【令和3年3月1日(最高裁 平成30年(あ)第10号 「コミスケ3」事件)】

 

【キーワード】

不正競争防止法、不正競争、技術的制限手段、技術的制限手段の効果

 

【概要】

1.経緯

 X社は、電子書籍サービスを配信するにあたり、「dmmb」という形式のファイル(以下「D形式ファイル」という。)を用いて「E書籍ビューア」(以下「本件ビューア」という。)を開発し、ユーザに提供していた。本サービスの電子書籍は、D形式ファイルに暗号化されていたが、その閲覧のためには本件ビューアによる復号化が必要であった。X社は、本件ビューアにキャプチャ防止用プログラム(以下「ソフトウェアG」という。)を組み込み、本件ビューアにより復号化された影像のキャプチャ防止措置を講じていた。
 これに対し、株式会社インターナル代表取締役Y1、同社プログラマーY2、同社プログラム販売責任者Y3(以下併せて「Yら」という。)が、前記ソフトウェアGによるキャプチャ防止措置を無効化するプログラム「コミスケ3」(以下「F3」という。)を、2名の者にそれぞれダウンロードさせて提供した。
 当時の不正競争防止法は、以下のとおり、「技術的制限手段…により制限されている影像若しくは音の視聴」等を「当該技術的制限手段の効果を妨げることにより」可能とするプログラム等の提供等の行為を、「不正競争」として規制対象としている。

不正競争防止法2条7項(当時)】

 この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(…中略…)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

【不正競争防止法2条1項10号(当時)】

営業上用いられている技術的制限手段(…中略…)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(…中略…)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

 Yらは、共謀の上、同社業務に関し不正の利益を得る目的で、法定の除外事由なしに、「技術的制限手段の効果を妨げる」ことにより前記電子書籍の影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムを、電子通信回線を通じて提供したとして起訴された。第一審[i]は、F3の提供が「技術的制限手段の効果を妨げる」プログラムの提供であるとした検察官の主張を認め、Yら3名を有罪判決とした。これに対して、Yらは控訴した。

2.争点

 F3が、不正競争防止法2条1項10号(当時)の「技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(…中略…)若しくは当該機能のみを有するプログラム」に当たるかが争点である[ii]

 本件では、本件ビューア上の暗号化手段が「技術的制限手段」であることに争いはない。しかし、これを無効化する「F3」が、「技術的制限手段」である当該暗号化手段自体を無効化するものではなく、これとは別のソフトウェアGにより実現されるキャプチャ防止措置を無効化するプログラムであったため、「技術的制限手段の効果を妨げる」プログラムとなるかが問題となった。

 

【判旨】

1 控訴審(原審)[iii]

 控訴棄却。

 「『営業上用いられている技術的制限手段により制限されている・・・を技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能』とは・・・営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像、音の視聴、プログラムの実行、影像、音、プログラムの記録を可能とする機能を指す」と解した。
 本件では、本件ビューアの暗号化手段が「技術的制限手段」に該当するとした上、「この技術的制限手段の効果は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということ」とした。そして、「ソフトウェアGは、本件ビューアがインストールされた機器が表示する電子書籍の影像がキャプチャされて、他の機器でも自由にコンテンツが表示できるようになるのを防ぐ目的で、電子書籍の影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであって、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果が妨げられる事態のより確実な防止を目指すものである。・・・このソフトウェアGが行った制御と反対の制御を行うことによって影像のキャプチャを再度可能ならしめるF3は、・・・本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果を妨げるものにほかならないプログラム」であるとした。
 なお、第一審が「技術的制限手段の効果を妨げる」の解釈について、「技術的制限手段を施した者がいかなる効果を実現しようと意図していたかを検討することとなるが・・・主観的意図全てが保護に値するわけではなく、保護されるのは合理的な意図に限られる」という規範を提示した点について、控訴審(原審)は、「技術的制限手段を施した者がいかなる効果を実現しようとしていたかを検討する必要がある旨を説示する必要性は乏しかった」としている。

2 上告審[iv]

 上告棄却。

 「本件技術的制限手段は、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューアによる復号が必要となるよう、電子書籍の影像を暗号化して送信し、影像の視聴等を制限するものであった。Windows対応版の本件ビューアには、復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し、本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムであるソフトウェアGが組み込まれていた。ソフトウェアGは、本件ビューアを構成するプログラムの一つとして、本件ビューアと同時にインストールされ、ソフトウェアGのない状態では、本件ビューアは起動せず、ライセンスの発行を受けることも送信された影像の視聴もできないようにされていた。F3は、ソフトウェアGの上記機能を無効化し、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での上記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムであった。・・・以上の事実関係によれば、ソフトウェアGの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり、これを無効化するF3は、技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。したがって、F3を提供した被告人両名の行為は、法2条1項10号の不正競争に当たり、法21条2項4号に該当する。同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は、結論において正当である。」

 

