【知財高裁令和5年9月29日(令3(ワ)10991号 損害賠償請求事件)】

【キーワード】
著作権法26条の2、著作権法27条、著作権法112条1項・2項、商標法36条1項・2項、Tシャツ、イラスト、ファッション

【事案の概要】

原告及び被告は、ともに、衣料品、衣料雑貨品等の製造販売を行う株式会社である。

原告は、平成25年4月頃より、「Fathom」という名称のブランド(以下「原告ブランド」という。)を展開していた。原告は、以下のイラスト(以下「原告イラスト1」、「原告イラスト2」といい、あわせて「原告各イラスト」という。)を作成し、原告イラスト1については商標出願を行い、登録された(以下「原告商標」という)。

原告イラスト1 原告イラスト2 原告商標

商標登録第5820024号

第25類:被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴

被告は、令和元年9月頃より、「SEVEN DAYS=SUNDAY」という名称のブランドを展開し、その中の「7TEES」シリーズ(以下「被告シリーズ」という。)の一商品として、以下のイラスト(以下「被告イラスト」又は「被告標章」という。)を付した製品(以下「被告製品」という)を販売していた。

被告イラスト 被告製品

原告は、被告が原告の原告イラスト2に係る原告の著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)並びに原告商標に係る商標権(以下「原告商標権」という。)を侵害しているとして、被告に対し、①著作権法112条1項に基づく原告イラスト2の複製、翻案及び譲渡の差止め、②商標法36条1項に基づく被告の販売するTシャツに被告イラストを付すこと及び被告イラストを付したTシャツの譲渡等の差止め、及び③著作権法112条2項又は商標法36条2項に基づく被告製品の廃棄及び被告イラストの画像データの削除(廃棄請求及び削除請求はいずれも選択的併合)並びに④不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求した。

【争点】

  • 被告イラストが原告の著作権を侵害するか
  • 被告標章が原告商標権を侵害するか

【判決一部抜粋】

(下線は筆者による。)

第1~第4(省略)

第5 当裁判所の判断

1 争点1(原告イラスト2の著作物性並びに著作権及び著作者人格権の帰属)について

⑴ 著作物性について

ア (省略)

イ ・・(省略)・・そこで検討すると、原告イラスト2は、水に浮かぶビーチマットの上で、サングラスをかけた水着姿の女性が、ハイヒールを履いたまま、うつ伏せで寝そべる様子をイラストにしたものである。そして、原告イラスト2は、①女性とビーチマットの輪郭を、あえて太目で丸みを帯びた黒線で描くとともに、細かい光の加減等による色味の差を捨象し、平面的で単一的な彩色を採用することにより、レトロ感とポップ感を表現し、イラストに明快な存在感を与えている点②ビーチマットの下部に水や波を直接描かず、同ビーチマットの下部を波型に切り取ることにより、同ビーチマットが水に浮かんでいることを表現している点③女性が足を前後させて、遠くを見ている仕草をあえて背後から描き、リゾート地で女性がリラックスしているという印象を与えている点、④女性の足元には、裸足やビーチサンダルではなく、あえてハイヒールを描き、常識に縛られないイメージを表現している点において、選択の幅がある中から作成者によって敢えて選ばれた表現であるということができるから、作成者の思想又は感情が創作的に表現されていると認められる。

・・(省略)・・

ウ (省略)

⑵ 著作権及び著作者人格権の帰属

(省略)

2 争点2(著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)侵害の有無)について

⑴ 複製権侵害及び翻案権侵害の判断枠組み

著作物の複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。

そうすると、被告イラストが原告イラスト2を複製又は翻案したものに当たるというためには、被告イラストが原告イラスト2に依拠し、原告イラスト2と被告イラストとの間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であり、原告イラスト2と被告イラストにおいて、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告イラストは原告イラスト2を複製又は翻案したものに当たらないと解するのが相当である。

⑵ 創作的表現が共通するかについて

ア 前提事実⑷及び⑸によれば、原告イラスト2と被告イラストは、次の表現の点で共通していると認められる。

① サングラスをかけ、ハイヒールを履いたビキニ姿の女性が、うつ伏せでビーチマットの上に寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、左右の足を前後させ、頭部を上記ビーチマットから浮かせ、頭部は画面奥に向く体勢をとっている点

