【令和5年1月12日判決(知財高裁 令和3年(行ケ)第10157号)】

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1 事案の概要

  本件は、無効審判の請求不成立の審決取消訴訟である。
  本件は、引用文献の「考察」に記載された事項が、引用発明の認定に用いられるべきかが争われた。

 

2 本件発明

  (E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
  前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
  前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、
   前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、
  ことを特徴とする薬剤。

 

3 引用発明

 KW-6002を含有する薬剤であって、MPTP処置コモンマーモセットに対して、閾値投与量のL-ドーパ (2.5mg/kg)及びカルビドパ(12.5m g/kg)が投与される90分前又は24時間前に、KW-6002(10.0m g/kg)が組合せ経口投与される、自発運動活性と運動障害を改善する薬剤。

4 本件発明と引用発明の相違点

 本件発明は、「ヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、 「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L -ドーパ療法」において投与される「薬剤」であるのに対し、甲A1発明は、「MPTP処置コモンマーモセット」を対象とする「自発運動活性と運動障害を改善する薬剤」である点

 

5 引用文献の「考察」の記載(以下「本件記載」)

 「結論として、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、単独療法として のみならず、L-ドーパ及びドーパミンアゴニストとの組合せで、パーキンソン病の有用な治療剤となる可能性がある。特に、「ウェアリング・オフ」及び「オン・ オフ」応答変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、ジスキネジアを長引かせることなしに「オン時間」を増加させることができる可能性がある。」

 

6 裁判所の判断

「(3) 甲A1に記載された発明の認定

ア 前記(1)のとおりの甲A1の記載内容に加え、前記(2)において検討したところも併せ考慮すると、甲A1には、本件審決が認定したとおり、次の発明(甲A1 発明)が記載されているものと認められる。
 KW-6002を含有する薬剤であって、MPTP処置コモンマーモセットに 対して、閾値投与量のL-ドーパ(2.5mg/kg)及びカルビドパ(12.5m g/kg)が投与される90分前又は24時間前に、KW-6002(10.0m g/kg)が組合せ経口投与される、自発運動活性と運動障害を改善する薬剤。

イ この点に関し、原告東和は、①甲A1が問題としているパーキンソン病の 「応答変動」はウェアリング・オフ現象等を指すところ、②甲A1は、そのような 「応答変動」に対する治療方法として、すなわち、ウェアリング・オフ現象等のオフ時間を短縮するために非ドーパミン作動性の薬剤を見いだすことを目的とし、③ そのような目的を達成するため、甲A1においては、MPTP処置コモンマーモセ ットを用いてKW-6002の単独投与、L-ドーパとKW-6002との併用等による抗パーキンソン効果の測定を行い、そのいずれにおいても有意な改善が見られたとの結果を受け、本件記載がされたのであるから、甲A1には、「L-ドーパ との組合せで、「ウェアリング・オフ」及び「オン・オフ」応答変動を有する患者 において、ジスキネジアを長引かせることなしに「オン時間」を増加させることができる可能性がある薬剤。」(甲A1発明’)が記載されていると主張する。
 しかしながら、甲A1の記載(前記(1)ウ)によると、甲A1には、「応答変動」 に関しては、「応答変動」を経験する患者の場合は一般的にジスキネジアの出現を伴うことから、パーキンソン病を治療するための代替手段として、基底核の神経経路上の非ドーパミン作動性の標的に注目が集まっていることが記載されているものと認めるのが相当であるし、また、MPTP処置コモンマーモセットを用いてKW-6002の単独投与の効果を調べた試験(図1試験)においても、MPTP処置コモンマーモセットを用いてKW-6002及びL-ドーパの併用の効果を調べた試験(図4試験)においても、MPTP処置コモンマーモセットは、長期間にわたってL-ドーパ療法を受けた動物ではなく、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った動物でもない。さらに、図4試験は、L-ドーパ の作用の増強の有無及び程度について調べる試験であり、L-ドーパの作用の持続時間の長短を調べる試験ではない(・・・)。そうすると、甲A1は、 パーキンソン病のウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時 間を減少させるための治療方法を見いだすために執筆された学術論文であるということはできないし、本件記載のうち「「ウェアリング・オフ」及び「オン・オフ」 応答変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、…「オン時間」 を増加させることができる可能性がある。」との部分は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるということはできない。
 以上のとおりであるから、原告東和の上記主張を採用することはできない。」

 

7 コメント

  引用文献甲A1の論文には、「考察」に、本件発明との相違点にかかる構成(本件記載)が記載されている。
  しかし、甲A1で薬剤が投与された動物は、Lドーパ療法を長期間受けた動物ではなく、ウェアリング・オフ現象を示した動物ではない。
  裁判所は、この点を捉えて、本件記載は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるということはできないと認定し、引用発明の認定に、本件記載は用いられなかった。
  引用文献中に、明確に記載があるにも関わらず、当該記載が引用発明の認定に用いられなかったのは興味深い。

 

 

                                        以上

弁護士・弁理士 篠田淳郎