【若干のコメント】

 本事件は、平成23年不正競争防止法の下での判断であるが、「技術的制限手段の効果を妨げる」の解釈に関して、現行の不正競争防止法の下でも参考になる事例といえよう。
 平成11年(1999年)の不正競争防止法の改正においては、コンテンツ提供事業の存立基盤の確保や競争秩序の維持といった観点から、「技術的制限手段…により制限されている影像若しくは音の視聴」等を「当該技術的制限手段の効果を妨げることにより」可能とするプログラム等の提供等の行為を「不正競争」と位置付け、規制対象とした。この「技術的制限手段の効果を妨げることにより」の解釈について、同改正に係る立案担当者解説[v]は、「技術的制限手段を営業上用いている者が当該技術的制限手段を施す際に意図した効果が妨げられていることを確認的に規定した文言である」としている。
 第一審は、当該解釈を受けて「技術的制限手段を施した者がいかなる効果を実現しようと意図していたかを検討することとなるが・・・主観的意図全てが保護に値するわけではなく、保護されるのは合理的な意図に限られる」とした一方、控訴審(原審)は、当該規範を「説示する必要性は乏しかった」として退けている。
 しかし、控訴審は、本件ビューアの暗号化手段である「技術的制限手段の効果は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということ」とした上、「ソフトウェアG」は、「電子書籍の影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラム」であるところ、「F3」は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果を妨げるものにほかならないプログラム」であるとし、「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」であると認定した。上告審の判断も当該原審の判断に乗っかった形で導かれたと思われる。つまり、裁判所は、「技術的制限手段の効果」について、技術的制限手段により直接得られる効果に限られないという見解(非限定説)を採用し、ソフトウェアGの機能により得られる効果も含まれるとした。
 これに対して、「技術的制限手段」である本件ビューアの暗号化手段そのものを無効化するものではなく、復号化後のデータに基づく画像のスクショ防止を無効化するにすぎないF3が「技術的制限手段の効果を妨げる」わけではないとして、学説からは強い反対説が出されている[vi]。また、そもそもソフトウェアGが「技術的制限手段」といえるかについて、(本件ビューアとソフトウェアGが)「一体のものとして評価できない場合は結論が異なる余地」があるとする見解もある[vii]。つまり、本件ビューアがソフトウェアGなしに起動せず、両者が一体として機能していた点も裁判所の判断に影響を与えたということである。
 以上のとおり、本件は、「技術的制限手段の効果」に当たる事例を最高裁判所が示したという点で意義があるといえる。F3が技術的制限手段(本件ビューアの暗号化手段)を直接無効化するプログラムでないという意味で限界事例であると考えるが、少なくとも罪刑法定主義との関係で慎重な文言解釈を要する刑事事件で、Yらの行為を「不正競争」に当たるとしたことから、私人間で民事的救済措置(差止請求や損害賠償請求等)を講じる際も念頭に置くべき判決となるであろう。
 実務的な観点では、例えば、ある事業者が、特定のコンテンツのアクセス管理のためのプログラム(技術的制限手段)を備える製品・サービスを提供するにあたり、併せてコピー防止等の付加的制限を行うプログラムを備えるのであれば、以下の点を検討することが考えられる。

  • 客観的にみて両者が一体であると評価されやすい提供方法(連動して起動する、1つのソフトウェアとして販売する等)を検討するのが望ましい。仮に両者が別売りの場合、「技術的制限手段」に当たる前者と後者との関連性が希薄になり、後者が「技術的制限手段の効果を妨げる」と解釈できるとはいえないと考えられる。
  • 「技術的制限手段の効果」の認定にあたり重要な考慮要素となるプログラムの用途・機能は、ユーザの利用条件も踏まえて判断される場合もある。このことから、当該利用条件には、不正アクセス行為、画面キャプチャ行為等の禁止行為を可能な限り明記した上、ユーザに明示的な同意をさせることが望ましい。仮にユーザにとって当該行為が禁止されるか否か不明瞭であれば、例えば、キャプチャ禁止がユーザの「債務」として構成できず、キャプチャ行為が「技術的制限手段の効果を妨げる」と解釈されないおそれも残る。

 

[i] 京都地判平成28年3月24日(平成26年(わ)第405号)
[ii] 現行法に照らしても争点は同一であるが、現行不正競争防止法21条8項は、コピー管理技術及びアクセス管理技術を「技術的制限手段」と定義した上、同21条1項17号(及び18号)により、「技術的制限手段の効果を妨げる」ことにより当該手段を無効化するプログラムを譲渡等する行為を不正競争として規制している。
[iii] 大阪高判平成29年12月8日(平成28年(う)598号)
[iv] 最判令和3年3月1日(平成30年(あ)10号)
[v] 文化庁長官官房著作権課内著作権法令研究会=通商産業省知的財産政策室編「著作権法・不正競争防止法改正解説」240頁
[vi] 帖佐隆・判例評釈2021年12号55頁~58頁、小倉秀夫・SLN2022年2月号等
[vii] 奥邨弘司・ジュリスト2021年9月号9頁

以上
弁護士 藤枝典明