② 上記の体勢をとった女性を右後方から見た図を描いている点

③ ビーチマットの下部には水や波が直接描かれておらず、ビーチマットの下部が波型に切り取られている点

④ 女性とビーチマットの輪郭線は、いずれも太めの黒線で描かれている点

⑤ 女性の体、髪の毛、水着、ビーチマット、ハイヒールの色は、光の加減等による色味の差がなく、単一の彩色が使用されている点

上記①ないし⑤の共通点は、いずれも、アイデアにとどまらず、具体的な表現における共通点であるといえ、前記1⑴イにおいて説示したとおり、これらの共通する表現には原告の創作性が認められる。

イ (省略)

⑶ (省略)

3 (省略)

4 争点4(原告商標と被告標章の類比)について

⑴ 商標の類比の判断枠組み

商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、①商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、③商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

⑵ 原告商標及び被告標章について

ア 原告商標について

原告商標の構成は、別紙商標権目録記載の「登録商標」記載のとおりであり、黒色のサングラスをかけ、赤い靴を履いた黒色のビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶ赤色のビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、頭部は画面奥に向く体勢をとっている様子が描かれている。この絵柄からは、「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」という観念が生じるが、特定の称呼は生じないものと認められる。

イ 被告標章について

被告標章の構成は、別紙被告イラスト目録記載のとおりであり、中心部に、黒色のサングラスをかけ、オレンジ色のハイヒールを履いた水色のビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶ、同ハイヒールと同色のビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げ足を前後し、頭部は画面奥に向く体勢をとっている様子が描かれた絵柄部分と、右下において、斜め右上がり方向に記載された「SOLVANG」の文字部分からなる結合標章である。

被告標章の構成中、絵柄部分は、中心に大きく描かれているのに対し、文字部分は右下において図形部分と重なることなく配置されているから、絵柄部分と文字部分とでは、商標全体に占める大きさ、態様が異なっており、視覚的に分離して把握されるものであるといえる。また、絵柄部分と文字部分が観念的に密接な関連性を有しているとは認められないし、一連一体として何らかの称呼が生じるとも認められない。これらの事情を考慮すると、絵柄部分と文字部分が分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められない。そして、絵柄部分は、被告標章の約8割を占めている上、中心に大きく描かれ、オレンジ色や水色といった明るい色で採色されているのに対し、文字部分は、欧文字からなる上、日常的に馴染みがある言葉ではなく、必ずしもその意味を理解することが容易な語とはいえないことからすると、取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのは絵柄部分であるといえ、被告標章のうち、絵柄部分のみ抽出し、原告商標との類否を判断することも許されると解するのが相当である。

そして、被告標章の絵柄部分からは、「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」という観念が生じるが、特定の称呼は生じないものと認められる。

ウ 対比について

(ア) 被告製品はTシャツであるところ、Tシャツは、第25類「被服」に該当するから、原告商標の指定商品と被告製品は類似する。

(イ) 商標の類否判断は、対比する両商標を時と所を異にして離隔的に観察する場合に混同を生じるかどうかという方法によるべきであるところ、これを前提に検討すると、原告商標と被告標章の絵柄部分は、女性の靴の形状、靴、ビキニ及びビーチマットの色並びに膝から下の脚の角度が違うとの相違点があるものの、いずれも、黒色のサングラスをかけ、靴を履いたビキニ姿の女性が、水の上に浮かぶビーチマットの上にうつ伏せで寝そべり、膝から下の脚を背部に向けて折り曲げて、頭部は画面奥に向く体勢をとっている点で共通し、需要者に対して共通の印象を与えるといえるから、外観は類似しているといえる。

