【令和5年12月4日(大阪地裁 令和4年(ワ)第3577号 不正競争行為差止等請求事件)】

 

【キーワード】

不正競争防止法2条1項3号、不正競争防止法3条、不正競争防止法4条、形態模倣

 

【事案の概要】

原告は、コンピューター通信を利用した通信販売等を目的とする株式会社であり、遅くとも令和3年6月22日から、ECサイトの一つである楽天市場において、以下の通帳ケース(以下「原告商品1」という。)の販売を開始し、遅くとも令和3年11月9日から、楽天市場において、以下の長財布(以下「原告商品2」という。)の販売を開始した。
被告は、衣料品、革製品等の輸入及び販売等を目的とする株式会社であり、遅くとも令和4年2月25日から、ECサイトである楽天市場等において、以下の通帳ケース(以下「被告商品1」という。)を販売し、遅くとも令和4年3月10日から、同じECサイトにおいて、以下の長財布(以下「被告商品2」という。)を販売した。


原告は、被告による被告商品の販売は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号の不正競争に該当するとして、被告に対し、不競法3条に基づく商品の販売等の差止請求及び廃棄請求と、不競法4条に基づく損害賠償請求を求めた事案。

 

【争点】

・被告各商品は、原告各商品の形態を模倣した商品に該当するか。

 

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 判断

1 争点1(被告商品1は原告商品1の形態を模倣した商品に該当するか)について

(1) 実質的同一性について

ア ・・・原告商品1と被告商品1は、通帳ケースの外側のすべての形態(通常全体の大きさ及び形状、正面外側部に設けられたポケットの形状、大きさ及び位置、背面部の形状)、マチ部の上面及び側面部のすべての形態(開閉可能なファスナーの配置)及び内部の形態の大部分(仕切り板の枚数及び大きさ、内側ポケットの数)において共通しているから、各商品から受ける商品全体としての印象が共通し、両商品の商品全体の形態が酷似しているといえる。他方で、上記のとおり、両商品は、正面側及び背面側の各外装部裏面の裏面ポケットの有無、各外装部裏面の表面に設けられたカード等を収納するための小サイズのポケットの数(原告商品1は6個、被告商品1は4個)及び配置位置(高さ約1ないし2センチメートルの範囲内)の点で相違するが、いずれも些細な差異であり、商品の全体的形態について需要者に与える印象に影響するようなものではない。
したがって、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であると認められる。

イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品内側の特徴を備えた商品を販売していたことや、被告の従前の販売商品や伊達衿のデザインが存在することに照らせば、原告商品1はありふれた形態であり、不競法2条1項3号により保護すべき形態に該当しないと主張する。
証拠(乙1、2)によれば、被告が、令和元年9月3日以降、楽天市場において、①外側の平面視で縦幅約12センチメートル、横幅約18.5センチメートルの寸法で、厚み約2.5センチメートルの横長四角形状、②正面側外装部及び背面側外装部の各裏面(ケースの内部側の面)には、カード等の小サイズの収納物を上部から挿入可能な小ポケットが4個設けられている、③マチ部の上面及び両側面には、ファスナーにより開閉自在の開口部が設けられており、開口することにより、底部を軸として側面視扇状に正面部分と背面部分が展開する、④内部には、上記小ポケットとは別に、仕切板7枚により等間隔に8個の内側ポケットが設けられている、との原告商品1に共通又は類似する構成を有する通帳ケースを販売していた事実、及び、令和2年9月29日から、外側に入口部分を斜めの形状にしたカードケースを販売していた事実、がそれぞれ認められる。
しかしながら、原告商品1には、外側部に入口部分が斜めに交差するポケットが設けられており、これは商品の全体的形態について需要者に与える印象に影響する形態であるところ、上記通帳ケースには当該構成が設けられていない。また、上記カードケースの外側ポケットの入口部分は斜めに交差する形態ではない。また、通帳ケース外装に和装の伊達衿(乙32)のデザインを採用し得るとしても、態様は多様なものが考えられるのであって、そのことから直ちにそのような通帳ケース自体がありふれたものといえるわけでもない。そして、本件記録上、原告商品1の外側ポケットの形態がありふれた形態であると認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

(2) 依拠性について

ア ・・・原告は、遅くとも令和3年6月22日から、第三者が自由に閲覧可能なECサイトである楽天市場で原告商品1を販売しており、被告において容易に原告商品1にアクセス可能であったといえ、証拠(甲22、23)によれば、実際に、被告代表者が令和3年8月7日に原告商品1を購入した事実が認められる。また、・・・被告商品1の販売開始時期は原告商品1の販売開始から約8か月後の令和4年2月25日である。
以上によれば、被告商品1は原告商品1に依拠して製造販売されたと認められる。

イ これに対し、被告は、原告商品1の販売前から同商品と同様の内部の形態を有する通帳ケースを販売していたことや、原告の取締役が原告商品1の販売前に被告の販売する通帳ケースを購入したことから、被告商品1は原告商品1に依拠していないなどと主張する。
しかしながら、・・・原告商品1と同商品の販売前に被告が販売していた通帳ケースとは需要者に与える印象に影響を与える形態である外装部の形態が相違しているから、両商品の内部の形態が同一又は類似することや原告の取締役による購入履歴がある旨の被告主張の事情を踏まえても、依拠性に係る上記判断は左右されない。

