【平成14年4月9日判決(大阪地裁 平成12年(ワ)1974号)】

【判旨】

 原告が、被告に対し、被告の販売する2本組ワイヤーブラシセットは、原告商品の形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法2条1項3号、4条に基づき損害賠償を請求した事案。裁判所は、本件では商品を市場化するための費用や労力を原告・被告が分担しており、原告商品は互いにとって「他人の商品」に該当しないとして、同法に基づく原告の請求を棄却した。

【キーワード】

不正競争防止法2条1項3号、形態模倣、他人の商品

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要

 原告は、海外の様々なメーカー等から素材となる道具類等を探し出し、その素材を日本向けにアレンジして新しい商品を開発し、それを日本の卸売業者や100円均一ショップ等の小売店に納入するという業務を中心に行っていた。被告は、中国や東南アジア等の国で生産される価格の安い日用雑貨類を輸入商社から仕入れ、それを国内の100円均一ショップを経営する会社に卸売りするという業務を行っていた。原告と被告との関係は、原告が商品を開発し、これを被告が販売するというものであった。

 原告は、平成10年7月以降、被告に対し、2本組のワイヤーブラシである原告商品A、Bを販売し、被告は、同商品を100円均一ショップ等に販売した。被告は、平成11年6月下旬ころ、被告商品A、Bを、原告以外の会社に対して発注し、同年9月下旬ないし10月初旬ころからこれを仕入れて、大創産業に販売していた。原告商品と被告商品は、ワイヤーブラシの形態、台紙の配色、記載文言、文字書体、文字の色・配置、商品メーカーコード及びバーコードの表示等が共通しており、実質的に同一の形態であった。

 なお、本件では、上述の不正競争防止法に基づく請求(甲事件)に加え、原告が被告に対し、原被告間の継続的取引契約違反に基づく損害賠償を請求した別事件(乙事件)も併合審理されていた。

(2)争点

 本件の争点は,下記のとおりである。本稿では、主に争点①②(甲事件)について述べる。

  ① 原告商品A、Bの商品形態は、不正競争防止法2条1項3号によって保護されるべき「商品の形態」に当たるか(甲事件)。

  ② 原告商品A、Bは、被告にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当するか(甲事件)。

  ③ 被告の被告商品A、Bの販売行為は、原被告間の継続的取引契約に違反するものか(乙事件)。

  ④ 損害の発生及び額(甲、乙事件)

2 裁判所の判断

(1)判断基準

 まず,裁判所は,不正競争防止法2条1項3号の制定趣旨を踏まえ、同号による保護を受けられるか否かは、当該商品を商品化して市場に置くに際し、費用や労力を投下した者といえるか否かにより決すべきであるとした。そして、複数の当事者が費用や労力を分担した場合には、第三者の模倣行為に対しては両者とも保護を受けることができる立場にあるが、当事者間においては当該商品が相互に「他人の商品」に当たらないため、相手方の行為を不正競争行為ということはできないと判示した。

※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)

 2  争点(2)(原告商品A、Bは、被告にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当するか。)について
   (1) 不正競争防止法2条1項3号は、「他人の商品」の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、輸入する行為等につき不正競争行為とする旨規定するが、その趣旨は、費用や労力を投下して商品を開発して市場に置いた者が、これを回収するに必要な期間(最初に販売された日から3年間)、投下した費用や労力の回収を容易にし、商品化への社会的意欲を高めるために、費用や労力を投下することなく先行者の開発した商品の形態を模倣する行為を規制することとしたものである。
  したがって、同号の保護を受けるべき者に当たるか否かは、当該商品を商品化して市場に置くに際し、費用や労力を投下した者といえるか否かを検討することによって決すべきことになる。
  そして、仮に、甲、乙それぞれが、当該商品を商品化して市場に置くために、費用や労力を分担した場合には、第三者の模倣行為に対しては、両者とも保護を受けることができる立場にあることはいうまでもないが、甲、乙間においては、当該商品が相互に「他人の商品」に当たらないため、当該商品を譲渡等する行為を不正競争行為ということはできないというべきである。
  そこで、こうした観点から、原告商品A、Bの商品化して市場に置くについて、原告ないし被告が費用や労力を投下したか否かについて検討する。