また、前記ア及びイで説示したとおり、原告商標と被告商標の絵柄部分の観念は、いずれも「水の上に浮かぶビーチマットに寝そべる女性」であって、同一である。

以上を総合して全体的に考察すると、原告商標と被告標章との間において誤認混同のおそれがあるといえる。

(ウ) 被告は、原告商標が付された商品と被告製品の販売チャネルは相違しているから、原告商標が付された商品と被告製品の出所の誤認混同は起こらないなどと主張する。

しかし、前提事実⑷イのとおり、原告は、他のアパレル会社等とコラボレーションをし、原告イラスト2の色彩を改変し、同イラストの右下にコラボレーションをしたアパレル会社のブランド名を記載し、Tシャツ等の胸元に印刷して販売することがあったのであるから、需要者が、被告製品を、原告ブランドとのコラボレーション商品であると誤認してこれを購入する可能性を否定できず、原告商標が付された商品と被告製品の販売チャネルが相違していることをもって、原告商標が付された商品と被告製品の出所の誤認混同は起こらないとはいえない。

したがって、被告の主張に理由はない。

5 争点5(商標的使用該当性)について

⑴ (省略)

⑵ これに対し、被告は、被告製品は被告標章が胸部の中央に大きく印刷されたものであるところ、需要者は、通常、Tシャツの首後ろ部に印刷された被告シリーズの名称や、被告製品販売時に付された紙製のタグにより被告製品の出所を認識するから、被告標章により出所を認識するものではなく、被告標章は自他商品識別機能を果たさない態様で使用されていたと主張する。

しかし、商標がTシャツの首後ろ部の表示やタグだけではなく、胸元に大きく付された商品も多く存在すると認められること(当裁判所に顕著な事実)に照らすと、需要者がTシャツの首後ろ部に印刷された名称や紙製のタグにより被告製品の出所を認識するとの事実を直ちに認めることはできないというべきであり、本件全証拠によっても、被告主張の事実を認めることはできない。

したがって、被告の上記主張は採用することができない。

・・(以下、省略)・・

【検討】

1 著作権侵害と商標権侵害

他人のイラストを無断で複製又は翻案し、その複製物又は翻案物を譲渡する行為は、著作権侵害に該当し、著作権法に基づく差止請求が可能である(著作権法112条1項)。
さらに、当該他人が同一のイラストを商標登録していた場合、上記行為は商標権侵害にもなりえ、商標法に基づく差止請求が可能である(商標法36条1項)。
このように、同一の行為が著作権侵害に該当するとともに、商標権侵害に該当する場面が存在する。
としても、著作権と商標権はそれぞれ別の権利であり、目的や侵害に関する判断基準も異なるため、同一の行為について著作権侵害と商標権侵害の両方が問題となったからと言って、必ずしも両権利を侵害するとはいえない。
著作権侵害に該当するか、商標権侵害に該当するか、という点は分けて考える必要がある。

2 本件について

本件は、被告イラストを被告製品に付して販売する被告行為が、原告の著作権及び商標権を侵害すると判断された事案である。
裁判所は、従来の判断基準を使用して、まず著作権侵害について、原告イラスト2の創作的表現部分を抽出したうえで、原告イラスト2と被告イラストを比較して著作権侵害を肯定し、次に、商標権侵害について、外観・観念・称呼・取引の実情を踏まえて判断し、さらに商標的使用に関してもこれを認め、商標権侵害を肯定した。
本件判示のように、著作権侵害については、純粋に2つのイラストを対比させ、創作的表現部分が共通するか否かを判断する必要があり、そこに取引の実情等は関係しない。著作権法は、あくまで著作者等の表現を保護することを目的とするためである。
一方、商標権侵害においては、2つのイラストの対比に関して取引の実情も考慮に入れ、さらに商標的使用に関しても判断する必要がある。商標法は、商標権者の業務上の信用を保護するとともに、実際の取引における需要者の利益も保護する必要があるためである。
また、本件判示をみるに、著作物の創作的表現部分と、商標の外観類否のための部分(構成)は、必ずしも共通するものではない。商標は、需要者の利益を保護することを考えると、細かい創作的表現部分よりも、全体的な印象を重視するためと考える。
今後、同一行為について著作権侵害と商標権侵害とが問題となった際の参考となる裁判例と考える。

以上

(筆者)弁護士 市橋景子