2 争点2(被告商品2は原告商品2の形態を模倣した商品に該当するか)について

(1) 実質的同一性について

ア 原告商品2と被告商品2の形態は、・・・すべての構成において共通する。
したがって、原告商品2と被告商品2の形態は実質的に同一であると認められる。

イ これに対し、被告は、原告商品2の販売前から同商品内側の特徴を備えた商品を販売していたことや、仮に、原告商品2の外側ポケットを原告が考案したとしても、ありふれた形態であると主張する。
しかしながら、・・・原告商品2の外側部にある入口部分が斜めに交差するポケットが設けられているとの形態は商品の全体的形態について需要者に与える印象に影響する形態である上、当該形態はありふれた形態であるとはいえない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

(2) 依拠性について

ア ・・・原告は、遅くとも令和3年11月9日から、第三者が自由に閲覧可能なECサイトである楽天市場で原告商品2を販売しており、被告において容易に原告商品2にアクセス可能であったといえる。また、・・・被告商品2の販売開始時期は原告商品2の販売開始から約4か月後の令和4年3月10日である。
以上によれば、被告商品2は原告商品2に依拠して製造販売されたと認められる。

イ これに対し、被告は、原告商品2の販売前から同商品と同様の内部の形態を有する長財布を販売していたことや、被告商品2のデザインが令和3年9月7日時点で確定されていたので、被告商品2は原告商品2に依拠していないなどと主張する。
しかしながら、・・・原告商品2と同商品の販売前に被告が販売していた長財布とは需要者に与える印象に影響を与える形態である外装部の形態が相違している。また、証拠(乙7、8、30、31)によると、被告商品2様のものの写真がサンプル品として掲載され、その初回発送時期が令和3年9月18日であるとする「サンプルシート」と題する資料が存することが認められるが、同資料の作成経緯は被告主張によってもなお不明確といわざるを得ず、また、寸法図等の当該デザインの完成を直接証明するものでもない。加えて、被告商品2の販売が当該デザインの完成時期から6か月もの間隔があることについても合理的な説明がないことなどからすると、これらによっては被告主張を裏付けるには足りず、他に被告商品2のデザインが令和3年9月時点で確定していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

・・(以下、省略)・・

 

【検討】

1 商品の形態模倣

不競法2条1項3号では「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」を不正競争として定めている。同号の趣旨は、商品開発者が商品化に当たって資金・労力を投下した成果が模倣された場合、模倣者は、開発、商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入できる一方で、当該商品開発者の市場先行の利益を著しく減少し、また、商品開発、市場開拓の意欲が阻害されるため、これを防止することにある(知財高判平成28年11月30日〔スティック加湿器事件〕、経済産業省「逐条解説 不正競争防止法」参照)。
ここで、「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいい(不競法2条5項)、①実質的同一性とともに、②依拠性が要件となる。②依拠性については、不正競争者の主観的意図となるが、商品の類似性、存在を知っていた蓋然性、制作過程や制作能力などが考慮され、判断されることとなる。

2 本件について

本件は、従来どおり、上記の①・②要件にて、被告各商品が原告各商品の形態を「模倣」した商品に該当するかを検討し、結論としてこれを肯定した。
①実質的同一性については、原告商品1・2はいずれも、「外側部にある入口部分が斜めに交差するポケットが設けられているとの形態」が需要者に与える印象に影響する形態であると認定し、被告商品1・2も当該形態を備えていること等より、被告各商品と原告各商品は実質的に同一であると認定された。
ただ、②依拠性については、被告商品1・2で判断要素が若干異なっている。
被告商品1については、被告が原告商品1にアクセス可能であったこと、実際に被告代表者が原告商品1を購入したこと、原告商品1の販売の8カ月後に被告商品1が販売されていることという事情から、依拠性が肯定されている。
一方、被告商品2では、被告が原告商品2にアクセス可能であったこと、原告商品2の販売の4カ月後に被告商品2が販売されていることという事情のみから、依拠性が肯定されている。被告商品1のように被告が原告商品2を購入したという事情は認定されていない。当該判断のみを見ると、自社商品を販売する際に、たまたま類似した商品が先にECサイトで販売されているだけで依拠性が肯定されるかのように思える。
しかし、本件では、被告商品2は原告商品2と全ての構成が共通しており類似性が非常に高いものであり、被告代表者は原告商品1を購入しているため原告商品2についても存在を知っている蓋然性が高い。これらの事情も含めた上での判断と考えるため、他の事案において同様に考えることはできないだろう。
なお、被告は、被告商品2のデザインは原告商品2の販売開始前の時点で確定していたと主張したが、結局、「認めるに足りる証拠はない」として当該主張は採用されなかった。被告の立場に立てば、本件のような紛争を回避するために、デザインの制作過程に関する証拠は、少なくとも商品を販売開始した後3年間[1]は確保しておくことを推奨する。

 

[1] 不競法2条1項3号は、商品の販売開始から「日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品」の形態模倣行為には適用されないため、自社商品が他社商品を模倣していない(依拠していない)ことを証明する証拠は、少なくとも三年間は確保しておくことが良いだろう(不競法19条1項5号イ)。

以上
弁護士 市橋景子