(2)本件へのあてはめ

 そして、裁判所は、原告商品・被告商品の商品化の過程を証拠に基づき認定した上で、原告商品A、Bを商品化して流通に置くについて、原告のみがその費用や労力を負担したということはできず、被告においても一定の労力、リスクを負担したものと評価できるから、原告及び被告のそれぞれが費用や労力を分担したものと評価できると判示した。そして、被告らにとって原告商品は「他人の商品」に該当せず、被告らの行為は不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為には該当しないと判示し、原告の不正競争防止法に基づく請求(甲事件)を棄却した。

  (3) 以上の事実関係に基づいて、原告商品A、Bは、被告にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当するかについて検討する。
    ア 前記1記載のとおり、原告商品A、Bの商品形態は、ブラシを2本組にしてブリスターパック及び台紙によって包装した包装形態をとることによって、不正競争防止法2条1項3号の保護の対象となるものというべきところ、原告は、原告商品A、Bの開発に際し、台紙の印刷製版費用として7万2000円を負担し、中国の業者との間で数度にわたり打ち合わせを重ねたものにすぎず、しかも、原告は商品在庫を抱えるなどの販売リスクを負っているものではない。
    イ 一方、被告は、100円均一ショップを経営する会社に卸売りするという業務を行っており、日本語の読み書きが十分にできない原告代表者に代わり、原告が中国から持ち込んだ原告商品A、Bを100円均一ショップにおいて販売するのに適するか否かという視点で台紙のデザインを確認した上、これを仕入れ、被告会社が有する大創産業に対する販売ルートを通じて流通に置き、また、商品在庫を抱えるという販売リスクを負っていたものである。
    ウ 上記のような原告及び被告が負担した費用、労力、リスクの程度を考慮すると、原告商品A、Bを商品化して流通に置くについて、原告のみがその費用や労力を負担したということはできず、被告においても一定の労力、リスクを負担したものと評価できるから、原告及び被告のそれぞれが費用や労力を分担したものというべきである。
    エ そうすると、原告商品A、Bは、被告にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当しないというべきであるから、同号を理由とする原告の請求(甲事件)は理由がない。

(3)原被告間の継続的取引契約違反(乙事件)

 一方で、裁判所は、上述した商品化の経緯や、原告商品が被告のみに納入されることが想定されていたこと等の事実関係から、原告・被告間には原告商品A、Bについての継続的取引契約が成立するに至っており、被告がこの契約関係を解消するに当たっても、信義則上、被告は、合理的期間内は原告商品A、Bと実質的に同一の商品形態を有する商品を原告以外から仕入れて販売することはできないと判示した。そして、合理的期間内として、被告による取引の打ち切りから6ヶ月の間に被告が販売した被告商品について、被告による仕入(原告からの購入)により得られたはずの逸失利益を損害として認定した。

