つのステージで、連続する100融解周期にて生存率100%を達成することを目指す取組であり、その紹介文の中での「生存率100%」や「100% survival」等の文言は、単に一般的な用語としての意味で用いられているにすぎないから、本件知財高裁判決の主文第2項で定められた本件不作為義務とは無関係であるなどとして、本件不作為義務に違反していない旨縷々主張する。   
 しかしながら、前記⑴において認定したところによれば、上記「生存率100%」や「100% survival」の表示が、原告製品に関する事業と無関係にされたものであるとはいえず、単に一般的な用語として用いられたものとも認められないことは明らかである。

3 若干のコメント

 本件は、不競法2条1項20号の品質誤認表示等の不正競争が問題となった例において、請求認容の勝訴判決(確定判決)を得た当事者が、当該確定判決を執行する場面の事案である。なお、上記のとおり、X社の請求がそもそも請求異議事由に該当しないとの判断であるため、本判決の請求異議事由の有無に対する判断はあくまで傍論(判決の結論とは直接関係のない部分)である。

 請求異議事由の有無に関する本判決の認定判断については、特に目新しいものがあるとはいえないが、本件は、表示関係の知財事件において勝訴判決(確定判決)を得た後の執行の場面を窺い知ることができる事案であり、参考になると考える。

以上

弁護士 藤田達郎