【令和5年3月30日(東京地裁 令和4年(ワ)2237号)】

【事案の概要】

 1 本件は、別紙著作物目録掲載の写真(以下「本件写真」という。)の著作権を有する原告が、別紙発信者目録記載の各発信者(以下、同目録記載の発信者1を「本件発信者1」と、同目録記載の発信者2を「本件発信者2」と、それぞれいい、本件発信者1と本件発信者2を、併せて「本件発信者ら」という。)が本件写真をそれぞれウェブサイト(以下「本件各ウェブサイト」という。)に投稿(以下「本件各投稿」という。)したことによって、原告の本件写真に係る複製権、送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されたと主張して、本件各ウェブサイトを管理する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。争点整理の結果、本件の権利侵害の明白性に係る争点は、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用の可否のみであるとされた。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
  被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
(中略)
 2 前提事実(本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
  (1) 当事者
  ア 原告は、本件写真の著作権を有する写真家である。(甲1、弁論の全趣旨)
  イ 被告は、本件各投稿時点において、本件各ウェブサイト上の各サービスを管理していた法人であり、プロバイダ責任制限法2条7号にいう開示関係役務提供者に該当する。(弁論の全趣旨)
  (2) 本件投稿等
  本件発信者1は、別紙発信者目録の発信者1のサイトURL記載のウェブサイト(Google+)に、本件発信者2は、同目録の発信者2のサイトURL記載のウェブサイト(Blogger)に、それぞれ、本件写真の投稿(本件各投稿)をした。(甲2、5、弁論の全趣旨)
 3 争点
  (1) 著作権法41条の適用の可否(争点1)
  (2) AdSenseアカウント情報の発信者情報該当性(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
  (被告の主張)
  本件各投稿は、いずれも原告が提起した別件訴訟(以下「別件訴訟」という。)の結果について、原告自らが報道したブログ記事の内容を転載したものであり、本件写真が、別件訴訟において原告の著作権が問題となった著作物そのものであることを踏まえると、本件写真は当該事件を構成する著作物に当たり、本件各投稿は、写真によって時事の事件を報道する場合(著作権法41条)に該当する。
  (1) 別紙発信者目録記載の本件発信者1の投稿(以下「本件投稿1」という。)においては、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」と別件訴訟の判決内容が述べられており、本件投稿1は、当該判決内容を、社会的意義のある時事の事件として、客観的かつ正確に伝えようとしたものと認められる。そして、当該判決内容を、客観的かつ正確に伝えるためには、本件写真を投稿する必要がある上、本件写真が本件投稿1において占める割合も大きいものではないから、「報道の目的上正当な範囲内」において複製されたものといえる。
  (2) 別紙発信者目録記載の本件発信者2の投稿(以下「本件投稿2」という。)においては、「まとめサイト発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公式ブログ 北海道に恋して」と表示されていることから分かるように、本件投稿2は、まとめサイトにおける発信者情報開示裁判において、プロバイダであるLINE株式会社の敗訴が確定したという「社会的意義のある時事の事件」を「客観的かつ正確に伝えようとする」ものであり、そのためには、本件写真を投稿する必要があるといえる。また、本件写真が本件投稿2において占める割合も大きいものではないから、「報道の目的上正当な範囲内」において複製されたものといえる。
  (原告の主張)
  (1) 著作権法41条の「報道」とは、社会的な意義のある時事の事件として客観的かつ正確に伝えようとするものでなければならないところ、本件投稿1の元となった投稿(以下「本件元投稿」という。)においては、本件写真がすぐに削除されていることから明らかなように、本件写真は客観的かつ正確な事実の伝達に必要な情報ではないし、本件元投稿における「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないものである上、本件投稿1における「ん?インラインリンクでアウトなの?なんか色々波及しそうな」との記載は、当該判決の感想を表明したにすぎないものである。そうすると、本件投稿1は、具体的な事件を社会的な意義のある時事の事件として客観的かつ正確に伝えようとするものとはいえないから、著作権法41条の「報道」に当たらない。
  また、インラインリンクが著作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝達するに当たり、具体的な写真の掲載は不要であるから、本件投稿1における本件写真の掲載は、「報道の目的上正当な範囲内」に含まれない。
  (2) 本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地はない。
 2 争点2(AdSenseアカウント情報の発信者情報該当性)について
(中略)
第4 当裁判所の判断
 1 争点1(著作権法41条の適用の可否)について
  (1) 本件投稿1について
  ア 証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、「『まとめサイト』でのインラインリンクに著作権侵害幇助の判決!:プロ写真家・A公式ブログ…」との表題及び「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」とのコメントと共に、本件写真が投稿されたものであり、本件写真は、上記にいう著作権侵害幇助の判決(以下「別件訴訟判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのものであることが認められる。
  上記認定事実によれば、本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。
  そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
  イ これに対し、原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」との記載は、抽象的に、インラインリンクが著作権の幇助侵害に当たり得るという規範の問題を伝えるにすぎないものであるから、本件投稿1は「報道」に当たらないと主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、本件投稿1は、著作物の利用に関して社会に影響を与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えるものであることからすると、これが「報道」に当たることは明らかである。したがって、原告の主張は、採用することができない。
  また、原告は、本件元投稿においては本件写真がすぐに削除されたことや、規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることからすれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条に規定する「報道の目的上正当な範囲内」に含まれないと主張する。しかしながら、上記において説示したとおり、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となった著作物であることからすれば、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、採用することができない。
  ウ 以上によれば、本件投稿1における本件写真の掲載は、著作権法41条により適法であるものと認められる。
  (2) 本件投稿2について
  ア 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2は、「まとめサイト発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家 A公式ブログ 北海道に恋して」との記載と共に、本件写真が投稿されたものであり、本件写真は、上記にいう発信者情報裁判の上告棄却判決(以下「別件最高裁判決」という。)において、著作権侵害の成否が問題とされた写真そのものであることが認められる。
  上記認定事実によれば、本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。
  そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。
  イ これに対し、原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地はないと主張する。しかしながら、証拠(甲14、15)及び弁論の全趣旨によっても、Bloggerがスパムブログに悪用され得ることや、広告収入を得る目的等でスパムブログが存在することなどが一般的に認められることが立証され得るにとどまり、本件投稿2自体が悪質なスパムブログにユーザーを現に誘導している事実を具体的に認めるに足りないものといえる。その他に、上記(1)イにおいて説示したところと同様に、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様のほか、本件写真が、著作物の利用に関して社会に影響を与える別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物であることを踏まえると、原告主張に係る事情を十分に考慮しても、原告の主張は、上記判断を左右するものとはいえない
  したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
  ウ 以上によれば、本件投稿2における本件写真の掲載は、著作権法41条により適法であるものと認められる。
  (3)その他
  その他に、原告提出に係る準備書面及び提出証拠を改めて検討しても、原告の主張は、前記認定に係る本件写真の主題性等を踏まえると、表現の自由の重要性に照らしても、前記判断を左右するに至らない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
 2 したがって、本件投稿1及び2における本件写真の各掲載(本件各投稿)は、著作権法41条によりいずれも適法であるものと認められる。
  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
第5 結論
  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

