【令和5年2月28日(東京地判 令和2年(ワ)19221号】

【判旨】

原告の特許権の侵害を理由とする差止請求において、間接侵害が肯定された。

【キーワード】

間接侵害、第101条第2号、汎用品要件、「日本国内において広く一般に流通しているもの」

1.事案の概要(特許発明の内容)

本件発明1
1A 複数個の、金属マグネシウム(Mg) 単体を50重量%以上含有する粒子を、水を透過する網体で封入してなる
1B ことを特徴とする洗濯用洗浄補助用品。

本件発明2
2A 粒子が金属マグネシウム(Mg) 単体を実質的に100重量%含有するものである
2B ことを特徴とする請求項1に記載の洗濯用洗浄補助用品。

本件発明3
3A 粒子の平均粒径が1.0~9.0mmである
3B ことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗濯用洗浄補助用品。

2.争点

「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件の充足性

3.判旨

(3) 「日本国内において広く一般に流通しているもの」について
ア 特許法101条2号所定の「日本国内において広く一般に流通しているもの」とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等の、日本国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではなく、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。
本件においては、前記(I)アのとおり、被告製品には、購入後に洗濯ネットに入れて洗濯用洗浄補助用品を手作りし、洗濯物と一緒に洗濯をする旨の使用方法が付されている。そして、本件明細書には、洗濯用洗浄補助用品として用いられる金属マグネシウムの粒子の組成は、金属マグネシウム(Mg) 単体を実質的に100重量%含有するものがより好ましく(【0020】)、洗濯洗浄補助用品として用いられる金属マグネシウムの粒子の平均粒径は、4.0~6.0 mmであることが最も好ましい(【0022】)と記載されているところ、前記(1)イのとおり、被告製品は、これらの点をいずれも満たしている。そうすると、被告製品を洗濯ネットに封入することにより、必ず本件各発明の構成要件を充足する洗濯用洗浄補助用品が完成するといえるから、被告製品は、本件各発明の実施にのみ用いる場合を含んでいると認められ、上記のような単なる規格品や普及品であるということはできない。
以上によれば、被告製品は、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当するとは認められない。
イ これに対し、被告は、被告製品に係る金属マグネシウムの粒子と同じ構成を備える金属マグネシウムの粒子が市場に多数流通しており、遅くとも口頭弁論終結時までには、日本国内において広く一般に流通しているものになったといえると主張する。
しかし、「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件は、市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品の生産、譲渡等まで間接侵害行為に含めることは取引の安定性の確保の観点から好ましくないため、間接侵害規定の対象外としたものであり、このような立法趣旨に照らすと、被告製品が市場において多数流通していたとしても、これのみをもって、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当するということはできない。
したがって、被告の主張は採用することができない。

4.検討

 特許法第101条第2号の間接侵害の成立には、「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件(汎用品要件)を充足することが必要となる。汎用品要件に関し、知財高判平成17年9月30日〔一太郎事件・控訴審〕は、「『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは、典型的には、ねじ、釘、電球、トランジスター等のような、日本国内において広く普及している一般的な製品、すなわち、特注品ではなく、他の用途にも用いることができ、市場において一般に入手可能な状態にある規格品、普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示し、汎用品要件の解釈を示すが、「特注品」の意義が明確でないことや、「他の用途」は「規格品」といわれる程の他の用途がないといけないのか、また、「普及品」といえるための普及の程度はどの程度かが明らかでないことから、汎用品要件の規範は必ずしも明確とはいえない。また、一太郎事件・控訴審では、一太郎は、市場での流通量からすると一般入手可能であったことから、「普及品」に該当するものであるが、判決では、特に、被告製品が「普及品」であるかについては何ら触れられず、「控訴人製品は、本件第1、第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから、同号にいう『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらないというべきである。」と判示しており、製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して、汎用品要件の該当性の判断がされており、判決で述べられた、汎用品要件の解釈とは必ずしも整合するものではない。
 そして、本判決では、一太郎事件・控訴審判決と同様の汎用品要件の解釈が示された上で、被告製品には、使用方法が付されていたことや、金属マグネシウムの粒子の平均粒径の構成に着目しているという点では、製品自体の性質あるいは構成に着目して、汎用品要件の該当性が判断されているという点や、「被告製品は、本件各発明の実施にのみ用いる場合を含んでいる」と一太郎事件・控訴審と同じ言い回しが使われている点で、汎用品要件の該当性に関し、一太郎事件・控訴審判決と同様の考え方で汎用品要件を検討しているといえる。
 また、本件では、被告製品と同様の製品が、市場に多数存在している場合でも、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当しないのかという点が問題となった。この点については、「事実審口頭弁論終結時までの間に、侵害者において、当該物を大量に製造販売して『日本国内において広く一般に流通している』状況を作出すれば、少なくとも、差止請求は免れることとなる。『取引の安全性の確保』という立法趣旨に照らせば、その結論はむしろ当然ということになるだろう。」(三村量一「非専用品型間接侵害(特許法101条2号、5号)の問題点」(知的財産法政策学研究vol.19(2008)))との指摘もあるところではあったが、本判決では、侵害品が多数流出しているからといって、取引の安全性を害することにはならないとして、「日本国内において広く一般に流通しているもの」に該当しないと判断している点は、これまでの裁判例では見られなかった指摘であり、先例性があると考えられる。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一