【令和5年2月28日(東京地裁 令和4年(ワ)第15136号)】

 

【キーワード】

著作権、複製権、公衆送信権、時事の事件、報道、報道の目的上正当な範囲内、Googleマップ

 

【事案の概要】

 原告は、歯科医院を経営する自身の夫が、同医院付近の路上を走ってくる様子を自身のスマートフォンで撮影し、当該映像の一部に「麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑」とのテロップ(以下「本件テロップ」という。)を付した動画データを、自身のInstagramのストーリーズに投稿した(以下、当該動画を「本件動画」という。)。当該アカウントは鍵アカウントであり、30名程度のフォロワーのみが閲覧する状態であった。
 一方、氏名不詳者は、Googleアカウントにログインした上、本件動画の一場面を静止画として切り取った画像2枚(以下、併せて「本件投稿画像」という。)を、オンライン地図配信サービス「Googleマップ」(以下「本件サイト」という。)上の当該歯科医院を表示する画像としてアップロードした(以下、当該投稿画像を「本件投稿」という。)。
 そこで、原告は、本件サイトを運営する被告に対し、本件投稿が、本件動画に係る著作権を侵害すると主張し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づく発信者情報の開示を求めた。
 被告は、本件投稿画像は、医療関係者の男性が患者の麻酔中に外出する様子(つまり、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子)を収めたものであり、「時事の事件」(著作権法41条)を構成するところ、当該投稿画像が投稿されたことは、当該時事の事件を「報道する場合」に当たると反論した。

 

【判旨(概要)】

 裁判所は、本件動画及び本件投稿画像いずれについても著作物性を認めた。そして、著作権法41条についても、以下の理由により、本件投稿画像の出来事は「時事の事件」とはいえず、その投稿も「報道」というに足りないとした。

  • 本件投稿画像は、男性が路上を走っている画像に、本件テロップが付されているにとどまり、いつの出来事であるか一切明らかではなく、また、地図アプリである本件サイトにおいて、歯科医院の上にカーソルを動かしクリックした場合に表示されるにすぎない。
  • 一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、本件テロップの内容及び本件投稿画像の内容を踏まえると、当該投稿画像は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認めることはできず、ニュース性を認めることもできない。

 

【若干のコメント】

 本件は発信者情報開示請求事件であるが、他人の動画の切り抜き画像を、個人がGoogleマップを通じて複製及び公衆送信する行為について、時事の事件の報道のための利用(著作権法41条)に当たるかが争われた事例であるため、本稿で取りあげた。同条が「時事の事件」については、ニュース性を有し、社会的関心を引く事柄(プライバシー等の問題のある事柄は除く)であれば、該当しうる。そして、オンラインプラットフォーム上における個人投稿も「報道」に当たる余地はあるものの、そもそも対象となる媒体がニュース等の発信を想定してなかったり、投稿情報が新聞やテレビ等のような情報の即時性を失っている場合もあるため、ケースバイケースとなる[i]
 前記判旨については、筆者も妥当であると考える。本件投稿画像について、社会通念に照らしても、単に被写体となる男性及び本件テロップ含む情報は、社会的関心を引く事柄とはいえず、「時事の事件」に該当しないであろう。仮に社会的関心を引く要素が含まれるとしても、Googleマップは、地図閲覧機能を主な機能としており、個人投稿情報は永続的に掲載されるという性質上、投稿者の主観的意図にかかわらず、当該投稿が「報道」とされるのも難しいと考えられる。

 

[i] 同じく個人投稿を取り扱った事例として、東京地裁令和5年3月30日(令和4年(ワ)2237号)等をご参照。

 

以上
弁護士 藤枝典明