【令和5年1月24日(知財高裁令和4年(行ケ)10062号)】

【キーワード】
商標法3条1項3号、商標法3条2項、色彩商標、単一の色彩のみからなる商標

【事案の概要】

原告は、以下の標章(以下「本願商標」という。)について商標登録出願(商願2015-29864号)を行ったところ、特許庁より拒絶査定を受けた。原告は、当該拒絶査定を不服として不服審判を請求したが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)がなされたため、本件審決の取消しを求め、本件訴訟を提起した。

<本願>
・出願番号:商願2015-29864号
・本願商標:

・指定商品:第16類「鉛筆(色鉛筆を除く。)」
・商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標は「DICカラーガイドPART2(第4版)2251」のみからなるものである。

【審決の理由の概要】

本願商標は、その指定商品に使用されるとき、需要者及び取引者は、単に商品やその包装の美感を向上させる目的の色彩であると認識、理解するにとどまるというべきで、単に商品の特徴(商品の色彩)を普通に用いられる方法で表示するにすぎないため、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
また、本願商標に係る色彩は、その指定商品に係る需要者の間において、原告に係る出所識別標識として広く認識されるに至っているとまでは認められないため、商標法3条2項の要件を具備しない。

【争点】

・商標法3条1項3号該当性
・商標法3条2項該当性

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)

第4 当裁判所の判断

1 本願商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当するかについて

(1) 本願商標及びその近似色について

ア 別紙商標目録記載のとおり、本願商標は、色彩(DICカラーガイドPART2(第4版)2251)のみからなる商標であり、文字、図形又は他の色彩と組み合わせたものではなく、商標を使用する際の形態や使用態様も特定されておらず、輪郭のない単一の色彩のみからなるものである。

イ (省略)

(2) 本願商標の近似色の使用例について

次のとおり、鉛筆を含む筆記用具に関しては、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている。

ア~ハ (省略)

(3) 検討

一般に、商取引においては、商品の外装等の商品又は役務に関して付される色彩は、商品又は役務のイメージ、美感等を高めるために多種多様なものの中から選択されて付されるものにすぎないから、そのようにして付された色彩が直ちに商品又は役務の出所を表示する機能を有するというものではない。

そして、本願商標についてみても、前記(1)のとおり、本願商標は、輪郭のない単一の色彩のみからなるものであるところ、JIS系統色名の区分における位置付けとしては、「ごく暗い赤」「暗い赤」「暗い灰みの赤」の3区分の境界領域に位置するとされ、基本色名としても、「紫みの赤」に近い領域に位置するとされ、基本色彩語としても、「赤」「紫」「茶」の境界領域に存在し、色相「赤」ないし「赤紫」の暗い色として捉えられ、マンセル近似値をみても、当該近似値が近いボルドー、バーガンディー等が存在するなど、その近似色は、無数に存在するものと認められる。現に、取引の実情をみても、前記(2)のとおり、本願商標の近似色は、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具に関して、広く使用されているものである(なお、後記2(2)において説示するとおり、本願商標が自他商品識別力を備えるに至ったものと認めることはできない。)。

以上によると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆(色鉛筆を除く。以下同じ。)について使用される場合であっても、本願商標に接した需用者及び取引者をして、本願商標に係る色彩が単に商品(鉛筆)のイメージ、美感等を高めるために使用されていると認識させるにすぎないものと認めるのが相当である。そうすると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆の特徴(鉛筆の外装色等の色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということができるから、本願商標は、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

2 本願商標が商標法3条2項に規定する商標に該当するかについて

(1) 単一の色彩のみからなる商標と商標法3条2項について

商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する単一の色彩のみからなる商標が同条2項に規定する「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に該当するというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり、さらに、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要すると解するのが相当である

(2) 本願商標の自他商品識別力

ア 認定事実

・・(省略)・・

イ 検討

前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当程度の認知度を有しているものと認められる。

しかしながら、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩及び文字も付されているところ、前記1(2)のとおり、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示す「MITSU-BISHI」、「uni」、「Hi-uni」、「uni☆star」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。

加えて、前記認定のとおり、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんでいる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。

以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからなる本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至っていると認めることはできない

(3) 小括

以上のとおり、本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標(「使用をされた結果需用者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識するもの」)に該当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

【検討】

1 色彩商標

「色彩商標」とは、輪郭がなく、単色又は複数色の色彩のみからなる商標をいう。平成26年改正により、商標法第2条1項において「この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち・・色彩又はこれらの結合・・であって、次に掲げるもの」と定義されたことにより、認められることとなった商標である。

しかし、一般の商取引において、商品等の色彩は、商品のイメージや美感を高めるために多様な色彩が選択して使用されていることから、基本的には、商品の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として使用されていないといえる。

そのため、色彩商標は、多くの場合、商標法3条1項3号に該当する。

2 商標法3条2項による登録例

色彩商標が商標法3条1項3号に該当する場合であっても、商標法3条2項に定める商標に該当する場合は、商標登録が認められる。商標法3条2項に定める商標への該当性は、商標が使用をされた結果、何人かの出所表示として、指定商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているかが判断基準となる。

例えば、原告は、以下の色彩商標について、商標法3条2項の適用により商標登録を受けている。

・登録番号:商標登録第6078470号
・登録商標:

・登録日:2018年9月7日
・指定商品・役務:第16類「鉛筆」

・登録番号:商標登録第6078471号
・登録商標:

・登録日:2018年9月7日
・指定商品・役務:第16類「鉛筆」

3 本件の検討

本件において、本願商標は、単一の色彩のみからなる商標であるところ、筆記用具業界では本願商標の近似色が広く使用されている実情を踏まえて、商標法3条1項3号に該当すると判断された。
そして、裁判所は、単一の色彩のみからなる商標への商標法3条2項の適用について、①商標が使用をされた結果、特定人の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったこと、②その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していること、③特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることが必要であるとの判断基準を示し、本願商標は、商標法3条2項に定める商標には該当しないと判示した。
上記判断基準は、商標法3条2項の適用についての従来の判断基準に加えて(①要件)、②・③要件が加重されたものと考える。単一の色彩のみからなる商標は、その保護を認める場合、指定商品・役務において近似色の使用も制限されることからも、他の商標よりも登録についてのハードルが高いといえる。

以上
弁護士 市橋景子