【解説】

 本件は、発信者情報開示請求事件であるが、被告が管理する本件各ウェブサイトに投稿された本件各投稿が、原告の本件写真に係る複製権、送信可能化権及び児童公衆送信権が侵害されたか否かが争われた事件であり、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用の可否が争点とされた。
 著作権法41条によれば、①写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合、②当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、③報道の目的上正当な範囲内において、という要件を充足すれば、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。
 本件において、裁判所は、本件投稿1について、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であるから、当該事件を構成する著作物に該当すると判断した。原告は、本件投稿1は、規範の問題を伝えるにすぎないものであるから、「報道」に当たらないと主張したが、裁判所は、本件投稿1は、社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えるものであるから、「報道」に当たることは明らかであるとした。また、原告の、元の投稿で本件写真がすぐに削除されたことや、規範の問題を伝達するに当たり写真の掲載は不要であることから、「報道の目的上正当な範囲内」に含まれないとの主張も退けられた。
 また、本件投稿2については、裁判所は、本件写真は、別件最高裁判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であり、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当すると判断した。原告は、本件投稿2は、悪質なスパムブログにユーザーを誘導するために本件写真を利用するものであるから、「報道」に当たる余地はないと主張したが、退けられた。
 著作権法41条に関する過去の裁判例としては、ブログの記事について、紛争状態にある別件訴訟原告から訴えを提起されたことについて、遺憾の意を表明し、あるいは訴状の内容の不当性を訴えるものであって、公衆に対し、当該訴訟や別件訴状の内容を社会的な意義のある時事の事件として客観的かつ正確に伝えようとするものではないから、「時事の事件を報道する場合」に該当しないと判断された事案[1]や、警視庁が著作権者Xに対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることを報じるテレビ番組内で、Xが作曲した楽曲(本件楽曲)を放送したことについて、本件楽曲は、警視庁がXに対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという事件の主題となるものでなく、時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから、時事の事件の報道のための利用に該当しないとされた事案[2]などがある。本件における裁判所の判断も、本件各投稿の目的にもとづいて、「報道」に該当するかどうか判断し、さらに、本件各投稿内での本件写真の位置付けから、事件を構成する著作物に該当するかどうかを判断したという点で、過去の裁判例と同様の手法に基づくものであり、妥当な判断と解される。
 著作権法41条の過去の裁判例はあまり多くないが、本件は、著作権法41条の適用可否の判断例として取り上げさせていただいた。

以上
弁護士 石橋茂


[1] 東京地判 令和03年07月16日、令和3年(ワ)第4491号

[2] 東京地判 平成30年12月11日 判例時報2426号57頁