 3  争点(3)(被告の被告商品A、Bの販売行為は、原被告間の継続的取引契約に違反するものか。)について
   (1)ア 上記2(2)記載のとおり、原告は、原告商品A、Bの開発に際し、台紙の印刷製版費用として7万2000円を負担し、中国の業者との間で数度にわたり打ち合わせを重ね、金型費用として30万円を支出するなどし、原告と被告とが、費用や労力を分担して原告商品A、Bを商品化し流通に置いたものである。
     イ  しかも、原告商品A、Bは、次のような商品(包装)の形態から、被告のみに専属的に納入することが想定されていたものである。
   (ア) 原告商品A、Bは、台紙に被告の商品メーカーコード(4991203)及びバーコードが印刷されている。
    (イ) 原告は、原告商品A、Bのほかに、黄色の地に緑色の帯に白地で「BENRI GOODS」と記載し、裏面に被告の商品メーカーコードを記載した台紙及びブリスターパックを用いた金具類(甲6及び7の各1~12)を被告に納入していたが、これらの金具の台紙と原告商品Bの台紙は、色、字体などが同一であり、同じコンセプトの商品として出所が同一であるか、同じグループであるとの印象を消費者に抱かせるものである。
     ウ  以上によれば、原告と被告との間では、定期的に一定数量の商品を被告が原告から購入することを義務付けるような約束はなかったから、そのような意味での継続的取引契約が締結されたものとは認められないけれども、原告商品A、Bを原告から被告のみに専属的に納入し、被告はこれを買い受けることを内容とする継続的な取引契約が成立するに至ったものと認めるのが相当である。
  そして、甲12によれば、原告は、原告商品A、Bを被告に納入することしか想定していなかったので、被告による突然の取引打切りに対応して、すぐに新しい販売ルートを見つけることはできても、商品の仕様を変えなければならないため、売上の大幅減は免れなかったことが認められる。
     エ  前記認定事実によれば、原告と被告の間には原告商品A、Bについての継続的取引契約が成立するに至っていたものであるから、被告がこの契約関係を解消するに当たっても、信義則上、被告は、合理的期間内は原告商品A、Bと実質的に同一の商品形態を有する商品を原告以外から仕入れて販売することはできないと解するのが相当である。   そして、原告が原告製品A、Bの商品化等に投下した費用や労力の程度、原告が被告との取引打切りに対応して商品の仕様を変えなければならないかったこと等を考慮すると、上記合理的期間は、被告が原告との取引を打ち切った平成11年6月下旬ころから約6か月の間、すなわち平成11年12月末日までとするのが相当である。
   (2) 被告は、他の業者が提示する価格に比べ、原告の提示価格がおよそ2割も高かったため、被告側から原告に対して適正な価格を指し値としたが、原告がこれに応じなかったので、原告との取引を中止したものであると主張する。
  確かに、被告が定期的に一定数量の原告商品A、Bを購入することが義務付けられるような継続的取引契約が締結されたことを認めることはできないことは上記のとおりであるから、被告が原告との取引を中止したとの一事をもって直ちに契約違反に当たるということはできない。
  しかし、被告が、原告と費用や労力を分担して商品化した原告商品A、Bの商品形態と実質的に同一と評価されるような商品形態を有する商品を原告以外の会社に製造させてこれを仕入れることが許されないことは上記のとおりであり、被告が仮にワイヤーブラシを販売するのであれば、被告が平成12年6月ころ以降に販売しているワイヤーブラシのように、原告商品A、Bとは異なる包装形態にして販売すべきであったというべきである。
  したがって、被告の主張は理由がない。
   (3) 被告商品Aは原告商品Aの商品形態と、被告商品Bは原告商品Bの商品形態と、それぞれ、実質的に同一といえる程度に類似した商品形態を有していることは前記第2の1(3)記載のとおりであるから、被告が、被告商品A、Bを原告以外の会社から仕入れて販売したことは、上記取引契約に付随する信義則上の義務に反する行為であり、被告は、上記義務を負う合理的期間である平成11年12月末日までの間は、同契約違反の仕入行為により、原告が得ることができたであろう損害を賠償する責任を負うものというべきである。

3 検討

 本件は、不正競争防止法2条1項3号における「他人の商品」の要件該当性について、具体的な事実に基づく判断過程を示したものであり、実務上参考になると思われる。特に、商品を開発して市場に置くにあたり、複数の当事者間で費用・労力を分担したケースにおいて、互いに「他人の商品」に該当せず同号の不正競争を主張できないとした点は注目される。

 また、本件においては、原告による不正競争防止法に基づく請求は棄却されたものの、契約違反に基づく損害賠償請求が認容された点も興味深い。契約違反の認定は、本件に特有の事情を踏まえたものであり、直ちに一般化することは難しいが、同様の事案が生じた場合に検討する価値はあると思われる。

以上
弁護士・弁理士 丸山 真幸